第19話, 救い
二日ぶりの更新!!!
第一章もラストスパート!このまま駆け抜けたいと思います。
ードカッ
鈍い音が大きく伝わる。カヤナがこちらに吹き飛ばされてきたようだ。
側に寄ろうとするも、槍で木に縫いとめられているため身動きが取れない。
槍に右手をかけてありったけの力を振り絞る。
「ぐぅ…あ…ぁぁあああ!!!」
-カランカラン
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
血を流しすぎたのか焦点がうまく定まらず、視界に映るのはぼんやりとした世界。
まともに動く右腕を使って正面に倒れているカヤナの元へと這いつくばりながら向かう。
あと少し、もう少し。
届いた。
華奢な身体を優しく抱き寄せ、敵がいる方向からカヤナを隠す。
おれにはもう身体を盾にすることしかできない。
ごめんな、ちゃんと守ってやれなくて。
ああやっぱり温かいな。
背後で暴力的に高まり続ける魔力を感じながら終わりの時を待つ。
2年という短い期間だったが今までで一番幸せな時間だった。
願わくば、カヤナが次の生で幸せになれますように。
「…。『暴食の紫雷:<一牙>』」
…いつまで待っても死が訪れない。
気づかないだけでもう死んだのか?
いやそれはないだろう。
腕の中に感じるカヤナの温かさは確かに本物なのだから。
だとしたらなぜ?
不思議に思って顔をあげると、周囲は全て翠色の何かで球体のドーム状に覆われており、それが魔力でできた薄い花びらの集まりだと気づくのに少し時間がかかった。
辺りをヒラヒラと舞い降りてきた花びらはおれとカヤナの傷口に集まり、触れた箇所で溶けるように消えて傷を癒していく。
「ウェル…お姉…ちゃん?」
カヤナがそう囁いたのを聞き、おそるおそる後ろを振り返る。
そこには女性が立っていた。
よく見知った、それでいて到着をずっと待ち望んでいた彼女が。
「ウェル姉!」
そう呼びかけるとウェル姉は膝をついておれとカヤナを強く抱きしめてくれる。
「良かった。今度は間に合った…間に合ったよ………」
そう消え入りそうな声で呟くと、いつもの柔らかい笑顔を向けてくれる。
その笑顔を見ただけで既にいつもの日常に戻ったかのような感覚になるのだからほんと不思議だ。
「少し待っててね」
ウェル姉はそう告げると立ち上がり、足元からほどけていくように花びらを散らせていく。
「『舞姫の燐華:<翡翠> <六花>』」
悪魔二人と向き直り、ウェル姉は散らせた花びらの一部で長剣二本<翡翠>を形作り構えを取る。
残りの花びらは雪の結晶を模した小さな盾<六花>となり、数百以上もの結晶がウェル姉の周囲を浮遊している。
「あー、めんどうなことになったぞレヴィ。コイツは舞姫だ」
「確か”レベルⅢ”の【到達者】だったかしら」
「なぜこの子たちに手を出したのですか?あなた方の目的には関係ないはずです」
「ハッ、よくもぬけぬけとそんなことが言えるもんだ。そいつらが【始竜の貴血】を引き継いでることを知らないわけじゃあるまい」
「………」
「しかもそこの坊主は”兆し”を見せやがったからな。余計にこのまま放置してるわけにはいかないんだわこれが」
「!アヤトが”兆し”を?」
「それにイレギュラーとして常に始末対象なあなたの関係者に手を出さない理由がありまして?」
「そうでしたね」
その答えを聞くや否やウェル姉は目にも止まらぬ速さで二人の悪魔の元とへと接近し、交差した剣を振るう。
「果てなさい悪魔ども」
剣撃が今にも胴を真っ二つにしようと振るわれているにも関わらず、二人の悪魔は冷静さを欠くこともなく淡々と感想を述べる。
「若いのに迷いない良い太刀筋だな『暴食の紫雷:<十牙>』」
「最近の子は礼儀がなってないのね『嫉妬の怨火:<天刈>』」
ベルリナの背には十本の紫槍が円を描くように、レヴィの手元にはその姿に似つかわしくない2mほどの大鎌が顕現していた。
ベルリナはそのうちの一本を手に取りその穂で剣を受け、レヴィは鎌の柄の部分で斬撃を受ける。
ービリビリビリ…
「うわっ」
「きゃっ」
ウェル姉の長剣と交差した瞬間に凄まじい衝撃波が発生し、おれとカヤナは後方の森へと吹き飛ばされるもウェル姉の結晶の盾が勢いを殺して優しく受け止めてくれる。
剣撃を受け止められたウェル姉は身体を捻って刃を滑らせ、さらに一歩踏み込みそのまま流れるようにベルリナの腕を下から、レヴィの腕を上から切り落とした。
かのように見えたはずだがベルリナとレヴィの腕は変わらずそこにあった。
「おーおー」
「ちっ」
ウェル姉は追撃の手を緩めずレヴィに回し蹴りを入れ吹き飛ばし、ベルリナに右手に持つ剣を押し付け二人を引き離しにかかる。
そのまま左手に持つ剣をベルリナの胸に突き立てようと腕を引くとそこに鎌の刃が下からそっと添えられる。
「!」
「綺麗な剣さばきですけども、少し優雅さに欠けますわよ?」
鎌に気をとられ動きが鈍った隙にベルリナに蹴り上げられ空へと吹き飛ばされる。
「ぐっ」
「先ほどのほんのお返しですわ」
ウェル姉は下からせり上がってくる弧を描いた斬撃に、咄嗟に結晶の盾を密集させるも次々と砕かれ、何とか軌道をずらせることはできたが左肩を大きく切り裂かれる。
「ーッ…『<叢雨>』」
砕かれた結晶の破片が指向性を持って雨のように二人の悪魔の元へと降り注ぐ。
ベルリナとレヴィはそれぞれの得物で最小限の動きで破片を回避していく。
ウェル姉は結晶で作った足場でおれとカヤナを背後に庇う位置に降りてくる。
「ウェル姉肩が…」
「大丈夫、心配しないで」
本人が大丈夫と言っても大切な人が目の前で傷つく姿というのは堪える。
先ほどのマリウスとの戦いの時もカヤナは同じ気持ちを抱えていたのかもしれない。
カヤナの手を強く握り戦いの行く末を見守る。
「うーん“レベルⅢ”の完成度としては上出来だな。もうすぐで“レベルⅣ”に移行するんじゃねえか?」
「そうなる前に相見えられたのは死んだマリウスのおかげね。たまにはあの人も主様の役に立つのね」
「はは、違いねえや」
いまだに降り注ぐ欠片を捌きながら二人の悪魔は悠長に会話を続ける。そんな悪魔たちに向けてウェル姉は魔力を爆発的に高めて呪文を唱え始める。
「『風よ 其の理に従い もたらすは終わりの奏で 世界の秩序に赴くまま 禍音をもたらす調べとなれ <終焉の嵐律>』」
結晶の雨が降り止んだ途端、凄まじい魔力の奔流が右手に持った長剣の先、一点に収束していき一条の翠扇光が悪魔たちを滅ぼそうと夜を切り裂く。
ウェル姉はそれだけでとどまらず、同時に左手に持った長剣を地面に突き立てもう一つ式句を述べる。
「『<鏡界>』」
地面を魔力が伝い、励起された結晶の欠片が悪魔二人を閉じ込めるように即席の結界を作り、長剣から放たれた光を余すことなくその結界の中に閉じ込める。
右手に掲げていた長剣を、地面に突き立てていた長剣と重なるように突き刺し、仕上げの式句を唱える。
「『<収絶>』」
結界は見る見るうちに収縮していき、小さな翠色の球となって浮かんでいる。
やがて収縮が終わり、世界の時が止まったかのように感じられた次の瞬間、ビックバンの如く弾けて視界は眩んだ。
もしよければブクマ、評価等していただける幸いです。
執筆の大きな励みになります!




