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第21話, 僅かな愛を胸に

これにて第一章完結です!!!


次回からは第二章、主人公が最強への道を登っていきます!

主人公の最強の原点ともいえる第一章を、どうか読んで追体験していただけると嬉しい限りです!


もし少しでも面白いと感じていただけたのなら、ブックマーク、評価、感想などしてくださると幸いです!!!





いつからであろうか、人のあり方を醜いと感じるようになったのは。


いつからであろうか、人を信用できなくなったのは。


いつからであろうか、それでも人からの愛に焦がれるようになったのは。


いつからであろうか、このジレンマに心を蝕まれるようになったのは。


いつからであろうか、少しずつ欠けていく心のカケラを拾い集めては無理やり繋ぎ止めて、形を保つことだけに必死になっていたのは。


壊れては直して壊れては直して、歪さを悟られぬように表面だけは綺麗に取り繕って。






綾斗あやと』は小学校6年生の時に親と兄弟を失った。


父も母も3つ下の弟も、『綾斗あやと』が修学旅行に行っている間に強盗に襲われ、家に火をつけられて焼死したという。


全焼した家の前で茫然と立ち尽くすおれの周囲では、親と交流があったにも関わらず誰もが他人事のように遠目から噂し、また取材に来たメディアに向けてしたり顔で語っていた。


恐ろしいほどの吐き気を覚えた。


上辺だけの「大丈夫?」「大変だったね」「いつでも頼ってくれていいからね」という言葉にかつてない憤りを感じた。


隣町から来てくれた祖母がいなければ、きっと『綾斗あやと』は全員に対して怒鳴り散らしていたと思う。



ーピシッ…



それから程なく、『綾斗あやと』は祖母に引き取られた。


祖父はすでに他界していたために、祖母との二人暮らしの生活が始まった。


祖母の家からも小学校へは通える距離であったために転校をする必要はなかった。


ただ『綾斗あやと』を取り巻く周囲の環境だけは変わっていった。


綾斗あやと』は家族を殺された可哀想な人だというレッテルを貼られ、先生もクラスメイトも腫れ物を扱うかのように『綾斗あやと』と一定の距離を保ち、事件前までは遊んでいた友達も少しずつ離れていった。


そうした環境は中学に進学しても変わらなかった。


隣町の小学校と合併して構成されたような中学校であったために、噂はすでに広まっていたのだから当然といえば当然であろう。


部活に入ることはなく、代わりに祖母の紹介で家の近くにある剣道の道場で個人的に剣術の指南を受け始めた。


その動機がいまだに捕まらない犯人への復讐心と、何かを守るための力を得たいという子供ながらの反骨心との半々であったことを、道場の先生はきっと見抜いていたと思う。



ービシッ…



事件から三年が経った中学3年生の夏、再び事件は起きた。


学校帰りに夕食の買い出しを終えて家に着くと鍵が開いていた。


不審に思いながら家の中に入ると、仏壇の前で血まみれになって倒れている祖母を見つけた。


すぐ側に駆け寄ろうとすると扉の陰に隠れていた人影に組み倒され刃物を突きつけられた。


その瞳は狂気で染まり、ニヤリとほくそ笑んだことで覗かれた銀歯がひどく気味悪かった。


死への恐怖から必死に抵抗し、無我夢中で暴れたのだろう。


気が付いた時には刃物が相手の腹に刺さり、その刃物を突き立てているのは『綾斗あやと』の手であった。


事件は正当防衛ということで『綾斗あやと』が罪に問われることはなく、またその犯人は三年前に親と兄弟を殺した犯人と同一人物だったという。


その事実を警察から聞かされた『綾斗あやと』に、期せずして果たされた復讐の達成感はなく、虚無が胸の内を支配していた。



ーピキピキピキ…



周囲の『綾斗あやと』を見る目は、家族を殺された可哀想な人から、人を殺した危険な人に変わっていった。


祖母もこの世からいなくなり、天涯孤独の身となった『綾斗(あやと)』は誰にも頼ることができなくなった。


そして人を刺した反動が、肉を切り裂いた感触が、手に腕に身体に脳にこびりついて忘れられなかった。


浴びた返り血は身に刻まれた呪縛の如く、洗っても洗っても『綾斗あやと』の視界から消え去ることはなかった。


真綿で首を締めるかのように、少しずつ少しずつ『綾斗あやと』という人間を殺していった。



ーパリーン…






そんな『綾斗あやと』は死に、代わりに高校生になる頃にはもう一つの人格『あやと』が生まれていた。


『あやと』は『綾斗あやと』の全てを知っていた。


だから『あやと』は自我を守るために上手く立ち回った。


心の歪さを悟られぬように正常な人間を演じ続けた。


おかげで『あやと』は死ぬことはなかったが同時に救われることもなかったのだ。




死ぬまで途切れることはないと思っていたその心の在り方は唐突に終わりを迎えた。


この世界で目覚め、家族からの愛で、家族への愛でいっぱいに満たされた居場所に甘い甘い幸せを感じた。


ウェル姉とカヤナを愛おしいと感じた。


それは『あやと』にとって生まれて初めての感情であった。


願わくばこの幸福が、時が一生続きますように…。




ひどく愚かだった。


どうしてこの世界でなら大丈夫だと思い込んでいたのだろう、信じ込んでいたのだろう、疑いを持たなかったのだろう。


世界の不条理に『綾斗あやと』は苦しめられ、果てには心が耐えられず死んだというのに。


きっと同じことは何度も繰り返されてきたのだろう。


何度も、


何度も何度も何度も、


生を受けては大切を奪われて、


愛に焦がれて、


心が壊れて、


死を迎えて、


幾度くり返しても変わることのない、いつもの結末。


もう…いいか。


疲れたな。


ここで諦めたとしても誰も責めやしない。


このまま最後の時を迎えよう。


そうすればこの苦しみから逃れられるから。




本当にいいの?


いいんだよ、この絶望に抗う力なんてもはや残っていない。


違うね、君は恐れているだけだ。


恐れる?これ以上何に怯える必要がある?


抗った末に自らの全力が世界に届かない、かもしれないことにさ。


…だからどうした?


試してみないのかい?


試したところできっと何も変わらない、届きやしない。


今なら届くかもしれない。


何を根拠に?


さあ。


さあって、そんな無責任な。


そうだね、なら一つだけ確かなことを伝えるよ。


何?


繰り返す絶望がボクの糧になっている、ということさ。


どういうこと?


今の君にはまだ分からないことさ。


何だそれ…。


フフ、さあ長い長い延長戦の始まりだよ。その先を君自身の目で焼き付けるといいさ。






透き通った翠色の光が、ほのかに胸の内を優しく照らしていた。





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