29.しづく6
いつもありがとうございます。
しづくは何度も何度もパンフレットを確認した。
出来るかどうか分からない。
けど、やってみたいと思う。
まずは相談。
反対はされないと思うけど、心配はさせたくない。
「なんだよ、しづく。話って」
まず、しずると梓さんが来てくれた。
「正哉兄さんが来るまで、待ってて」
「あっ、手伝います」
梓さんがスッとキッチンに来てくれて、手伝ってくれる。
インターフォンが鳴った。
「しずる、出てくれる? ピザだと思う」
夕飯を作っても良かったのだけど、食器が揃ってないからピザを取った。
「了解。金は払っておくわ」
キッチンからしずるに声をかける。
「お金はそこにあるから」
今日はみんなに奢る予定なのに。
本当はお店にしたかった。
こんな時、どこがいいのかが分からなかった。いつも圭人に任せていたから。支払いも。
だから、圭人に連れてってもらったお店は金額が怖くて使えなかった。両親の保険金がまだ残っているから、どうにかなったけど。
しずるはインターフォンに出て解錠している。
「ピザ屋に会ったから、受け取ったが」
数分後、入ってきたのは正哉兄さんだった。
しづくはガックリと肩を落とした。ピザを持ってきたということは、支払いは済んでいるのだろう。
正哉兄さんは絶対お金を受け取ってくれない。
「で、しづく、話って?」
「まって、まずご飯にしよう」
冷蔵庫からビールを取り出して、テーブルに向かう。
「ピザ、適当だけど」
紙皿を回す。
他愛ない話をして、笑って、時々拗ねて、怒ったりしてみてまた笑う。
「で、しづく、話って」
デザートになった時点で正哉兄さんが口を開いた。
デザートは大好きなケーキ屋さんのプリン。
「まず、一つ目。働こうと思います」
しづくは姿勢を正してみんなを見た。
「働かなくていいだろ!」
しずる、働かないと趣味がないから暇なんですけど。それにいくらお金があるといっても無限にあるわけじゃない。
「体は、大丈夫か?」
正哉兄さんの心配は分かる。
「精神科も安定していると言われたし、体のほうも退院して何日経っていると思うの」
それにすぐに就職出来るとも限らない。
しづくの場合、職種が決まってくるから。
それでも、もし会えたら、きちんと生活出来ていると胸を張っていえるようになっていたい。
「一つ目ということは、二つ目があるんだな」
ビールを飲みながら、正哉兄さんが聞いてきた。
反対はされないみたいだ。
「これ、やってみようと思う」
パンフレットを見せた。
この秋、開講予定の総合デザイン専門学校。今、受講生を募集している。色々な″描く″を集めた学校で、鉛筆からコンピューターまで様々な″描く″を学ぶことが出来る。
その中にある″絵本教室″に申し込もうと思っている。
生まれ変わったあの子たちが読める本を作りたい。
「ああ、それか。事務員もやるか?」
チラリとパンフレットを見た正哉兄さんがさらりと言った。
「今度始める新しい事業って!」
「どういうこと!」
しずると声が重なった。
「昨日はそれについて話してた」
あ、だから、あの男性と?
視線で気づいたのか、正哉兄さんが頷いた。
「学校を作り、優秀な社員を確保する。いいアイデアだろう」
「優秀な生徒が他所に行くこともあるけどなー」
ライバル養成学校が出来ることで、しずるが遠い目になっている。
「社でうまくいかず不貞腐れてるヤツも講師にしたら、目が出る場合がある」
横目で見ると、しずるがホッとしていた。
講師にならなくてすると思ったみたいだ。
けど、正哉兄さんがそんな人たちばかりにさせるかしら?
「もちろん、お前も講師するんだぞ。人に教えることで伸びるヤツもいるからな。平等にしないと可笑しいだろうが」
ニヤリと笑う正哉兄さんと頭を抱えているしずる。
しずるは人に教えるの苦手だから。
「それはそうと、事務員の話だが、知り合いがちょうど募集している。応募してみるか?」
専門学校の事務員は生徒の募集をしているから、本当はもう決まっているのだろう。そこにコネで入るのは気が引ける。
「どんな仕事なの?」
事務員といっても色々ある。立ち仕事が多い場所もある。
「支援団体の事務処理の職員だ。諸事情で教育を受けられない子供たちを支援するな」
「あ!会社が、いつもチャリティーに参加してる?」
講師の件から立ち直ったしずるが会話に入ってくる。
じゃあ、けっこう大きなところなんだ。
「教室に通って、仕事って大丈夫ですか?」
梓さんが心配して聞いてくれる。
「絵本教室はいいけどさ。仕事はもっとゆっくりしても」
しずる、ダラダラした生活してたら働きたくなくなっちゃう。
ちゃんと地に足をつけてるって安心させたいから。
正哉兄さんは何も言わない。
ということは賛成してくれている。
「教室は、秋からだし。色々してみたいから」
せっかくだから、何でも挑戦してみよう。
「応募してみる。採用されるかは分からないんだし。」
しずるが心配そうに顔をしかめるが気にしない。
前に進むと決めたのだから。
後二話で終了です。
捕捉が何話か続きます。




