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しづく 愚か者の列に並んだ者  作者: はるあき
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2.しづく1

 しづくは目を覚ました。見たことのある天井に落胆する。

 また来てしまった。

 無意識に腹部に両手がいく。

 布団の中で服の下なのに冷たいと感じてしまう。

 また、いなくなっちゃった。

 目尻に涙が浮かぶ。

 まだちゃんと確認してなかった。けど、選んでくれたような気がしていた。

 だから、楽しみにしていた。

 圭人と病院に行くことを。


「なんだよ、あいつ。全然、電話にでねぇ!」


 双子の弟、しずるの声だ。また心配をかけてしまった。


「しづく、気が付いたのか!」


 扉を開け、しづくの目が開いていたのを見たしずるは慌て行ってしまった。看護師を呼びに行ったのだろう。

 しづくは身体を起こそうとした。身体が重たい。思うように動かせない。


「しづくさん、まだ起きちゃダメですよ」


 呼ばれて来た看護師がそっと寝てるように促す。起きたいけど、力が入らないから仕方なく従った。


「後で医者が、来ます。熱と脈を測りますね」


 看護師は慣れた手つきで体温計をしおりの脇に挟み、右手を持って脈を測っている。


「まだ、熱がありますね。上半身、起こしますので水を飲まれますか?」


 コップ、持てますか?

 ベッドの上半身部分が起き上がり、コップを手渡された。看護師に手を添えられたまま、水を飲む。

 まだ飲みたいのにコップを取り上げられてしまう。

 冷たくないけど、なんか美味しい。普通の水のはずなのに。


「しづく?」


 心配そうにしずるが覗きこんでいた。


「ごめんね、しずる。忙しいのに」


 しづくは、自分の掠れた声に驚く。


「しづくは、心配しなくていいよ。それよりなんか食べる?ゼリーとか、プリンとかあるけど」


 備え付けの冷蔵庫を開けたしずるを看護師が止める。


「まだ、無理です。しばらく胃に何も入っていなかったのですから。

 お水も少量をゆっくり、何回かに分けて飲んで下さいね。胃がびっくりして吐いてしまいますから」


 しづくは頷いた。空腹感はない。けれど、しずるが取り出したプリンはしづくが大好きなケーキ屋さんの物だった。


「プリンは、しずるが食べて」


 買ってきてくれた相手には悪いが賞味期限までに食べられるようになるか分からない。ケーキ屋さんのは賞味期限が短いから。


「また、買ってくる」


 しずるが買ってきた物と分かり、しづくはがっかりした。

 それから、医者が来て簡単な診察の後説明があった。

 あの日から、もう5日も経っていた。

 やっぱりしづくは妊娠していた。あの日、自転車にぶつかって腹部を強打したため、子供が流れてしまった、()()

 出血がひどく、意識不明の重体になっていたらしい。

 意識が戻ったので、これからは体力の回復を見ながらの治療になるということ。

 医者と看護師が病室を出ていき、しずるは洗濯物を交換するのに帰った。誰もいない。病室に一人っきり。

 看護師が様子を見に来てくれて、トイレに連れていってくれた。車椅子での移動だけど、どうにか自分ですることが出来た。

 夕方になって、しずるとしずるの婚約者、梓さんが来てくれて、正哉兄さんも来てくれた。

 お水のような夕飯を食べて、またトイレに行って、面会時間が終わり、消灯になった。

 ・・・来なかった。

 次の日も、その次の日も、ずっと。退院する日も来なかった。

 毎朝、しずるか梓さんが来てくれる。洗濯物を入れ替えてくれた。夕方にも二人は顔を出してくれた。

 正哉兄さんも、時間はバラバラだけど毎日来てくれた。

 側にいてほしい人は、あの日から一度も見ていない。

 しずるや梓さんが忙しいからと慰めてくれる。

 スマホの着信は一回だけ。出かける約束していた日の朝にだけ。

 それだけの関係だったんだ。私がいなくても心配しないんだ。

 心の奥で何かが冷たくなる。


「しづく、いいのかよ!」


 しずるが止めてくれる。


「しづくさん、ちゃんと会って話をしてからでも」


 梓さん、心配させてごめんなさい。


「決めたんだな」


 正哉兄さんの言葉に頷いた。

 しずるたちが帰ってから、明かりが消えてから、涙が零れた。どれだけ我慢しても涙が出てくる。

 子供が欲しかった。彼の子供を生みたかった。

 けど、もう無理。私の身体では。

 諦めよう。もう待つのも。もう信じるのも。

 忘れよう。子供のように笑う笑顔を。優しい声を。

 それでも求めてしまう。こんな夜に抱き締めてくれた温もりを。優しく撫でてくれた大きな手を。

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