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頼義、百目鬼と対峙するの事

国定の説明を聞き、またその意味するところを瞬時に悟った頼義たちは言葉を失った。



「人から人へ乗り移る・・・つまり、()()()()()()()()()、という事ですか?」



震える声で頼義が尋ねる。



「然り。それだけがあやつに手傷を負わせられる唯一の手段でごぜえやす」



国定の表情は変わらず鉄面皮のままだが、その声色に含む無念の思いは頼義にも十二分に感じ取られた。



「つ、つまりアレですか、袮々が現れるたびに、その、取り憑かれた人を、いや()()をき、き、斬り殺し・・・」


「言うな、影道(ほんどう)!!」



目を見開いて今国定が口にしたことを噛み砕いて理解しようと言葉を発した影道仙を頼義が止める。影道もその意図を察して慌てて両手で口を覆った。周囲の「上州百足党」の兵士たちは皆一様に押し黙ったままである。



「手前どもは外道にごぜえやす。一族を生き永らえさせるためとは申せ、血を分けた親兄弟を供物に捧げ生を繋いで来やした。本来ならば一度たりとてもお天道様の下を歩くに値しない外法者どもでごぜえやす」


「そんな・・・!」


「しかし!」



鎮痛な空気を切り裂くように突然国定が叫んだ。



「それでも・・・いつかはこの忌まわしき連鎖を断ち切る日が来やしょう。その日を信じて手前どもは今日まで生き恥を晒してきた次第でごぜえやす」


「・・・・・・」


「若様、手前どもはそれが今この時、源氏の御曹司であらせられる御身の手で成し遂げられることを望みやす。そのためならばこの命,毫ほどの惜しみもございやせん。どうか手前どもの命、如何様(いかよう)にもお使い捨て下され」


「し、しかし、それは・・・」



気丈な頼義が言葉に詰まる。それは取りも直さず、袮々が現れたならばためらわずに取り憑かれた者を殺せと言っているようなものだ。それが誰であっても!



「迷う暇はございやせん。奴と邂逅したならばためらうことは許されませぬ。このように・・・!」



言うや、国定は自分の斜め後ろにいた供回りの年若な男を何の前触れもなく抜き打ちに袈裟懸けに斬り捨てた。



「な・・・っ!!」



頼義たちが後ずさる。国定は躊躇すること無く今斬り捨てた男に向かって二の太刀を浴びせる。始めの一刀で即死したかと思われた男は、パックリと開いて半ば落ちかかった左腕を鞭のようにしならせながら国定の横殴りの一撃を弾き返した。


薄暗く、狭い坑道の中を怒号と喧騒が飛び交う。



「Neeeeeeeh,Nheeeeeh!!」



空気を震わせるような不快な鳴き声が坑道の中に乱反射する。耳を抑えながら頼義は七星剣を抜いて構える。思考が現実に追いつくよりも早く彼女の身体は次になすべきことをなし終えていた。



「まさか、まさか・・・!」


「何処に潜んでおったか、斯様に早く出くわすとは思わなんだぞ、袮々!!」



周囲の百足衆が手にした手燭を一斉に斬られた男にかざす。銀箔を巻いて集光率を高めた灯りがその全身を浮かび上がらせる。男に貼り付いた無数の目玉が四方八方に睨みを効かせていた。


開いた傷口から泡のようにゴボゴボと音を立てて「目玉」が湧き上がってくる。その間も例の不快な鳴き声はどこから発せられるとも無く響き続けていた。


とっさに足を踏み出した頼義を国定が止める。



「お待ちを!ここは手前どもに・・・!者共、構えっ!!」



国定が号令をかける。しかしその声に周囲の者たちの反応は鈍かった。



「し、しかし頭、そいつは・・・」


「ためらうなと申した!!あれが『袮々(ねね)』ぞ、一度取り憑かれればもはや手遅れ。迷うな、ためらうでないっ!!」



その言葉に覚悟を決めたのか、百足衆の戦闘が膝を落とし何やら構えを見せる。



「投っ!!」



国定の掛け声と共に先頭に一列が一斉に手首をしならせて小石のような何かを投げつけた。続いてその後ろに立ったままで待機していた第二列の者たちが同じように何かを投げつける。



無数の(つぶて)を身に浴びた「袮々」は身構えることもなく礫に打たれるがままにされている。



「その『豆』の結界より先に飛び出すな!破魔矢!」



先ほど百足衆が放った礫はどうやら百目鬼の、いや百目鬼を操る「袮々」を足止めさせるための邪眼除けの豆だったようだ。豆といってもその上に銀を塗り、梵字らしきものが細かに書かれた特別製の法具らしかった。その豆に動きを止められた隙をついて、先頭の二列が下がるのと入れ替わるようにして半弓を手にした部隊が前に躍り出て「袮々」に向かって聖別された矢を放った。


「袮々」に憑依された男はその場から一歩も動かず、矢を浴び続けてみるみるうちに全身を矢羽で覆い尽くされていく。


矢の斉射が終わった頃には男の姿は剪定されていない銀杏の木のような異様な姿に成り果てていた。



「・・・・・・」



あまりの凄まじさに頼義たちは声も出ずに立ち尽くしている。



「やった・・・のか?」



そんなはずはあるまいと思いつつも頼義は念のために聞いてみる。当然ながらその答えは「否」であった。あれだけの矢を打ち込まれながら、「袮々」は()()()と音を立ててて坑道の奥の暗闇に下がって行く。



「追わないと!早く、トドメを!!」



逸る頼義を国定が押さえる。



「ここは狭い。これだけ密集した中で殺到すれば奴を殺した瞬間にまた誰かに取り憑かれる恐れがありやす。ここは堪えてくだせえ」


「でも!」


「若様、お頼もうしやす」



頼義の肩口を掴む国定の手に力が入る。その気迫を受けて頼義は声を落とす。国定は鉄面皮の表情を崩さずに続けて言った。



「どうか・・・()()()()()()()()()()()()()()()()、ここは堪えてくだせえ」

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