26.清治4
清治は執務室で書類の山と戦っていた。
葉月と結婚したと同時に、義父、幸生の秘書から重役に変わった。
圭人君の右腕になるためと思われているが、一部の者が感づいている通り圭人君のスペアも兼ねている。圭人君が上に立つものとして不十分であれば清治がソレになるように。
清治としてはどうでもいいことだった。ただ、父のように有事の際に逃げる男がトップに立つのは困るというだけだ。
その圭人君は今日は休みにした。
本当は出社させたかったが昨日の今日だ。また、倒れられたら困る。
だが、義母・瑞季の動きが気になった。
昨日の段階で動かなかったのが不思議だった。
圭人君が本邸に連れていかれても仕方がないと思っていたからだ。
襲撃がなければいいのだが。
葉月には何かあったらスマホを鳴らすように言ってあるが、まだ静かだ。
急いで帰るようにするつもりだが昨日と同じように邪魔がはいるだろう。
スマホがチカチカしている。メールか何か届いたようだ。
電話なら音がなるように接待している。
『魔女は、檻に入れたよ。妹を会わせたかったけど、駄犬が煩いから次回にするよ』
また、あいつからだ。
魔女は瑞季のことだろうか? 檻? 妹? あいつは一人っ子のはずだ。結婚して、義妹でもできたのか? そのわりに結婚したとは聞いていない。駄犬? あいつが妹と呼ぶような女性に駄犬と貶すような男を夫に選ぶはずもないのに? 出会う前に結婚していたのか?
魔女がいなくなったのなら、それでいい。
義父の幸生から、連絡が入った。
瑞季は旅行に行かされたらしい。サナトリウムらしく長期になるそうだ。
ホッとしても大丈夫だろうか?
悪足掻きしてきそうな気もするが。
仕事は順調に片付いた。少しの残業ですみそうだ。
書類の決裁に手間取り、結局二時間ほどの残業になった。
家に帰ると、子供たちの明るい声が聞こえた。
圭人君がいることにホッとする。
瑞季が隔離されたと聞いても信じられなかった自分がいた。
「ただいま。もう寝る時間だろ」
リビングで圭人君とテレビゲームであそんでいる息子たち。葉月がいないのは人見知り姫の寝かし付けだろう。
「明日は、お休み?」
不安そうに聞いてきた次男の頭をグリグリと撫でてやる。
「ああ、休みだ。約束通り、釣りに行こう。早起きだぞ」
その言葉にいそいそと長男もゲーム機を片付け出す。
「圭人兄も行こう。釣れると面白いよ」
「釣れるとな」
前回、ボウズだった次男に長男がボソッと呟く。次男はその言葉に気付かなかったみたいで、圭人君を熱心に誘っている。
「圭人君は、体調次第だ。早く寝さない。起きなかったら、父さん、一人で行くぞ」
「ズルーイ」
「早く寝るぞ!」
「「おやすみなさい。」」
子供たちは競いながら自分たち部屋に行く。そのうち、葉月に怒られるだろう。煩い! と。
「子供と仲いいんだな」
圭人君はボーと静かになった部屋を見ている。
「出来るだけ関わろうとしているよ」
ソファーに体をあずけた。
色々と疲れた。
「あんたが、姉さんが結婚したのって・・・」
ああ、葉月から聞いたのか。借金のカタにと思ったかな?
「今があるのは、葉月のおかげだよ」
ほんとにそう思う。帰りたいと思える暖かい家になっているのは。
「結婚するからには、誠実でいるとは決めていたけどね」
それは今も変わらない。だから、結婚する前にはっきり言った。お互い関係を持ちたい相手が出来たら言う、と。今はそんな相手どちらにも出てきてもらったら困るが。
「そ、そっか」
圭人君は眩しそうに目を細めている。
掴めていた幸せ、それを壊したのは圭人君だ。
「葉月がいなければ、今の俺もいないし、子供たちもいない。こんな俺を選んでくれた葉月には、感謝している」
部屋に入ってきた葉月が顔を真っ赤にしている。
そういえば、言葉にしたのは初めてかもしれない。
「ただいま」
照れながら小さくおかえりなさいと葉月は返してくれた。
「お義父さんたちから、何か連絡あった?」
「母を旅行に出した、と」
一応、豪華客船に乗っている。ウソではない。
「ところで、圭人君、明日、釣りに行かないかい?」
気分転換にいいかもしれない。釣れないと惨めだけど。
「そうね、夕飯、釣ってきなさい」
葉月、それは、ちょっとハードル高いんだけど。
ダメだったら、漁師さんのお世話になるしかないかな?




