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しづく 愚か者の列に並んだ者  作者: はるあき
22/44

21.圭人8

 真っ黒い空間だった。

 上下左右もない。

 聞いたことがある。一度だけ。

 魘されていたから、聞き出したと言ったほうがいい。

 しづくが見ていた夢。

 生まれなかった二人の子供が出てくる悲しい夢。

 しづくはいるのだろうか?

 また、泣いているのだろうか?

 一ヶ所だけ、淡く光っている場所があった。

 しづくがいた。

 パアッと周りの色が変わる。真っ黒から晴れた空の色に。

 しづくは腕を伸ばして子供を抱き締めていた。

 子供は二人。もう一人は?

 腕を引っ張られる。すぐ側に五~六歳くらいの子供の姿があった。


『お父さん、行こ』


 ふわふわの雲が子供の形になっているようだった。

 お父さんって、おれ?


「行こって、どこへ」

『お母さんとこ』


 振り払ったら、形が壊れそうで出来ない。

 引っ張られ、仕方がなくしづくのもとへ行く。

 しづくは俺を見たら、どんな顔をするのだろう?


「けいと・・・」


 久々のしづくの声。驚いて目を見開いている。

 痩せた?

 すごくほっそりしている。

 髪の毛も肩を過ぎている。

 何を言ったらいい?

 何が言える?


「子供たちが、私たちが親で良かったって」


 普通に話してきたしづくにビックリした。

 なんて返せばいいのか分からない。

 しづくからも子供たちからも視線を逸らす。


「ありがとう、圭人。この子たちの母親にしてくれて」


 なんで、そんな風に言えるんだ!

 傷付けたのに、悲しませたのに。

 しづくが手を握ってくる。温かい。

 この手を振り払ったのは俺だ。


「ごめんなさい。何も言わずに離婚を決めて」


 なんで謝るの?

 しづくは悪くない。

 けど、ちゃんと話をしたかったのも確か。

 その機会を無くしたのも俺。


「子供、難しいから。素敵な人、見つけてね」


 嫌だ。

 そんな風に言わないで。

 子供も生めないわけじゃない。

 しづく以上の素敵な女が見つかるはずがない。


「し、しづく!おれは・・・」


 俺はそれでもしづくが、今でもしづくが・・・。

 こ、言葉が続かない。


「浮気は、悲しかった。けど、仕方がなかったのかなとも思ってる」


 仕方がないって?

 何が仕方がない?

 何故、そんなことを言う?

 しづくが手を離した。すごく手が、心が、寒くなった。


「鬼ごっこ、するよ!お母さんが、鬼」

『わーい』


 逃げる子供に手を引っ張られた。

 笑って子供たちを追いかけるしづくに何も言えなかった。

 何か言ったら、せっかく笑っているしづくの顔を崩しそうで。

 嬉しそうにしづくが、俺たちの子供を追いかけている。

 それが、無性に悲しかった。


『お父さんは、カッコつけすぎなんだよ』

『ほんと、ほんと』

「しづくは?」


 圭人は座り込んでいた。

 鬼ごっこに、追い駆けっこ、だるまさんが転んだ、色々遊んだ。


『お母さんは、寝たよ』

『今まで寝れなかったからね』

『僕たちを気にしすぎで』

「そっか、ゆっくり寝れるようになったんだな」

『そうかもね』

『僕たちのことは、ちゃんとできたからね』

『・・・』


 三人の子供を見渡した。

 言わなければならないことがある。


「なあ、三番目は?」


 あの時しづくのお腹にいた子供。

 手を振り払わなかったら?


『こいつだよ』


 三人の真ん中がビクリと体を震わせた。


「悪かった」


 それしか言えない。

 あの時、しづくから逃げなければ、今頃は大きくなったお腹を撫でていたかもしれない。


『後悔してる?』

「ああ、しまくりだ」

『お父さん、ヘタレだからねー』

『なんにも考えてないし』

『逃げてるの気付いてないし』

「言いたい放題だなー」


 グサグサくる言葉に笑えてくる。


『その通りだし』

『うん、うん』

『後悔してるならいい』

「許さなくていいから」


 恨んでくれていい。


『お母さんが嫌がるから』

『お母さん、お父さんに教えなかったの後悔してた』

『かもしれないと言ったらよかったって』


 しづくが教えてくれていたら・・・。


『ダメだよ』

『お母さんのせいにしたら』

『・・・・・ずるい』


 情けなくて顔が歪む。

 しづくが悪いと思いそうになった。


『すぐ逃げるから』

『してはいけないこと、してたんだし』

『・・・・・、違っててがっかりさせたくなかったから』


 誰が?

 しづくが、だ。子供が出来ていなくて、がっかりする俺を見たくなくて言わなかったんだ。


『僕たちももう行かなきゃいけないから』

『お父さんもちゃんと休んでね』

『・・・・』

『『バイバイ』』


 待ってくれ、もっと話を。

 もっともっと、しづくと子供であるお前たちに罵られてもいいから、話していたい。

 だから、逝かないでくれ。


『お父さん、甘えちゃダメだよ』


 それは、何番目の子供の言葉?

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