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23.魔界の公爵

本日3話更新。2話目。


 公爵令嬢であるサキュバスのニグリーナをテイムしてしまったため、僕は父親の公爵に弁解しようと魔界へと向かった。



 ダンジョンを抜けた先は、白塗りの壁と天井に覆われた倉庫のような場所だった。天井が高く幅も広い。

 そして、床には大量のゴミがいくつもの山となって、僕の背よりも高く積み上がっていた。


 ただし空間のあちこちに黒い煙のような「もや」が漂っている。

 ――これが魔素か。

 確かに魔界の空気は肌にまとわりつくようにねっとりしていた。

 心をごりごりと削られていく感覚がする。気分が憂鬱になっていく。


 そこで僕はナイフを構えつつ、軽く振った。

 暗殺スキル【万象死滅エターナルロスト】を発動。

 僕の周りに漂う重たい空気を次々と殺していく。



 腰に手を当てて待っていたニグリーナが目を丸くする。

「大丈夫そうじゃん! ――えっ! なんでノイスの周りだけ魔素が消滅してんの!?」


「そういうスキル……て、もう言っていいかな。僕はテイマーになる前は、暗殺者で。暗殺スキルを極めたせいで何でも殺せるようになってるんだ」


「だからって初めて見る魔素を殺せるっ!? 普通にありえないっしょ……やばー、こんなの見せられたらますますお腹の奥がきゅんきゅんしちゃうじゃん~」


 お腹の辺りを手で撫でつつ、うっとりとした流し目で僕を誘ってきた。


 シャロンが僕の腕組みをして引っ張る。

「見惚れてないで、行きますよっ!」


「あははっ、お姫さまが無理しちゃって~。まあ、家はあっちだから」

 ニグリーナは余裕の態度で笑うと、張りのある腰を振って歩き出した。



 ぐぬぬっ、とシャロンはますます悔し気な顔をする。

 僕はポンポンと青い髪を叩いて慰めた。


「気にしないで。シャロンが一番大切だから」


「はうっ……ノイスさま、ありがとうございますっ」


 すると五歳児姿のランが傍へ来て、頭を差し出してきた。

「きゅい」


 撫でて欲しいようなので、ついでに金髪頭を撫でた。

 ランは青い瞳を細めると、にんまりと嬉しそうな笑顔になった。



 倉庫の外に出ると、周囲には簡素な四角い建物が並んでいた。

 処理場施設に付随した何らかの施設らしい。

 けれども、それ以外は普通じゃなかった。


 辺りには地獄のような光景が広がっていた。

 空は血のように赤く、大地は闇のように黒い。ところどころに枝のねじくれた紫色の木が生えている。


 大気には黒い影が煙のように漂い、生暖かい風が肌を撫でて吹き抜ける。

 施設の外には舗装された白い道が左右に伸びていた。


 不気味でしかない魔界なのに、ニグリーナは両手を広げて伸びをした。

「ん~、やっぱすがすがしい空気。生き返るわぁ」


「魔族はこんな魔界が快適なんだ。すごいね」


「まあ、当然っしょ! ――じゃあ、こっち」



 ニグリーナが桃色の髪を揺らして、白い道に沿って歩いていく。

 僕らはその後に従った。


 すると十分ほど歩いたところで、砦のような頑丈な建物に出くわした。

 砦全体が黒い石を使って組み上げられている。


「ここが、アタシの家~」


「立派だね」


「小さいじゃん~。仕事場近くに建てた、寝泊まり用の別荘みたいなもんだよ?」


「うーん、さすが公爵令嬢。言うことが違う」


「じゃ、入って」

 ニグリーナの案内で砦に入った。



 砦の中は意外と広く、天井が高い。太い柱が天井を支えている。

 しかし入り口入ってすぐのエントランスにも黒い煙の魔素が漂っていた。


 ニグリーナがマントから見える小ぶりなお尻を振りつつ、軽い足取りで階段を上る。

「お父さんはこっちー」


 幅の広い階段を登って二階へ。

 内装は貴族の屋敷っぽいけど、ところどころネジや釘が落ちていたり、廊下の隅にはなぜか工具箱などがあった。


 そして廊下の突き当りまでくると、ニグリーナは分厚い扉をノックした。

「お父さん、ちょっと話があるんだけど?」


「ニグリーナか、入れ」

 重々しい声が響いた。


 僕の隣でシャロンが、ごくっと息をのむ。

 ランも震えつつ、シャロンの手に両手で抱き着いた。そして後ろに隠れる。

 ――ドラゴンの二人が、何か怖いものを感じ取ったらしい。



 僕は警戒しつつ、ニグリーナを先頭にして中へ入った。

 横に長い部屋で半分は衝立によって仕切られている。


 手前側の部屋には応接用らしいソファーとテーブルがある。横の壁には本棚があり、奥の壁際には執務机。床には赤い絨毯が敷かれていた。貴族の執務室っぽい。

 ただ、衝立の奥の部屋には、なぜかフラスコや金床の乗った作業机があった。


 そして壁際を背にした執務机にはオールバックの髪形をして、燕尾服を着た渋い男が座っていた。

 見ただけでシャロンやランよりも強いなと直感でわかった。二人が怯えるわけだ。



 公爵は入ってきた僕らを見るなり、じろっと血のように赤い瞳で睨む。

「何者だ?」


「えっと、この人が――」


 ニグリーナが紹介してくれようとしたが、それを手で押しとどめて僕は自分で挨拶した。


「僕はテイマーのノイス。隣にいるのがドラゴンのシャロンとランです」


「お初にお目にかかります、公爵さま。ドラゴニアの第一皇女シャロンですわ。この子が第二皇女のラン。以後お見知りおきを」

 シャロンがスカートを指先で優雅に摘まんでお辞儀した。ランも見様見真似でぎこちなくお辞儀する。



 公爵の眉間にしわが寄る。

「そんな者たちが魔界に来るとは、何が目的だ? しかも娘をともなって……ああ、礼儀には礼儀で応えないとな。我輩は魔界ゴミ処理施設所長、兼魔界公爵のイヴァン・クロヴォサスキーだ」 


 公爵は机から立ち上がって、手を胸に当ててお辞儀した。

 威厳のある堂々とした態度だった。


 僕はニグリーナを見ながら言う。

「ええ、何と言いますか……じつは、イヴァン公爵の娘さんをテイムしてしまいまして……」



 公爵が目を見開いて叫ぶ。

「なんだと! ニグリーナよ、本当かっ!」


「うん、ごめん。ノイスがめっちゃ強くて、めちゃ濃いくってさ、メロメロになっちゃった。てへっ」

 ニグリーナは舌をちょろっと出して、可愛くウインクした。


 しかし公爵には通じない。

 渋い顔の眉間に、深いしわを寄せると僕を睨む。


「人間の分際でありながら、我輩の娘に手を出すとは……覚悟はできているのであろうな――?」


 ゴゴゴゴゴ――ッと公爵からどす黒いオーラが立ち昇り始めた。

 空気が振動して机の上のペン立てがカタカタ鳴る。


 部屋の隅にいたランが「きゅいっ」と鳴くと、シャロンのお尻にしがみついて隠れた。


次話、夜更新。

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