負け犬クラブ
圭人は、久々に友人から、呼び出しを受けた。
場所は、溜り場にしていたパブ。
六人集まったところで、友人の覚が声を上げた。
彼以外は、初めて会うメンバーだ。
「負け犬クラブにようこそ。」
直ぐ様、不機嫌な声が上がる。
「なんだよ、負け犬って?」
「離婚だよ。り、こ、ん。人生の墓場といわれる結婚に失敗した人の集まりさ。」
覚は、結婚と離婚を繰り返していて、今は、結婚しているはずだ。自分は、勝ち組だと言いたいのだろうか?
「墓場から抜け出したんだぜ。負け犬じゃねえじゃないか。」
強がりを言うヤツがいる。
「浮気ぐらいで、大袈裟に騒ぎやがって。ガッツリ(慰謝料)取られた、あの強突張り。」
当時を思い出したのか、顔をしかめて呟くヤツ。
「浮気ぐらいって!(出張から)帰ったら、家に男がいたのは、許せませんよ。」
手を握りしめ、悲痛な顔をしているヤツ。
「妻の浮気は、ダメだよなー。」
「そうそう、誰の子か分かんなくなるし。」
浮気は、男がするものだと胸を張っているヤツラ。
「人妻に手を出しているヤツが言うことか?」
ブワッと笑いが起こる。
「なあ、なんで浮気したんだ?」
圭人は、自分の答えが知りたかった。
「なんで?なんでって・・・。」
答えは、みんな分からないのか?
「妻は、寂しかったと言ってました。僕が家を空けてばかりで。」
妻に浮気された男がポツリと言った。
「いい女がいたら、落としたくなるでしょ。」
妻の浮気を否定した男。
「それが人妻でも?」
「人のモノだから、欲しくなるよね。」
「あとは、ストレス発散?同じ相手ばかりだと飽きもくるし。」
「隠れて、というのも興奮するよね。」
「秘密の味は罪の味、てか。」
「みんな、裏切られた者の苦しみを知らないんだ!」
妻に浮気された男が、怒鳴った。
「女一人満足させられなかったのかと蔑まれ、寝盗られた男と嘲笑られ、惨めな思いばかりですよ!」
周りの者が慰めようとするが、妻に浮気された男の怒りはおさまらない。
「あなたたちは、浮気した立場だ。俺は、自尊心も男としてのプライドも全て何もかもボロボロにされた。」
「まー、気持ちは分かる。俺、一回目は浮気して、二回目は浮気されて、離婚してるからな。」
覚が、煙草をふかしながら、他人事のように言った。
「一回目は、浮気がバレて、嫁にさー、魅力が無いや飽きたと言って捨ててさ、二回目に嫁に同じコト言われて捨てられた。」
灰皿に灰を落としながら、覚は続ける。
「二人目の嫁に浮気を責めたら、前妻に同じことした人に言う権利はないって、バッサリ斬られてさ。」
自嘲の笑みを浮かべて、覚は短くなった煙草を消していた。
「けどさー、女が浮気するのは・・・。」
「そんなもん、関係ないって。浮気するヤツは、男でも女でも浮気するんだ。おまけに二人目の嫁の浮気相手は、俺よりいい男でさー、捨てられて当たり前って感じ。イイ男のつもりが、厚みのないペラッペラのメッキだったのがモロ分かりで。」
楽しそうに笑う覚に誰も突っ込めない。
「なんで、浮気したか、か。夫婦生活に不満がなきゃあ、魔が差した?じゃないか。それが一番しっくりくる気がする。最初のきっかけは。あとは、バレなかったしと、ズルズルと。」
覚の言葉に「そうかも」という声がチラホラと。
「浮気する者と浮気された者は、優越感と劣等感だと。」
妻に浮気された男が、勢いよく肯定する。
「そうです。劣等感の固まりです。妻のために行きたくない出張も頑張ったのに。寂しい思いをさせているから、家にいる時は、大切にしていたのに。何がダメだったんだろう?何が気に入らなかったんだろう?疑問ばっかりで。寂しかった以外に僕に悪かったところがあったんだろうと、重箱の隅つつくみたいに欠点をあげてみたり。自分がダメ人間になったような感じがして。」
よっぽど溜まっていたのか、妻に浮気された男は泣き出してしまった。
「優越感、か。そうかもな。浮気がバレた時、思いっきり見下したなー。モテないヤツが何を言うんだって。」
あいつは、家事も育児もパートも頑張ってくれてたのに。
元妻を強突張りと言った男が呟いた。
「隠れてやること自体、相手にバレたくない・悪いと思っているのかもなー。」
「それは、世間体が悪いからだろ。」
「世間体、気にするんなら浮気しなきゃいいじゃん。」
「悪いことほどしたくなるんだよ。」
「嫁さんが重すぎて、ほかの女に逃げたヤツもいたな。」
「重いって、デブ?」
「思い?執着?束縛?離婚切り出したら、殺されそうだと。」
「うわー、それで癒しもとめて?バレたら、流血沙汰になりそうじゃん。」
男たちは、軽い口調で議論を交わしていく。
お互い、傷に触れないようにしているみたいだ。
「圭人、答えは見つかったか?」
小声で聞いてきた覚に首を横に振った。
「俺も、だ。今でも分からない。惚れて一緒になったはずなのにな。」
で、ここの支払い、足出たら頼むな。
「じゃあ、負け犬同士で、今夜は楽しもう。」
覚の言葉に男たちは、グラスを掲げた。
リハビリ1




