10.初めての世界一危険なダンジョン
本日2話更新2話目。
明るい日差しの降る午後。
僕とシャロンはランを連れて、街の外れにあるダンジョンへ来た。
豪邸がすっぽり入りそうなほどの大きな穴が開いている。
すると穴の傍に立っていた番兵が話しかけてきた。
「おっ。冒険者か?」
「はい。さっき仮登録してきたんだ」
「まあ、今日は警戒度3だから、そこそこ気をつけて行ってきなよ」
「警戒度って?」
「その日のモンスターの強さや発生度で1~10まで警告を出してる。1が一番危険が少なくて、10がやばいって感じだ」
「なるほど。わかりました。今日は割と楽みたいだね。――では、行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
番兵の言葉を背に、僕らは穴へと入った。
入り口からは広い横穴が奥へと水平方向に延びている。
ぽたぽたと雫の垂れる石のつらら――石筍がある。鍾乳洞らしかった。
洞窟の天井は、建物で言えば数階建ての高さがあり、横幅も広い。
端の方には、ちょろちょろと地下水も流れている。
僕はポケットに手を入れてナイフを握る。
「なんだか、普通のダンジョンとは違うね」
「はい。私も初めてです」
「今のところ危険はなさそうだけど、気を付けていこう」
僕の言葉に、シャロンが無言のまま真剣な顔で頷いた。
背負い袋からは、同じく真剣な声で「きゅい」と聞こえた。
――おっと、そうだった。
なにしてんだろ僕は。
人目があるんだから、テイマーのふりをしないと。
僕は背負い袋からランを出した。
小さな翼を広げて延びをする。
「きゅい」
「テイマーの戦い方にも慣れないとね。今日はランが戦闘メインでいこう」
「きゅい!」
ランはちっちゃく前足を握りしめて青い瞳を輝かせた。
活躍できるのが嬉しいらしい。
ちなみにランの所有している固有スキルは四つしかない。
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名前・ラン・バハムート
種族・ドラゴンLv3(SP・2)
筋力・C 敏捷・D 魔力・D 知力・E
攻撃力・C 防御力・D
生命力・630 精神力・180
●固有スキル
【竜翼撃】大範囲。
【竜尾撃】中範囲。
【竜涙撃】小範囲。
【竜光破】大範囲。
●一般スキル
【絵画☆0】【会話☆0】【言語☆1】
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弱いので無茶はさせられない。
それから僕らは奥へ行くほどゆるやかな坂道になっている洞窟を下っていった。
壁や天井の岩は水滴で塗れている。
まっすぐな一本道のため迷子にはなりそうにない。
障害物もあまりないので坂の下までよく見通せた。
三十分ほど下ると、道を塞ぐようにして堀と柵が設けられていた。
柵の後ろ側に兵士の制服を着た男たちがのんびり座っている。
僕らが近づいていくと声をかけてきた。
「見ない顔だね。新顔かい?」
「はい、さっき仮登録しました」
「一階は基本的に俺たちが防衛するから、冒険者は地下二階から頑張ってくれ」
「りょーかいです」
堀と柵を迂回して、さらに進む。
するとそろそろ道の終わりが見えてきたところで、黒色の犬みたいなのが突き当りの壁付近から突然現れた。
壁の近くに次の階層へのゲートがあるらしい。
――階段じゃないんだ。
黒い犬は声も上げずに全速力で走ってくる。
牛ぐらいの大きさで、顔が三つ。
隣のシャロンが警戒しつつ言う。
「ダンジョンのモンスターは生き物という感じがしませんね」
「どちらかというとダンジョンが生み出したゴーレムや人形みたいだね」
犬が近くまで来たけれど、顔が三つあるぐらいで特に危険はなさそうだった。
――弱そうだし、これなら練習にちょうどいいかな?
「とりあえず、ラン。攻撃だ。スキルはこれでいいかな? ――竜翼撃」
「きゅい!」
ランが天井高く飛び上がって、強くはばたきした。
どんっ!
空気の固まりが地面を叩く。
犬を押しつぶした上に地面を丸くへこませた。
犬は黒いもやのようになってかき消えた。
あとにはころころと石が転がった。
予想通り、というか予想以上に弱かった。
――ふむ。これぐらいなら普通のテイマーっぽく見えそうだ。
ランが目立つばかりで、僕は注目されないだろう。
あとはテイマースキル【応援】――ペットの能力を一定時間上昇させる――なども試しに使ってテイマーのふりをしてみないと。
ランが戻ってきたので誉めた。
「偉いよ、ラン」
「きゅいっ」
空中でホバリングしながら嬉しそうに胸を反らして鳴いた。
僕は落ちた石を拾って眺める。
黒光りする石。強い魔力を放っている。
「これが魔核かぁ」
「その日のうちだと高く買い取ってくれるそうですね」
「うん、もう少し集めてから今日は帰ろう――ん?」
歩いて来た道のほうが騒がしくなったので僕は振り返った。
坂の上のほう、三十分ぐらい戻ったところにある柵の兵士たちが騒いでるようだった。
――何かあったのかな? それとも酒盛りでも始めた? まあいいや。
特に危険は感じなかったので気にすることもなく、僕らは先を進んで魔法陣式のゲートをくぐった。
◇ ◇ ◇
一方、道の真ん中にある柵の内側では、遠眼鏡をのぞいていた兵士が騒いでいた。
「お、おい! 今の見たか!? 一撃で倒した!」
「しかもヘルハウンドだろ!? 警戒度5じゃねえか」
「いや、あっという間だったが、頭三つに見えた。ケルベロスだ」
「うっそだろ!? 警戒度8を瞬殺!?」
「あの青年、ドラゴンテイマーっぽいな。ブーストしたペットがめちゃくちゃ強い」
「いや、スキル使ってなかったぞ、ペットは素の状態だ!」
「元々のペットが強いのか、ペットに影響を与えるテイマーのステータスが強いのか」
「両方かも。たぶんあの青年もやばい」
「つーかドラゴンいいなー。俺も欲しいわ」
興奮気味に話していたが、すぐに冷静な声が飛ぶ。
「てか、8が出るなんて、やばくねぇか? 今日、隊長いないぞ」
「しかも群れるケルベロスがここまで来たってことはよ……下に行った連中は、もう……」
兵士たちが顔を見合わせる。
「大変なことになってそうだな」
「あふれる予感がする。誰か上に知らせろ」
「わかった」
端にいた一人が武器を持たずに一階入り口に向かって走り出す。
残った兵士たちが誰彼ともなく呟く。
「でもよ、ケルベロスを瞬殺したあの青年なら……」
「ああ、彼が数を少しは減らしてくれるのを祈るしかねぇな」
「俺たちも逃げる用意しとこうぜ」
それから兵士たちはすぐに逃げ出せるように、荷物をまとめ始めた。
明日も2話更新します。