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第43話, 課題があれば図書館へ





 次の日の朝、おれは教室には向かわず一人学院の図書館へと足を運んでいた。


 悪魔との繋がり、『太陽の指輪』との関連が疑われているメビウスの監視と調査のためマリウスとはしばらく別行動である。



 

 王立学院の図書館は王立都市中央区の外周とほぼ隣接する形で建設されており、少し奥に目をやれば王家が維持している水色の透明な結界、さらにその先には天へと高く続くガラスでできた塔が乱雑にそびえ立っている。


 天地を逆さにしても成立するようなガラス張りのビル群には全て最高硬度を持つと言われる氷晶がふんだんに使われ、さらにはその表面に所狭しと防御系統の魔法陣を刻印しているようだ。


 先日の実技試験で的として用いていたものより遥かに強固なものとなっている。流石は都市中心部の建造物といったところであろうか。


 このまま結界を突き抜けて中央区内で『太陽の指輪』の捜索に打ち出したい気持ちもあるが、月に向けてカヤナを救出しに行くまでまだ二年の猶予もある。


 今日のところはここにきた目的を優先的に果たすこととしよう。




 図書館の入り口へと立ち、魔力を高めて足下から床を通じて扉へと白藍色の魔力を送り出していく。


 人の魔力の波長が固有のものであることから、このような魔力を用いた識別認証システムは科学も発展している王立都市や帝一都市では一般的なものらしい。


 SFチックな様相を見せて自動で開いた扉をくぐるとその先は壮観。


 人の背丈の数倍から十数倍もある本棚にこれでもかと本が並んでいる。正直、本好きとしては夢のような光景だ。一日中ここに引きこもって本を読んでいたい。



『どのような本をお探しですか?』



 どこから見て回ろうかと考えていたら無表情な女性…いやヒト型ロボットが機械じみた抑揚の無い声で話しかけてきた。



「…何だこれ?」



 上半身だけを見れば普通の人間と大差ないのだが、手足と言った部分は全て機械仕掛けで成り立っている。ある猫型ロボットとは違って、あからさまに地面からは浮いてある。



『初めまして。自律学習型AI搭載の案内機、シリアルコードBC-0013と申します。本日はアヤト様の案内を務めさせていただきます』


「ん〜〜〜?」



 ふむふむ、脳にコンピュータによる指令系統があって胸には魔力循環器、ということは動力源は魔力か。さっきおれが入り口で扉に送り込んだ魔力を流用しているな。


 コンピュータに搭載されたAIが常に魔力操作をして、地魔法を応用した重力場の生成。姿勢制御や移動を行ってるのか。



『あの〜…?』



 これが魔法と科学の融合技術と言われる魔工学。話には聞いていたが実物を目にするのはこれが初めてだ。中々に興味深い分野のように思える。



『あの!アヤト様!本日はどういったご用件で?!』



 まじまじと観察していたら無表情ながら至近距離で怒鳴られてしまった。うん、感情と表情のリンクはされていないのかもしれない。


 どうやら図書館内部を案内してくれるそうなので観察もそこそこに案内を頼むことにする。



「ごめん、物珍しかったからつい。称号について書かれた書物はどこにある?」


『称号についての書物ですね。ご案内いたします』



 スィーっと滑らかに動き出した彼女?の後をついていくことにする。


 

「えーと、名前は何だっけ?」


『シリアルコードBC−0013ですが』


「なんか呼び名みたいのはないの?」


『シリアルコードが不便でしたらお好きに呼び名をおつけください』


「えー…BC−0013……………だめだ、何も思いつかない」


『そうですか。残念です』



 前を進むBCー0013の歩みが気落ちしたように感じられた。何も良い呼び名が思いつかない自分のボキャブラリーの無さに罪悪感を感じてしまう。



「えっと、じゃあ『アイ』さんで。AIだから『アイ』、単純で申し訳ないけど」


『いえ、承知しました♪』



 …この案内機の開発者はもうちょっと表情にこだわりを持つべきだと思う。




 階段を上っては下り、迷路のように並ぶ本棚の間を通り抜けること数十分、やっとたどり着くことができた。



『お疲れ様でした。ご希望の書物はこちらにまとめられております。本棚に置かれている本のリストは本棚の手前にあるパネルからご覧になれますのでご利用ください』



 言われるがままパネルを確認すると確かに色んな題名が並んである。「称号の持たらす補正」、「認識から生じる称号」「天授と加護」、「幼少期における経験が及ぼす覚醒への影響」などなど関連具合が分かりやすいものから分かりにくいものまで幾つも並んでいる。


 これ全部読むとなるとここじゃ狭いからあっちに見える広いスペースを使うか。椅子とテーブルも置いてある上に窓もあって明るいみたいだからちょうどいい。



『上の方に置いてある本をご所望でしたらアイがお取りしますのでお申し付けください』


「大丈夫。その必要はないから」


『え?』


「『風よ 渦巻け <旋風>』『風よ 捕らえろ <風縛>』」



 左手に<旋風>、右手に<風縛>の魔法をそれぞれ独立させた状態で発動させる。



「『<共鳴>=<旋縛>』 」



 独立に発動させた魔法を<共鳴>の発動句で掛け合わせて一つの魔法へと変換させる。


 すると本棚に置かれている本が風の力を受けて宙に浮き、全て列をなして移動してテーブルの上へと山のように積み上げられていく。


 本来なら敵を拘束して思いのままにぐるぐるぶん回すことができる攻性魔法なのだが、ここでは魔力操作のさじ加減で調整してある。


 おれも地属性の適性があれば重力系統の魔法が使えてもっと楽に魔法行使ができたんだがな。これはその代用といったところだ。



『なっ!これ全部読むおつもりですか?!』


「あと『魂の起源書』について書かれた書物も持ってきて欲しい」


『この上さらに読むと!』


「『知識は力なり』。どんな些細なことでも自分で手に入れた知識は必ず役に立つ。学びすぎて損なことは一つもない」



 さらにこの世界だとそれが術者の力量に顕著に現れるからな。まさに言葉通りの意味となる。



『〜〜〜っ!そうですその通りなんです!知識を得てそれを自身に還元することほど有意義なことはないのですよ!全く最近の学生ときたら総じて最低限の知識だけで使用できる現代魔法の利便性に流されて、ちーーっとも新しい知識を自発的に取り入れようとしないんだから』



 何やらアイさんのテンションが明後日の方向に飛んで行っている。相変わらず表情は無表情だけどその仕草がアイさんの心の内を訴えかけているようだ。そんなに琴線に触れる話したかな?



「あー、追加の本を持ってきてもらっても?」


『もちろんですとも!図書館にいる間は何なりとお申し付けください!』



 アイさんが張り切って本の回収に向かったのを確認して手元の本に視線を落とす。おれも張り切っていこうか。






「くぁぁぁ…ん…」



 抑えきれないあくびを噛み殺して読み終えた書物を閉じる。ざっと十冊ほど目を通したが欲しい情報とは当たらずとも遠からずと言ったところか。


 今は称号の研究に関する下地を自分の中に構築している最中だと思って忍耐強く続けていく必要がありそうだ。




 どうやら昼休みの時間となったようなので小休憩がてら食堂へと向かい、例の如く大量注文をして不自然に空いたスペースへと腰を落ち着ける。



「…なぜまた私の正面に座るのですか?」


「ん?そこに空いた椅子があるから」


「そうですか」



 対面に座っている『聖女』はそれ以上おれが目の前にいることを追求せず、さして興味もないようにうどんを啜っている。



「一つ聞きたいことがあって」


「昨日も言ったはずです。『聖女』である私は全ての人に平等。故にあなたの質問には答えられないと」


「ああ『魂の起源書』についてはどうでもいいよ。それより、おれが今日用があるのは『聖女うわべ』じゃなくてアオイ(なかみ)の方なんだけど」



 『聖女』は食べ進めていた手をピタリと止め、箸をそっと下ろす。



「…おっしゃってる意味が分かりません」


「アオイなんだよね?今おれの目の前にいるのは」


「『聖女』は名を持ちません」


「大切な両親につけてもらった名前を捨てたと?」


「『聖女』に肉親はおりません。この身は天使様より授けられ、天使様に捧げております」


「じゃあその仮面取って、おれの目をちゃんと見て言ってよ。私に名前はない。産んでくれた両親もいないって」


「………」



 数秒の沈黙。


 それもそうだ。これはとても意地悪な質問だ。両親を愛してやまないはずのアオイにそんなこと言えるはずもない。


 返答の代わりに、アオイはまだうどんが半分以上残った皿をトレーごと持ち上げて席を立つ。



「お願いだからわたしに関わらないで」



 そんなか細い声を後に残して行ってしまった。


 そしてまた賑やかになっていく周囲の中で、おれは一人昼食を胃に掻き込んだ。






『……。………ん。……ァヤトさん。アヤトさん!』



 機械音声ながらもどこか人間味を感じさせる声に呼びかけられて、自分だけの意識下から這い出ることにする。本を読むことに集中しすぎて周囲に意識をさくことができていなかった。



「ああアイさんか、どうかした?」


『どうかした?ではありません!休憩なしに書物を読み始めてから一体何時間経ったと思っているんですか?!』



 言われて窓の外に目をやると日はすっかり沈んでおり、街には街灯が灯って夜を迎えていた。もうそんな時間になったのか。



「えーと8時間くらいか?」


『そうですけでども!』


「ってあれ?この場所ってこんなに物置いてあったっけ?居心地がとても良くなってるような」


『アイが図書館の設備を拝借してきました。昼休み以降、気落ちした様子でしたので少しでもお役に立てばと』



 いつの間にか用意されていた手元を照らすランプに飲みかけのコーヒー、真っ白な紙束がおれの手の届くところに重ねられ、おれが色々と書きなぐったメモは律儀に整理整頓されている。



『全く、本に意識を集中しているのにそれ以外のことを全て無意識下でやってしまうようなお方なんて久々に見ましたよ。放って置いたら日を跨ぎそうな勢いでしたね』


「素直にありがとうって言っとくよ」



 今日一日で知りたいことが大方知れたのはアイさんの献身的なサポートの面も大きい。個人的な秘書として雇いたいくらいだ。



「それで、おれはなんで呼びかけられたわけ?」


『アヤト様からいただいた魔力はとても上質で高い能率で運用していたのですが、流石に一日中となるとアイの魔力残量もつきかけで活動限界になりそうなのでお声かけしました』


「そういうことか。動力源は利用者の魔力だったな」


『はい。もし仮に引き続き調べ物をされるのでしたら、魔力供給さえしていただければアイは構いませんが…さすがに身体を壊しますよ?』



 半竜人の身体ならば一週間ほどは不眠不休でも無理なく活動できるが精神的によろしくない。ひとまず調べ物も終わって知りたかったことも解決できたし、図書館に籠もって本を読み漁るのはまた明日にするとしよう。



「そうだな。調べ物のキリもいいことだし今日はこれで終わりにしよう」


『はい。では入り口までご案内しますね』


「あっ、アイさん。追加で魔力供給をしておくからこの場所に今から言う言葉に関連するこの図書館の書物全部持ってきてくれない?」


『構いませんがどんな書物をお求めで?』


「優先順位は『聖女』、『天使』、『悪魔』、『竜人』それと他都市の文献もあればそれも」


『かしこまりました』



 そしてアイさんに明日おれが来るまで十分活動できるだけの魔力供給を行い、図書館を後にして帰路に着く。


 すっかり暗くなった夜道を歩きながら、今日の成果を確認するため周りに人がいないことを確認して右手に魔力を集中する。



「『ステータス・オープン』」



名前:アヤト=アーウェルン

年齢:15歳

種族:半竜人

性別:男

適性:風

固有能力:竜魔法、竜化

天職:神秘術者

称号:

>天授系:竜人族の末裔、竜皇子

>覚醒系:界渡人、超越者Ⅰ、銀月

>加護系:竜姫の加護、終獣の弟子



 称号欄の仕様が変更されている。取り入れた知識が魔法へと反映されているようで何よりだ。


 屋敷に戻る時間が遅くなってしまったので、夕食の時間に間に合わなかったことをミリアさんに謝らないと、などと思いながら道を歩いていると…




ードカーンッ!!!



 どこからともなく大音量の爆発音が聞こえてきた。


 スルーして帰路についてもいいところなのだが…



「気になるよなあ…」



 音の発生地点らしきところは実技試験を受けた体育館だ。暗闇に目を凝らすと天井から煙が立ち上っている。


 ユニオン(部活動)の活動時間が過ぎているにも関わらず電気が点いているのは些か不自然だし、何より感じられる魔力の波長が知らないものでもない。


 視線だけそちらの方に向けていると一つの人影が近づいてきた。



「お前は確か…」



 どうやら屋敷に帰るのはもう少し遅くなりそうだ。





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