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第9話, 穏やかな日常の一幕

前話で土曜更新と書いていました。嘘ですごめんなさい。

調子良かったので今日上げます。

あと明日、明後日も連続で投稿するつもりです!


明日のお話は戦闘シーン満載になります!





 あれから子供のように泣きじゃくるウェル姉を二人がかりで宥め続け、やっと落ち着きを取り戻した頃には外は真っ暗だった。


 昼に作ったシチューを温めなおして三人で夕食をとり、昨日の夜は遅くまで両親の話を聞いた。




 戦姫と英雄の出会い。


 虐げられたものたちを救うために世界を相手にした物語。


 頑固でお転婆だが人を想う心は誰よりも強く、一度決めたことには一直線の母リアナ。


 慎重で知的、でも大切なものを守る際には自己犠牲を厭わない父アスラ。


 そして戦姫と英雄の物語の結末。




 両親の話をするウェル姉は懐かしそうに、また時に寂しそうでもあったが苦しそうな様子は無かった。今まで胸に秘めていた自責の念を吐き出し、赦されることによって幾分か乗り越えることができたみたいだ。


 ただ自責の苦しみから解放された自分を完全に割り切ることはまだできていないらしく、浮かない顔をうかべてはおれかカヤナにほっぺたをムニ〜っと摘まれて笑い合っていた。


 これからも三人で楽しい思い出を積み重ねて今のウェル姉が自分自身のことを認められることを切に願う。


 何はともあれ、これで一件落着といったところか。



 今日も今日とて朝の家事の手伝いが終わり、おれは動きやすい服装に着替えて庭に出る。


 少し曇っているが、時折吹く涼しい風が個人的に好きな天気である。


 さて魔力操作の会得に五日も費やし(この世界の平均よりは大分早いようだが)、自分の適性を知るのに生い立ちを知るなど紆余曲折もあったが、遂に、遂に!今日から魔法の本格的な練習ができる!


 今までウェル姉の持っている魔法書を読み込んで知識を蓄えることに妥協はしなかったが、実践となるとやはり違うものであろう。


 魔法を使えるというドキドキとワクワクが先ほどから止まらない。



「さて、それじゃあお待ちかねの呪文詠唱をやっていきましょうか」


「待ってました!」


「まってました!」



 兄妹二人揃って拙い手でパチパチと拍手をする。



「…ってなんでカヤナもいるんだよ」


「えーだってカヤナもアヤ兄がまほーつかうところみてみたいし。あとはてきじょうしさつ?だよ」


「魔法銃はいいの?」


「まりょくが切れちゃったからウェルお姉ちゃんにあとでほじゅーしてもらうの」



 …昨日の朝、結構な量の魔力を充填してもらっていたのにもうなくなったのか。


 一体どれほど密な修練を積んでいたのだろうか。末恐ろしい妹である。



「静かにしててよ」


「うん!わかった」



 いつもならもう少し他愛のないやり取りを繰り返すのだが今日のカヤナはとても素直だ。先ほどからウェル姉の様子をしきりに伺っているところを見ると、きっとウェル姉のことを心配しているのだろう。


 おれの妹が優しくて健気すぎて可愛すぎる。とそんなことを考えているとウェル姉が本題に入っていた。



「じゃあ始めていくわね。まず呪文詠唱についてだけど正しく魔法を発動させるには、引き起こす現象の明確なイメージ、発する呪文句と現象の関連性の理解、そしてそれに見合った魔力の三つが必要になるわ」



 イメージに理解に魔力の三点がポイントか。


 重要なワードを頭の中にメモしていく。



「ふむふむ」


「ふむふむ」



 右手の人差し指と親指を顎に添えて理解しているポーズを取ると隣でカヤナもおれの真似をして同じ仕草を取っている。



「試しに風の初級魔法を使ってみるわね。『風よ 渦巻け <旋風>』」



 翠の魔力でできた大きな風の渦が目の前に現れる。


 もはや旋風というより竜巻と表現した方が正しいかもしれない。風に乗って木の葉が舞い、みんなの前髪や服がはためいている。カヤナなどワンピースの裾を抑えるのに必死だ。



「おおっすげー」


「わぁーーー」



 初めて間近で見る魔法に年齢相応に子供らしくはしゃいでしまう。子供の身体になったことで精神的にも若返っているのかもしれない。


 身体に精神が引きづられるというのはよく聞く話だ。


 ウェル姉は魔力を霧散させて<旋風>を解除し、講義の補足をしてくれる。



「初級魔法は基本的に簡単な呪文句で構成されているしイメージもしやすい、必要な魔力量も少ないからアヤトくんならすぐにできるようになると思うわ」


「やってみてもいい⁈」


「もちろん」



 五日間練習して身体に覚えこませた通りに、全身に魔力を循環させていくと身体が青白い光で包まれていく。



「やっぱり、アヤ兄のまりょくはキレイだね」



 手をグーパーさせて問題ないことを確認してみる。


 姉と比べると洗練度は見劣りするものの、魔力を身体に循環させながら他のことに意識を割いても魔力が霧散するようなことはもうない。



「よしっいい感じだ」


「じゃあそのまま句を唱えてみましょうか。『風よ 渦巻け <旋風>』よ。イメージはさっきの私の<旋風>、風の妖精の逸話が句の起源であることを忘れず、込める魔力の量は…感覚かしら?しっかり魔力を高めていれば問題ないはずよ」



 深呼吸を一つ、意識を整えて魔法に集中する。


 イメージするのは先ほどのウェル姉と同じ風の渦。


 魔法書で培った知識から呪文句と現象を紐付け、必要な分だけ魔力を高めていく。



「『風よ 渦巻け <旋風>』」



 ウェル姉が発現した翠色の渦とは違う青白い魔力でできた小さな渦、十分に旋風と呼べるものが目の前に発現した。



「やった!できた!」



 生まれて初めての魔法が成功して両手でガッツポーズをとる。



「おーーー!」


「うんうん、さすが魔法書でずーっと勉強してきただけあって魔法に対する理解が深いわね。それに初めてとは思えないくらいスムーズに魔力が魔法に変換されているわ」


「へへっ、自分でもうまくできたと思ったよ」


「でもウェルお姉ちゃんのよりだいぶ小さいね」


「うっ」



 カヤナに痛いところを突かれてしまった。


 初めて魔法を使った感動をもう少し感じていたかったのだが仕方ない。今年で精神年齢は19歳になったのだから、真面目に考察に入るとしよう。



「なんで同じ呪文なのにウェル姉の渦の方が大きかったの?」



 分からないことは素直にウェル姉先生に聞くに限る。



「うーん、それを今説明するのは流石にアヤトくんでもちょっと難しいかな」


「えー今知りたい。なんか悔しいし」


「えー、うー、そうねー。簡単に言えば魔力の変換効率と質の差かな」


「変換効率と質の差?」



 よかった。理解できない話でもなさそうだ。



「むずかしそーだね」


「えっとね、私とアヤトくんとでは魔法に同じ100の魔力を使ったとしても私は98の魔力を、アヤトくんは50の魔力しか魔法に注ぎ込めていないの。それに加えて私にとっての1の魔力はアヤトくんにとっての8の魔力ぐらいの価値があるの。だから結果に差が生まれてくるのよね。分かる?」



(つまりおれを基準にして考えると、さっきの魔法におれが50の魔力を注ぎ込んだのに対してウェル姉は98×8=784の魔力を注ぎ込んだって訳か。車で例えるなら燃費の良さに加えて、使う燃料がいいものか悪いものかってところが問題になるのか)



「あーなるほど、なんとなく言いたいことはわかった」


「ちなみに普通の人が初めて初級魔法を使ったとしたらつむじ風が少し吹いて終わりだからね。アヤトくんも十分すごいのよ」



 50の魔力ですごいなら784の魔力を使ったウェル姉は本当に規格外だな。


 さすがは世界トップクラス。折角良い指導者に恵まれたのだからおれも少し頑張ってみよう。



「でもウェル姉には勝ててないし。じゃあさ、魔力の変換効率と質を高めるにはどうしたらいいの?」


「変換効率にはさっきいった魔法に対するイメージと理解、あとは魔力操作の向上ね。質についてはひたすら使い続けるといったところかしら」


「つまりもっと魔法の勉強と実践を頑張ればいいのか」


「まあそういうことね。地道にコツコツやっていくしかないわ」



 地道にコツコツか。


 それならおれの得意分野だな。目標を設定してそこに至るまでに必要なことを積み重ねていく。前世で培ったおれの戦い方の一つだ。



「ウェル姉だってすぐ追い抜いてみせるよ」


「ふふ、楽しみにしてるわ」


「そのまえにカヤナとしょーぶだからね」


「分かってるよ」



 様々な分野に関してはおれよりも遥かに才能を持て余しているできた妹。本当の天才とはコイツのようなやつのことを言うのだろう。


 そしてそんな天才が一つ要求を出してきた。



「カヤナが勝ったらアヤ兄のおこづかいでシナ島で売ってるケーキを丸ごと5こ買ってもらいます」



 天才の要求は凡人に理解できるようでできないし可愛いようで可愛くない。


 ホール丸ごと五個って。お兄ちゃんのなけなしのお小遣い全部無くなっちゃうよ?



「…そんなの聞いてない」


「だって今いったんだもん。べつにいいよね?」


「じゃあ僕が勝ったら?」


「うーん、そしたらカヤナの3時のおやつにチーズケーキつくってあげる」


「いいよそれでやろう」



 即答してしまった。いやでもこれは仕方がない。


 以前食べたカヤナのチーズケーキはまず間違いなく前世で食べたのも含めて、今まで食べてきた中で一番美味しいケーキだったのだ。


 しっとりと優しいチーズの風味に尾を引かない濃厚さ。繊細な甘さに底の柔らかいクッキーがマッチしてそれはもう極上だった。


 食べ終わった後しばらくはその味が忘れられずにヤバイ人みたくなったのも覚えている。



「やくそくだからね。ケーキ丸ごと5こだよ?」


「カヤナが勝ったらね」


「よーし、じゃあまほーじゅーのれんしゅうもっとがんばろうっと。ウェルお姉ちゃんまりょくほじゅーして」


「はいはい、ちょっと待ってね」



 ウェル姉の翠色の魔力が魔法銃に吸い込まれていく。


 あれだけの魔力があればさっきの<旋風>だけでこの島一体を更地にできそうなんだけど。



「これでよしっと。はいどうぞ」


「ウェルお姉ちゃんありがとう!」


「どういたしまして」



 そういって魔力を満タンまで充填した魔法銃を二丁とうさぎのぬいぐるみを携えて駆けていく。


 いつの間にかホルスターまで用意してるし…



「それで、アヤトくんはいいの?あんな約束しちゃって。このままだと間違いなく負けちゃうと思うけど」


「ご指導よろしくお願いします!チーズケ…兄の尊厳のために!」


「あっはい」



 慈愛の笑みを浮かべたウェル姉の顔が引きつっていた。


 チーズケーキとついでに兄の尊厳のためなりふり構っていられないのだ。…こんな全力でお辞儀をしたのはだいぶ久しぶりかもしれない。





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