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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第九話 戦いに備えて

 僕たちがメディックとして参加した調査団が帰って、またしばらく経った。

 ブレナークからの使者が来たそうで村長の家に向かったっていう話が出て、少ししたら村長から全員集まるようにとのお触れが出た。


 ダラム村の村長、モリックが村の広場で待っている。

 昔はハンターだったってのもあって未だに体格はとてもいい。

 年はそこまで取ってない若い村長だけど、皆からの信頼は厚い。


「今、ブレナークから使者が来た。伝達の内容は……今回の魔物の活性化についての報告とブレナークとしての方針だ」


 前回の調査の結果、明らかな魔物の活性化が確認された。

 同時に魔龍脈の変動と、それに伴うマナ濃度の変動。統率の取れた群体の確認。

 危険度判定は中程度。避難とかは必要ないけど守りを固める必要がある。

 戦力となるハンターとウィザードを常駐させ、監視と驚異の排除が必要となるため近々ここに来るらしい。


 なんか結構な大事になってきたような。

 魔物の活性化と魔龍脈の変動に関しては、恐らく無関係ではないだろうということだ。

 以前にも同じように活性化した時に変動が確認されている事が多いってこともあるらしいし。


 それで新たに魔龍脈の調査も開始されることとなった。

 国からの要請でブレナークでも独自の調査を開始。

 その結果この村の奥にあるあの森の方で僅かながら魔龍脈の反応が出ているそうだ。

 ということでその調査団もここに駐留して研究をしていく事になる。


「急で申し訳ないがここに彼らが到着するまでに、宿泊するための場所が必要となる。各自力を合わせて建設して欲しい。資金は私から出すから必要分を逐次請求してくれ。同時に食料と薬なども確保して欲しい」


 村長からの報告が終わって、各自自分たちのやることを準備していくことになる。


「エリー。中程度の危険性ってどうなの?」

「脅威自体はあるけど、まだ差し迫った危険性は無いってところね。これがもう無理って状態であれば危険度とか言ってないで避難命令が出るはずだもの」

「なるほど。とりあえず僕達がしなければならないのは薬?」

「そうね。購入する分もあるけど、自分たちで作れるものは沢山作っておいたほうが良いわ。丁度いいし薬草の群生地に行って出来るだけ摘んできましょう。そしたらひたすら調合よ」

「薬草を採ってくるのは初めてだね。ハンターの人募集する?」

「今の所近くだとそこまで危険はないけど、一応念のためにしておいたほうが良さそうね。お願い」


 □□□□□□


「ゴードンだよろしく頼む」

「ドワーフが私達に着いてきてくれるなんて頼もしいわ。ありがとう。エリーよ」

「ユウとエリーだろ?お前ら2人を知らねぇやつはこの村にはいねえさ。この斧にかけて守ってやるよ。まあ獣でもいればついでに肉も獲っておきたいところだ。この際構わんだろう?」

「そっちは私達も手伝ってあげる。なるべく多くの食料を確保しないと後で困りそうだし……。保存食も多く作って損はないはず」

「ああ、長期化して魔物が近くまで来ると、もう狩りに下手に動くことは出来なくなっちまうからな。金にも限りはあるから自分たちで確保できるものは確保しておいたほうがいい」


 ゴードンさんはこの村に来て日が浅いけど、とても頼りになるハンターだ。

 ウォリアーである彼は重武装でのゴリ押しが得意で、以前シールドボアを仕留めた人と似たような感じの戦い方となる。

 あるときは味方を守って自身を盾にするなどかなり危険な職となる。


「俺が怪我してもお前たちに治してもらえば問題ねぇ。思いっきり力を奮えるってもんだ!さあ行こうか」


 いや、怪我しないでほしいんだけどな、なるべく。


 少し前に調査に向かった森の近くへと向かい、小さめの池があるところへ来た。

 ここには薬草を育てている畑がある。

 完全に人の手で増やすことが出来る薬草なんかは、村の方で穀物と同じように栽培されているけど……そう簡単には出来ないものもいくつかある。

 ここにあるのは環境が変わると育ってくれないタイプのものだ。

 だからこの場所で増やしているというわけ。


 ここはセシリアさんの持ち物なので僕達は好きなだけ持っていける。

 ただ次のためにある程度種を取るために良いものを残して置いたりと調整は必要だ。

 今は僕も薬や毒に関する知識を教えてもらっているから大分分かるようになっている。

 今取っているのは汎用の毒消しになるもの。

 あまり効果は強くないけど、一つの効果に特化したものを作るための材料にもなる基本薬草の一つだ。


 効果を強化させるものとか、気化させて吸わせるためのものもここには大量に栽培されている。

 池の水が沢水を利用したものだから品質も良い。


 あら方取り終えたら更に奥へと進む。


 そこで見つけたウサギや鹿なんかを仕留めて捌き、肉を手に入れては冷凍してゴードンの袋の中に突っ込んでいく。

 自然に自生している薬草も見つけ次第採取。

 こういった自生しているタイプのものは見つけ辛いけど、高価なものが多い。

 当然その効果も高く、死にかけの人でも回復させられるだけの力を持つものもある。

 もちろんきちんと治療しなければ結局死ぬけど。


「ん……」

「何?魔物?」

「恐らく。多分2匹……前の方から近づいてきてる……と思う」

「なんだ?お前気配も読めるのか?すげえな……ヒーラーじゃなくてウィザードの方が向いてるんじゃないか?」

「でもまあ僕が目指してるのはセシリアさんだから……」

「そうか。さて……俺でもわかるところまで近づいてきやがったが……この感じはこっちには気づいてねぇな。獲物を仕留めようと必死になってるって感じだ、さて……ぅおらぁぁぁ!!」


 おお!ゴードンの身体からしたらかなり大きな斧を、まるで剣を扱うかのようにして魔物を両断した。

 そのまま後ろからそいつを追っていたやつの首を落とし、あっという間に危機は去る。

 やっぱハンターって強いな。

 そんな奴らがアレだけの大怪我して戻ってくるって、どんだけヤバイのがいるのかって話だよなぁ。


「ハッ!良いねぇ。アグロディアにレッドファングだ!アグロディアの角持ってくか?」

「ええ、頂くわ。これはいい高級素材が手に入ったわ」


 えーっと……アグロディアの角は……削って粉にして薬草と混ぜて抽出するとスタミナ増加と体温の上昇に効果がある。

 弱った人に使えば一時的に生命力を上げることが出来る取っておきの薬だ。


 健康な男性が摂取した場合この効果が性欲の方に出るってことで、夜のお供としても知られているものだったりもする。

 ……要するにがっちがちに固くなるってことだ。アレが。

 ただその効果故に高額となり、しょっちゅう偽物が流れては騙されている人がいる代物だ。


 アグロディアは野生の鹿よりも大きく体高は僕の倍は軽くあるけど、それを追いかけていたレッドファングはそんなアグロディアをその大きく太く発達した爪で両断できる力を持った魔物だ。

 どちらもかなり好戦的な奴らだから危険度は高い。


「ユウ、お前このレッドファングの爪欲しいか?」

「え?何に使うんですかこれ」

「武器だよ。このままだと使えんが、鉄なんぞよりもずっと強くて軽い片刃の剣が作れる。毛皮は質の良い防具に使えるぞ。……まあお前の防具はもっと良いやつだからその方が良いだろ」


 どうしよう、もらっても作ってもらわないとならないんだよな。

 ああでも持たせてもらったらものすごく軽い……大きさは今の剣の倍以上あるのに半分以下の重さしか無い。

 一本もらっておきなさいというエリーの言葉に従ってもらうことにした。


「これはハンターの特権だからな、良いもんはその場で売るかキープするかを選ぶ!今回肉は加工して食料として保存するとしても、毛皮と他の素材となる部分は全部売り飛ばして金に変える。俺のじゃなくて村全体の為にだからどれだけあっても足りんだろう」

「それだったらこれも売ったほうが良いんじゃないのか?」

「いや、ヒーラーとは言えお前達2人は戦えるって話だからな。ある程度良いものを使えばそれなりに生存率は上がる。エリーの持ってる剣はもう大分良いやつだが、ユウのは鋼鉄の剣だ。良いものではあるが魔物相手だと不足ってところだからな。それともう一つ、ユウにはウィザードの才能もあるって聞いたし魔力の扱いには長けているんだろう?それを使った剣には炎の力が宿る。上手く使え」

「へえ……こうかな?あっつ!!」


 適当に魔力を流した瞬間に、レッドファングの爪が物凄い高温になった。

 無防備にただ握りしめていた僕の手は……当然ながら酷い火傷を負ってったわけで。

 嘘だろお前って感じで見ているゴードンと、アホを見る目でこっちを見ているエリーの視線が痛い。


「エリー……」

「馬鹿なの?」

「返す言葉もございません」

「流石にアレは無いだろう……」

「ですよね……」


 流石に考え無しすぎるあの行動に言い訳すら出来ない。

 エリーの小言を聞きながら治してもらった。

 痛かった……。

 手の皮がべろんべろんになったからな。

 逆言えばアレを使えば相手を焼き切ることが出来るってことになる。


「あ、傷口を焼灼する事もできるな」

「応急処置としては良いかもしれないわね」

「……なるべく世話になりたくねぇな。っつかよく加工もしねぇで魔力通せたな?」


 通常、魔物の素材はそのままじゃ魔力を通すのが難しいそうだ。

 結構すんなり通ったけどな?

 抵抗とか感じなかったし……。


「おい、試しにこれに魔力を通してみろ」

「いいけど。……ん、固くなった!」

「マジかよ。お前すげぇな」

「正直何が凄いのかいまいちわからないんだけども……」

「あのね、通常魔物の素材っていうのはさっきも言ったけど、私達の魔力をそのまま通そうと思っても効果が発動するには至らないの。強度とかの違いもあるんだろうけど、私達の魔力とは質が違うんじゃないかって言う話だけど……。それが出来るってことは実はユウってば魔物だったり?」

「……無いとは言い切れないかもしれない……?」

「冗談よ。単純に魔力の出力が高いからじゃないの?」


 よくわからないって事だけどまあ……なんか僕の力というか能力と言うか、少しずつやれることが分かってきたな。

 魔力に関しての適正がとても高いってことはわかったから、色々と覚えて行きたいな。

 あと早くこの素材を使った剣を使ってみたい。

 ちょっと武器屋とか見たことあるけど、こういった魔法剣的なものってそれなりに値段が張るんだこれが。


 材料から作ってもらっても結局は結構高いけど。


 その後も場所を変えつつ薬草を採り、出てきた魔物を狩っては肉塊に変えていく。

 最終的にはゴードンの袋が自分の大きさを上回るほどになり、流石に帰ることにした。


 □□□□□□


 ゴードンに報酬を支払って別れたあと、僕達は村を巡った。

 捌いた肉塊はそれぞれ村の肉屋に任せて、村の倉庫に蓄えられていく。

 同じように収穫できた野菜なんかも山盛りになっていた。

 今後に備えて村の外に売りに出す分を殆ど蓄えに回した形だな。


 他の人達も食料の確保とかをある程度やり始めたり、新しい建物を建てるための準備をし始めている。

 乾燥させていた木を用意していたり、土台となる石を切り出していたり……。

 鍛冶屋は予想される消耗品の量産に入った。


「今までになく忙しそうにしてるね」

「当然よね。村を守るための壁も作らなきゃならないだろうし、明日からもっと忙しくなるわ」

「壁ってどうやって作るの?木で?壊れないかな……」

「そうね、当然大半は木材よ。だけど土魔法と石で補強もするからそうそう簡単には壊されないようにするわ。壊れなかったらそのまま村の守りになるわけだし」


 これまで考えてなかった平和な村が、戦いに備えて変わりつつある。

 僕としても、この素敵な村を捨てたいとは思わない。なんとか最後まで粘って守り抜きたいという気持ちはある。


「ユウ、エリー。荷物が届いているよ!」

「あ、マリアさん。オーゼルからの返事が来たかな?行こうエリー」


 僕達が出かけている間に届いていたようだ。

 受け取り所のマリアさんが呼んでいる。


 予想通りオーゼルからの荷物だった。

 エリーは早速商品を手にして、明かりを点けたり消したりして面白がっている。

 僕の方は手紙の返事だ。

 それと大きめの箱。……なんだコレ?


『よう!早速役に立てているみたいで嬉しいよ、早速1件注文が入ったがお前さんのお陰だろうな』


 それエリーだな。

 今も横でへぇーとか言いながら感心していた。


『で、お前さんの意見だが……今の所誰も実践していなかったようだ。1つのマギジェネレータで複数の道具を使うって発想は面白かったぞ。早速簡単だが作ってみたから考えているようなものかどうか確かめてくれ』

「ってことはこの箱はその試作品か。エリー、一旦家に戻ろうか」

「え?良いわよ。ってそれ何よ?」

「オーゼルから送られてきた。僕が考えてみたやつを作ってくれたみたいだけど、意味があってるか確かめてくれってさ」

「ええ?それかなり凄いことじゃないの?っていうか早く見たいわ、帰りましょ、今すぐに」


 ものっすごい食いつきだな。

 そういやエリーも結構こういうの好きだもんね。

 早く早くと急かすエリーを宥めながら、家に戻って早速開封してみる。


「……なにこれ?壊れてない?」

「いや壊れてないよ。……多分」


 壊れてないよな?

 っていうのも、マギジェネレータと呼ばれるマナを吸収して魔力を作り出す装置と、その他僕やエリーが購入したマナライトのようなもの、それを束ねた僕が考えた大きめのライト。

 そして他にも2つちょっとよくわからないのが入っている。


 使い方は……。

 マナライトともう一つのライトはまあわかった。

 その他の1つは、同封されていた説明書によると魔力を通すことでブレードが出る高性能のナイフらしい。

 なるほど確かに持ち手の部分だけって感じのやつがある。

 もう1つはコンパクトな魔力コンロだった。


「コンロ?火が出る所が無いようだけど?」

「あ、もしかしたら僕がやらかしたやつみたいに表面がものすごく熱くなるとかじゃない?っていうかこれ買ったら幾らするんだよ……」

「ま、今の給料なら一年かかっても無理じゃないかしらね」

「壊さないようにしよう……」


 それで……使い方は……。

 マギジェネレータのスイッチを入れる、と。あ、マナが吸われていく感じがわかる。

 弱い風がマギジェネレータに吸い込まれていくような、そういう感覚だ。

 しばらくするとポッ、と緑色の光が灯り、それがゆっくりと増えていく。


「えっと、この光は……マギジェネレータに蓄えられた魔力の量を示しているみたいだね」

「分かりやすいわね。で、これを繋げるものはあるの?」

「いや……繋げるわけじゃない、みたい?ちょっとまってね。えっとこことここをくっつけて……あ、光った」


 マギジェネレータの横にある紋章に、マナライトの尻にある紋章をくっつけるとそれぞれの紋章が光り輝く。

 その状態でマナライトのスイッチを押し込むと……明るく光り輝いた。

 なるほど。


「え、繋がってなくてもいいの?凄いじゃないこれ」

「えっとね『魔力を短距離であれば供給することが出来るから、絵に書いていたような紐は必要ない。この方法だと1台につき1個必要だったマギジェネレータの数を減らすことが出来る代わりに、供給するものの数が増えると限界を超えてすぐに魔力の供給が出来なくなるが、限界値を設定してやることでその範囲内で無駄なくマギジェネレータを使うことが出来るようになり、更には魔道具自体の構造がシンプルになったことで小型化も出来た』だってさ。これの上限はこの4つまでって感じになってるみたいだよ」

「ユウ、なにげに凄い発明しちゃったんじゃないの?低価格で無駄のない使い方ができるようになったってことよ……しかも小さくても実用的なものが出来るようになったわ。この大きいマナライトの方は前に使ってたやり方で天井に固定しておけば使えるわね」

「まさにそれを考えてたよ。ナイフの方は……」

「魔力の量である程度長さが変わるみたいね。へえ、これも手に収まるサイズで使いやすそうね」

「魔力コンロすげぇ……鍋の湯がすぐに沸く!」


 色々試してみた感じ、家の中でだったら中心にマギジェネレータを置いとくことで、全ての道具を他の場所で使うことが出来た。

 流石に家の外までとなると厳しいようで途切れてしまったけど。

 でも範囲内に入るとまたすぐに使えるようになるのはものすごく便利だ。


 というか本当にとても使える道具で、ナイフは骨も力を入れずに切ることが出来る。


「で、ユウの考えてたのってこういう事?」

「そう。もしくはこのマギジェネレータの部分だけを取り替えるっていう感じ。その場合だと1個しか同時には使えないけど、小型化は出来るって思ったんだ」

「なるほどね……。このアイディア高く売れるはずよ?ただであげちゃっていいの?もったいない」

「あ、それに関しては続きに書いてる。『この技術に関してはダラム村のユウと俺の名前で登録しておいた。試作品は確認後に感想と改良点があれば手紙にかいて返送してくれ』ってさ」

「貰えないのねこれ。でもきちんと登録にユウの名前入れてくれたなんていい人ね。これしれっと自分の名前だけで登録してそれで入った収入全部自分のものにする人もいるから」


 それは嫌だなぁ。

 今回はいい人にあたったからたまたま良かったってだけだと思おう。

 オーゼルの店は贔屓にしたいな。


「さっきから何をしてるの?あら、これあなた達買ったの?」

「ああいや、ブレナークに行った時の魔道具店にちょっと考えを送ったら、早速作って送ってきてくれたんだ」

「ユウってば魔道具の値段を下げる新しい技術を考えついたのよ。お母さんちょっと使ってみてよ。かなり凄いわよ」

「これは……ランプ?ずいぶん小さいわね……わ、明るい!こっちの大きいのも……凄い明るい!ちょっとなにこれ凄く良いじゃない!」


 セシリアさんも新しい技術となるとはしゃぐようだ。

 凄い凄いと言いながら色々と試しては、仕事の何に使える!とか言っている辺りやっぱり職業病かなって気はするけど。

 マギジェネレータの分離化で1台だけそれを買って、使う道具はそれぞれ別に安く購入できるってことを説明するととても驚いていた。


「今までちょっと高くなりすぎるから買わなかったけど、これなら魔道具を購入するっていうのも良いかもしれないわ……。欲しいものの個数とかをメモしておくから、良ければそれでどれくらいの値段になりそうか教えてもらえないかしら」

「大丈夫じゃないかな?改良点もちょっと見つけたからそのメモと一緒に送っておきます」


 セシリアさんが試作品を持ってって、実際に使ってみてどうかも試してくれるらしい。

 ナイフは重傷者だけじゃなくて病気の人の悪化した部分を切ったりするのにもちょうどいいってことで使えるみたいだ。


 もちろんコンロは持ち運びが簡単ということで、適当なところに置いて体を拭いたりするときのお湯づくりに使われる。


 しばらくそうやって使ってみてもらい、色々とどうなのかをまとめてもらったものを僕が書き起こしていく。

 ナイフをもっと細くて小さく出来ないか、具体的な大きさとかも含めて提案したり。

 マナライトの固定用の器具なんかがあると良いとか。

 どれくらいマギジェネレータに余裕があるのか分からないからわかるようにしてほしいとか。

 これはコンロとナイフとライトを全て最高値で使った時に不安定になったからだ。


 一旦返さなきゃならないことに、その便利さに味をしめたセシリアさんを始めとした治療院の人たちは残念がっていたけど。

 いや、借り物だから、これ。


 まあ最近は軽症の人しかいないからあまり活躍はしなかったけど、ナイフの方も一度だけ使った感じではものすごく使いやすかったそうだ。

 何よりもほぼ抵抗なく、しかも出血が少ないという点で手術に適しているという。

 ミスると変なとこまで切ってしまうから慣れは必要だとは言っていたけど。


 手紙とともに返送し、またしばらくして改良品が送られてきた。

 この時点でもう商品として完璧ってくらいだったわけだけど、まだ試作品だから売りには出せないという。

 一度直接話しをしたいということも書かれていたから、またエリーと僕は休みを取ってブレナークへと向かった。


 □□□□□□


 今回は途中で雨に降られたため5日かけてブレナークに到着した。

 すぐにまた宿に荷物をおいてオーゼルの店に行く。


 顔を出したら顔をきちんと覚えていてくれたみたいですぐに出てきてくれた。


「久しぶりだな!そっちの美人さんは誰かね?奥さんかい?」

「エリーよ。まだ結婚はしてないけど付き合ってるわ。前に購入したマナライト、かなり便利に使わせてもらってるわよ」

「ああなるほど、あんただったか。一緒に暮らしてるなら納得だな。ちょっと奥に来てもらっていいか?ここでする話じゃねぇんでな」


 奥へと通され、オーゼルの工房の休憩室に入る。

 案外小奇麗にしていて清潔感があった。

 弟子かな?工房の方では何人かが今も魔道具の制作を続けている。


「さて、話ってのは金の話だ」

「代金ってことかしら?」

「そうじゃない。ユウの発想は今までにないもので、魔道具の概念を変えたんだ。ってことで作ったのは俺、そして設計はユウということで登録してある。やっとかねぇと横取りされちまうからな……これから似たような事をやろうとしても、こっちの許可がないと販売できん。もう一つの付け替える方も既に同じく許可をとってある。ここまでは良いか?」

「ええ、手紙にかいてましたね」


 他の強豪相手に同じのを出されないようにするためのものだから、協会にその製法とかを登録して置かないと真似されてしまう。

 それはいい。


「で、売り出した後にかなり売れるだろうと予想できるものだからな。毎月売上が確定したら幾らかをそっちに渡したい」

「え、良いの?」

「まあ、材料代とか出店料、雇ってる奴らの給料、消耗品にと色々とカネがかかるのはこっちだから基本的には作って売る側が殆ど持っていく形にはなるんだがな。案を出すのは難しいがカネはかからない。まあそういうことだ。で、大体こういう感じで見込んで、こんな感じになるが」

「結構、売っても儲けはあまりないのね……」

「元が高すぎるからな。無駄に豪華にして高くするって手はあるがウチじゃそういうのは嫌いでね」


 1割に満たないとは言え、実質何もしてない僕からすれば……勝手に入ってくるお金だ。

 良いのか本当に。


「僕はそれで良いよ。多分それが相場なんでしょ?」

「ああ、大体そうだな。それで儲かったら工房を広げて量産したいところだ。ユウはまた新しい考えを持ってきてくれたら俺がしっかり形にしてやる」

「ありがとうオーゼル」

「それともう一つ、こういうのが欲しいってことで色々とリストを貰っていただろう。大体の金額がこれだ。そして実物がこいつだ」


 大きな箱の中に、僕達が借りていたものよりも大きいマギジェネレータが入ってた。

 その他にも更に大きいマナライトや、手持ちタイプのマナライト、細くて握りやすく取り回しも良くなった高性能ナイフがいくつか詰まっている。

 コンロも入ってるな。


「1つのマギジェネレータでそれら全てをまかなえるだけの力を持っているし余力もまだある、それぞれの紋章を工夫して番号を割り振る形に改良したし、言われていたどれだけの余力があるかを見れるようにもした。ナイフは小型化した代わりに出力は若干落ちたが、言われている性能は全て満たしているはずだ」

「あ、お母さんが言ってたやつね。大分使いやすくなってるみたいだし良いんじゃないかしら」

「勉強になったよ。ハンターと違って頑丈さよりも取り回しの良さのほうが大事だとか、聞いてないと分からんからな。そもそも使い方が少々特殊で分かりにくいんだよ、俺達には。だから良ければ治療院でどういう使い方をして、どういうものが求められているのか……実際に行って確かめたい。いいか?そのかわりにこの商品はタダでくれてやる」


 まあ、別に駄目とは言わないと思う。

 しかもあれがタダになるって言ったらセシリアさんだったら喜ぶだろ。

 エリーも問題ないって顔してこっち見てるし。


「大丈夫だと思います。是非、来てください」

「ありがとうよ!もう使える段階だし他にも色々と俺も考えたものもある。それを色んな所で売りに行くにあたってお前達の所の治療院が協力してくれたってことも言うつもりだ。最新の設備で最高の治療を!ってな!」


 ブレナークだけでなく、国中の治療院に売りつけるつもりらしい。

 それだけでなく、大きな設備が必要だった他の所も全てが対象だ。


「あ、それなら今まで使っていた魔力生成装置を改良するってサービスも出来たり……」

「お前天才か?そしたら最初から作るよりもまた安くできそうだ。なんか楽しくなってきた……腕が鳴る」


 名前を売りまくってやるからなぁ!と吠えるオーゼル。

 いや、それは止めてほしいんだけど……。

 言ったところで全く聞いてもらえるわけもなく。

 僕を置いてけぼりにしてエリーとオーゼルが主に話を進めていってしまった。


 結果、僕にはかなりの報酬が。

 それを預けるための金庫を契約することになった。

 オーゼルは僕達が帰る時に一緒について来ることになったので、まあ、特に用事はないから明日には帰るだろうな。


 それにしても僕の治療費、もう支払えるなこれ……。

 っていうか、家を構える事もできるんだけど。

 うわ、どうしよう。

 いやまあまだ売れてもないのに分からないし?

 色々分かってきたら……うん、そうだな。今浮かれて変なことしたら、予定通りに行かなかった時ヤバイし。


 うん、まあ、今までどおり地道に稼ぐのも続けよう。



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