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終章 百の目の鬼、彼方を臨むの事

上もなく、下もない。


前もなく、後もない。


時の進みさえ存在しない「彼方」。


ソレは突然、()()()()()


あの少女の導きによってここにいることは理解していた。だがあの時の少女が何者で、自分が何者であったか、そういった諸々の事象は全て己の内から消し飛んでいた。


ソレは無限に広がる情報の奔流を前にして、ただ己の百の目でもって見つめるだけの存在となっていた。ソレは失いかけていた自我と記憶をゆっくりと呼び覚ます。


そうだ。かつて自分が欲した世界がこれだ。何一つない世界にいたはずの自分に「目」が与えられ、初めて何かを「見た」時からずっと願ってやまなかった世界だ。



(コノ世界ヲ全テ見タイ・・・!)



そう願った己に、最初に「目」をくれた何者かは次々と新しい「目」をくれた。「目」を一つ得る毎にソレはより多くの世界、遠くの世界を「見る」事ができた。「目」を提供している何者かが自分が見たものを利用して何かをしていることも知っていた。だがソレは己が「見る」ありとあらゆる情報を前にして歓喜に我を忘れ、何者かの思惑など片隅にも考える事なく世界を鑑賞し続けていた。



(見タイ、見タイ・・・コノ世界ヲ、モット見タイ。モット、モット、モット・・・!!)



そのためには「目」の提供者にも率先して力を貸した。この世界を「見る」ためならばどのような苦痛も厭わなかった。苦痛?苦痛とは何だ?この世界を「見る」前はそんなこと知るよしもなかった。ソレは世界を「見る」度に何かを得て、何かを失っていた。ソレは永久に満たされること無く、ただひたすらに何者かから与えられる「目」を使って世界を見渡すだけの存在だった。



(足リナイ、足リナイ、コンナンジャ全然足リナイ・・・!!)



ソレの願いは果てることがなかった。ただ一つのほんのささやかな願いであったはずのそれは、今ではソレの全てを支配する呪縛となってそれ自身を縛り付けていた。


その永久にやまない鑑賞の連鎖が、今不意に、唐突に終わりを告げた。


あの少女に導かれて辿り着いた「彼方(ここ)」には、全ての答えが用意されていた。それが「見たい」と願ったものの全てが、思うがままにソレの「目」に写った。


ソレは夢中になって見た。己の背後にいた、己に「目」を提供していた何者かはいつの間にか情報の奔流に吹き飛ばされて姿を消していた。そいつがあの後どうなったのかをソレは知らないし、そんな事に興味も無かった。ソレはただひたすらに「目」の前に写るありとあらゆる現象を見続けていた。



(見エル、見エル。見エルゾ・・・!)



ソレはもはや「見る」事の歓喜に満たされたただの感覚器となった。そして「彼方」に書き記された情報の全てをことごとく見尽くしたソレは、やがて満足のうちに「補陀落(彼方)」という情報の波濤の中に溶けて無くなって行った。




鬼狩り紅蓮隊〜補陀落波濤〜  完

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