表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/56

第51話, 間違いであれと願うほどに

最新話更新しました!

新作の方にかかりっきりで遅くなってしまいました…

こちらはシリアス、新作はラブコメです!


新作の方はランキング入りもしているのでよければ覗いてみてください!

こちらも週に一回は更新を続けていく所存です!









「アヤト!無事ですか?!」



 (耐え切った…か?)



 マリウスの声に手放していた意識を取り戻し、身体をゆっくりと起こして辺りを確認する。『<竜化>』はダメージ故に強制的に解除され、人の身体にもかなりの傷を負ってしまっているが辛うじて死ぬことは無さそうだ。


 横で倒れている賢者もまだ息はある。


 そこで初めてマリウスの異変に気づくことができた。本人も当に把握しているのだろう。


 耐え難い苦痛を抑え込むように覆っている右眼の前には、鮮やかな黄金色の紋章がはっきりと描かれており、更にはその魔力が今にも弾けそうなほどギチギチと音を立てて拡張している。



「マリウス、『王の瞳』が…」


「ーーっ……ええ、どうやらそういうことのようです…」



 マリウスが強靭な意思の力でもってその拡張を止め、そして捻じ伏せた。


 おれが持つ『王の瞳』には何も反応がない。マリウスの持つ『王の瞳』が、通ずる何かに呼応して暴走しようとしているのか。



「掴まれ!アーウェルン!モードラン!」



 どこからか空間転移で賢者の傍らに幼女先生が出現した。差し伸ばされた手をおれとマリウスが掴み、それと同時に景色が変わる。


 薄暗い部屋だが周りの材質は水晶だ。ということはまだ中央区内のどこかなのだろうか。



「ここは?」


「さっきのところから数キロは離れたとこだ。ここなら少しは時間も稼げるだろうよ」


「なぜ外に出ないのですか?」


「四人同時の空間魔法だったらこれが限界だったんだよ!」



 幼女先生はおれとマリウスには目もくれず、重傷な賢者の手当てにかかっている。自前のポケットからいくつもの道具と薬品を取り出し、調合しては賢者の傷口に振りかけている。



「くそっ…魔法薬の効き目が薄い」



 その言葉通り、全く効果がないわけではなさそうだが未だに危険な状態を脱するほどの回復はできていない。


 間違いなくこのままでは死ぬ。


 マリウスも同じ結論に至ったのだろう。そしておれたちに賢者の現状を打開できるかもしれない手があるかもしれないことを。


 マリウスが手助けをしてもいいものかとおれに視線で問い掛けてきたので頷きを持って返す。 



「少し下がってください」


「うっさい、邪魔すんじゃねえ」


「このままでは死にますよ?」


「ーーっ……んなこと分かってる!だから!」



 幼女先生はマリウスに掴まれた腕を振り払おうとした時に彼の瞳を見た。『<悪魔化>』で紅く染まり、尚且つ『王の瞳』が浮かぶその眼を。



「ぅ……ぁ……」


「だから下がれと言ったのですよ」



 腰の抜けた幼女先生をよそにマリウスは治療に取りかかり始める。賢者の傷口から白い魔力の粒子が『王の瞳』へと巻きあげられて行き、新たに調合した魔法薬を傷に振りかけてゆく。


 先ほどまでは効き目の薄かった魔法薬も今はしっかりと役目を果たしているようだ。


 それからマリウスの手当てが数分続き、治療の終わりを知らせるように大きく息を吐き出した。どうやら急場を乗り越えることはできたらしい。



「お師匠様は…大丈夫なのですか…?」


「ええ、とりあえず命に別状はないはずです」


「良かった…良かったのです…」



 幼女先生が縋り付くように賢者の手を握りしめる。もう少し感傷に浸らせたい場面なのだが、ここから出られないのなら今は何があったのか話を聞くのが先決だろう。



「ドーラ先生、おれたちが来るまでに一体何があった?中央区内では今何が起こってるんだ?」


「それ、は……」


「いいわ。ワタシが話すカラ…」


「お師匠様!」



 意識を取り戻した賢者が幼女先生の助けを借りて身体を起こす。



「あんたはまだ寝てた方がいいんじゃないか」


「戦場の真っ只中で寝る戦士なんていないワ。寝るとしたらこの命尽きる時ヨ」


「そ、大層な覚悟だな」


「ええ、まだまだ青いアナタに足りないものネ」



 おれと賢者との間に不穏な空気が流れる。やはりこの人とは波長が合いそうにない。



「マイン嬢、それより事態の説明を」



 マリウスのその呼び名におれと幼女先生は頭に?を浮かべる。マインって誰だ?と。幼女先生の方を指差して確認を取るも違うらしい。


 ということは…



「……気安くそんな呼び方をしないでほしいワ」



 やっぱり賢者(この人)か。そういや昔馴染みだとか言ってたっけ。



「おや、あなたの傷を癒したのは私なのですが…随分と連れない態度ですね」



 その言葉がほんとかどうかを幼女先生(弟子)に顔を向けて確認している。賢者(師匠)からの威圧気味な視線に幼女先生は本当であるとコクコクと頷いた。


 まさに不覚をとった、という様子で賢者は声をすぼめながらマリウスに礼を言う。



「感謝…するワ」


「いえいえ、マイン嬢なら分かってくれると思っていましたよ」



 納得がいかず苦々しい雰囲気を微塵も隠すことなく、賢者はマリウスに言われた通り事態の説明に入った。



「今日は王城で王族側と教会側の会合が行われるはずだったノ。表向きの議題は王立都市内で関係悪化している二大勢力の均衡調整。実際は都市内での利権争いだったのだケレド……とにかく『賢者』の立場から立会人として呼ばれたワタシは、予定通りそこで第三勢力の擁立を考えいていたワ」


「で、その会合とやらはどうなったんだ?」


「会合は行われなかったワ」


「おや、決裂などをしたわけではなくそもそも開かれなかったのですか」



 マリウスが自分の思うところを口に出す。確かにそれは不可解なところだな。



「約束の時間になっても教会側は姿を現さなかった。いや、正確にはその一時間後に教会側の遣いを名乗る連中がやってきてネ、こう言い放ったワ」



『我ら聖統一教会、奉りたもう天主の声に付き従い、現世うつしよに楽園をもたらさんためこの身を捧げん』



「そこからの光景は思い出すだけで寒気がするワ。連中の身体がが水のように解けたと思ったらあの無機質な”使徒”に変わっていくんだモノ」



 人間が“使徒”に再構築された…?ということはつまり先ほどおれたちが消滅させた“使徒“も元は人間であったと…



「…虫酸が走る話だな」


「同感です」


「そこからの王城は阿鼻叫喚だったワネ。”使徒“に変化へんげした個体が無差別に暴れ回るワ、対抗しようにも属性魔法が効かないワ」


「王族側の人間はどうなった?」


「城にいた半分が死んで、もう半分は初代英雄が築いたと言われてる地下隔壁の中に逃したワ。一週間限りの不可侵領域だから中で自殺でもしなけレバその期間は生き残れるんじゃないカシラ」



 半分は死んだ。あっさりと告げられたその言葉に、実際の現場を目撃したわけではないのだが背筋が凍り、脈打つ心臓の鼓動がうるさく感じる。


 死 



「ーーーっ……はっ……」


「アヤト?」


「……大丈夫だ。何でもない」


 

(易々と乗り越えられないもんだな。それにさっき受けたダメージが自分で思ってたよりも酷い。これは早いとこ治療しないとやばいか…)



 そんな思考に陥っているおれを不可思議に思いながらも、マリウスは自身の疑問を賢者へとぶつける。



「マイン嬢なら属性魔法がなくとも”使徒”などに遅れをとることはないはず、ましてやここまでの怪我を負うなどありえない」


「ソウネ、実際に”使徒”なんかワタシの敵でなかったワ」


「では、一体何と対峙してそこまでの深傷ふかでを負ったのですか?」


「『聖女』…いえ、『聖女』とでも言うべきカシラ」



 時間ときが止まった。


 そう感じたのはおれだけだったのだろうか。


 敵が『聖女アオイ』だって…?そう賢者は…言ったのか?



「今は完全に『<天使化>』して、その上どこで手に入れたのか神代の遺産ーーアナタなら分かるでしょう…『太陽の指輪』と融合していてもう手がつけられない化け物だワ」


「……やはり『太陽の指輪』でしたか、それもまさか『聖女』の手に渡っているとは…」



 マリウスの右眼が反応を示していたことからその可能性には気づいていた。相手の陣営に『太陽の指輪』を宿したものがいるであろうことに。


 けど…



「あれはもうダメ。記憶も人格も残らず消えて、最早人間の枠から外れてル。まるで十一年前のリアナの再現でも見てるみタイ」



 その答えを聞いた時、おれの中でぐるぐると渦巻いていたはずの全ての思考と感情が押し流され、代わりに自分でも驚くほどの、ただ冷たい虚無が胸の内を支配した。


 記憶も人格も消えた?



「そんなわけない……」



 口をついて出たのは否定の言葉。それも現実を受け入れられない自分に言い聞かせるような、何の根拠もない気休め。


 人の枠から外れた?



「アオイはただの女の子だ…」



 分かっているのに、きちんと理解しているのに、



「何かの…間違いだろ……」



 けれども約束を交わした時に彼女が見せた寂しそうな表情が、おれの否定を打ち消すかのように頭を離れようとしなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ