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しづく 愚か者の列に並んだ者  作者: はるあき
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11.圭人4

 圭人は今仕事が面白かった。いや、ただ出来ることが仕事しかなかい。

 まだ、謝りに行けない。しずるの所にさえ。

 殴られて当たり前のことをした。その覚悟は出来ている。

 しづくが、何故、俺に一言もなく離婚を決めたのか、その理由を知るのが怖かった。恨み言一つくらいあって当たり前なのに。姿を消すように探さないでほしいと別れてしまった。それが何故なのか知るのが怖かった。

 本社に変わってすぐに野村恵美から呼び出しがあった。妊娠は間違いだったと言われた。そして怒られた。


『一人しか思っていなくて、その人といい関係なのに、他の人に手を出すのは、その人にも手を出された人にも失礼です!』


 殴られた頬は痛かったけど、すっきりした。

 肉食系の強烈な奴と思っていたけど、幸せになりたいと思っているただの女だった。ただ、理想が高く手段を選ばない方法が婚期を逃している気がする。当分、結婚は無理だろうと思う。それを言ったらまた怒鳴られた。


『奥さんと話し合うことから逃げた人は、黙ってて下さい』


 適当に友人を紹介してやることにした。人格は、自分で判断するだろう。

 江里は本社に移動になった翌週に退職していった。引っ越しもしたらしく、何処に行ったのか聞いていない。餞別と送別会があったが、仕事で送別会は参加出来ず、金だけ余分に渡した。幼い頃も世話になった分だと誤魔化して。

 江里のことは姉に任せた。江里か幸せになったら、いっしょに祝いを贈ってほしいと。幸せになってほしい。甘えて傷つけた分余計にそう思う。

 圭人はやっと片付いた机を見て、ホッと息を吐いた。

 箱詰めが終わった。送り状をつけて配送に回すだけだ。

 台車に乗せ総務に持っていく。

 着払いでも毎日私物の配送を頼むのは心苦しい。清治の方からも話がいっているのか、苦笑いで受け取ってもらえる。


「今日は多いですね。昨日の分もですか?」


 二箱もあるのを見て、目を丸くされた。


「すいません、お願いします」


 母の瑞季には困ったものだ。

 しづくと別れた途端、見合いの手配を始めた。

 父、幸生から、結婚の話はしばらく無しだと言われていたのにも関わらず。

 職場の机には見合い写真と釣り書の山。訪ねてくる令嬢たち。失礼なことしか出来ないから、止めて欲しいと何度も瑞季に言った。父からも言ってもらったが聞き入れない。

 しづくが気に入らなかったから、今度は自分が気に入った良家の娘をと思っている。しづくのように圭人が気になる人を見付けないうちに決めてしまおうとしているのかもしれない。


「條原さん、第一応接室に来客です」


 スケジュールで来客予定を見るが、今日()来客の予定はなかった。

 やっと広げたばかりの書類を片付け、足早に応接室に向かう。早く帰ってもらわないと仕事が進まない。

 ノックをして、応接室のドアを開けた。

 挨拶をしようと令嬢の前に立つと何かが飛んできた。


「何故婚約破棄までして、あなたと会わなければならないの!」


 髪から滴り落ちる雫を見て、令嬢に出されたお茶をぶっかけられたと分かる。

 今までに何回かこういうことがあったのでお茶は火傷しない温度で出されている。


「申し訳ございません。母にはよく言い聞かせますので。婚約破棄の件も調()()()出来るだけのことをさせていただきます」


 素直に頭を下げる。調べてと付けたのは相手の粗相が悪く破棄したほうがマシの人もいたからだ。あるいは向こうは婚約を望んでいなかったりしたこともあった。


「この責任をとって・・・」


 令嬢と一緒にいた男性がここぞとばかり話をしてくるのを遮った。


「私は離婚したばかりで、まだ再婚する気はございません。母が先走り、ご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます」


 頭を下げて、話をなかったことにする。

 泣き出した令嬢には気持ちが落ち着くまで、部屋を使っていいことを伝え部屋を出た。

 電話をかけながら、着替えに向かう。お茶をかけた令嬢に瑞季が何をするか分からない。何もないように手配しなければならない。余計な手間ばかりだ。

 窓の外には綺麗な青空が広がっていた。

 しづくもこの空を見ているのだろうか?

 無性に笑っているしづくの顔が見たかった。

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