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Nに関して

作者: 松泉夜考

私はNと会うたびにハッとし,緊張する。その美しさの前では,自分の醜さや愚かさが強調されるような気がして,取り繕うことすらも諦めてしまう。そして,私はNのその美しさに惚れていたのだと今まで思っていた。もちろん,その美しさは今も天下無比だとは思うが,そこは重要でなくなった。


昨夜,土砂降りを聴きながらの車内で,レストランで,別れ際まで,初めて自分の考えをNに吐露できた。そして,Nも自分のリアルを伝えてくれた,ような気がした。我々の考えは奇妙にも似通っていた。お互いに真面目に答えようとしすぎるところ,他人に興味がないところ,顔に全て出てしまうところ,好きなミュージシャンがここまで共通することも他ではない。この奇妙な共通点に気づいて,なぜNが私のことを好いてくれたのかを初めて理解できた。ここ数年来の謎がやっと解けた。そして,私はまたNに惚れてしまった。Nの惚れた相手の話を散々聞いた上で,また惚れてしまった。


その誰もが羨むような美しさを,私は隣に置きたいものだと思っていたが,それは間違っていた。そうでなくていい。私はもう彼女の顔を見れなくてもいい。その人間に惚れてしまった。不思議な運命に惚れてしまった。声が聞ければさえいいと思った。


でも私の気持ちは揺るがない。お互いがどういう運命を辿るかは分からない。もう別の道を歩んでしまう可能性が高いのかもしれない。それでも忘れることができない。愛し続けるしかない。惚れてしまった方の負けだ。死ぬまでNには負け続ける。


どんなに年老いても,どんなに視力が衰えても,Nの声が,その人間を感じさせてくれたなら,この想いは続く。Nは今の男との運命を直観したが,私はNとの運命の意味を数年かけて咀嚼した。飲み込んでしまった。運命はゆっくりと体内を循環し,私を動けないようにしてしまった。


報われない愛の言葉を。呪いの言葉を。何年も何十年もかけて熟成していく人生に。Nの幸せを祈って,言葉と想いを捧げたい。久しぶりに筆を執った理由。

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