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第18話, 無力な私

連続投稿5話目でございます!別の人の視点から書くのに少し手間取りましたね。

普段は主人公の視点のみなので、いい勉強になったと思います。





〜〜〜



「この紫槍は…ベルリナですか」



マリウスが視線を向けた先に舞い降りたのは、一対の黒い翼をはためかせた筋骨隆々とした中年の男。金髪を短く刈り上げその肌は浅黒く、口元には獰猛な笑みを浮かべている。


ベルリナと呼ばれた男はマリウスと違い、自らが絶対強者であることを周囲に知らしめるかのように、常にその覇気を濁流の如く撒き散らす。


マリウスは構えていた漆黒の細剣を下ろし、ベルリナと呼んだ男に話しかける。



「余計なことをしてくれましたね」


「それはこっちのセリフだクソジジイ。ガキ相手にわざわざ手加減して(・・・・・)、何勝手に新しい【到達者】を生み出そうとしてんだ?」


「………」


「しかもコイツらは【始竜しりゅう貴血きけつ】持ちだ。その意味が分からねえほど耄碌してねえだろ。ジジイ、今度は何を企んでやがる?」


「貴方に答える義務はありませんので」


「はっ公爵ともあろうお方がガキ相手に同情か?そんなだから片翼を失う羽目になるんだよ」


「ねえ」



辺りの空気が瞬時に凍てついたと錯覚させるような、今までに聞いたこがないほど冷たい声音。


その声が自分の口から発せられたことに僅かながらも驚いてしまった。


そんな驚きも心の内ですぐに鎮め、二丁の魔法銃を携えて私は、底の見えない不気味な存在感を放つ二人に問いかける。



「おじいさんはてきなの?」


「…あなたが敵とみなせば敵でしょうな」



不思議な言い回し。

あれほどの敵意を感じさせておいて、でも確かに一度も殺気を放つことは無かった。


この人は味方になりうる?



「そう。じゃあそっちのおじさんは?」


「あ?当たり前だろ。お前たち兄妹を殺しに俺様はここにきた」



こちらは明確な敵。


この状況でどうしたらアヤ兄を助けられるだろうか。


アヤ兄なら…どうするだろうか。



「待ちなさいベルリナ。それは独断ですか?それとも誰かの命令ですか?」



マリウスがベルリナに問いかける。



「ん?そんなの主様の命令に決まってるじゃねえか」


「主様…ですか」


「主様は天上世界から【始竜の貴血】の抹消を望んでたからな。この二人でようやく最後だ」



(【始竜の貴血】?それのせいで殺されるの?)


ベルリナという悪魔がこちらに向けてきた瞳の奥には、主様とやらに対する心酔で気味が悪いほど溢れかえっていた。


他人に対してあそこまで盲信的になれるなど、狂気以外の何物でもない。


そしてその心酔の中にはおじいさんに対する憎悪が混ざっているのを、私は見逃さなかった。


その観察が正しかったことを証明するかのように事態が動き始める。



-ズブリ…


肉の裂ける心地悪い鈍い音が響く。



「それとそこの兄妹以外にもう一つ命令を受けてるぜ」



マリウスの背後にはいつの間にか、金色の髪を肩ほどで切り揃えた幼さの残る女性が姿を現していた。


その背中にはやはり一対の黒い翼が広がっており彼女も悪魔であることが一目で分かる。


彼女はマリウスの胸を背後から手刀で貫ぬき、その手の中に脈打つ心臓を収めていた。



「あんたはもう用済みだとさ」



今の今まで全く気配の感じられなかった新たな存在に危機感が募る。


(どうしよう。また新しい敵が…)


マリウスは心臓を貫かれたのにも関わらず、自分の後ろにいるもう一人の悪魔に向けて静かに呟く。



「レヴィですか。強くなりましたね…本当に良かった」


「さよならマリウス。もう二度とあなたの顔を見ないで済むことになるのを嬉しく思うわ」


「フフ、最後まで手厳しい方だ」


「『嫉妬の怨火:<火葬>』」



心臓が握りつぶされるのと同時に、マリウスの身体は貫かれた胸の中心から徐々に紫色の炎に包まれて跡形なく消えていく。


アヤ兄があんなに苦戦していた人が一瞬でやられるなんて。



「ハハハハハ!おいおい、マリウスの野郎あっさり逝きやがったぜ。所詮は老いぼれってことか。なぁレヴィ?」


「そうね、あっさりとしすぎて逆に不気味なくらいだわ。ほんとに死んだのかしら?」


「あのジジイが不気味なのはいつものことだが、お前の『刻証』で始末した上に魂まで消し飛ばしたんだ。おっ、それに俺たちへの主様からの祝福も濃くなってやがる。死んだとみてまあ間違いねえだろ」


「それもそうね。ウフフ、主様からの新たな祝福。甘美な感覚だわ。任務を終わらせて早く主様の元へ帰りましょう?」


「それもそうだ。さっさとそこにいるガキ二人片付けて帰るか」



仲間同士で話をしている間も、マリウスというおじいさんが殺された時も、私は不意の攻撃を最大限に警戒し、銃口を常に二人の敵へと向けて注意を怠らなかった。


でもその次の瞬間には男の姿は射線上から消えており、気がつけば真横に立たれていた。



「よう嬢ちゃん。俺様は今すこぶる機嫌が良い。だからあっちで磔になってる兄貴とまとめて殺してやるよ」



喜色まじりに言い放たれた悪魔の囁きに背筋が凍り、恐怖する。



私ではアヤ兄を救えない?


ードカッ


躊躇いなく、それでも手加減したであろう蹴りを受けて私はアヤ兄の側まで軽く吹き飛ばされる。



「あぐっ」



痛い…


でも早く立ち上がらなくちゃ。


立って戦わなきゃ。


あれ?


動けない。


たった一度の攻撃で動けなくなるなんて。


動いて…


動いてよ!


これじゃあアヤ兄のこと守れないよ…


涙が溢れる。


無力な自分が悔しくて情けなくて。


潤んだ視界の先にアヤ兄がいた。


焦点の定まらない瞳で私の元へと這って近寄り、敵からかばうように抱きしめてくれる。


冷たい、けれどとても温かい。


ごめんね守れなくて、ごめんね。



「おーおー、竜の生命力ってのは半端ねえな。それとも兄妹の絆の力ってやつか、眩しいねえ」



アヤ兄の抱きしめてくれる力が強くなる。


私もアヤ兄を強く抱きしめ返す。


大丈夫だよ。アヤ兄と一緒なら死だって怖くないから。



「お望み通り仲良く串刺しにしてやるから感謝しな。『暴食の紫雷:<一牙>』」



先ほどアヤ兄を傷つけたのと同じ紫槍が何もない空中に現れ、腕をこちらに振り切るや否や雷速の槍が射出される。



私は静かに目を瞑りそして祈った。


来世もアヤ兄とウェル姉と一緒がいいな。



〜〜〜





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