13.静寂の冒険者ギルド
本日2話更新。1話目。
モンスターの集団をランのブレスで全滅させたら、冒険者たちの注目の的になってしまった。
これ以上目立つことは身バレの危険があるので控えようと思った。
ドラゴンのランを背負い袋にしまってダンジョン一階の入り口まで戻ってくる。
なにやら冒険者や兵士の集団がいた。
気にせず僕とシャロンは横を通り抜ける。
すると兵士の隊長が眠そうに目をこすりながら話しかけてきた。
「大量のモンスターが発生したそうだが、中は大丈夫だったのか?」
「僕は浅くしか潜らなかったので……見た範囲では少ししかいなかったよ」
「そうか。街にモンスターがあふれる可能性がある。今日は注意するんだ」
「わかりました」
僕は大通りを歩きながら隣のシャロンにささやく。
「さっきのも、その大量のモンスターの一部だったのかな?」
「恐らくそうでしょうね。街がものものしいです」
確かにシャロンのいう通り、街の様子が変わっていた。
道の両側に立つやぐらにいる兵士の数が増えていた。
みんな大弓を装備して、その手入れに追われている。
裏通りに入る細い路地は板や網で塞がれている。
出てきたモンスターを大通りだけ走らせるためらしい。
「どうされます? 私たちも手伝いますか?」
「どうだろ。さっきみたいに目立ちたくないから、手伝わなくていいんじゃない?」
「そうですか……ですが危険になったらどうされます?」
「ん~、まあ街の兵士や冒険者が苦戦するようなら、僕一人でこっそり狩るよ。ランは目立ちすぎるから」
「わかりました」
「きゅーいー」
背負い袋から不満そうな鳴き声が聞こえた。
戦いたかったらしい。
シャロンが袋に顔を寄せて囁く。
「いけませんよ。もうしばらくは目立たないようにしないと」
「きゅい」
不満そうだったが、納得してくれたようだ。
◇ ◇ ◇
大きな建物である冒険者ギルドに来ると、中は冒険者でごった返していた。
受付にいる威勢のいいおばさんだけでなく、無精ひげを生やした胸板の厚い中年男性が声を張り上げている。
たくましい男だが、顔立ちだけは渋いおじさまと言った感じだった。
「俺はギルドマスターのグスタフ、緊急事態が発生した。高危険度の突発湧きだ! 有志には褒賞2倍! 倒さなくとも戦って足止めしただけで支払う! 最前線、中盤、最終防衛ライン、それぞれを募集する!」
「やります」「どうせ戦うなら2倍の方がね」「最終防衛ラインなら……」
冒険者たちが手慣れた様子で立候補していく。
一方、僕はグスタフと目が合った。
ニヤリとニヒルに笑いかけてくる。
「君も冒険者かね。どうだ、参加しないか? 今日は火矢隊が少ないんだ、上から射掛けるだけでいい」
「いえ、今日来たばかりですし……テイマーなんで」
「ああ、仮登録の人か。それはすまなかった。では宿の上からでも戦いぶりを見ていてくれ。今後の参考のために」
「はい、わかりました」
服の下で分厚い筋肉をうねらせつつ、グスタフはまた募集の声を張り上げる。
「投石隊はいい、火矢隊に志願者はいないか? ――そこの美女、どうだ!?」
賑やかな雰囲気の中、僕とシャロンはカウンターの行列に並んだ。
こそこそと話す。
「大変そうだね」
「でも勇ましいですわ」
「強い人が好きなんだもんね」
「もちろん一番はノイスさま……って、言わせないでくださいっ」
シャロンは真っ赤になった頬を、フードを深くかぶって隠してしまった。そんな仕草が可愛い。
すぐに順番が来る。
「用紙に記入して再提出――はい次!」
「買取お願いします」
「はいよ、この中に魔核とカード出して」
おばさんが手早く受け取り皿をカウンターに置いた。
僕は持っていた袋から直接流し込む。
ジャラッ
50個ほどの魔核が山のように積み上がった。
上に仮登録カードを添える。
なぜかおばさんの動きが止まった。
「え?」
「あ、こちらもです」
シャロンが抱えていた漬物石みたいに大きな魔核を、ドンッとカウンターに置く。
その横にカードを添えた。
「は?」
おばさんが口を半開きにしたまま固まった。
いつもの流れるような事務さばきが始まらない。
しかもギルド内に「え?」「あ?」「は?」という疑問の声と共に、静寂が伝染していく。
次の瞬間、ギルド内がとても静かになった。
――おかしい。なぜかみんな動きを止めて、僕を注目している。
グスタフが青醒めた顔でよろよろとカウンターへ来た。
僕の出した魔核を見て声を震わせる。
「ヒルデ……これ、もしやそうか?」
「ケルベロス、ギガントスタンプ、ダークキマイラ、ジャイアントエイプ……」
おばさんが魔核を虫眼鏡で覗いて、乾いた声で種類を読み上げていく。
どうやら魔核にはモンスターの情報が刻まれているらしい。
「デッドリザード、ロンギヌスサーペント……全部、さっき倒されたものばかり。討伐対象です」
「「「えええええ~っ!」」」
ギルド内が割れんばかりに騒然となった。
僕は戸惑うしかない。
「えっ、えっ? なんで?」
グスタフが血相を変えて僕に尋ねてくる。掴みかからんばかりの勢い。
「おい、お前! 一人で全部倒したってのか!」
「全部って、たったの百匹ぐらいでしたよ!? しかも二階までしか降りてませんから、弱いのしか倒してません!」
「何言ってんだ! ここのダンジョンは『外に出てくる』のだぞ! つまり他のダンジョンなら最下層にいるはずの強敵が、一階まで上がって来るんだよ! ――だからここのダンジョンは世界一危険と呼ばれているんだ!」
「あっ」
思い違いをしていた。
外に出てくるから危険なのではなく、入ってすぐに最強の敵と戦う可能性があるから危険なのか。
てことは、あの大きいだけの雑魚モンスターも、普通の冒険者には強敵だったのか。
……あれ~、ひょっとして僕、やっちゃいましたかね、これ。
ちらっと隣を見ると、シャロンが観念したように首を振っていた。
「あの~、僕はあんまり目立ちたくないんで、そっとしてもらえませんか?」
「もう手遅れだろ!」
「いえ、あの! 僕は強くなくて。テイマーなのでペットが強かっただけなんですっ!」
「ほーう。ちなみにこの、隣のでかいのなんだ? こんなの見たことねぇ」
グスタフが漬物石の魔核を指さしながら言う。
僕は頭を掻くしかない。
「いや、それが。まとめて倒したからどれが何かわからなくて」
「そんなわけあるかっ! こいつら何か一つ属性持ちだぞ!? ケルベロスなら火耐性、ギガントスタンプなら土耐性って、まとめて倒す方法は存在しないんだよ。だからうちら防衛隊はパーティー募って火矢隊や投石隊を組織して戦うんだ」
「でも、できちゃったみたいで。あ、うちのペットがです」
「ペットなんだよ?」
「ドラゴンです。だから強かったのかも」
「フレイムドラゴンなら火、アクアドラゴンなら水、属性はいろいろあるだろうがよ。ちょっとペット見せてみろ」
「ええっ! 別にいいじゃないですか。登録するとき確認されなかったし」
「今は話が違う! だいたい俺はギルドマスターだ、登録審査をする権利がある!」
確かに。
それを言われると断れない。
僕は背負い袋を降ろして、こっそりグスタフにだけ見せた。
「ほら、これです。普通のドラゴンです」
袋の中には白いうろこにずんぐりした胴体で、首の長い竜――ランが入っている。
ランは青くて大きな丸い目で、じぃっとグスタフを見上げる。
彼は無精ひげを撫でつつ「んんん?」と眺めていたが、突然はっと目を見張った。
「え、まさか?」
グスタフが僕を見て、それから素早くシャロンの顔を見た。彼女はフードを被っていたので顔を背けようとしたが、少し見られた。
グスタフは筋肉の盛り上がった肩をすくめつつ両手を広げた。
「なるほどね……で、このでかい魔核の正体はわかったか? ヒルデ」
「キングリーパースコーピオン、だいぶ前に出て倒せなかった死神サソリだね」
「あいつか! ダンジョンに押し返して地底湖に沈めるしかなかった奴! あれを倒したって言うのかよ……」
グスタフはますます呆れたようで、天井を仰いで溜息を吐いた。
周囲はいまだ静まり返っているが、ひそひそ話が止まらない。
「あいつすげえ」「やっぱ帰還組の言ってたことは本当か」「いいなードラゴン」
グスタフがぽんぽんと手を叩いた。
「おい、誰か本陣へ行って伝えてきてくれ。今日の突発事態は中止だってな」
しかし誰かが行くより先に、兵士が走り込んできた。
「ギルドマスターに伝言! 巨大サソリを含む突発湧きはすべて倒されたとのことです! 募集は中止してください」
「ああ、やっぱりそうなったか。了解――お前らも解散だ、解散」
「うへぇ」「マジかよ」「ふぅ、助かったぜ」
冒険者たちが僕を遠巻きに囲んでいる。視線が熱い。
居心地が悪くなった僕は言った。
「僕らもそろそろ帰っていいですか?」
「お前たちには話がある。ギルド長室へ来てくれ」
それだけ言うと、グスタフは先に階段を上っていった。
「あー、やっぱり。なんかそんな気がしてたよ」
――ランとシャロンのこと、彼にはバレたっぽいし。
なんて言ってごまかそう。
それとも交渉するか?
大きなサソリ程度で困ってたみたいだし、ギブアンドテイクを持ちかけた方がよさそうだ。
シャロンが心配そうな顔で寄ってくる。
「どうしましょう」
僕はそっと手を握りつつ撫でる。すべすべしたてのひら。
「大丈夫、なんとか話を付けよう」
「はいっ」
手を繋ぎ合い、ランの入った袋を背負って二階へ続く階段へ向かった。
次話は夕方ごろ更新。




