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影道仙女、安倍晴明の本意を語るの事

「黒幕・・・という事は、つまり今回の一件、全て安倍晴明様の陰謀に他ならないと?」



頼義はそう語る影道仙に向かって眉をひそめる。



「あの『百目鬼(どうめき)』なる怪生(けしょう)のモノをけしかけているのも、それによって上野国のお使者が犠牲になったことも皆陰陽寮の差し金であるというのか?それは、ちと陰謀を張り巡らせるにしても少々度がすぎるというものではないのか?いくら帝直属の陰陽博士たる晴明様とて、看過はできぬぞ」



静かにそう言いながら、頼義は再び七星剣の柄に手をかける。



「ストーップ!!待った待ったそうじゃないのそうじゃないの!確かにお師匠さまは此度の上野国と下野国との間に交わされる和平会談に横車を入れるおつもりではありました。ですが流石(さすが)に『百目鬼』が出てきた事は想定外の事でして・・・」


「そこよ、そもそもなぜ晴明様はあの会談を邪魔立ていたそうとした?この地に平和な条約が締結される事に何がご不満か!?」



頼義の剣幕にタジタジとなりながら影道が説明をする。



「えーっとですね、そこから説明するとなると話は長くなるのですが・・・よっちゃん、もとい頼義さまも当地が元々『毛野国(けぬのくに)』と呼ばれる一つのクニであった事はご存知でしょう?」


「無論」


「その『毛野国』は近畿、坂東、信越を結ぶ交通の要衝である事、また古くから産鉄、養蚕、牧畜などの産業も盛んに行われていた事から朝廷が成立するより前から一大都市圏として君臨していました。律令制が敷かれてその勢力を削ぐ目的で上野・下野に分断された後も上野国は『大国』として皇族の親王が直轄する『親王任国』という、坂東における最重要地点に指定されていました」


「話がくどい。そのような事、先年まで我が父頼信が上野介として赴任していた経緯ががあるゆえ知っています。それがどう今回の件に関係するのです!?」



頼義の尋問するかのような厳しい態度に影道が震え上がる。これは冗談を言ってお茶を濁せる雰囲気ではない。



「で、ですからあ、朝廷としては上野・下野両国がかつてのように一致団結して一つの国として勢力を強める事に危機感を持つ者も多くありまして、まあその一人がお師匠さまなんですけどね。つまりは、まあその、今回の常陸介さまの仲介による和平交渉は中央からしてみれば『余計な事』と思われたようで・・・」


「・・・そ、そのようなくだらぬ事由で父の業績に土をつけたというのかあっ!!」



頼義が顔を真っ赤にして烈火のごとく怒った。今の説明によれば、中央政府は地方の大国が力をつけることを危惧して父が必死の努力で身を結ばんとした両国の和平を台無しにしてしまおうと企んでいたといういう事になる。あの父の気苦労と懸命の努力を誰よりも近くで見守っていた頼義にとって、今の言葉は耐えがたい横暴に聞こえた。



「見損なったぞ陰陽師!先年より続く坂東での紛争、都における酒呑童子たちとの戦においてもそなたらにはひとかたならぬ世話になったご恩はある。この頼義それは決して忘れてはおらぬ。しかし此度の一件に関しては罪もなき者が一人死んでおるのだぞ!そのような命を犠牲にするような権謀術数、この頼義どうあっても首肯(しゅこう)しかねる。かく相成っては是非もなし、生き恥をかかされた我が父の名誉を挽回するため、そなたの首を手土産に安倍晴明の元へ馳せ参じ、陰陽寮ごと焼き払ってくれよう!!」



頼義の怒りは本気である。その顔を見れば先程の脅しとは違う、()()()()()である事は明白だった。なんども言うが頼義は武家である源氏の子だ。()()と言ったら本当に()()のが彼ら武家の流儀である。その一本筋の通った剛直さは影道仙も痛いほど良く知っている。


その頼義の気迫に当てられた影道は白目をむいて卒倒しそうな自分をそれでもかろうじて持ちこたえ、



「だからあっ!!だから想定外だったんですう〜!!あの『百目鬼』についてはホントのホントに!」



と必死に頼義をなだめようとした。



「信用しかねる!そもそも・・・そうだ、先だっての『悪路王』の一件も、その前の平忠常の一件も、あれもみな晴明たち陰陽師どもが裏で糸を引いていたのではないのか!?この坂東を混乱に陥れ、かつての新皇将門公の時のように一致団結して朝廷に弓引かれることを恐れて・・・!」


「そ、それは・・・」


「それは!?」


「・・・なきにしもあらずなところで、あはは」


「!!!!!!!!!」



もはや頼義は怒りのあまり言葉を失していた。怒りに震え紅潮した顔から一気に血の気が引いて行くのが見える。怒りを通り越して逆に冷静になった彼女の姿を見越して



(あ、斬られるわコレ。はい死んだワタシー)



とこれまた妙に冷静になった頭の中で影道仙が独り言をつぶやいた。



(まさか最期が自分が最も頼みにしていた親友の手にかかって死ぬだなんてー。ああ、でも、()()()()()()()()ここのこと覚えてるのかしらワタシ・・・)



彼女自身にしかわからない思いが一瞬脳内を駆け巡り、影道は目を固く閉じた。


頼義の七星剣が一閃する。



「ああもうっ!なんでこんな時に邪魔立てする!?どこだ経範、ヤツはどこから見下ろしている!?」


「ふえっ!?」



頼義のふるった剣は硬直した影道仙の頭上を通り過ぎて、はるか後方の草むらを横一文字に切り裂いた。



「上です主人(あるじ)!上方、真っ正面から我らを見下ろしております!!」



佐伯経範の叫び声に反応してとっさに影道は後ろを振り返る。高くそびえる樹々に猛然と斬りかかる頼義の向こうでは・・・


例の無数の目玉が影道仙たちを睨みつけていた。

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