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3.ドラゴンの押し売り

今日は3話更新。3話目



 静かな真夜中。

 山の中腹にある広場で、僕は人じゃない少女と対峙していた。


 僕の「君は信用できない」という言葉に、少女はがっくりとうなだれる。長い髪が頬を隠した。


「ごめんなさい……ノイス。強いとは思っていましたけど、ここまで桁違いに強いとは思ってなかったわ。切羽詰まってて正しい判断ができなかった。ごめんなさい」


「わかってくれたなら、いいよ。僕にも事情はいろいろあるけど、本当にテイムしに来ただけなんだ。……ああ、そうそう。モンスターが広場守ってたけど、あれって君が使役してるの?」


「使役と言うか、万物を統べる強者としてお願いを聞いてもらっただけですわ」


「ふぅん。その中で狼か犬はいるかな? 一匹欲しいんだけど」


「それは、いるけど……ふむ」

 突然、少女は顎に指を当てて考え込んだ。首を左右に振るたびに青い髪が揺れる。



「どうかした?」


「ねえ、一つ聞いてもいいかしら?」


「素性に関係しないことなら、どうぞ」


「わかってますわ。強いのに弱いペット欲しがる理由なんて聞きませんから。……あなたはペットをいじめたりしませんか?」


「しないよ。大切に飼うよ」


「ごはんもちゃんとあげますか?」


「当然だよ」


「じゃあ、お願いがあるのです。ドラゴンの子供をペットにしてみませんこと? けっこう強いですから」


「えっと、君を飼えってこと?」


「ち、違いますわ! 成人してる私がそんな悲惨なことできるわけありませんわっ! ――ていうか私がドラゴンって気が付いてたのですか!?」


「バレバレだよ。じゃあ、どのドラゴン? あの木の上に隠れてる小さい存在がドラゴンかな?」



 すると少女は、うっと息をのんだ。

「あの子の存在にも気が付いていたのですね。完璧に隠しておりましたのに」


「そりゃそうだよ。君が大げさに騒いで僕の注目を集めていたのも、あの子を守るためでしょ? 親鳥が雛を守るため、天敵の注目を集めて騒ぐみたいに」


 少女は端正な顔に、呆れた笑みを浮かべた。

「すごいわ……全部見抜かれちゃってた。だから強いあなたにお願いしたいのです」


「残念だけど無理だね」


「そんなっ! どうして!」


「面倒ごとになるから。僕はひっそりとのんびり生きたいんだ」



 少し話し合っただけで僕にはわかっていた。

 どう考えてもこの子はドラゴニア皇国の第一王女シャロンだった。

 たぶん、木の上にいるのが第二王女のランだろう。


 ドラゴニアはドラゴンたちが住んで統治している国。

 代々、気高く公正な皇帝が長く統治してきたが、最近になって「最強種族たるドラゴンが世界を支配するべき」と叫ぶ暗黒竜の一派によってクーデターが起きたのだった。



 なぜ遠い国の話まで僕が詳しいのかと言うと。

 最強の暗殺者だったから。


 もっと詳しく説明すると、僕の任務は国王を陰ながら警護するのが大半だった。

 誰が襲ってきても僕なら倒せる。いや、この世には僕でしか殺せない奴だっている。

 そして国王は皆から恨まれていることを知っていたため、猜疑心の塊だった国王は常に僕を傍に置いていたのだった。


 その結果、大臣や官僚、商人や密偵との密議を耳にすることになり、自国だけじゃなく世界の情勢の裏側まで詳しくなってしまったのだ。


 たぶん、この子たちにこれ以上関わると、のんびりと冒険者暮らしをする余裕がなくなる。

 下手をすると僕が前王の子飼いだった暗殺者だと発覚する可能性も出てくる。

 だから断るしかなかった。



 ところがシャロンは諦めなかった。

 僕の胸に飛び込んで青い瞳で僕を見上げて訴えてきた。


「そこをなんとかお願いっ! それにきっと大丈夫ですから! あなたが考えてるようなことにはなりませんわ!」


「ほー? どうしてそう言えるの?」


「ランは――ああ、あの子はランって言うのよ。ランは高貴なドラゴンだから普通はペットになったりしません。だからペットになればランだと気が付かれないですわ」


「でも姿かたちでバレるんじゃない?」


「それも大丈夫! ――ラン、こっちへきて」


 シャロンが木の上に呼びかけると「きゅい」と可愛い鳴き声がして小さな塊が飛び出してきた。

 背中の翼でパタパタと夜空を飛んでくる。長い尻尾に長い首。鱗は白い。


 ただ見知っているドラゴンとはちょっと違った。

 中型犬ぐらいの大きさで、なんだか全体的にずんぐりしていた。


 シャロンは飛んできたランを胸に抱くと、僕に良く見えるように持ち上げた。


「ほら、違うでしょう? シェイプチェンジでデフォルメしてありますから。元の高貴な姿なんて想像できません。それでも危険と思うなら、人間の姿にもなれますわ」


「きゅい!」


「でも人の姿になれても「きゅい」しか話せないんじゃ、逆に目立つよ」


「それならもう、人目に付きそうなときは、本にしまっちゃえばいいじゃないですか」


「あ、その手があったか」


 テイマーはペットを専用の魔導書にしまうことができた。



 さらにシャロンは勢いよく喋った。まるで商人が服をお勧めするかのように。

「どう? ドラゴンテイマーなんてなかなかいませんわよ。確か人間の英雄にもなってたんじゃないかしら? ドラゴンテイマーって」


「……」

 僕は返事をしなかった。


 別にペットは何でもいいはずだった。

 だからランをペットにしたっていいはずだった。


 でも、さっきから心の中にもやもやが広がっていた。



 するとシャロンが少し声にいら立ちを滲ませて言った。

「どうなのです!? 何とかお言いなさい!」


 その言い方にカチンときた。

 もやもやの原因がわかったので彼女の眼を見返しながら言ってみた。


「そうだよね。……僕も常識がないからよくわかんないんだけどさ、結局は幼い子を押し付けて守り育てろって言ってる訳でしょ? それが人にものを頼む態度なのかなって」


「あっ……!」

 シャロンは赤い唇をかみしめると、震えながら俯いた。


 腕に抱えられていたランが、心配そうに長い首をかしげて鳴く。

「きゅーいー」


「……わかりましたわ。確かにものを頼む態度じゃなかったです。しかも私の都合のいいことなのに」


「だよね。幼子を連れて逃げ回るのは大変だから、安全なところに預けて自由に逃げたいんでしょ。引き受けると僕が苦労する番になる」


「その通りよ……さすがここまで見抜かれちゃうと私も誠意をもって接しないといけませんね――ラン、ちょっと降りて」


「きゅい」

 ランは翼をパタつかせて地面に降り立った。二本の足で立ってる。



 シャロンは深呼吸すると地面を見つめた。

 そして、ゆっくりと膝を折ろうとして……止まった。

 ドレスをぎゅっと掴む手が、細かく震えている。


 それを見ながら内心思った。

 ――まあ、そうなるよね。


 ドラゴンは最強の種族としてプライドが高い。

 特に彼女はずっと民の上に君臨してきたお姫様。


 人間のテイマーごときに頭を下げられるはずがない。


 逆に言えば、彼女の決意はその程度ってことでもある。

 これで厄介ごとを抱えなくて済む――。



 ――が。

 その刹那、シャロンは勢いよくひざを折ると、青髪を乱して地面に手をついた。


「えっ――!?」

 僕は絶句して、土下座するシャロンを見下ろすしかなかった。


なんだか話が中途半端。できればあと1~2話、夜に更新したいです。

用事が早く終わればですが。できなかったら明日になります。ごめんなさい。

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