第26話, 竜魔法
修行パートpart2!
呪文考える時に厨二感は欠かせませんよね〜
「ではまず私が<竜化>を見せますので、しっかりとしたイメージを持てるよう目に焼きつけておいてください」
「分かりました」
引き起こす現象の明確なイメージは、魔法を成功させるポイントの一つだ。
それは竜魔法であっても変わらないということだろう。
オリシディアが自身の魔力を際限なく高めていくとともに、青藍色の光がオーラのように溢れ出す。
「『始竜よ 其の貴き姿を 彼の威光溢れる御身を 今ここに再編せん <竜化>』」
溢れ出ていたオーラがオリシディアを中心として集い、一つの巨大な竜の形を成していく。
やがて像の全体を覆っていた青藍色の魔力がひび割れるように弾けた。
全長30mほどであろうか。
黒曜石のような光沢がある鱗に獰猛な瞳と鋭い牙を持った翼、人など塵芥と変わらず薙ぎ払うかのような尻尾を携えた竜が目の前には顕現していた。
その瞳は澄んだ金糸雀色をしており、身体には青光のラインが引かれている。
その威風堂々たる姿は何人たりとも到達し得ぬ、生命としての極地、王者たる風格が滲み出ていた。
(-ッ!これが…竜…)
竜を目の前にした極度の緊張によって喉がカラカラとなり、拳を握る手に自然と力が入る。
この世界でおれが何者にも屈することなく生きていくためには、これほどの力を身に着ける必要があるのか。
程なくしてオリシディアの身体は青藍色の光に包まれ、粒子が弾けるように霧散していき元の人型の身体へと戻る。
「こんなところでしょうか。イメージを掴むことは出来ましたか?」
「はい、イメージに関してはもうバッチリだと思います」
「それなら良かったです」
そうイメージに関してはバッチリだ。
ただ魔法を行使するために必要な要素がおれにはまだ二つ欠けている。
「ただ魔法に必要な呪文句の理解と、あとは単純におれの魔力量が足りるかどうかという問題があると思います」
「後者は置いておいて、前者の問題なら大丈夫だと思います。竜魔法は種族の固有魔法ですから、あなたがその身に引き継いでいる『始竜の貴血』に強く祈ればきっと応えてくれます」
『始竜の貴血』
確かマリウスに続いて襲撃してきた二人の悪魔の内、男の方がそんな単語を使っていたな。
「その『始竜の貴血』というのは何なんですか?」
「私も詳しくは知りませんが、最初の竜人族の血を受け継ぐもの、血縁という認識で相違ないそうです」
竜魔法を使う上ではその程度の認識で問題ないのか。
「物は試し、とりあえず一度竜魔法を使ってみましょう。式句はもう覚えましたか?」
「問題ないです」
そう言って身体の中の魔力を活性化させて循環状態となる。
いつも通り身体が青白い光に包まれていくが、おそらくこれでは不十分だろう。
先ほど見たオリシディアの魔力循環状態とは何かが決定的に違う。
そんなおれの様子にオブシディアはすかさずレクチャーを入れてくれる。
「竜魔法を使うには他の魔法を使うときと同じレベルの循環状態では不十分です。そこからさらに身体の許容量限界、暴走状態まで魔力を引き出して制御してください。魔力が制御を離れて外部に溢れても問題ないですので」
普通の魔法を使うのなら身体の許容量の60%〜70%ほどを常に循環させて魔力の効率化を追求する。
これが循環状態。
対して暴走状態は身体が耐えうる100%まで魔力を引き出す状態のことをいう。
つい一週間ほど前に、マリウス相手に時間を稼ぐために暴走状態となったことがあるが、想像以上に身体への負担は大きなものだった。
竜魔法を使うにはあの状態を維持するのが求められるのか。
気を引き締め、目を瞑って身体の内側に意識を集中させて流す魔力の量を徐々に引き上げていく。
78…84…88…91…、引き出す魔力が増えるとともに体温が猛烈に上昇する感覚に襲われる。
血液がフツフツと沸騰し、骨が融けていくように身体が熱く、最早うまく呼吸ができているのか自分でも分からない。
94…96…97…
だがこれだけ苦しい思いをしているにも関わらず、いつまで経っても魔力を100%まで引き出すことができない。
やがておれの制御下から離れた魔力が無情にも身体の外側へと逃げていく。
(あと少し…あと少しなのにっ!)
そんなおれに対してオリシディアは無情とも言える、けれども効果的な一言をかける。
「また失いますよ?」
何が、とは言わない。
分かりきっていることだから。
フラッシュバックした凄惨な光景に虚しい夜明け。
魔力の光を受けて胸元で輝く翡翠の宝石を右手で握りしめる。
(魔力が制御から離れて外側に逃げていくのなら、それ以上の魔力を引き出してやればいいだけだろ!)
自分を叱咤して覚悟を決め、許容量以上の魔力を魂の奥底から引き出していく。
青白い魔力の奔流に白銀の粒子が混ざり始め、螺旋を描いて上昇していく。
かつてない魔力の高まりを肌で感じながら、竜へ成る式句を紡いでいく。
その果てにはもう苦しさなど微塵も感じられなかった。
「『始竜よ 其の貴き姿を 彼の威光溢れる御身を 今ここに再編せん <竜化>』」
全身が魔力の光で覆われ身体を改変していく。
光が晴れた先にいたのは果たして竜と呼べるものか。
腕と脚には白銀の鱗が重厚な鎧のように重なり、手足は五本指のままではあるが鋭い爪を持った紛れもない竜の手だ。
背中に翼は生えていないが、尻の付け根からは蛇腹剣に似た硬質な尻尾が生えている。
「でき…た?」
そう思えたのも束の間、恐ろしい勢いで消費されていく魔力のせいであっという間に魔力残量が空っぽとなり、竜化も無理やり解除されて膝をつき、地面に伏すこととなった。
「はぁ…はぁ…、なんだこれ?」
「<竜化>もとい竜魔法はそのどれもが恐ろしいほどの魔力を消費します。今のあなたが行使できた<部分竜化>でも、あっという間に魔力を消費し切った結果、強制的に解除されたのでしょう」
「<竜化>じゃなくて<部分竜化>?」
「保有している総魔力量が足りていないと必然的に<部分竜化>となります。まずはその<部分竜化>を使いこなすことが最初の課題です」
「なるほど。道は険しいってわけだ」
〜〜〜
それからは魔力が尽きればオリシディアさんに魔力供給をしてもらい、再度<部分竜化>。
それを一晩中繰り返したところ、何とか一分ほどの間<部分竜化>を維持できるようになった。
それから一度休息を取り、鬼畜な鬼ごっこを一日中ひたすら繰り返していたというわけである。
まあその鬼ごっこのおかげで極限状態まで追い込まれ、<部分竜化>を効率的に利用できるようになるとともに、総魔力量の上限が引き上げられ、魔力の自然な回復速度も上昇したわけであるが。
いまだにおかずを一つとして死守できていない現状を鑑みるとまだまだ力不足というわけである。
とりあえずは設定された制限時間である10分間、ずっと<部分竜化>が出来ればまだ勝機はあると思うのだが、そこまでの成長にはまだ至っていない。
今日もおかずのない、ご飯のみの夕飯を噛み締めて食べながら反省するとしよう。




