第33話, 望む未来のために
私から見た彼はとても眩しかった。
世界の不条理に苦しめられ、絶望にひどく打ちのめされたというのに彼は再び立ち上がった。
立ち上がってさらには先を見据え、この不浄の世界に抗うことを決意した。
羨ましい。
私にはそんな真っ直ぐな生き方は出来なかった。
二千年前のあの日。
私にとって人生の全てを失うことになったあの日にもし私が立ち上がれていたのなら。
絶望から目を背けずに戦うことを決意していたのなら。
彼と同じようになれたのだろうか?
いや、きっと何においても中途半端な私には到底無理だっただろう。
変化を恐れて、迫りくる現実から逃げて、移ろい行く時の流れを止めた気でいるためにあたかも亡霊のごとく振る舞って。
彼が私に手を差し伸べるその様は、かつての友人と彼の父との二人に重なって見えた。
三度目にして初めて握り返したその手は思いの外私の手と変わらない大きさだった。
私は彼のようにはなれない。
彼の進む道を追いかけることはできない。
でも彼も私と同じ一人の人間なのだ。
自分が正しいと信じた道でいつか挫折するかもしれない。
ならば私は彼に救われた一人として彼の正しさの証明になろう。
悪意を持った人間が彼の足枷となるかもしれない。
ならば私はそのような人間を一人残らず排除しよう。
救いを求める多くの人々をその背に抱え込むかもしれない。
ならば私は彼が憂いなく前に進めるように後ろからそっとその背を支えよう。
私は私の進むべき道を進めばいい。
大丈夫。
私はもう亡霊ではない。
たとえこの身は悪魔のままだとしても心の在り方は人のそれだ。
そう私が信じられている。
そして何より彼女の陽だまりのような笑顔と温かい優しさを今はちゃんと思い出せるのだ。
それだけで私は、あの日に見失った私を取り戻すことができる。
随分と長い間待たせてしまいましたね。
あなたは待ちくたびれて怒っていますか?
それともようやく新しい一歩を踏み出せた私を見て安心するでしょうか?
きっとあなたはそのどちらも心の内に隠したまま何も言わずに微笑みを見せてくれるのでしょうね。
あなたが身を挺して守ったこの世界を彼は生まれ変わらせようとしています。
そこで私はあなたと二人、あの頃のようにまた暮らしたい。
だからもう少しだけ…もう少しだけ待っていてください。
必ず私があなたを迎えに行きますから。
これにて第二章完結です!次話から第三章が始まります!
色んな魅力的なキャラを描いていこうと思うのでもし良ければブクマ、評価等していただけると嬉しいです!!!




