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聖女を巡る乙女ゲームに、いないキャラクターの神子(私)がいる。  作者: 木村 巴


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6 聖女の場合

 ふう。部屋に戻って金属バットを眺めてみたが、さっそくため息しか出ない。



 それにしても何故、金属バット?? ストレス解消用? 女神様が私のストレスを心配してくれた?

 いやいや、それなら金属バット持って街を歩かせないよね!? 街中のみんながギョッとして振り返ったからねっ! 逆にものすごいストレスだったわ!


 そりゃ小学校の頃は当時(前世)の兄と一緒に野球をしていたし、学生時代や仕事の後もバッティングセンターに寄ってストレス解消していたけど……たまにだよ。乙女ゲーム程やってない。


 とりあえず、ストレス解消に素振りでもしてみるかな。まだ外は薄暗いが裏庭の方ならば人も余り通らないだろう。

 そっと金属バットを持って部屋から出る。神殿の裏庭の方に出たが、誰にも合わなかった。

 とりあえず、軽く素振りしてみる。


 ……うん。なんか、いいな。馴染む。


 ぶんぶんと振り回して調子が掴めて来た所で、30秒スイングに切り替えてみる。やっぱりいい! バランスが良いのか、バットの相性が良いのか、ヒロインボディが良いのか……とにかく(前世)よりずっと素振りも良い感じがする。


 バッティングセンターでもあれば良いんだけど……と思うが、そもそも野球という概念がない。



「せっかくだから、ボールを打ちたいんだけどなぁ。」


 ぽつり呟くと、バットが現れた時と同じ光の珠が、私の周りをくるくる飛びまわった。そして、近くでふわふわ漂っている。




 ……打って……良いのだろうか?


 コレ、女神様の関係だよね?

 神子様が落ちて来た時も、たくさんいたよね……

 打ったら……ヤバそうだけど……

 打ちたいって言ったら出てきたんだもんね?

 打って良いって事だよね?


 ボールの欲求に耐え兼ねて、手頃な位置の珠をおもいっきりフルスイングしてみた。



 カッキーン 



 高校球児みたいに、おもいっきりフルスイング。

 はぁ~気持ち良い! ハマる!


 とりあえず近くの光の珠を、手当たり次第に全てを打って打って打って打ちまくってみた。



 もう辺りはすっかり暗くなり、金属のキーンと鳴り響く音と、私の呼吸しか聞こえない。


 はぁっ。はぁっ。はぁっ。息が弾んできた。手も痺れてきた。


 スッキリとした倦怠感と辺りの暗さに我にかえった時、目の前にニヤニヤ楽しそうな神官長様と眉間の皺が恐ろしい程深いが驚いた顔のヘンリー様がいた。


 えっ? …………恐怖でしかないんですけど。





 神殿の例の説法部屋に連行された。神官長様とヘンリー様も何も話さない……長い沈黙の後に


「貴女……アレは何をされていたのですか?」


 怒られると思いビクッと震える。


「いえ……私の言い方が悪かったですね。貴女はアレがどういう事が理解していますか?」


 ……え? 怒られないの? そして、アレになんか意味あるの?全然わかりません。と思い顔をあげると私の心を読んだ様に、大きなため息が聞こえた。


「ふむふむ。マリア殿はわからずにしておったんじゃな?」

「はい。……ごめんなさい」

「ほほほっ。怒っておる訳じゃないんだよ。まぁ愉快じゃがね。…………して、あの『こん棒』はどこから持ってきたんじゃ?」

「こん棒?? こん棒ってトロールとかが持ってる木の棒みたいなやつ?」

「そうです。街で聖女候補が『こん棒を持って街中を練り歩いた』と報告を受けたと思ったら、今度はこん棒でまさかあんな事を……」



 プップッっと神官長がこらえられない、とばかりに吹き出している。


 まさか、そんな風に噂されていたなんて……急に恥ずかしくなる。え? トロールとか言われてないよね……最悪だわ。そんな私を余所に……



「これは凄い事です! いつの間にあんな事が……」


 とりあえず、怒られない様なので今日あった事を話し始める。

 街を見て歩いた事。

 王都で最初に暮らした教会に行った事。

 そこで祈った事。

 ……そしたらアレを頂いた事。


「成る程……女神様から頂いた訳ですか。

 色々と納得がいきました。

 いいですか、良く聞いてください。あれは凄い事です。

 あの珠は女神様の力のひとつと言われています。扱えるのは女神様や神子様で、かの方はあの珠達と意志の疎通も可能だそうです。

 私達神官の祈りが通った時もあの珠が現れるのです。

 なので、祈りの力のひとつの象徴だと思ってください。」



 ……ヤバい。ついていけなくなってきた。難しい顔をしていたらヘンリー様が言い換えてくれた。お手数かけてすみません。



 例えば森の中の障気の浄化など行う際、障気の所へ直接行かなければならない事が多いという事。

 今まで酷い障気の時は神子様の力をお借りしてリオン殿下が浄化を行う事が多かったが、国全体となると一人では限界があること。

 障気がたまると魔獣や魔物が増えたり森に入れなくなるので、定期的にたまる前に浄化して行く事が大切で、神官達の大変な仕事のひとつだという事。

 ただし森の魔物や魔獣もだか、普通に獣も多いので浄化の神官二~三人に護衛や案内人等が三~五人で組んで行かなければならない事。怪我をする事も多い大変な仕事だという事。

 リオン殿下一人で間に合わない時は聖女が出るが、護衛達や神官達も一緒に行く為、大変な行程になる事。


 ……という様な事をゆっくり分かりやすく説明してくれた。



「ですので、森に入らずに森の近くからああやって浄化をして行けたら、危険も少く護衛も少く出来ます!

 皆の危険も負担もとてつもなく減るという事です!

 他の神官や他の聖女の負担がかなり減ります。

 もちろん貴女が危険に晒される事も減ります!

 神子様やリオン殿下がいらっしゃる今、深い障気等もあの二人でなんとか出来るでしょうし、貴女の活躍でお二人の負担もかなり減ります! そして、浄化にかかりきりになっていた者達も解放され、他の祈りへ手が周り、国全体の幸せがより上がっていくことになります!!!」


 興奮して私の肩を鷲掴み揺さぶってる……助けて~と神官長を見るけど、笑いながら頷いていた。いや。助けて。本気で。



 一応、すごい事だろうと理解したけど……すごいんだ~へ~……と、思っていたのが、おもいっきりヘンリー様にバレていて……


「貴女は事の重大性がわかってない!」


 って、結局怒られた。


 半分は私の理解が悪かったからだけど、結局私が二人から解放されたのは、真夜中をとうに過ぎたあたりだった。



 ヘンリー様が私の部屋の前まで送ってくれる。しかし、明日の朝一番にまた説明するため迎えに来ます。と言い残すヘンリー様は鬼に見えた。





いつもブックマーク、評価、応援ありがとうございます。

明日で聖女も終わります!

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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