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第6話, 待ちに待った魔法特訓





 朝の仕事を片付けて、お昼ご飯にシチューを満腹食べた昼下がり。


 庭で陽の光に照らされながら心地よい風に吹かれる。普段なら間違いなく絶好の昼寝コースであろう。


 だが今日に関して言えば、魔法を使えるという高揚感でそれどころではない。


 カヤナは既に新しくもらった魔法銃に夢中で一人で樽の上に置いた人形を的に遊んでいる。


 的にされているウサギの人形が哀しそうな目をしてる気がした…達者でな。



「じゃあ魔法の練習を始めていきましょうか」


「お願いします、ウェル姉先生!」


「…先生はやめてちょうだい」


「じゃあ、師匠?」


「それはあの人のこと思い出すから余計に嫌ね…。普通にウェル姉でいいわよ」



 あの人こと賢者様。ウェル姉は幼い頃に賢者様に拾われ、それ以来賢者の弟子として魔法の修行を積み重ねてきたらしい。


 結構なスパルタ指導だったそうでウェル姉は感謝こそしてはいるが苦手意識がいまだに残るのだとか。


 だがそのスパルタ指導の結果、実力はここ樹立都市でも文句のつけようがないほどダントツ。この世界でもトップクラスの術者だそうだ。


 ついでにいうと、この今住んでいる群島の所有権も樹立都市の中央政府から勝ち取ったものらしい。



「はーい」


「じゃあまずは魔法の基本についておさらいね。言ってみて」



 こちらの世界に転移してからというもの、この世界について詳しく知るために色んな知識を身につけてきたからこれくらいは簡単に答えられる。



「えーと、魔法の属性には火、水、風、土、光、闇の6大元素があって、魔法は身体の中にある魔力を使うことで、それら6属性の中から自分の望んだ現象を呪文を唱えることで発現させる、で合ってるよね?」


「基本的にはそうね、ただ6大元素の中で光と闇を使える人はほぼいないわ。あと魔法の属性には人によって得意不得意、言い換えると適性があるからそこだけは注意ね。私の場合だと適性は風と水だから風魔法、水魔法は操れるけど、逆に火魔法、土魔法は全く使えないわ」



 この辺は文献通り、学んだ内容と違わない。



「なるほど、じゃあまずは自分の適性を知る必要があるんだ」


「その前に魔力の扱い方からね」


「そうだった。封印は解けたはずなのに、まだ魔力ってのがいまいち分からないんだよな」



 魔力という縁もゆかりもない未知のエネルギーに対してまだ実感が持てていないので少し心配になる。


 もしかしたら転移者であるおれには魔力がないのでは…



「まずはそこからね。腕を前に交差して突き出してみて」



 言われた通りに両手を前に突き出す。



「こう?」


「そうそう、それでいいわ。それじゃあ私は、」



 ウェル姉は普通に腕を前に出してお互いに手をにぎり合う形となる。



「今から私の魔力をアヤトくんに流していくから感じ取ってみて」


「感じ取れって言われても…」



 次の瞬間、ボワーっと右腕から暖かいものが流れ込み、心臓を通って左腕からまたウェル姉に戻っていく感覚に襲われた。


 心臓の鼓動がドクンドクンと強く脈打つようだ。


 気づくとウェル姉と自分が薄っすらと翠色の光で覆われていた。



「な、なんか暖かいものが身体を流れてる感覚がするけどこれって」


「そうそれが魔力よ。その感覚を忘れないでね」



 魔力の流れが止まり、繋いでいた手を離す。薄っすらとした翠色の輝きも同時に消えた。



「魔力の源は人の心臓部分にあって、人はそれぞれ固有の魔力の波長を持っているわ。そしてそれは色として表面に出てくるわね。私だとさっきの翠色がそうね」


「へー綺麗な色だったね」



 波長に色か。ということは魔力は波としての性質を持ってたりするのかな。


 中々調べ甲斐がありそうだと考えてみたり。



「ありがと、じゃあ次は一人でやってみましょうか。心臓を中心にして全身に魔力を広げていくイメージよ」


「心臓を中心に、全身に向けて」



 目を瞑って心臓の位置を意識し、先ほどのウェル姉のものとは違う自分自身の魔力を探ってみる。





(…見つけた!)



 微かな火種のような、小さな魔力を心臓の中心に確かに感じる。


 そこから魔力を引き出し、全身に巡っていく血にのせるように魔力を薄く薄く送り出していく。


 身体の体温がほんのり上昇していく気がする。



「いい調子よ、魔力に向けた意識はそのまま目を開けてみて」



 目を開けると自分が青白い光に包まれているのが分かった。


 不思議な感覚だ。心が凪いでいるような落ち着いた気持ちになれる。



「わあー、アヤ兄のまりょくキレイ」



 いつの間にやらカヤナもこっちにきて様子を見ていたらしい。


 とそちらに少し意識を割いただけで集中が途切れて魔力が霧散する。



「あー、消えちゃった」


「ふ…」



 少し足元がおぼつかなくなりふらつく。



「おっと…」



 思っていたよりも身体への負担が大きいらしい。


 たった一度魔力を集中させただけで指先がピリピリするし汗もかいている。



「ア、アヤ兄大丈夫?」



 心配そうにカヤナが駆け寄って顔を覗き込んでくる。



「大丈夫大丈夫。結構しんどいけど我慢できないこともないし。初めはこれが普通なのウェル姉?」


「そうね、身体が魔力に順応するまでは少ししんどいかしらね。でも初めてにしては上出来だったわ。とても綺麗で澄んだ魔力をしていたわよ」



 なるほど。まずは魔力を身体に順応させる必要があるのか。



「さっきの状態で呪文を唱えたら魔法が使えたりするの?」


「いいえ、まずはその状態を自然体でできるようにならなくちゃね。話しかけられただけで霧散するようじゃ、呪文を唱えることもできないわよ」



 それもそうか。



「ふー、先は長そうだ」


「じゃあウェルお姉ちゃん、つぎはカヤナのばんだね!カヤナのほうが先にまほうじゅう、うまくつかえるようになるかもよ」



 フフンと鼻を鳴らし拳銃サイズの魔法銃を両手で肩の横に担ぎ上げてニヤリとする。


 もう見た目だけは完全にガンナーのそれだな。



「ぜってぇー負けねえから」



 張り合う相手がいると自然と練習にも力が入る。



(まずは魔力に慣れることからだな)



 その日は日が暮れるまで一日中同じことを繰り返したのだった。





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