21.圭人8
真っ黒い空間だった。
上下左右もない。
聞いたことがある。一度だけ。
魘されていたから、聞き出したと言ったほうがいい。
しづくが見ていた夢。
生まれなかった二人の子供が出てくる悲しい夢。
しづくはいるのだろうか?
また、泣いているのだろうか?
一ヶ所だけ、淡く光っている場所があった。
しづくがいた。
パアッと周りの色が変わる。真っ黒から晴れた空の色に。
しづくは腕を伸ばして子供を抱き締めていた。
子供は二人。もう一人は?
腕を引っ張られる。すぐ側に五~六歳くらいの子供の姿があった。
『お父さん、行こ』
ふわふわの雲が子供の形になっているようだった。
お父さんって、おれ?
「行こって、どこへ」
『お母さんとこ』
振り払ったら、形が壊れそうで出来ない。
引っ張られ、仕方がなくしづくのもとへ行く。
しづくは俺を見たら、どんな顔をするのだろう?
「けいと・・・」
久々のしづくの声。驚いて目を見開いている。
痩せた?
すごくほっそりしている。
髪の毛も肩を過ぎている。
何を言ったらいい?
何が言える?
「子供たちが、私たちが親で良かったって」
普通に話してきたしづくにビックリした。
なんて返せばいいのか分からない。
しづくからも子供たちからも視線を逸らす。
「ありがとう、圭人。この子たちの母親にしてくれて」
なんで、そんな風に言えるんだ!
傷付けたのに、悲しませたのに。
しづくが手を握ってくる。温かい。
この手を振り払ったのは俺だ。
「ごめんなさい。何も言わずに離婚を決めて」
なんで謝るの?
しづくは悪くない。
けど、ちゃんと話をしたかったのも確か。
その機会を無くしたのも俺。
「子供、難しいから。素敵な人、見つけてね」
嫌だ。
そんな風に言わないで。
子供も生めないわけじゃない。
しづく以上の素敵な女が見つかるはずがない。
「し、しづく!おれは・・・」
俺はそれでもしづくが、今でもしづくが・・・。
こ、言葉が続かない。
「浮気は、悲しかった。けど、仕方がなかったのかなとも思ってる」
仕方がないって?
何が仕方がない?
何故、そんなことを言う?
しづくが手を離した。すごく手が、心が、寒くなった。
「鬼ごっこ、するよ!お母さんが、鬼」
『わーい』
逃げる子供に手を引っ張られた。
笑って子供たちを追いかけるしづくに何も言えなかった。
何か言ったら、せっかく笑っているしづくの顔を崩しそうで。
嬉しそうにしづくが、俺たちの子供を追いかけている。
それが、無性に悲しかった。
『お父さんは、カッコつけすぎなんだよ』
『ほんと、ほんと』
「しづくは?」
圭人は座り込んでいた。
鬼ごっこに、追い駆けっこ、だるまさんが転んだ、色々遊んだ。
『お母さんは、寝たよ』
『今まで寝れなかったからね』
『僕たちを気にしすぎで』
「そっか、ゆっくり寝れるようになったんだな」
『そうかもね』
『僕たちのことは、ちゃんとできたからね』
『・・・』
三人の子供を見渡した。
言わなければならないことがある。
「なあ、三番目は?」
あの時しづくのお腹にいた子供。
手を振り払わなかったら?
『こいつだよ』
三人の真ん中がビクリと体を震わせた。
「悪かった」
それしか言えない。
あの時、しづくから逃げなければ、今頃は大きくなったお腹を撫でていたかもしれない。
『後悔してる?』
「ああ、しまくりだ」
『お父さん、ヘタレだからねー』
『なんにも考えてないし』
『逃げてるの気付いてないし』
「言いたい放題だなー」
グサグサくる言葉に笑えてくる。
『その通りだし』
『うん、うん』
『後悔してるならいい』
「許さなくていいから」
恨んでくれていい。
『お母さんが嫌がるから』
『お母さん、お父さんに教えなかったの後悔してた』
『かもしれないと言ったらよかったって』
しづくが教えてくれていたら・・・。
『ダメだよ』
『お母さんのせいにしたら』
『・・・・・ずるい』
情けなくて顔が歪む。
しづくが悪いと思いそうになった。
『すぐ逃げるから』
『してはいけないこと、してたんだし』
『・・・・・、違っててがっかりさせたくなかったから』
誰が?
しづくが、だ。子供が出来ていなくて、がっかりする俺を見たくなくて言わなかったんだ。
『僕たちももう行かなきゃいけないから』
『お父さんもちゃんと休んでね』
『・・・・』
『『バイバイ』』
待ってくれ、もっと話を。
もっともっと、しづくと子供であるお前たちに罵られてもいいから、話していたい。
だから、逝かないでくれ。
『お父さん、甘えちゃダメだよ』
それは、何番目の子供の言葉?




