19.ダンジョン深層調査
本日3話更新。1話目
次の日の朝。
宿屋で軽く朝食を食べると、僕らはダンジョンへ向かった。
ダンジョンを調査して、モンスターが外に出てくる原因を明らかにして、ギルドに報告するため。
そうすれば晴れて正規冒険者の身分証が手に入るのだった。
僕とシャロンは子供姿のランと手を繋いで歩く。
すると、待ちゆく人々が、僕を見てひそひそと話す。
「あの子がそうよ」「えー! まだ若いのに」「竜使いノイス、ありゃ伝説になるね」
ここだけの話、という前振りで、町中に噂が広まっていた。
――人の口に戸は建てられないって言うけど、ほんとだね。
暗殺者としてじゃなく、テイマーとして目立ってるだけなのが幸いだった。
「あの子供は何かしら?」「二人の子供?」「子連れでダンジョン攻略ってありえないわ」
――あ、本にしまってた方が良かったかな。
まあ、ランがドラゴンとバレてないからいっか。
僕は苦笑するしかなかったけど、隣を歩くシャロンはなぜか誇らしげにニコニコ笑っていた。
◇ ◇ ◇
ダンジョン一階でランを竜に戻すと、気軽に通り抜けて地下二階も通り過ぎる。
昨日たくさん倒したためか、モンスターがあまりいなかった。
警戒度も1らしい。
地下三階は道が分岐したダンジョン。それぞれの道幅は広い。
暗殺スキルを応用して、簡単に通り抜けた。
モンスターは道の突き当りに少しいた。
四階は大きな地底湖だった。道がない。
水中はモンスターのイルカやシャチ、魚やクジラが泳いでいる。
泳ぐのは面倒だなと思っていたら、青竜であるシャロンが水の上を歩く魔法を唱えたので簡単に渡れた。
襲ってくるモンスターも手分けして倒した。
地下五階。
レンガを積み重ねた壁でできた、普通のダンジョン。
ただし道幅は巨大モンスターでも通れるぐらいに広い。
通路と部屋が入り組んでいて、さまようモンスターも多かった。
時々、びたんびたんと全身とヒレを使って跳ねる魚やイルカがいた。
地底湖までそうやって移動していたのかと思った。
さっさと倒した。
少し迷いつつ攻略を進めていった。
宝箱や罠は一つもなかった。
そして四角い部屋にいたモンスターを全部倒したところで、シャロンが青い髪をかき上げて言った。
「そろそろお昼ではないでしょうか? 少し休みましょう」
「そうしよう」
僕らは袋を広げて、中から水筒やパンを取り出した。
パンには肉やチーズを挟んである。
子供の姿に戻ったランがパンを両手で持って、大きく口を開けてかぶりつく。
「きゅい!」
「そっか、おいしいか。レベルも一つ上がったし良かった」
「こんなにも早く育つなんて、もっと早くノイスさまに出会いたかったですわ」
「でも、ランってスキルツリーがないんだよね……四つの固有スキルは全部取ってあるし」
「おそらくまだ幼生だからではないでしょうか? 脱皮すればまたスキルが増えると思います」
「そっか。ドラゴンて脱皮するんだ……シャロンもしたの?」
「はい、しましたよ」
僕は、じっとシャロンの上から下まで眺めた。
青いドレスを着て女の子座りしている。そんな姿でパンを食べる仕草すら、気品があって美しい。
「それって、人の姿で? 竜の姿で?」
「……教えません」
「えっ……気になる。柱にしがみついて、背中にぴぴーっと縦に線が入って、ぬらっと粘液まみれで出てくるんだよね?」
「それは蝉です! ドラゴンはもっとこう、服を脱ぐような感じで……」
「ほー。頭からすぽっと脱げるのかな」
「教えません――はむっ」
小さな口でシャロンはパンにかぶりつく。
なだらかな頬が赤く染まっている。恥ずかしいのかも。
僕はどんな脱皮になるのだろうかと、いろいろ想像しながら昼食を食べた。
まあそのうちランが脱皮したらわかることだね。
そして食べ終わると、僕らは体を横たえて少し休んだ。
――が。
ふいに気配探知に引っかかるものがあった。
しかしすぐに消える。
――あやしい。
僕は身を起こしつつ、周囲を警戒した。
シャロンも気が付いて身を起こす。
「どうされました?」
「警戒するように」
すぐに姿の見えない気配が部屋の入り口から顔をちらっとのぞかせた。
きょろきょろと部屋の中を見渡して確認している。
――意思のある動きだ。普通のモンスターとは違うっぽい。
そのままモンスターは足音を立てないように忍び足で、そおっと入って来る。
二本足の、人間型タイプのモンスターらしい。
僕はナイフを抜いて構えた。
壁に沿ってこっそり歩いていく気配へ切っ先を向ける。
シャロンとランも気付いた様子で気配の動きを、じぃっと目で追っていた。
「そこにいる髪が肩ぐらいの女性タイプのモンスター。バレバレだよ」
「マジで! いや今のアタシ【夜這透明】使ってんだけど! なんなの、この人間!」
次の瞬間、すらりとした手足のスレンダーな少女が姿を現した。
局部を紐で隠しただけで、ほとんど裸に見える肢体にマントを羽織っている。
肩で切り揃えた桃色の髪が揺れて、マントの下の裸体がチラチラと見える。
かなり扇情的な格好をしていた。ただ、意外と胸は小さめだった。
モンスターだと直感したが、髪の色が特徴的なだけで見た目自体は人間。
なんのモンスターかまではわからなかった。
するとシャロンが嫌そうに眉を寄せて呟いた。
「はしたない格好……サキュバスさんですね」
――へぇ、サキュバスなのか。翼と尻尾がないからわからなかった。
僕らは可愛い妖しさを持つサキュバスを三方向から取り囲んだ。
彼女は腰に手を当てて、裸体を見せつけるような余裕の態度でポーズを取っていた。
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次話は昼更新。




