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第16話, 先に待ち受ける壁

三日目投稿達成!!!

戦闘シーンは書いていると気づかないうちに長くなりますね笑


しばらくは戦闘シーンが多数入ると思います!

ブクマ登録、評価、感想などしていただけたら幸いです!





「『あやと』お兄ちゃん、それでこれからどうするの?」



 カヤナは流した涙を服の袖で拭い、カヤナを抱えて両手がふさがっているおれの涙も優しく拭きとってくれた。全くできた妹だ。



「アヤ兄でいいよ」


「えっでも」



 おれが本当の兄である『アヤト』ではないと知っての配慮であろう。カヤナが『あやと(おれ)』を認めてくれたことはとても嬉しいが、この居場所に今おれがいられるのは『アヤト』が2年前に身を尽くしたからだ。


 そのことを忘れないためにも、おれは『アヤト』としてこれからもこの世界で生きていきたいと思う。


 世界に一人でもおれのことを理解してくれる人がいるなら、それだけで十分だ。



「もうそっちの方が馴染んじゃってるからさ」



 久しぶりに、本当に久しぶりに心の底から笑顔になれた気がする。



「分かったアヤ兄!」



 その気持ちに気づいたかどうかは分からないがカヤナも笑顔で答えてくれた。


 先ほど突き放した時とは打って変わって満面の笑み。


 この笑顔だけは何としても守らなきゃな。志新たにおれは決意するのだった。



「まずは一か八か、賭けに成功したなら島外に出て王立都市に向かって賢者様の庇護を受ける。もし途中でマリウス、あのおじいさんに追いつかれたならひたすら時間稼ぎをする。それだけだ。できる限りの隙をついて距離を取る。それができなくてもウェル姉が来るまでの時間を少しでも多く稼ぐ」


「ウェルお姉ちゃんだいじょうぶなの?」


「おじいさん曰く島の外に追いやられているみたいだ。それだけだったら、ウェル姉ならきっとすぐ助けに駆けつけてくれる」


「そうだね、りょうかい!」



 もうすぐで島の外周を囲んでいる森を抜けられる。


 木が無くなり、満月の淡い光が煌々と差し込む荒地に足を踏み入れようとした時、途轍もない悪寒が背筋に走った。


 この短時間で何度も感じ取った死の気配だ。



「『風よ 阻め <風壁>』」



 咄嗟に後方に向けて風の障壁を展開する。


 おれの魔力とは桁違いに濃密な魔力弾が障壁に着弾し、その余波で前方へと大きく吹き飛ばされる。


 吹き飛ばされている最中、空中でカヤナと目配せをし、抱えていた手を離して二人とも受け身を取って背後の森へと注意を向ける。


 森の暗闇からマリウスがゆったりとした歩調で歩いてきた。



「ちょうどお話が終わったところのようですな。もうこれ以上の時間は必要ないですかな?」


「ほんと気前がいい敵さんだよな。わざわざこっちの区切りがつくまで待ってくれるんだから」


「これも全て必要な過程ですので。初めに言ったではありませんか、何も問題はないと」


「そうかよ」


「ええそうですとも、ですからご安心ください。これからひとまず最後の仕上げに向けて動きますので」



 そう言うや否や場がマリウスの濃密な魔力で満たされる。


 マリウスの戦闘態勢を敏感に感じ取り、おれとカヤナも瞬時に臨戦態勢となる。カヤナは二丁の魔法銃を、おれは木刀を前に構えてマリウスの一切に意識を注ぐ。



「では始めましょうか」



 刹那、マリウスの姿が掻き消えた。



(消えっ…)



 と思った次の瞬間には腹に大きな衝撃、少し遅れて猛烈な痛みに襲われる。



-メキメキメキ…



「がはっ」



 胸元に肘を入れられた勢いそのままに後方へと大きく吹き飛ばされる。



「アヤ兄!」


「人の心配よりご自分の心配をされては?」


「この!」



 カヤナはバックステップでマリウスとの距離を開きながら、二丁の魔法銃の照準を次々と急所に合わせては引き金を引いていく。


 だが発射した魔法弾の尽くが見えない障壁に阻まれて防がれていく。



-キキキキキキン…




「なんで!」


「素晴らしい腕前ですな。その歳でここまでの高みに昇っておられるとは。ですが、今あなたには少々おとなしくしていただきたい」



 マリウスはおれの時と同様、瞬く間にカヤナとの距離を詰め、足を払って相手の態勢を崩すと同時に魔法を唱える。



「『地よ 圧えろ <重楔>』」



 マリウスの人差し指の先に形成された小さな球体が指先から離れ、カヤナの身体を地面に押さえ付ける。



「う、ごけない!」


「重力魔法ですよ。傷つけずに拘束するにはこれが一番い…」


「『風よ 我が意に従い 敵を穿て <風刃>』」



 右手に握る木刀を横に一閃、縦に一閃、空中で十字をなぞるように振るう。


 中級魔法ではあるが、今の自分に発動できる最大出力の攻撃魔法。


 刃渡り10mほどの特大の弧状の刃が十字を描いてマリウスへと打ち込まれる。



-ギリギリギリ…



 障壁の軋む音が大きく響き、マリウスのやつを展開している障壁ごと後ろへと少しずつ追い込んでいく。



「ぬ…」


「『風よ 渦巻け <旋風>』」



 カヤナを地面に押さえ付けている球体を風の力で一時的に持ち上げる。


 その隙を見逃さず、カヤナは地面を転がり球体の圧から逃げておれの横へと並ぶ。



「カヤナ大丈夫か?」


「うん、ありがと。だいじょうぶ!」


「よし、おれが前に出て戦うからカヤナは後方支援を頼む。できるか?」


「任せて!」



 力強く頷くカヤナに頼もしさを感じながら一歩前に踏み出し、カヤナを背に庇う形で位置取る。



「『闇よ 呑み込め <黒星>』」



 障壁とせめぎあっていた風の刃が拳大ほどの闇に飲み込まれて跡形もなく消えていく。



「フフフ、中級魔法でこの威力ですか。久々の戦いに少し心が躍ってきましたよ」



 自分の中でも会心の出来と思える<風刃>をあっさりと無効化されたことに歯噛みしつつも、次に打てる手として自分の魔力を臨界状態手前まで高めていく。


 身体の中の魔力を活性化させることはもたらす魔法の結果に大きく影響する。


 引き出す魔力の量を増やし、その循環を早めることで魔力はある種のを持ち、魔力の質、魔力の魔法への変換効率ともに飛躍的に上昇するのだ。


 こちらの攻撃があの悪魔にほとんど通じない以上、できる限り完成度の高い魔法でもって迎え撃ち、時間を稼ぐしか道は残されていない。


 溢れ出た魔力の青白い光に包まれながら、今のこの身体の許容量を超えるか超えないかの瀬戸際で二つの呪文を唱える。



「『風よ 纏われ <疾風> <共鳴>』

『風よ 我が意に従い 敵を穿て <風刃> <掌握・・>』」



 今自分にできる継戦可能な最大限の強化。一つは<共鳴>で効果を増幅した初級魔法の<疾風>。そしてもう一つは中級魔法の<風刃>に加えて、そう唱えるべきだと無意識に(・・・・)口から発せられた<掌握>。


 <風刃>の魔力が右手に収束し、握りしめていた木刀の刃が青白い魔力でコーティングされていく。


 どうやら魔法の効果が木刀に付与されたようだ。これがどこまでマリウスのやつに通じるか…。



「オリジナルの発動句が二つですか。ですがとても様になっているのは天職の影響下にあるからでしょうか?」



ーヒュパッ



 地面を蹴り込んで素早く接近し、相手の上体から足下へと向かって流れるように連続して切りかかる。


 繰り出した全ての斬撃は障壁に阻まれてマリウスに傷を与えることがはできなかったが、障壁にヒビを入れることには成功した。


 そうわかるや否や再び距離を取る。


 できる限り多方向から斬撃を入れて障壁をけずり取ろうと画策するも、そう簡単に思い通りにはやらせてくれない。


 おれが距離を取るのに合わせてマリウスが肉迫してくる。



「ちっ…」



(<共鳴>状態に素でついてくるのかよ…)



 見たところマリウスは魔法による身体強化は行なっていないようだ。


 木刀を片手に技を繰り出していくも完全に見切られているのか避けられ、受けられ、逸らされ、一向に当たる気配がない。


 それに当たったとしてもこんな雑な攻撃では常時展開されているであろう障壁によって阻まれてしまう。



「剣術の腕はそれなりにありますが、まだまだ未熟、というより活かしきれてないようですね」



(これは厳しすぎるなっ)


 

 技を受けられたと同時にその反動を利用し距離を大きく取る。



「『風よ 集え <風弾>』」



 空いている左手で牽制のため魔力弾を五発、指先から発射するもまるで意にも介さず正面から距離を詰めてくる。



(避ける必要もないってか)



「その様子ですとまだ本格的な魔法戦闘には慣れていないようで。高速戦闘についていくのが精一杯で剣技が単調になってますよ?」



(言われなくても分かってるよ!)



 後ろにステップを取りながらも近づいてくるマリウスの頭を横に薙ぎ払おうと木刀を振るう。


 しかし直前で何かに足を取られ、直撃したと思われた木刀は空振りに終わり、逆にそのまま大きな隙をさらけ出すことになる。



「なっ!」


「ダメですよ。こんな隙を戦闘中に作っては」



 フッと笑みを浮かべたマリウスの手には魔法の痕跡があった。



(無詠唱…っ!)



 魔法で足元を掬われバランスを崩されたか。


 ダメージを覚悟し、来るべき衝撃に備えて身構える。せめて受け身だけでも取らなければ。



「それは悪手ですね。『闇よ 貫き通せ <影架>』」



 マリウスの手のひらに凝縮した闇の粒子で短剣が形成されていく。



(ヤバイヤバイヤバイ!)



「<解放>ッ!」



 咄嗟に木刀に付与してあった<風刃>の魔力を解放し、その余波で身体を無理やり翻す。


 だが避けきることはできず右の脇腹を深々と刺される。



「っ…」



 痛みをこらえ追撃の警戒に入るも時既に遅し。先ほどと同じ短剣が20本以上空中に並んではこちらに狙いを定めている。



(やられる!)



 そして放たれる短剣。腕で上体を庇い、せめて致命傷は避けようと身構える。



ーキキキキキキキキ…ン



 辺りに響き続く硬質な音。


 全ての短剣が翠色の魔力弾により撃ち落とされるのが腕の隙間から見えた。


 さらにそのうちの6、7発は跳弾によりマリウスへと向かっている。



「二度も同じ手はくらいませんよ」



 そう言ってマリウスは向かってくる魔力弾を人差し指から発射した魔力弾によって全て相殺していく。


 弾と弾がぶつかり合った瞬間、カヤナの放った魔力弾は檻の形へと変形していた。


 だがこの僅かな隙を見逃さず大きく距離をとり、カヤナの元へと下がる。



「助かったカヤナ」


「ううん。もっとはやくにうてばよかった。それよりきずが…」


「大丈夫だ、まだ動ける」



 脇腹に刺さったままの短剣の上から傷を圧迫し少しでも流れる血の量を減らす。


 正直灼けるようで蝕むような痛みで意識を保つのがやっとであるがそれをカヤナに悟らせるわけにはいかない。


 それを知ったらきっとカヤナは自分が前に出ると言うだろう。


 だが対応できる手段を持ち合わせていないこの現状でそれだけは避けたい。ウェル姉が来るまで何としても持ちこたえなければ。


 マリウスはおれの返り血がついて赤く染まった手袋とスーツを脱ぎ捨てネクタイを緩める。



「あの一瞬で迎撃に加えて追撃までやってのけますか…その才能を摘み取ってしまうと思うと残念です竜皇女様。それに比べて竜皇子殿。魔法戦闘において術者自身が前線で単独で戦う場合、大事なのはあらゆる可能性を想定し、そのどれにも瞬時に対応ができるという点につきます。先ほどのように隙を晒してしまった時に相手が無手だからと言って打撃のみを警戒するというのは些かナンセンスかと」


「…まるで指導者のような口ぶりだな」


「フフ、老骨の独り言と思っていただければ構いませんよ。さてさて、では体術は打ち止めにしてそろそろこちらも得物を使わせていただきますか」



 そういって何もない空中から取り出したのは漆黒の細剣。夜の闇に溶け込みともすれば見失ってしまうほどであった。



「『風よ 我が意に従い 敵を穿て <風刃> <掌握>』」



 先ほど解放してしまった<風刃>を再度木刀に付与する。


 心許ない残魔力量に、疲労と傷が積み重なり続ける先が見えないこの状況。


 拭えない焦燥に駆られるのが嫌でも分かる。



(ウェル姉、早く来てくれないとちょっとばかしキツイぞ)



 心の中でそう切に呼びかけるほど、おれとカヤナは着実に追い込まれていた。





『あやと』とカヤナはどうなってしまうのか…

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