5.江里2
ドアフォンが鳴って、江里はインターフォンに出た。
映った顔に言葉を呑む。
「は、葉月」
『入れてもらえるかしら』
江里は覚悟を決めてドアを開けた。
「圭人はここに来ているのね」
葉月は圭人の忘れ物を手に取りながら、江里に聞いてきた。
圭人はあの日から、たまにこの部屋に泊まるようになった。始終スマホの着信を気にして、縋るように体を求めてきていた。
それが職場にしづくさんの弟さんたちが来てから、変わった。壁に凭れて、ボーとしているようになった。体を求めてくるわけでもなく、ただ部屋にいるだけ。一人になりたくないからここにいる、そんな感じだ。それはしづくさんと離婚したからだと江里は分かっていた。
「江里、何故、しづくさんが離婚したのか知っている?」
江里は首を横に振った。
圭人は何も話さない。しづくさんと離婚したことさえも江里は聞いていない。
だから、聞いてはいけない、聞いたらもう戻れないことが江里には分かっていた。
だけど、聞きたくないとは言えなかった。
圭人の離婚の原因を江里は知らなければいけなかった。
江里は自分が酷い状態なのが、目の前に座る葉月の様子から理解できた。
「江里、大丈夫?」
江里はどうにか頷いた。
あの後、そんなことになっていたなんて! やっぱり流されずに引っ張ってでもホテルを出るべきだった。
「そ、それで、しづくさんは?」
声が震えるのを抑えられない。
死にかけていたなんて!
何度も掛かってきた電話に出させるべきだった。すぐにでもしづくさんの所に行かせるべきだった。
「そっとしてほしいって。精神科にも通って、立ち直ろうとしてみえるみたい」
少しだけホッとした。
しづくさんが前向きに生きようとしていることが。
「圭人は、バカだから。誓約書でしづくさんと会わないに同意して、謝ることも出来なくしたのよ」
葉月は圭人のバカを連発して大きなため息を吐いた。
そして、何かを決心したように江里を見た。
「で、江里・・・」
何が言いたいのか、江里には分かった。
「ちゃんと″さようなら″だけ言わせてもらえる?」
江里はきちんと笑えてないのが分かっていた。
もう実らない恋は終わらせなければならない。
「えっ、しづくさんと別れたのだから、不倫というわけではないのだけど・・・」
慌てて言葉を探す葉月は優しい。
「私では、圭人君がしづくさんを思う気持ちに勝てない。分かっているから、終わらせるの」
零れ落ちる涙を止めることが出来なかった。