第11話, 生まればかりの恋心
宣言通り三日連続投稿達成できました!
次話から物語が大きく動き始めます!
なるべく早く投稿しますのでよかったらブクマ登録、評価などなどしていただけると嬉しいです!!!
「ぶー、負けたぁーーー。くやしーーーい」
草むらで寝転がったままカヤナがジタバタと暴れ、最後にウガーッと両手両足を伸ばしてバタンと地面に打ちつける。
「ほら、服が汚れるから早く起きて。髪もぐしゃぐしゃだよ」
「アヤ兄がカヤナのこと無理やりおしたおしたくせに」
イヤンと身をよじらせて頰に手を当て、熱を帯びたかのような瞳でおれのことを見つめてくる。こういうところでも芸達者だな?!
「そうだけども」
恥じらう様子に何のツッコミも入れないまま言い返すと、ほっぺをプクーっと膨らませてジト目で睨みながら小さな手を差し出してくる。
「手、ひっぱって」
「はいよ」
「ん」
差し伸べられた手を握り、身体を引き起こして立たせて背中についた葉っぱや土を落としてあげる。全くこんな小さい身体のどこにあんな力があるのやら。
「はい、魔法銃」
「ありがと。あーあ、こんかいこそはかてると思ったのにな。ぐすっ、カヤナのケーキが…」
「まだお兄ちゃんとして負けるわけにはいかないからな」
「そうねー、でもあと三年してカヤナちゃんも魔法が使えるようになったらその時にはアヤトくんにも勝てるかもね」
「ほんと、ウェルお姉ちゃん?!」
「ええほんとよ。魔法を使って身体強化とか牽制もできるし、それに今はまだ直接魔力を扱えないから私の魔力を発射することしかできてないけど、魔力を使えるようになったらもーっと色んな魔力弾を撃てるようになるわよ」
今でさえ年齢にそぐわない強さであるのにこれで魔法まで使えるようになったらどうなるのであろうか。
「わぁーたのしみ!じゃあカヤナが10才になってまほーが使えるようになったらアヤ兄にリベンジだね!」
「その時には僕ももーっと強くなってるだろうけどな」
「いいもん、カヤナがそれよりもつよくなるだけだもん」
今より段違いに強くなっている妹を簡単に想像にできてしまうのでもっともっと精進せねば。
妹の成長に負けないよう地力をあげる兄って……
「とりあえずチーズケーキよろしくね、カヤナ」
「おいしいのつくってアヤ兄をメロメロにしてあげる!」
「明日のおやつの楽しみにしてるよ」
久しぶりにカヤナお手製のチーズケーキを食べることができる。それを思えば今日までの特訓も報われるというものだ。
すでに(チーズケーキに)メロメロで虜になっているのは内緒である。
「じゃあそろそろお家に入りましょうか。お風呂沸かしてあるからカヤナちゃんから先に入ってきなさい」
「「はーい」」
っと投擲した木刀を回収するの忘れてた。
「ごめん、先に行ってて!」
「えーと、確かこの辺に。おっ、あったあった」
拾い上げてみると木刀の腹の部分に亀裂が入っていた。
「げっ、マジか。やっちゃったな」
ずっと使ってきた相棒だけにショックがそこそこある。と手元に水滴が落ちてきた。
「ん?」
ーポツ…ポツ…ポッ、ザーーー
「うわっ降ってきた」
確かに空模様はそこまでよくなかったがこのタイミングで降ってくるとは。決闘ごっこの後であるし幸運といえば幸運か。
駆け足で家に戻り、玄関で水滴を手で落としてから家の中にあがる。
結構濡れてしまった。
「っくしゅん。うー冷える」
(とりあえず木刀は部屋に持っていくか。あとでウェル姉に修理できないか相談してみよ)
「あっアヤトくんちょうどよかった。聞きたいことが…ってなんでそんなに濡れてるの⁈」
「外、雨降ってきたよ。それもどしゃ降り」
「とりあえず服脱いでタオルで拭きなさい。それとカヤナちゃんと一緒にお風呂入ってくる?」
「いや遠慮しとく。カヤナのやつ最近ませてきてるし、多分嫌がるでしょ」
それに今のおれの見た目は10歳とはいえ中身はもう19歳である。
妹とはいえ7歳の女の子と一緒に風呂に入りでもしたら案件ものだ。
「アヤトくんなら問題ないと思うけど」
そういう問題じゃないんです。
とりあえず上着を脱いでバスタオルにくるまり、拒否の意を込めてロッキングチェアに腰掛ける。
すかさず湯気の立ったコップをウェル姉が渡してくれた。
「はい、ココア入れておいたからこれで少しは温まるかしら」
「ありがと、ウェル姉」
「どういたしまして」
椅子に座り一口飲んで落ち着く。はぁー芯まで熱が染み渡る。
「ん、そういえばウェル姉さっき何か言いかけてなかった?」
「えっああ。ちょっとさっき使ってた魔法について聞きたくて」
「?全部ウェル姉に教えてもらった初級魔法のはずだったけど?」
「最後に使ってた魔法。明らかに消費魔力と効果が初級のものじゃなかったわ。私でさえ初級魔法であそこまでの結果は出せないもの」
「えーあー…あれね。発動が会心の出来だったとかで、たまたまじゃない…かな」
じー…
じー…
じーーー…
あっ無言の視線って結構くるものがあるな
「ふう、まああんまり問い詰めるようなことはしたくないのだけど」
(ほっ)
「ねえ知ってる?アヤトくんって嘘つく時とか、何かを誤魔化そうとする時必ず手を口元に持っていくのよね」
「うっ」
無意識に口元に当てていた手を咄嗟に口元から離す。
「話してくれる?」
とても良い笑顔でウェル姉が問いかけてくる。
「はい、話します…」
うん、ウェル姉相手に誤魔化しなんて一分も保たなかったな。ほんとはウェル姉と訓練する時に驚かせようと思って内緒にしてたんだけどなぁ。
「よろしい。それであれは何の魔法だったの?」
「魔法自体はウェル姉の教えてくれた初級魔法の<疾風>で間違いないよ」
「ほんと?確かにあれは自身の速度を上昇させるけど、でもよくて2倍ほどよ。アヤトくん4倍近くまで速くなってるように見えたけど」
「それはほら、前にウェル姉が魔法の効果をあげるには変換効率と質の高さだって言ってたじゃん」
「そうね、確かに言ったしそれが全魔法使いの唯一の課題だわ」
「でもね、他にも何か魔法の効果を強力にする方法がないのかなあって思って自分なりに色々試してみたんだ。前に魔力には波長があるってウェル姉が言ってたからそれを参考に、魔法を波に見たてて重ね合わせてみたらあんな結果になったんだ」
「魔法を重ね合わせる?」
納得のいかない様子だ。あまりピンと来ていないらしい。
「ほら、波と波ってうまくタイミングを合わせてぶつけると大きい波になるでしょ?それと同じように、全く同じ波長の魔力で同じ魔力量、変換効率で魔法を唱えると構築された魔法陣同士が<共鳴>を起こして威力を増幅するんだ」
「なるほど、あの魔法の効果はそのオリジナルの発動句のおかげって訳ね。うん?ちょっと待って、確かに理論上は可能…ね。でもその前提になってる、全く同じ結果をもたらす魔法を連続で唱える、なんて不可能に等しいわよ?」
そうなのか?呪文を唱えたら同じ魔法が構築されると思うのだが…。
「でも意外と簡単にできてるし」
「普通どんな魔法使いでも毎回、魔法のもたらす結果は変わるものよ。その日の調子、残魔力量、詠唱速度、イメージの具体性、魔法を引き起こす場の状態といった要素が複雑に絡まりあっているから似た結果は引き起こせても、本質的に全く同じなんて…」
なるほど、表面上は同じに見える魔法でも細かいところでズレが生じる。
そのズレを全く無くすのは確かに難しいことなのかもしれない。
「あー、だから<疾風>以外の他の魔法だと使えないのかな。<疾風>は自身の身体に付与するからいいとして、それ以外の魔法は外界の影響を受けやすい…つまるところズレが生じるのか。ならその考え方を軸にして、改善していくと他の魔法でも応用が効くようになるかな?」
そう答えるとウェル姉は驚愕といった顔から一変、明るい笑顔を浮かべていた。
「ふふふっ、カヤナちゃんは天才だっていつも言っているけどアヤトくんも大概ね」
「うーん、そうかなあ」
「ええ、そうよ。カヤナちゃんの色んなセンスがリアナ様譲りだとしたら、アヤトくんの魔法の才能はきっとアスラ様譲りね」
「お父さん譲りか。そんなに凄い魔法使いだったの?」
「そうねー、今のアヤトくんみたいに唯一無二の発動句を何個も開発していたわ。今の私でも4、5倍は差はあるかしら」
「ウェル姉で4、5倍って…もはや化け物じゃん」
この世界のトップクラスの魔法使いであるウェル姉のさらに4、5倍…。だめだもう想像もできないや。
「当時は一人で一つの都市の軍を相手取る正真正銘の英雄だったのよ。ただ戦いの場よりも魔法の研究好きの人だったから英雄なんて呼ばれるのを嫌がっていたかしら」
力量を比べる相手が都市の軍ですか、そうですか。
「一度お父さんと魔法について話してみたかったな」
「きっと話が合ったと思うわ」
天井を仰いでこの世界の父について思いを馳せる。
一つの都市軍と対等のレベルかあ。
「お父さんに負けないくらい頑張るかな」
「フフッ。アヤトくんならアスラ様も超えた魔法使いになれるわ」
そう言って柔らかい笑みをこぼすウェル姉。
その笑みに不意に胸を打たれ、そして少し体温が上がった気がしたのは思い違いだろうか。きっと先ほど飲んだココアで身体が温まったからに違いない。
「あれ、どうかした?顔赤いよ?」
「いや…べ、別に、何でもないよ」
「まさか熱出してないわよね?ちょっとこっち来て」
「ほんと!ほんとに大丈夫だから」
こちらに近づいて顔を寄せてくるウェル姉を両手でガードする。
「もう、そんなに嫌がらなくてもいいじゃない」
「おふろでたよー!ってなにやらロマンスのにおいが」
タオルを体と頭に巻いたカヤナがタイミングよく来てくれた。
「次!お風呂!入るね!」
片言になった言葉で必死に逃げの一手を繰り出し、畳んであった着替えを鷲掴みにして素早く風呂場へと向かう。
「風邪引かないためにもしっかり温まるのよ〜!」
「分かってるー!」
ーカポーン…
「ふー、落ち着くーーー」
一人で入るには少し大きい檜木のような木材でできた浴槽に、目一杯貯められたお湯に肩まで浸かって全身の力を抜く。
(あーーー)
先ほどのウェル姉の穏やかな微笑みを思い出して鼓動が勝手に早くなるのを感じる。
(違う違う、そんなんじゃないそんなんじゃないから。たまたま不意を突かれただけであって深い意味なんて何もないし)
口元までお湯に浸かり泡を作る。
ーブクブク…ブクブク…
(そもそもウェル姉はお姉ちゃんだしそういう…恋愛対象になんてならないから。歳だって15歳も離れてる訳だし。でも精神年齢で言ったら6歳差で、それに血は繋がっていない訳だから別に何も倫理的な問題はないわけで、って、あーもーやめ!違うこと!違うこと考えよ!)
浴槽から勢いよく出て鏡の前に置いてある椅子にドカッと座り、目をつむって頭を洗いはじめる。
(えーと違うこと違うこと…よし今日の決闘ごっこの反省でもしようか。やっぱりどうしても魔法と剣術、体術がバラバラになっちゃうんだよなあ。どれか一個しか一度に使えないなら只の器用貧乏でしか無いし、もっと融合させた戦闘スタイルを構築すべきか。そういった点ではカヤナの方が完成度高かったな。うまく銃の扱いと体術を独自の型にはめこんでた。正直<共鳴>を使ってなかったらあのまま負けてたし)
「っと、いてて」
目に入ってきた泡をお湯で軽く流す。
(そもそも<共鳴>についても分からないことが多いんだよな。ウェル姉の反応を見る限りオーソドックスな手法ってわけでもなさそうだし。他の初級魔法で使えない理由に関して、取っ掛かりが掴めたのは良かったかもな)
泡立った髪をシャワーで勢いよく流し続いて身体を洗い始める。
(それと、ステータス欄に書いてあった固有魔法の竜魔法とか天職の…ええと神秘術師?だっけ、についても早いところ理解したいな。固有魔法についてはウェル姉も樹木操作を持ってたから聞いてみるとして、問題はおれの天職だっていう神秘術師の方だな。そもそも神秘術って何なんだ?こっちの文献でまるで見あたらないし。神秘術…神秘…前の世界の神秘のイメージを考えるとこの世界で一番近いのは魔法だよな。ウェル姉曰く、おれの魔法習得速度は速いみたいだからやっぱりそれ系統の補助効果が出てるのかな)
お湯を肩からかけて全身を一通り洗い流す。
ーザバーン…
「はあー、圧倒的に情報が足りない。ヘルプ欄とかでもあればいいのに」
ゲームと違い、この世界には残念ながらそのような機能はついていないみたいであるが。
まあ分かっていたことであるので早々と諦めて思考を切り替える。
「よしっ、とりあえずの方針は中級魔法のさらなる修得に<共鳴>の研究、あとは固有魔法と天職について知ることだな」
髪と身体についた水滴を丁寧に払い、脱衣所にてフワフワのタオルで身体を拭いていく。
部屋着に着替えてリビングに戻るとロッキングチェアに寄りかかって静かに寝息を立てているカヤナが視界に入った。自分も手前のソファに腰をかけてくつろぐ。
「スー…スー…」
疲れて眠りについたのであろうか。
何気なくほっぺをつついてみるも全く反応がない。
「こうしてるときが一番年相応だな」
兄の自分から見ても高い才能を持っていて日々研鑽を重ねる妹とは似て似つかわず、自然と笑みがこぼれる。
ウェル姉の方は台所で夕食の準備に取りかかっているらしい。包丁の刻む音が微かに響いている。
ードクンドクン…
普段より少しだけ早く刻まれる鼓動。この生まれたばかりの小さな気持ちをどうしたらいいのか、今はまだ判断がつかない。
それでいい。
本来ここにはいないはずの自分にはそんな資格、きっとないのだから。
でももし、もしこの先こんな自分を認めることができたら、自分がウェル姉の横に並び立てる存在になれたのなら、その時はこの気持ちを打ち明けよう。
カヤナに対する家族としての思慕とウェル姉に対する芽生えたばかりの淡い恋心。
それらを実感できるこの生活をたまらなく愛しいと感じている自分。
(あぁ、満たされて救われて…きっとこれを幸せと呼ぶんだろうな)
心の底から温かい気持ちで包まれて、その優しい余韻に浸るまま、おれもカヤナの後を追いかけて眠りの世界へと旅立っていった。




