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第13話, 兄としての役目

二日連続PV数100を超えた感謝を込めてついに五日連続投稿達成!

少し遅くなってしまったのはご了承ください。


この流れでどこまで連続投稿するのか悩みどころですね笑。


もしよろしければブクマ登録、感想等もしていただけると幸いです





 夜闇を駆ける駆けるただ駆けてゆく。


 魔法の常時発動により体力と魔力共に消耗が激しいが、今自分が為すべきなのはあの化け物から少しでも距離を取ること。そのためならなりふりなど構っていられない。


 満月に明るく照らされた草原を二つの影が疾風の如く吹き去っていく。


 どれだけの時間走り続けたであろうか。


 体感的にはとても長く感じたが、きっと数分しか経っていない。今のおれでは<疾風>の<共鳴>状態を長時間維持することなどできないからだ。


 だが幸いにもその数分で老人のプレッシャーが薄れた森の手前まで来ることができた。


 歩を緩めて抱えていたカヤナをゆっくりと下ろす。



「アヤ兄、だいじょうぶ?」


「ハァ……ハァ……まだ…大丈夫だ」



 呼吸を整えながら体内の魔力の循環を鎮静化していく。


 長らくあの老人の恐怖にあてられていたせいか、手足の震えが止まらない。それに加えて先ほどは半ば魔力を暴走させた状態で魔法を行使してしまったせいで、魔法を解除した反動が身体にキツイ。



「ウェルお姉ちゃんどこにいっちゃったのかな?」



 不意に聞かれたくなかった問いをカヤナは投げかけてくる。



「お家にはいなかったよね?」



 答えないわけにはいかない。けれどもおれは答えにならない答えを伝えることしかできなかった。



「ハァ…ハァ…スゥー…フーーー………そうだな、少なくとも家の中にはいなかったと思う。起きてすぐ台所を見たけどいなかったし、それにあんな化け物が来るなら迷わずウェル姉が飛び出すはずだから」



 ずっとある可能性が頭の中を支配していた。


 そうだあんな化け物じみた存在が現れたのなら、ウェル姉はまず間違いなく気づく。その上でおれたちに危害が及ばないよう、対処にも向かうはずだ。


 にも関わらず化け物が現れたのにウェル姉がいなかった理由。


 それはおれたちが眠っている間にウェル姉とあの化け物が対峙し、ウェル姉が戦闘不能の状態に陥っているから。


 …最悪既に殺されている事態だってあり得る。



(違う、まだそうと決まったわけじゃない。ウェル姉ならきっと無事だ。あんなに強いウェル姉がそう簡単にやられるはずない)



 そうして襲い来る不安を先ほどから誤魔化しているのだが、露ほども効果がないのは分かっている。



 だがいつまでも仮定に思考を使って立ち止まっている訳にはいかない。


 この状況を打破するためには正確に現状を分析する必要があるのだ。


 事実として、あの化け物はウェル姉が常に島に張ってあるはずの結界をすり抜けてきている。つまりウェル姉と同等、もしくはそれ以上の術者であるということだ。


 そしておれが実際に相対した感覚ではあの老人の方がウェル姉より格上だと思った…。


 そして老人の目的はカヤナが持っているという『鍵』。



 この状況を切り抜けるためのポイントは、あの化け物に対抗出来る者の庇護、それに加えて逃げきるための時間だ。


 この世界で得た記憶をもとにカヤナが生き残る最善の策を練り、そして伝える。



「いいか、よく聞けカヤナ。今から転移門に向かって島の外に逃げろ。行き先は王立都市だ。そこでウェル姉の知り合いの賢者様の所へと向かって助けを求めろ。いいな?」



 孤立したこの島で生きてきたおれたちにとって、先ほどの条件を満たす、頼れる知り合いと呼べるべき人は一人もいない。


 だがウェル姉なら話は別だ。


 ウェル姉の魔法の先生であるという賢者様なら実力的にも、保護して匿ってもらうという点でも最適であろう。それにおれがこの世界で目覚める前、つまり『アヤト』とカヤナは過去に二度ほど面識があるらしい。


 カヤナが事情を話せばきっと分かってもらえるはずだ。



「アヤ兄は?アヤ兄もいっしょにくるよね?」



 その方針を聞き終えたカヤナは不安を抱えた顔でおれを覗き込んでくる。


 今までに見たことないカヤナの表情に胸が強く締め付けられる。



「…もしあの化け物が追いついてきたら逃げきれないだろ」



 そう、あくまで今満たせた条件は庇護してもらう存在。


 後者の逃げるための時間についてはおれが稼ぐしかないのだ。

 

 たとえ骨が折れようと血反吐を吐こうと命を落とすことになっても…、食らいついてでもカヤナの逃げる時間を稼ぐのだ。


 そうおれが結論づけた答えを告げた瞬間、カヤナは感情を爆発させた。



「いや!いやだよ!カヤナを一人にしないで!」



 おれの胸元を掴み強く強く訴えかける。


 そんなカヤナにおれは目を合わせることなく言葉を選んでつないでいく。



「生き残るためにはこれが最善の選択なんだ。カヤナなら分かるだろ?」


「わかりたくない!そんなのわかりたくないもん!ウェルお姉ちゃんがいなくなってアヤ兄までいなくなったらカヤナは…」



 胸元を掴む力が段々と抜けていき、カヤナは縋るように俯いて身を寄せてくる。



 ああ、気づいている。


 カヤナは気づいているんだ。


 ウェル姉が死んでるかもしれいことを、おれがここで死ぬ前提でいることも。


 まだ7歳という幼さでここまで頭が回るのか。



 唇を噛み締めると共に迷いを断ち切り、抱きつくカヤナを引き離して大きく息を吸い、精一杯の威圧を込めてカヤナに声をかける。



「いいから聞け!!!」



 今まで発したことのない、力強いおれの声に気圧されてカヤナがビクッと肩を震わせる。



「…僕はここで死ぬかもしれない。ウェル姉だってもう死んでるのかもしれない。だけどな、お前が生き残るためにはこれ以外に方法がない。妹を守るのは兄の役目だ。…これが僕の、兄としてできる役目なんだ。だから頼む、逃げてくれ」



 ずっと考えていた。


 本物の『アヤト』ではない贋物の『あやと(おれ)』がカヤナとウェル姉のために何ができるのかを。



 得た答えは全てを捧げる。


 例えこの命を失うことになったとしても。


 心の温かさを教えてくれた彼女たちのために。


 図らずとも居場所をくれた『アヤト』ために。


 優しくカヤナを抱きしめて頭を撫でる。



 小さい。


 二年前初めて会った時よりは確かに成長している。


 それでもまだまだ小さな身体だ。


 こんな幼い子におれは酷な重荷を背負わせようとしているのか。


 だがそうする他に手立ては残されていない。仕方ない、仕方がないのだ。



 カヤナから身体をはなして正面を見据え、そして別れの言葉を告げる。



「元気でな」



 うまく笑えているだろうか。自信はないな。


 頼むからそんなに悲しい顔をしないでくれ。


 一度決めた心が揺れ動かされてしまうから。


 小さな頷きだけを返し、そして何も言わずカヤナは走り始めた。



(これでいい……これでいいんだ)



 森の中へと駆けていくカヤナの背を目で追いながら、胸元に残るカヤナの涙と、腕に残る確かな温かさをおれは噛み締めていた。





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