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しづく 愚か者の列に並んだ者  作者: はるあき
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27.圭人10

 圭人は釣り糸を見つめていた。

 子供たちに起こされて、寝惚けたまま車に揺られ堤防に座っている。


「圭人兄、引いてる」


 慌てて糸を巻き取る。海面から、出てきたのは何もついていない針だった。


「遅いよ」

「また、餌だけ取られて」


 今日は場所が良かったのか、二人の子供たちもよく釣れている。釣れてないのは圭人一人だ。

 昨日、見た夢が忘れられなかった。

 しづくと二人の子供たちと遊んだ夢。

 あの子たちが大きくなっていたら、こんな感じで遊びに出ていたのだろうか?性別が違って、別の場所に行っていた?

 釣れてはしゃぐ甥っ子たちを見て思う。

 もう一度、夢の中でもしづくに会いたくて、昨日は昼間でも寝てみたが見れなかった。

 子供たちが逝ってしまったからか?


「心あらず、だね」


 義兄の清治が釣った魚を刺身にしていた。

 器用な人だと知っていたがこんなことまで出来るとは。

 不思議に思ったことが顔に出ていたのか、清治が話し出した。


「俺の父は仕事一辺倒で、母は自分のことばかり。小学生の頃には、ご飯はテーブルに置かれた千円札でということが当たり前な家でね」


 スーパーやコンビニの弁当や惣菜を食べてたが飽きるんだよ。

 清治は醤油の入った皿と箸を渡してくる。


「堤防を歩いていたら、地元の漁師が孫と釣りをしてて。せっかく釣っても調理できなきゃもったいないだろ。色々、教えてくれた」


 食べてみる。

 美味しい。新鮮だからか、それとも外で食べるからか。


「お父さん、僕も食べたい!」

「ちょっと待ってろ。お前が釣ったこのチビ、さばいてやるから」

「えー!大きいのにしてよ!」

「母さん、喜ぶぞ。お前が釣ったデカイのが夕飯になったら」


 その言葉に次男坊は黙った。自分が食べるより、お母さんが喜ぶのほうがいいみたいだ。


「夕飯分は釣れたから、後は、あいつらが飽きたらだな」


 子供たちは、自分が釣った魚を美味しそうに食べている。

 父親の顔をしている清治が眩しい。

 葉月から話を聞くまでは姉の恋心を利用した野心家だと思っていた。母、瑞季のいう通り、野心のために妻を大切にしている模範的な夫を演じているのだと。


「君が浮気理由をしづくさんのせいにしたら、また殴ってやるつもりだった」


 隣に座りながら、清治は物騒なことを言った。


「父の会社で不祥事を起こした沢田が、俺の母と関係を持っていたのが分かった時、奥さんに言っていたんだ」


『お前が悪いんだ!』


 しづくに浮気を責められたら、なんて言っただろう。反論した? それとも素直に謝った? 分からない。


「ドラマなんかでよくあるセリフだね。母が誘ったのは、分かっていた。だから、奥さんに謝罪に行ったら、沢田一人が奥さんに向かってお前が悪いと怒鳴っていた」


 清治の顔が嫌悪で歪んでいる。

 母親に対してなのか、沢田に対してなのか、分からない。


「誘いに乗ったほうが悪いのに、バレたら奥さんを責めるって可笑しいと思わないかい?奥さんが離婚を決めたら、今度は、気の迷いだったと平謝り。変り身の早さに怒りよりも呆れたよ。その一年後だよ、あの不祥事が起こったのは」


 ため息を吐いた清治に何を答えるのが正解かわからない。

 圭人は浮気を否定できない。浮気を()()()()()()()()


「会社の従業員もそうでない者も全員が、残った沢田の奥さんだけを責めた。奥さんの責任だと。もちろん、俺の父も彼女を責めた。」


『旦那をしっかり見張っておかないから、こんなことになったんだ!』


「嫁の浮気を黙認していた男が、裏切られて傷ついている女性を責めるんだ。我が父ながら、滑稽で情けなかった。だから、奥さんと子供を連れ出し、お金を渡して隠れるよう言った。その翌日だったよ。子供を実家に預け、奥さんは、沢田と暮らしていた家で命を絶ったのは。」


 そこまで、追いつめられていた。自ら命を絶つほど。裏切っていたのは夫の方なのに。


「母は、お金を得るために沢田を誘惑した。銀行員の西口と暮らすために。自分がしたことを少しも悪いと思っていなかった。そんな母を俺は、今も許せない。葉月が何を言おうが許す気もない。」


 清治は浮気を憎んでいる。

 だから浮気した俺を許せない?


「奥さんはね、俺に釣りを教えてくれた漁師、小阪さんの孫だった。会ったことはなかったけど。だから、助けたかった。小阪さんには、世話になったから」


 だから、清治は仕送りをしている。子供が一人立ちするまで。

 罪滅ぼしと恩返しを重ねて。


「俺が小阪さんにしていることは、ただの自己満足だ。一緒に釣りをした孫のほうは、俺も被害者だと()()言ってくれる。けど、家族を止められなかった俺を俺は許せない」


 ああ、もう飽きたようだ。

 子供たちが海に垂らした釣竿無視で遊びだした。

 小さなため息を吐いて、立ちあがり清治は子供たちの方へ行こうとする。


「圭人君、何かしたい、いや出来ることは、思い付いたかい?誓約書があるから、君が出来ることは限られているが、何も出来ないわけでもない」


 俺が、出来ることは、何だ?

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