7〜12 魔法少女の初陣
7
博士はそのままわたしをコスチュームに着替えるように促した。
「なんで?」
「魔物を倒しに行くぞ」
「早くない?」
「人手不足だからな」
博士が部屋の外に出たので、わたしはのそのそとスウェットを脱いだ。
魔法少女でよくある体を光が覆ってコスチュームがポン!と出てくる……ことはなかった。普通に着替えた。
わたしたちはこっそり玄関を出た。博士は何やらタブレット端末みたいなものを手に持っていた。わたしは博士の後ろをプラプラと歩いた。
しばらく歩くと、近所の公園で博士が立ち止まった。
そこには、巨大な目の真っ黒な生き物がいた。
8
「初陣だなニート」
「あれが魔物? 気持ち悪っ」
「これが魔法のステッキだ」
これまたハートでも金ピカとかでもない、大きな割り箸のような棒を渡された。
「……経費削減?」
「当たり前だ」
ステッキを持つと割り箸のように軽かった。マジで割り箸なのかもしれない。
「さ、魔法を使え。棒を振るだけでいい」
とりあえず振る。何も起こらない。
「……」
「……」
「……おい」
「母上に怒られてないだろ?」
「他の魔法は⁉︎」
その声で魔物はこっちに目を留めた。
そしてすごい速さで襲いかかってきた。
9
(もうダメだ……!)
恐怖で目を瞑る。
しかし衝撃は来なかった。
代わりに博士のうめき声が聞こえた。
目を開ける。
そこにはわたしを庇って血だらけの博士がいた。
「博士……!」
「……君を庇う必要があった」
「庇う必要って!」
「ああ」
博士が薄く笑う。そして震える手で、わたしの後ろを指す。
「母上が来ているぞ」
「ママァ⁉︎」
10
ママはズンズンとこちらに歩いてきた。いつものネグリジェ姿だった。
「ミユキ! こんな魔物も倒せないなんで情けない! ほら!博士もしっかりこの子を指導してよ!」
ママはそう言うと瀕死の博士に詰め寄った。
「ママ……、もしかして」
「そうなの」
ママはわたしを見据えた。
「ママはむかし魔法少女だったの。そして博士の指導者だったわ」
普通に衝撃の展開。
11
「今日のところは仕方ない。ママがこいつを倒すわ……ハァ!」
ママは手からビームのようなものを出した。
魔物は風船のように割れた。
「え、一撃……? 怖い……」
「ミユキ」
ママがわたしを見据えた。
「ママ……」
「職につかないなら、世界くらい守りなさい」
ママはそう言うと、くるりと背中を見せて帰って行った。
「無茶ぶりとしか言いようがなくない……?」
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博士がよろよろと立ち上がった。
「俺はこれで帰る……」
「大丈夫?」
博士は厳しい顔をしていた。
「世界を守るには、犠牲はつきものだ」
博士の腕からはドクドクと血が出ている。
その言葉はすごく重く感じられた。
「つまり、ニートで社会から外れているお前はその犠牲にもってこいだ」
「ニートやめるわ」
つづく