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第41話, 七人の序列





 入学試験を終えた次の日の朝、学院から支給された白を基調とした制服に身を包んで部屋を出る。


 食堂へと入ると敏腕メイドのミリアさんが朝食の用意をしていくれていた。



「おはようございます、ミリアさん」


「おはようございます、アヤト様。制服がよくお似合いですね」


「ほんとですか?ありがとうございます」


「ええ、まさか第一階級にあっさりと入学を決めてしまうとは思いもしませんでした。改めてお祝い申しあげるとともに学院でのマリウス様の手綱を握って頂ければ幸いかと」


「はは…あー、ミリアさんも学院に通っていたんですよね?その第一階級とかの区分って具体的に何なんですか?」


「えーとですね、学院の生徒は第一階級、第二階級、第三階級の三つのクラスに分けられます。第三階級は平民出身の支援術者候補生、第二階級は貴族や商家出身の準戦力級術者候補生、そして第一階級は稀有な才能を持った主戦力術者候補生として扱われます。ついでに言うと、それぞれの階級がこの都市での身分を象徴していますね」


「その候補生って言い方が気になるんだけど、学院を卒業したら王立都市の都市軍への所属が求められるってこと?」


「それに近しいですね。この都市に住む者で人の上に立つものは他都市との戦争などにおいて率先して前に立つことを求められれます。学院を卒業した優秀な人材はたとえ平民でも貴族でもずべからく都市軍に組み込まれます」



 徴兵制のない日本で育った感覚がいまだに残るおれとしては何とも不思議な話だ。


 この世界では都市間による戦争は珍しいものではなく、また十一年前の大戦以来、都市間での緊張が高まっているため当然の采配なのかもしれないが。



「まあ、今の王立都市は他都市との戦争よりも都市内での対立の方が顕著なのですが…」


「ん?それはどういう…?」


「先ほども申し上げましたがこの都市での身分は大きく分けて三つ。権力を持つ支配層の第二階級と権力を持たない従属層の第三階級、そして人の上に立つ天使様が第一階級と区分されています。元々はそのような形であれ統治体制としては安定を築いていたのですが、ここ数年でパワーバランスが崩れるようになってきました」


「何でそんなことに?」


「ひとえに『聖女』の存在ゆえです」


「『聖女』って昨日の実技試験で一緒に受けてた彼女が?」


「はい、その方ですね。第二階級側のトップは王家であるメルティア家。対して第三階級側のトップは聖統一教会が受け持っています。王権は第一階級である天使によって王家に授けられた、とういうのが都市に住まうものの共通認識ですが、ここで王家の威信が霞んでしまうほど天使の寵愛を受けた『聖女』が第三階級に現れたら?」


「王権天授説ってのが根底から覆されるな。寵愛を受けた『聖女』の方が正当な権利を持つって主張する輩が出てきてもおかしくない上に、実際に王家より『聖女』の方が優れた力を持ってるからな」


「そういうことです。話に聞く限り第二階級側の人間が第三階級側の陣営にも流れ込んでいるようですし」



 王立都市内での人間同士による対立か。どこの世界でも権力と宗教はどんな形であれ切っても切れない関係らしい。


 『聖女』からしたら自分の存在のせいで争いが起きようとしてるんだから気が気でないだろうな。



「ふああ…おはよう、アヤト、ミリア。いい朝だね」



 そんなことを話しているとマリウスが寝巻きの姿のまま食堂へと入ってきた。マリウスにもこの話について後で詳しく聞くことにしよう。



「おはようございますマリウス様。今日も憎たらしいほど起床時間ギリギリのお目覚めで」


「あー、朝からうちのメイドが辛口なのは何とも趣がありますね」


「馬鹿なこと言ってないでさっさと席につけこのクソ主人」


「ミリアが日に日にSメイドになってますね。私M気はないのでもう少し優しくしてくれても良いのですが…」



 そう言ってマリウスが上座の椅子に腰掛け、おれもマリウスから見て右側の席につく。そのタイミングでミリアさんは湯気の立った朝食、スクランブルエッグにハムとウィンナー、トーストを配膳してくれた。


 登校初日の朝は最早見慣れたマリウスとミリアの主従とは思えない掛け合いを見届けて終えた。






 王立学院の講堂にて新入生も含めて三学年全員が集められていた。新入生がいるスペースには白色の制服を着た生徒が七人、黒色の制服を来た生徒が三十人、青色の制服を来た生徒が百人並んでいる。


 聞いた話によると黒色の制服を着た生徒が第二階級、青色の制服を来た生徒が第三階級らしい。


 生徒は都市軍の候補生という話だったが意外に人数は少ない。魔法という個々人の資質に左右されるものが指標では量よりも質のほうが重要視されるのかもしれない。



「では新入生、第一階級の序列を発表する」



 前で話を進めているのは王立学院で一番偉い立場にあるという好々としたお爺さんだ。理事長としての挨拶的な長ったるい話をボーッと聞き流していたら話が割と進んでいた。試験の時にも話していた序列がどうやらこの場で発表されるようだ。



「序列一位、『恩寵』

 序列二位、『森羅』ラティス=メルティア

 序列三位、『銀月』アヤト=アーウェルン

 序列四位、『黒陽』マリウス=モードラン

 序列五位、『火焔』ユイガ=アルゴノート

 序列六位、『迅雷』スレア=メビウス

 序列七位、『茨姫』サーニャ=カタロフ


今名を呼ばれた者たちは授けられた新たな称号をしかと心に刻み自らのものとし、この都市の発展のため、その名に恥じぬよう各々が定めた道を一掃邁進していくことを願う」



 理事長が言葉を終えるとともに仰々しい杖を振ると、キラキラとしたエフェクトが第一階級メンバー全員にふりかかった。


 序列一位の『聖女』様だけ名前が呼ばれなかったのも気になるが、それよりも新たな称号?その言葉が気になってこっそりとステータスを開いてみるとその意味がよく分かった。



名前:アヤト=アーウェルン

年齢:15歳

種族:半竜人

性別:男

適性:風

固有能力:竜魔法、竜化

天職:神秘術者

称号:界渡人、竜人族の末裔、竜皇子、竜姫の加護、終獣の弟子、超越者、銀月



 うん、なんか最後に一つ増えてるな。



 この世界で称号が持つ意味はとても大きい。


 上位の術者には不可欠な『魂の刻証』は魂に刻まれたこの称号が力の源となるし、仮に『魂の刻証』を使わなくとも称号を持つだけで何かしらのプラス補正がかかるのだ。


 詰まるところ称号が増えるということは術者の力の増大を意味する。おれやマリウスは今さら感はあるが、第一階級に所属する他の五人は間違いなくその力量が底上げされるであろう。さらにその称号を使いこなせるかは別の話ではあるが。


 ちなみに終獣の弟子、超越者に関しては終末世界でいつの間にやら増えていたものだ。



 それにしても、人に称号を授けることができるなんて聞いたことがない。通常は生まれつき、もしくは何かしらの過程を経た末に手に入るものという認識でいたのだが…機会があれば詳しい原理を調べてみてもいいかもしれない。


 その後も式典特有の長ったらしい進行はつつがなく終わり、各階級ごとにそれぞれの学び場となる教室へと案内されていた。


 人数が七人しかいないにも関わらず、それなりに大きな教室へと案内され、決まった席もないようなのでそれぞれが微妙な間隔を開けて席につく。


 そして全員が席についたタイミングで、前の扉から幼女先生が入ってきて教壇へと立ち第一声。



「まずは自己紹介から始めようか…と言いたいところだが、このクラスにいるようなやつらは他人に興味などさしてないだろう。私の自己紹介も昨日の試験前に済ませたことだし割愛する。名前や趣味、お誕生日なんかが知りたけりゃ適当にやっといてくれ」



 なかなか豪快な持論だ。まあ日本にいた時のおれもクラスメイト全員の名前を覚えていたわけではないからあながち間違いではないのかもしれないが………え、同じクラスでも関わりのない人の名前って覚えるてるものなの?



「さて、ここにいる面子の多くは”英霊の世代”などともてはやされているようだが所詮は子供。まだまだ術者として欠けている部分も多いだろう。じきに私がみっちりしごいてやるから覚悟するように。では早速最初の授業を始めよう」



 厳しいお言葉とともに幼女先生が腕を振るうと一人一冊、分厚い辞書のような本が配られた。見たところ全員違う本のようだ。



「今お前たちに配った本だが、そうだなカタロフ。試しに一ページ目を開いてみろ」


「はい。えーと、あ、あれ?…開かない」


「ラティス王太子。お前はどうだ?」


「ふむ。残念ながら開かないようですね」



 本を机に置いたまま表紙に手をかけてそーっと動かしてみると何事もなく開きそうだったのでとりあえず手を離す。横に座っているマリウスも同じく、問題なく開けそうだ。



「今お前たちの手に渡ったものは『魂の起源書』。それぞれの魔力を媒体に書き上げられたお前たち専用の教科書とでも思ってくれたらいい。その中にはお前たちがこの先、術者としてどのように成長していくべきか、その指標となる全てが記されている」



 幼女先生の言ったことが本当なら何とも凄まじい本だ。これ一冊を極めることで術者として大成できることになる。おそらく魔道具の一種なのだろうが価値は相当高いものになるだろう。それだけ第一階級のメンバーは王立都市から戦力として期待されているということか。



「そこで気になる本の開き方であるが、まずはこの本に認められる術者となれ。それがお前たちに課す最初の課題だ。期限は一月ひとつき後。クリア出来なかったものは即時退学。では取り掛かるがいい。できたものから自由時間とでもしよう」


「退学!?」



 カタロフが退学という言葉を受けて驚愕の声を上げていた。折角入学できたのにいきなり退学の危機に迫られているとなれば声も上げたくなるか。



「ミロディ先生」


「何だラティス王太子、いきなり質問か?」


「無理に王太子をつけなくてもいいですよ先生。授業とはこの本を開くことだけですか?」


「その通りだ」


「私の見解としては、術者として更なるランクアップをするためにもう少し実用的な内容を学べるものだとばかり期待していたのですが」


「万人に理解できることをわざわざ教える意義など微塵もない。そんなことは自分たちで学べ」


「この本には万人に理解できないほどの価値があるとでも?」


「何か勘違いしてるようだなラティス。お前たち生徒がその本を測るのではない。現段階ではお前たちが本に試されているのだよ。いわばこの一月ひとつきは猶予だ。ふるいにかけられ、認められたものたちにはその本に沿う各々にあった知識、修練、技術を私が叩き込んでやる。私からは以上だ。つべこべ言わずに課題をこなせ」



 一方的に言いたいことを言い終えた幼女先生はそれ以上の質問は受けつけないとばかりに空中にフワフワと浮かびながら魔導書を読み始めた。



「ちっ。本に認められろだなんて具体的に何すりゃいいんだよ」



 開かない本を片手に弄ぶアルゴノート。本と見つめ合ったまま微動だにしないメビウスに何やら考え込むラティス。サーニャに至っては無理やり開かせようと格闘している。


 本に認められろ…か、確かに基準がよく分からない。おれとマリウスは開けるみたいだがクラスのメンバーと力量に差がありすぎて条件の推察もできないし、大した情報も得られなさそうだ。


 そんな中、一人の生徒が教壇へと向かった。



「ん?何だ『聖女』様。もう終わったのか?」



 どこか楽しげに対応する幼女先生に向けて『聖女』様はスッと本を手前に突き出し、そしてページをパラパラパラと最後までめくっていく。



「ほう…合格だ。全員が合格、もしくは一月ひとつきが経つまでは自由時間だ。好きに過ごすといい」



 わずかなどよめきを見せるクラスを後に『聖女』様は本をローブの内にしまって教室を出て行こうとする。



「ヒントは称号」



 『聖女』様は透き通る声でそう一言残して教室を後にした。



(称号…ねえ)



 どうやら『聖女』様は本に認められる条件をお見通しらしい。





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