16.圭人6
圭人は目が覚めた。見知らぬ場所だ。
どこだろうと首を捻っていると、姉の葉月が現れた。
「圭人、起きた?」
職場で倒れ、葉月の家に来ていたんだった。
近くの机に置かれたスマホがチカチカしている。
なんの連絡だ?
「圭人、ダメよ。寝てなきゃ」
葉月が止めるが許せなかった。
「母さんから、連絡が入っていたんだ!しづくと会ったって!!
しづくと会ったのなら、あいつは絶対、しづくを傷つけた!許せるわけないだろ!」
上着を取って出掛けられるようにする。
母の瑞季は絶対しづくが傷つくことを言ったはずだ。いつもそうだ。しづくが言い返せないのをいいことに見下して、言葉を刃物に変えしづくに放つ。
「圭人君、君、倒れたんだよ」
義兄の清治が帰ってきていた。
ここで休ませてもらったのは感謝している。
「とにかく、しづくさんは、無事だよ」
その言葉にホッとするが瑞季をほおってはいけない。
「あの噂だって、あの女が流したに決まってるんだ!」
あんな噂、流すのはあの女しかいない。
清治から来たのは冷たい視線。
「圭人君、今もしづくさんを一番傷付けているのは、君だよ」
そんなこと、分かって、い、る?
しづくが瑞季に攻撃されるのも、しづくが傷ついているのも圭人の、せ、い?
ふらつく足がベッドに当たった。そのまま座り込んでしまう。力が入らない。
″子供が流れたから離婚する″
「あの噂は、しづくさんが一度目の流産の時からあった。みんなは、一度目だからと流していたけどね」
そんな噂が立つこと自体、悪意が満ちている。
その噂は知っている。だから、しづくと仲がいいことをアピールするようにしていた。
「二度目の流産の直後に、子供は無理かもと流れ出した。それでもみんな半信半疑だった。だが、すぐに違う噂が流れ出した。その時期が分かるかい?」
″子供が出来ないから、他の人に子供を生ませる″
すぐに噂が変わった?その時期?
何かあったから、噂が変わったということか?
二度目の流産の後、辛くて江里のところに行った。
「もしかして・・・?」
「そうだよ、君と木崎さんがヨリを戻した頃から、その噂が立ち始めた。で、噂は、また形を変えた」
信じられなかった。そんなつもりで江里と会っていたわけじゃない。それに江里とは隠れて会っていた。
「子供が出来たら、しづくさんと別れ圭人と結婚出来るとね」
だから、受付嬢の野村さんが狩にでた。
どうして?どうして、そんな噂になるんだ?
野村恵美は、遊びだ。向こうも愛人でいいと言って近づいてきた。じゃあ、江里は? 江里も遊び?
「俺は、そんなつもりで・・・」
そんなこと考えてもいなかった。しづく以外との子供なんて考えていない。
「じゃあ、どういうつもりだったのかい? しづくさんとは子作り、木崎さんや野村さんとは快楽だったのかい? それとも逆で、しづくさんが快楽、二人が子作り?」
違う、違う、違う。
しづくが大切だった。本当にしづくが大事だった。
「俺は、そんなつもりで抱いていない!」
しづくをそんないい加減な気持ちで抱いてない。
後の二人は? どういうつもりで?分からない。
「だから、どういうつもりで? しづくさんは君との子供を欲しがっていた。君は他の女性とも子供が出来るようなことをしていた。もし、彼女たちに子供が出来ていたら、どうするつもりだった? 生ませる? 堕ろさせる? 否認する? 黙って生んでいて、″あなたの子供です″と言ってきたら? それに、しづくさんが知ったらと考えたことはあった?」
だから、しづくに分からないようにしていた。ちゃんと気をつけていた。
「避妊は、してた!! しづくにも分からないようにしてた!」
だが、恵美から妊娠したかもと言われた。間違いだったが。
「それは、完璧?完璧といえたのかな? しづくさんにラブホテルから出てきたところを見られたんだよね?」
しづくに見られて、圭人はしづくに何をした?
頭が真っ白になる。
伸ばした手を振り払ってどうなった? まだ小さな命は流れて、しづくまで死にかけた。
「世の中に不倫している人は、数多くいるわ」
そうだ、葉月の言う通りだ。浮気なんて日常茶飯事じゃないか。
俺一人じゃない。いっぱいいるんだ、浮気してるヤツは。
「だからといって、不倫していい? 配偶者を裏切ってよい? 他の人がしているから、悪くないと?」
清治の言葉が胸に刺さる。
「不倫する者と不倫された者の思いの違いって、考えたことある? 俺は、優越感と劣等感だと思う。不倫された者は、どうしてなのか、自分の何が悪かったのかと悩むんだよ」
色々あるから一概にはいえないけどね。
れっとうかん?
だれがれっとうかんをもつ?
しづくが、劣等感を持っていた?
どんな?
子供が出来にくいしづく。
流産してしまったしづく。
圭人が浮気したのは、そのせいだと!?
しづくのせいだと悩んだ?
視線が自然に下に落ちる。
しづくは、子供のことで悩んでいたのに?
いつも気にしていたのを知っていたのに?
それが分かっていて、何故、他の女を抱いていた?
「君は、人を責めるより先に自分のしたことをちゃんと考えなければいけない」
じぶんのしたこと?
それをかんがえる?
なにをした? うわきした。
しづくになにを? きずつけた。
どうして? どうしてそんなことを出来たんだ?
「相談ならいつでも乗るよ」
清治の声が遠くで聞こえた。
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