32.救いの濃厚接触な食事
本日2話更新。2話目。治療行為です。
お昼の宿屋の一室。
お祝いがてら簡単なパーティーを開いたところ、ニグリーナは人間の食事から栄養摂取できないことがわかった。
このままだと餓死するか、魔界へ帰るしかなくなる。
そこで僕はテイマースキルを応用して助けようと思った。
ベッドで僕の隣に座るニグリーナは深刻な表情で爪を噛んでいる。
僕はスキルを使う前に情報を確かめる。
「ねえニグリーナ。精気を吸うっていうけど、その精気って生命力なの? 魔力なの?」
「ん~。どっちかっていうと、魔力寄りの生命力?」
「そっか、じゃあ、代用できるかも?」
「なにするの?」
「ちょっと手を出して」
「こう?」
ニグリーナが素直に手を伸ばす。すべすべした小さな手のひら。
その手を掴むと僕はスキルを発動させた。
「――テイマースキル発動【回復】」
手のひら越しに温かい力が腕から肩へと伝わっていく。
しかしニグリーナが形の良い眉をひそめる。
「は? なにそれ。――こんなの、なんのお腹の足しにもなんないじゃん」
「えっ、一回じゃ足りないかな? スキル的にも小回復だし。じゃあ回復回復回復――」
連続で唱えると、回復の光が幾重もの波となってニグリーナに伝わっていく。
ニグリーナは呆れたように首を振ると、立ち上がろうとした。
「何度やっても意味な――んぅっ!」
突然、中腰状態だったニグリーナは膝をガクガク震わせて僕にしがみついてきた。細い太ももが僕を締め付ける。
見れば回復の第一波がお腹に到達していた。
「えっ? 大丈夫?」
「ちょ、むりっ! なにこれ無理っ……!」
顔を真っ赤にして、目をぎゅっとつむって何かに耐える。
が、連発してしまったペットヒールが、ニグリーナの引き締まったお腹を波のように何度も襲った。
そのたびにびくんっ、びくんっ、と激しく体を跳ねさせて熱く荒い息を吐く。ささやかな胸すら激しく揺れた。
僕に桃色の艶やかな髪を押し付けつつ喘ぐような息とともに叫ぶ。
「だめぇ――っ! お腹きゅんきゅんしすぎて、頭どうかなっちゃうっ!」
「ニグリーナ!? 大丈夫!?」
僕は激しく痙攣する彼女を抑えようと、華奢な肢体をぎゅっと抱きしめた。
すると彼女は細いのどをのけぞらせて、感極まった声で叫んだ。
「ああっ! そんなに強くしちゃ、だめぇ――っ!」
ニグリーナはガクガクっと体を震わせると、そのままベッドに倒れ込んだ。
乱れたマントから裸体が晒される。そのなめらかな肌はピンク色に上気していた。
そのまま、ぐったりと動かなくなる。
「え、大丈夫……? やりすぎちゃった?」
僕は恐る恐る手を伸ばす。しっとりと汗で湿った柔肌に指先を滑らせると、びくっと華奢な肢体を痙攣させた。
ニグリーナは顔を耳まで赤く染めて、僕を涙目で見上げる。
「だめぇ……触らないでぇ……今ふれられたら、またおかしくなっちゃう……」
いつもの淫らで強気な態度はまったくなく、ただ小声で哀願する彼女が妙に可愛らしかった。
「お腹は、いっぱいになった?」
「なった……いっぱいになった……三つ子妊娠しそうなぐらい……」
「えっ!? どんな例え!?」
しかし、ニグリーナは答えず。目を閉じて、ふぅふぅと浅い息を繰り返す。
ただ膨らんだお腹に手を当てて、余韻を味わうかのように細い指先でおへそを丸く撫でていた。
僕は観察しつつ立ち上がる。
「ま、まあ……お腹がいっぱいになったようでなにより、かな」
ニグリーナをベッドに残して僕はテーブルへ行った。
空いている席に座って一息つく。彼女が手を付けなかったジュースを飲んだ。
すると頬を真っ赤に染めたシャロンが両手で口を覆っていた。
「ノ、ノイスさまっ! い、いい今のは!?」
「テイマースキルの【回復】だよ。本来はペットの怪我を治すスキルだけど。魔力と生命力を分け与えるようなものだから、精気の代用になるかなと思って。うまくいったみたい」
「あ、あの……。もし私が怪我してそのスキルで治療されたたら……今のニグリーナさんみたいになってしまうのでしょうか……?」
可愛らしく手で口を隠しつつも、頬を上気させて妙に興奮した声で尋ねてくる。隠しきれないほどに興味津々だった。
「彼女は吸精のスキルを持ってるから、過剰反応になるだけで、シャロンには何も起こらないと思うよ?」
「本当ですか……」
ほっと胸を撫でおろすシャロン。でもどこかしら残念そうだった。
僕はシャロンの手を取った。突然のことにシャロンが青い目を見開く。
「じゃあ、試してみる?」
「えっ、ええっ!? ――こ、心の準備がっ」
「――テイマースキル発動【回復】」
シャロンは恥ずかしそうに目をぎゅっとつむって顔をそむける。
「いやぁ――っ……あ」
回復の光が全身へと伝わった。
シャロンの身体に変化はなかった。
「どんな感じ?」
「なんだか、優しい風に包まれたような……ハーブティーを飲んだ時のような、爽やかな心地よさです」
「でしょ? 吸精スキルがないペットには普通のヒールだよ」
「で、ですねっ」
シャロンは、ほっとしつつも、恥ずかしさを誤魔化すように笑った。
けれどミーニャが肉を食べながらつぶやく。
「シャロン、考えすぎ。はしたない王女」
「ちょっと! なんてこと言うんですか、ミーニャちゃん!」
図星を刺されたシャロンが、青い髪を乱して叫んだ。
「まあまあ、初めて使ったスキルだから、シャロンが心配するのも当然だし。仕方ないよ」
「はぅ……お気遣いありがとうございます……」
シャロンは恥ずかしそうに染まった頬を、青い髪で隠してしまう。
そんな仕草がなんだかいじらしくてかわいい。
僕は笑いつつ手を広げた。
「じゃあ、問題もすべて片付いたし、今日はどんどん食べて騒ごう! ミーニャもランも肉もっと食べて!」
「ん、ありがと」「きゅいっ!」
僕もさっきは急いで食べたので、ソーセージを一本取って、味わうように食べた。
茹でられたソーセージは噛むと皮がパリッと弾け、透明な肉汁が口の中に広がって、とてもおいしかった。
――が。
楽しいパーティーは続かなかった。
突然、僕の頭に声が響いた。
『ノイスさん……助けて……お兄ちゃんを助けて……っ』
驚いて思わず叫んでいた。
「えっ!? この声は、エルザロッテ!?」
ダンジョンで助けて【居声盗識】を付与した金貨を渡した、ヨハンの妹の声だった。
シャロンが心配そうに僕を見上げる。
「どうされましたか……?」
「王都に行ったヨハン兄妹がなにか困ったことになったらしい。助けを求めてる」
「まあ! どうしましょう……明日の朝一に向かいますか?」
僕は直感していた。それじゃ遅すぎると。
――声の響きからして一刻も争うと感じていた。
僕はテーブルから立ち上がると鞄へ向かう。
「王都に行く。今すぐに支度して、シャロン。なんなら本に入って」
「は、はい。ノイスさま!」
「ニグリーナは本に入れる――ランも食べたければ続きは本の中で」
「きゅい!」
ランはテーブルの上のソーセージとパンを細い腕で抱え込んだ。
ミーニャはまだ骨付きチキンを丁寧に、黙々と食べている。
そんな彼女を見て、真剣な声で言う。
「ミーニャ――仕事だ」
ミーニャの頭の上にある猫耳がピコっと立った。
「わかった」
チキンの骨をテーブルに投げ捨てつつ、颯爽と立ち上がるミーニャ。
幼さの残る顔に別人のような、きりっと引き締まった表情が満ちていた。
そしてすぐに支度を終えて、僕らは宿屋を出た。
明日は2話更新。だけど不定期。
ようやくお礼参りに。




