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第10話, 決闘ごっこvs妹

明日も18時に投稿します!





 最初に約束した日からあっという間に一ヶ月が経ち、おれはカヤナとの決闘を迎えようとしていた。


 曇天模様のため空は暗く、木枯らしのような冷たい風が数枚の木の葉を伴って吹き抜ける。


 相対する相手は妹であり、どんなことでも完璧にこなすカヤナ。特に銃の扱いに関しては比類なき才能を光らせている。


 妹の手作りチーズケーキ、もといおれの兄としての矜持を賭けた戦いが今始まる…



「ふっふっふー、しっぽをまいてにげなかっただけでもほめてあげるよアヤ兄さん」


「そっちこそ、いつまでその余裕が続くかなカヤナ嬢さん」



 決闘ごっこが始まる前に雰囲気とノリにあった言葉を交わし、お互いに視線で火花をバチバチと散らしあう。



「でもしょーぶの前に一つだけ」


「何だ?」



 カヤナは碧い目を見開いてキラリと可愛い目でこちらを見据えてくる。



「カヤナが勝ったらケーキ丸ごと5個だからね〜!やくそくだよ〜!」



 魔法銃を振り回しながらこちらに大きな身振りで訴えかけてくる。あ、なんか急に脱力感に襲われたな。



「わーかってるよー、カヤナが勝ったらなー」


「ぜったいにぜったいだからね〜!」


「分かったってば-!」



 状況に酔った決闘の雰囲気が台無しである。


 まあ変に緊張するよりかはいいんだろうけど。でも形式美って大切にしたいじゃん。



「じゃあウェル姉審判お願い」


「はい、任されました。ルールはいつもみたいに木刀での立ち合いの時と同じ感じでいいの?」


「うん。制限時間5分の間に致命打になる攻撃を先に相手に寸止めで繰り出せるか、もしくは試合終了後にウェル姉が判定で優勢だと思った方の勝ちってことで」


「了解、じゃあ二人とも準備はいい?」


「いいよー」


「いつでも」



 お互いに距離をとった状態で向かい合って、おれはいつもの模擬戦のように木刀を、カヤナは魔法銃を二丁構える。


 もちろんおれはすでに魔力を全身に行き渡らせ、魔法をすぐに行使できるようにしている。



「はじめ!」



 合図とともに初手としてカヤナは魔法銃を連射しながらこちらへ距離を詰めてくる。魔法を使う隙を与えないように距離を縮めるという魔法使いに対する攻め方としては定石通り。


 ならこちらは初手として、



「『風よ 阻め <風壁>』」



 おれとカヤナの間に魔力でできた高さ5mほどの長方形の障壁が生まれ魔力弾を防ぐ。これで距離を詰めてこられようとも次の呪文詠唱の余裕ができるはずである。


 そう判断して次の詠唱に入る。



「『風よ…』」



 余裕がある…と思っていたのだが、



「いーよいしょー!」



 そんな女の子らしからぬ掛け声とともに勢いよく地面を蹴って跳躍し、障壁を軽々飛び越えて頭上から二丁の魔法銃で狙いをつけられる。



(マジかよ!余裕で高さ5mはあるのに!)



 同じ半竜人であるのにカヤナはおれと比べて身体能力も抜群に高い。剣術や格闘術の模擬戦では技術の習熟度の差で何とか競り勝っていたのだが、カヤナと相性の良さそうな銃も含めての戦いとなると負けてもおかしくない。


 いやむしろ負けの線の方が濃厚であったりもするのだ。


 と今はそんなことを考えている場合ではない。咄嗟に元いた位置から飛び退きつつ左手を頭上に掲げ再度呪文を唱える。



「『風よ 渦巻け <旋風>』」



 風の渦を上向きに放ちカヤナを呑み込む。


 鍛錬を続けた成果か初めて唱えた時の二倍の大きさ、小柄なカヤナくらいなら吞み込めるほどの<旋風>になっていた。



「わわわわっ」



 風の渦にとらわれて思うように動けず、魔法銃の的を絞ろうとしてもうまくいっていない。


 そしてそのまま宙へと放り出されている。この隙に、



「『風よ 纏われ <疾風>』」



 身体が青白い螺旋の風に優しく包まれる。


 自らに風による移動速度上昇の付与をし、力強く踏み込んで落下地点まで一気に詰め寄って木刀で下から斬り上げにかかる。



「はっ」


「わわっ」



 一拍の気合いと共に放った斬撃は落下してくるカヤナに吸い込まれるように弧を描いていく。



(もらった!)



 だがそう思えたのも束の間、逆さの体勢のままクロスさせた魔法銃で木刀を受け止めさらにその反動で後ろに大きく跳躍する。と同時に牽制のためか不安定な体勢にも関わらずこちらへ何発か魔力弾を撃ち込まれ追撃を食い止められる。



「ふー、あぶないあぶない」



 銃口を地面へと向け、言葉の内容とは裏腹に余裕が垣間見えるような声音をカヤナは出す。お互いに息を整えるため、少し言葉を交わすことにする。



「ちぇー、もう少しだったのに」


「アヤ兄すごいね!もうりっぱなまほーつかいさんだ」


「いや、それに互角のカヤナの方が断然凄いと思うんだけど」


「ふふん、だってカヤナは天才だもん」


「あーそうだったな」


「まほーはぜんぶでいくつおぼえたの?」


「えーと、六個だな」


「じゃあカヤナがしらないのはあと3つだね」


「そうだな」


「よーし、まだまだいくよー」


「もういいのか?」


「アヤ兄こそもっとゆっくりしてもいいんだよ?」


「いやいい。続きをやろう」



 木刀を前に構え直し、次はこちらから距離を詰めていく。


 魔法使いとしては不利になるが剣技も組み合わせた魔法剣士としてなら距離を詰めても問題ない。このまま接近戦にもつれ込んで銃の利を潰すことにしよう。



「させないよ!」



 思い通りにはいかせないとカヤナが魔力弾の連射による弾幕でおれの前方を埋め尽くす。



「『風よ 集え <風弾>』」



 こちらは左手の五本指の先から風魔法の魔力弾を打ち出し、正面に来たカヤナの魔力弾と相殺させていく。そして走り込む勢いはそのまま、片方の魔法銃めがけて右手で木刀を投擲する。



「おりゃあああ!!!」



 さらに空になった右手を前方へと掲げて流れるように次の詠唱をする。



「『風よ 捕らえろ <風縛>』」



 魔力で構成された縄がカヤナに迫る。


 魔法銃めがけた木刀の投擲に初級ではあるが捕縛魔法。これならどちらかがあたって次の一手を繰り出す隙ができるはずである。


 そのはずだったのだが、


 カヤナは狙われた魔法銃を自ら上に放り投げ、空いた手で飛んでくる木刀をいなし、残っている方の魔法銃で縄を的確に撃墜する。


 放り投げた魔法銃を再度掴み取り先ほどと同じ隙の無い構えをとる。



(やっぱり一筋縄ではいかないか。でもこれで)



 相手の懐に潜り込むだけの時間を稼ぐことはできた。


 近接戦ならば銃の利も減らせるはずである。


 それを分かっての方針転換か、受けて立つと言わんばかりにカヤナも目をギラつかせ、魔法銃を逆手に素早く持ちかえて拳を作る。


 お互いに獰猛な笑みを浮かべた体術による肉弾戦。


 剣術、格闘術については物心ついた頃から(おれの意識としては二年であるが『アヤト』の体捌きなど、身体が覚えていることもあったりする)共に鍛錬を積んでいるため相手の癖は把握し合っている。


 ただ今までと違う点があるとするならばカヤナは銃を、おれは魔法を武術に組み込んでいるためその差がどう出るか。


 相手の拳をそらしはらい、時には蹴りや肘打ちなども織り交ぜて技を繋げ繰り出していく。


 先に仕掛けたのはカヤナ。


 技の最中、踏み込みとともに放たれた鋭い正拳をはらおうと対処するも突きが途中で止まる。



(フェイントかっ!)



 一瞬の硬直。


 もちろんカヤナがそんな隙を見逃すことはなく、次の瞬間にはおれの真正面から外れた位置どりで回転しながらの裏拳を放たれる。左側から迫る拳を避けることができずに前腕部で受け止める。



「くっ」



 重い一撃に怯んだところに横から頭部目がけて突きつけられる銃口。身を翻し射線上から外れるもその先でもう一丁の銃を向けられる。相手の手首をはらい、狙いを外させるようにはじくがその度にもう片方の銃口を人体の急所へと向けられ続ける。



(ちょっ…ヤバイな)



 反撃の隙がない猛攻に段々と余裕がなくなっていく。


 それがまずかった。二丁の銃への対処で意識が疎かになっていた足元を唐突に攻められ、足払いで体勢を崩されて後ろに倒れこんでしまう。



「チェックメイトだね」



 倒れこみながら見上げた視界の先には臨界状態にきらめく魔力光が二つ。


 引き金が今まさに引かれるその瞬間。



「『風よ 纏われ <疾風> <共鳴>』」



 唱えた魔法の効果により、身体が激しさを増した青白い螺旋の暴風に包まれる。


 先ほど唱えた時よりも数段速いスピードの補正がかかり、倒れこむ勢いそのままに魔法銃を蹴り上げる。



「えっ」



 二発の魔力弾は何もない空中で二条の翠光を引いて空の彼方へと消えていく。


 そして思わぬ反撃により魔法銃が手から離れ、カヤナも後ろに仰け反ることとなった。


 蹴りの勢いで後ろに一回転して体勢を立て直し、低い姿勢のまま、すかさず距離を詰めて今度はこちらが崩しにかかる。



「わわっ。ちょっ」



 背中から倒れこんだカヤナに覆いかぶさり、先ほど蹴り上げられて落ちてきた魔法銃を片方掴み取りカヤナの額へと突きつける。



「チェックメイトだな」


「そこまで!」



 これで兄としての威厳はなんとか守れただろうか。





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