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1.新たな人生の幕開け

今日は3話更新予定。1話目。


「国王様が! 国王様がお亡くなりに――!」

 メイドが声を城中に響かせて、国王の寝室から駆け出していく。


 寝室のベッドには中年のわりには若々しく見える男が横たわっていた。もう息をしていない。


 ベッドの周囲を治癒師や僧侶、薬師が取り囲んで作業しているが、彼らの顔にはもう諦めの表情が浮かんでいた。



 僕は寝室の陰に潜んで成り行きを見守っていた。

 ――まさかこの男でも死ぬことがあるなんて……。


 憎まれっ子は世にはばかるという。

 王位継承順位が低かった国王は、私的に【暗殺者】の天職を持つ子供を集め育てて、最強の暗殺者騎士団を作った。


 その暴力を背景に王位を簒奪した男。

 逆らうものはみな暗殺によって排除された。人々は恐怖した。


 そんな殺しても死なないようながめつい男だったが、病気であっさりと死んでしまった。



 僕は国王が育てた暗殺者の一人だった。

 隷属魔法で支配されて、様々な仕事を命令されてきた。

 今日は国王の身辺警備にあたっていたら、突然国王が大きないびきをかいて倒れたのだった。


 国王の死に、特に感慨はない。あったけど死と共に消えてしまった。

 それに拾われなければ孤児のまま物乞いをして生きるしかなかったし。

 けれど自分の意思に関係なく暗殺を命令されるのは嫌だった。

 


「さて、これからどうなるか――ん?」

 

 僕の耳に、かすかな剣撃の音が届いた。僕じゃなきゃ気が付けないほどの静かな戦いの音。

 ――他の暗殺者が戦っている?



 すると、廊下を踏み鳴らす大勢の足音が響いた。剣や鎧の金属音がする。

 警戒してジャケットのポケットに手を入れた。中でナイフを握る。


 すぐに武装した兵士たちが寝室に流れ込んできた。

 兵士が僕を指さして叫ぶ。


「居ました! 眼帯に頬傷のある男です!」


 僕の身なりはシャツにジャケットの平凡な姿だが、眼帯と頬傷が嫌でも目についた。


 集団の中から仕立ての良い服を着た男が先頭に出てくる。

 背が高く細面な美男子。金髪が緩やかに流れる。

 第一王子のフォルクハルトだ。


「ここにいましたか。大人しく裁きを受けてもらえませんかね?」


「なに? なぜだ?」


「あなたたち暗殺者は、国王の手先となって大勢の人々を恐怖で苦しめたからですよ。汚らわしい暗殺に手を染めたことを後悔してください」



 魔法で絶対服従させられていただけなのに、一方的な言い方だと思った。


「どうやら新しい国王は、圧政の象徴たる暗殺者たちを処分して、人々の支持を得たいようだ」


「くっ! それの何が悪いのです! 暴力での支配ではなく、清く正しい政治によってこそ人も国も幸せになれるのです!」


「きれいごとで国を治められるとは思えないけど」


 僕の反論に自分の理想を穢されたとでも思ったのか、フォルクハルトはヒステリックに叫んだ。


「薄汚れた野良犬に何がわかるというのです! ――さあ大人しく掴まって断頭台に行くか、自害しなさい!」


「断る」


 むざむざ殺されるのはごめんだ。

 やるしかない。


 僕はポケットからナイフを取り出した。

 そして忌々しい隷属紋の刻まれた右手を前に出す――……。


 そこで僕の動きが止まった。固まった。



 ――ない。

 右手の甲に隷属紋がなかった。


「……ッ!」

 僕は目を見開いて息をのんだ。背筋がぞくっと震える。動悸が激しく耳を打つ。


 ――そうか! 契約者である国王が死んだから、隷属魔法が消えたんだ!


 自由だ……自由だ! 僕はもう命令に従わなくっていいんだ――ッ!



 体が小刻みに震え、しだいに笑い声となっていく。


「あははっ! そうか、もう自由なんだ! あはははは!」


「なにがおかしいのです! ――やれ!」


 フォルクハルトの命令に、兵士たちが剣や槍を振り上げて襲い掛かって来る。


 僕は暗殺スキルを発動させて、彼らの武器と防具をナイフで撫でた。


 それだけで鉄の刀身が砕け、鎧がはじけ飛ぶ。

 特に王子はベルトが切れてズボンがずり下がっていた。パンツ丸出しでおろおろする。


「うわ!」「なんだ!」「壊れた!」


 丸裸になった兵士たちと王子が呆然と立ち尽くす中、僕はゆうゆうと出口へと歩く。


「よかったね、君たち! 今は最高に気分がいい! 向かってこなければ殺しはしない。能力的に僕は手加減が苦手だから……今の君たちなら、わかるね?」



 王子がズボンを引きづりあげるのに苦労しながら顔を真っ赤にして叫んだ。


「おい、お前たち何している! 追え、追わないか!」


 しかし強制的に武装解除された兵士たちは、僕の放つ暗殺者の殺気に委縮していた。

 額から汗を流しつつ、蛇に睨まれた蛙のように動かない。



 そして僕が廊下に出て、城の窓から闇へと飛びだしたころ、ようやく追手がかかった。


「頬傷の男が逃げたぞ! 追え! 必ず始末しろ!」


 その言葉を背に、僕はいざというときのために隠しておいたアイテムを取りに夜通し駆け続けた。


       ◇  ◇  ◇


 星の瞬く夜空の広がる深夜。

 王国の辺境にある森林地帯は静けさで満たされている。


 僕は木々に隠れて立つ粗末な小屋に一人でいた。

 小さなろうそくの明かりだけを頼りに床を探る。

 床板の一部が外れて、中から箱が出てくる。

 ――もしものときのために隠しておいた、生まれ変わるためのアイテムの数々。



 僕は気配探知のスキルに全力を注いで小屋の周辺を警戒しつつ、箱を開ける。

 まずは中から鏡を取り出した。


 覗き込むと、三十代以上に見える、眼帯と頬傷のある老けた顔が映った。

 さらに眼帯を外すと左目は完全につぶれていた。


 しかし、刀傷を指でつまむとかさぶたのようにぺりぺりと剥がれていく。

 また箱から出した薬瓶の液体を手に取って顔に塗りたくった。


 すると、左目は開き、顔全体のしわも消えた。

 鏡を見れば10代後半にしか見えない若々しい顔になっていた。髭も薄い。


 ――エルフの王を暗殺する仕事をしたときに、老化を抑える秘薬を手に入れて飲んだのだった。

 でもこのことは誰にも言わなかった。年齢通りに歳をとってるように見せかけた。

 僕を知るものは必ず「頬傷と眼帯のおっさん」と言うぐらいに印象付けておいた。


 本当の顔を知るものは一人もいない。



 だがしかし。

 これだけ見た目を変えてもまだ安心できない。

 鑑定スキルなどでステータスを見られたら終わりだ。

 生まれ持った職業=天職を変える必要がある。


 そこで僕は箱の中から一冊の本を取り出した。

 分厚い羊皮紙の本。複雑な模様が描かれている。

 職業を変更できる伝説のレアアイテム『天恵の書』だった。大賢者を殺したときにこっそり奪っていた。


 もう職業は決めてあった。


 それはテイマー。モンスターなどをペットにして戦わせる職業。

 転職しても僕の強さは残ってしまう。

 僕は最強すぎた。剣聖や魔王すら一人で倒したぐらい強かった。


 テイマーなら自分では戦わないので本当の強さを隠せるはずだった。



 本を開いて両手を当てて念じる。

 ピカッ!

 と、ページから放たれた金色の光が小屋を一瞬満たした。


 何か大きく変わった気がする。

 考えるとすぐにテイマーの初期スキル――【手懐ける(テイム)】【応援エール】【回復ペットヒール】が頭をよぎった。


「よし、これでテイマーだ。あとは名前も変えてノイス・リーベンにしよう」



 姿と職業を変えてもまだ生きていけない。

 最後の問題は身分証だった。


 それも決めてある。 


 ――冒険者。


 基本的に実技と面接と筆記試験があって、身元保証人も必要だった。

 けれど危険地帯にある冒険者ギルドでは、ほぼ手続きなしで冒険者になれた。

 その制度を使って僕は新しい人生を生きる。


 だいたい社会の裏で生きてきた僕が、今さら愛想笑いを浮かべて店員などできそうになかった。

 というか人付き合いもうまくできなさそうだ。


 そんな僕でも冒険者なら一人で生きて行けるはず。


「さて……仕上げだね」


 僕は箱の中からテイマーが着るようなフード付きのコートと、鞭や首輪を取り出して腰に下げた。

 そして荷物を背負い袋に詰め込むと小屋を出た。


 テイマーを装うための最重要品、ペットを手に入れるために。


次話は一時間後ぐらいに投稿します。

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