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第5話, 10歳の誕生日





 とまあ、それからも意識が元の世界に戻ることはなく、日々を過ごしていくうちにこちらの世界にて今日で10歳となってしまったわけである。


 急に変わってしまった環境に、こちらの世界の記憶を持たないことが災いして苦労することも多々あったが人の適応力とは怖いものである。


 もう完全に慣れてしまった。


 そう、たとえ家が家具を含めて一つの木で形作られていようと、キッチンでツタが調理道具を持ってウェル姉の料理の手伝いをしていようと、そんな魔訶不思議な家のトイレにウォシュレットがついていようとも…


 もう動揺したりしないのである。




 二年間この世界で生きてきて感じたことを一言で表すならまさしく『幻想(ファンタジー)』であろう。


 完成された美がコレクションされているとでも言えばいいだろうか。


 一番身近な例で言えば、ウェル姉の家がある樹立都市セラリードの中心部は前世でいうヨーロッパの綺麗な街並みを思わせるような造りをしている。


 しかもそれに加えて自然の木々と調和、共存していることによってさらに美しい景観となっていた。


 一方以前に一度だけ訪れた王立都市メルティアナは都市の中央に天まで届くほどの大木が一本あり、その他は天も地も水晶で形取られた高層ビル群が整然と並んであった。


 どちらの場所も初めて訪れた時はその威容に圧倒された覚えしかない。


 だがそれ以上に意識を奪われたのは、そのような街並み全てが浮遊している島の上に一つずつ配置されていることであった。



 浮天島ふてんとう、という呼称らしい。


 浮天島は大きな島を中心にその周りを小さな島が群をなして囲んでいてその一帯全てを都市と呼び、系統が統一されている。


 例えば今自分がいる島は樹立都市を形作る浮天島の群の一つで、豊かで広大な自然に囲まれた環境となっており、同じく樹立都市に属する島は全て自然が豊かである。


 前の世界の、惑星が太陽の周りを回っている様子を想像できる身としては、実に幻想的な光景である。


 まだ訪れたことのない他の都市にもいつか是非行ってみたいものだ。



 また文明について、この世界は前の世界でいう魔法が根幹にあるらしいが、あくまで根幹が魔法なだけで他の地域では科学なども発展しているらしい。


 文明レベルは前の世界と同等かそれ以上、快適さに関しては現代日本と遜色ないレベルであった。


 非常にありがたい話である。特に衛生事情などが杞憂に終わってよかった。



 そんなこんなで十歳を迎えた今日、個人的に待ちわびた日がやっと訪れた。


 前の世界では物語の中でしか登場しなかった魔法が遂に解禁されるのである。


 通常、この世界では個々人がいわゆる魔力というものを体内に宿しており、呪文を唱えることで望んだ現象を発現させることができる。


 ただ幼い子供は体内の魔力の状態が不安定であることから、生まれると同時に魔力が扱えないよう封印をかけるのが習わしらしい。


 そしてその封印がとけるのが10歳になった今日というわけだ。



 昨日寝る前までは二の腕にあったはずの鎖の紋様が消えていることを確認し何だか嬉しくなる。


 と、一人感傷に浸っていたら部屋のドアが開いて、おれと同じ銀髪碧眼の美幼女が入ってきた。


 この世界でも両親のいないおれにとって唯一、血の繋がった妹であるカヤナだ。



「アヤ兄、おっはよう!おきてる?朝ごはんできてるよー」


「おはよう、カヤナ。うん、分かった。先に着替えてから行くよ」


「きょうはカヤナもお手伝いした、パンケーキ10枚かさねのハチミツたっぷり、そしてなんとバニラアイスとブルーベリー特盛りだからね!冷めないうちにきてよ」


「はいはい、すぐ行くから」




 二年前、傷が癒えたカヤナに今までの記憶がないと打ち明けた時、カヤナは丸一日泣き続け、それからしばらくは距離を取られていた。だが一緒に生活しているうちに(本人曰く)かつての兄の姿と重ねることができたらしく、徐々に打ち解けてくれた。


 今となっては自然に兄として慕ってくれているので嬉しい限りである。


 着替え終わってダイニングに向かうと、いつも自分が座っている席の前に置かれた大きなパンケーキの山がこれでもか、というくらい主張していた。これもいまや見慣れた光景である。


 この身体になってからどういうわけか毎食大量に食べることができる。身体が小さくなったのに胃は大きくなったのか、謎である。


 とりあえず椅子に腰掛け、ウェル姉とカヤナがキッチンから出てくるのを待つ。



「あら、おはようアヤト。今日はちゃんとすぐに起きれたのね。いつもならカヤナが引きずってくるのに」



 寝起きの悪さについて耳の痛いことを言われるが本当のことなので仕方がない。


 だが今日に関しては起きられるのも当然である。



「おはようウェル姉、そりゃあ待ちに待った10歳だからね。魔法を教えるって約束、ちゃんと守ってよ」


「10歳ね…」


「ウェル姉?」


「えっああ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしてたわ。言われなくてもちゃんと覚えてるわよ。朝ごはん食べて仕事を片付けるから昼からね」


「っしゃ」



 何やらウェル姉が一瞬悲しそうな顔をしていたのが気になるが何か思うところでもあるのだろうか。


 とキッチンの奥から胸から上がパンケーキで見えなくなったカヤナが出てくる。


 1、2、3、4…、15枚載ってる。



「よいしょっと」



-ドンッ


 およそパンケーキを置いた音とは思えない音がテーブルから聞こえた。



「カヤナ、幾ら何でも15枚は欲張りすぎじゃ…」


「いーの、カヤナはたくさん食べて早くおっきくなるの」


「そんなに食べたらおデブさんになっちゃうよ」


「お、おデブさんになんてならないもん!ウェルお姉ちゃんみたいにぐらまーなおとなの女の人になるんだもん!」


「ふっ、10年早いよ」


「なにをー!」


「二人とも、朝から言い争いしないの。ほら、パンケーキが冷めちゃう前に食べましょ」


「「はーい」」



 ウェル姉にたしなめられて軽口もそこそこに居住まいを正す。これも今では慣れたやり取りだ。



「よしっ、それじゃあいただきます」


「「いただきます」」



 タワーの如く積まれた分厚いパンケーキをナイフとフォークで大きめに切り分けて口一杯に頬張る。


 うん、うまい。ふわふわの厚めの生地にたっぷりかかったハチミツ、バニラアイスの冷たさとパンケーキの温かさの絶妙なバランスがなんとも言えないほど幸せだ。



「あーあ、アヤ兄はいいなあ。まほーのれんしゅうができるなんて。カヤナもはやく10歳になってまほーをつかってみたい!」



 自分の腕に描かれている鎖の紋様を見ながらカヤナが大きな声で独り言ちる。



「まあまあ、カヤナちゃんもあと2年と10ヶ月の辛抱なんだから。わがまま言わないの」


「ぶー」


「そうそう、カヤナはまだ子供なんだから今日は大人しくいい子にしててよ」


「ぶー、アヤ兄だってこどもじゃん…背ひくいの気にしてるくせに」


「うっ、こっこれからグーンと伸びるし」



 気にしていることを言われてつい子供のような返しをしてしまう。



「それならカヤナだってこれからおっきくなるもん」


「はいはい、二人ともそこまでよ。カヤナちゃんにはあとで私の新しい魔道具あげるから喧嘩しないの」


「まどうぐ!どんなのどんなの?」


「ふっふっふー、なんと魔力弾を発射する魔法銃よ」


「ええ!ほんと?ずっとほしかったやつだ!うわーい、やったぁー」


「よかったな」


「アヤトくんの分もあるからね」


「ほんとに?!うわー嬉しいよ。ウェル姉ありがとう」


「アヤ兄のまほうとカヤナのまほーじゅー、どっちが早くうまくなるかしょーぶしようよ!」


「勝負ってどんな?」


「うーん?いつもやってる木刀のチャンバラごっこみたいにいっぽんとったらかちーみたいな決闘ごっことか?」



 こちらの世界で『アヤト』とカヤナは物心ついた頃からウェル姉指導の下、剣術やら体術の鍛錬を積んでいるらしい。


 おれ自身も二年前から鍛錬を受けている。


 前世でも剣術や空手を習っていたが、こちらの世界でのいかに相手の隙を誘い、作り、突き、そして致命打を与えるかという実用的な技は学んでいてとても楽しい。これに魔法を加えるとなるともっと楽しめそうだ。



「別にいいけど」


「じゃあ30にちごにしょーぶね。かくごしてよね!」


「はいはい、お手柔らかに」


「二人とも、はしゃぎすぎて怪我しちゃだめよ」


「「はーい」」



 そう返事をして残りのパンケーキの解体にとりかかる。


 この後カヤナが食べきれなかったパンケーキを3枚食べることになったのはご愛嬌というやつか。





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