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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第七話 初めての試験

 ブレナークに到着して宿を借りた僕達は荷物を置き、僕の仮の身分証をきちんとしたものにしてもらうために役所へと行く。


 改めて外をきちんと見ると、綺麗に敷き詰められた石畳に石造りの家々。

 かなり丈夫そうな建物が多い。

 木でできているところでも、村で見ていたようなものではなくもっと凝った作りだったりして、見ていてとても面白かった。


「あの建物は何?結構大きいけど」

「ああ、あれ?公衆浴場ってやつよ。ブレナークでは水を温めて大きな浴槽溜めてね、そこに入って体を温められるの。身体は浴槽の外で洗ってからとか細かい決まりはあるけど……とっても気持ちいいわ。用事が終わったら一緒に行きましょ?」

「へえ!お湯に入れるの?すごい贅沢じゃないか。高くない?」

「それが意外と安いのよね」


 というのもブレナークでは衛生という物をかなり大事にしているようで、治癒術士たちの意見などを取り入れて色々な事を実践しているらしい。

 わかりやすいのはトイレ、ゴミ、浴場だ。

 便は決まった場所でのみ許可されているため、街なかにいくつか公衆便所が置かれている。

 それを処理するために地下を掘って汚物だけが流れる水路を設けて、きれいな水に浄化した後に川に流しているそうだ。

 これは便に含まれる毒素や菌によって病気が広がるのを防ぐ目的がある。


 次にゴミ。

 大分苦労はしたようだけども、今ではゴミも決められた場所に捨てるという習慣が出来ている。

 その辺に適当に物を捨てると捕まるそうだ。

 単純に見た目が汚いというだけでなく、ゴミが溜まることで病気を媒介する生物が増えることを防ぎ、悪臭を減らすということが出来る。


 そして浴場。

 これは直接人が清潔にすることで病気になるリスクを減らすということだった。

 また温泉が湧き出る所などで言われている疲労回復などの効果もある。

 多くの人が利用するってことでものすごく建物自体が大きいくて、中も相当広い。

 中央にいくつか浴槽があって、周りには座ったり寝たりして休めるところがあったり。

 普通の市民用と上級市民、貴族用とそれぞれ作られてるから変なことにはならないみたいだ。


 このブレナークの市民達は最低でも週に一度は入るようにとお触れが出ているらしく、そのため利用料はとても安い。

 当然週に一度といわず毎日来る人も多いという。

 そりゃぁお湯が使い放題だったら行くよね。


「前に来たときはお湯に浸かって身体を洗っただけだから、他のも色々試してみたいなー」

「なんかあるの?」

「とっても広い浴槽の周りで、色々と商売している人達がいるのよ。身体をもみほぐしてくれたり、垢すりって言って身体の汚いのを落としてくれる人が居たりね。……後はまあ……端っこの方であれなことをしてるところもあるけど」

「なにそれ」

「まあほら、男の人って溜まるじゃない?それをすっきりさせてくれる所。ユウも行ってみたら?」

「……い、いや、遠慮しておくよ……」

「まあ賢明ね。それが原因での性病って多いみたいだし。そのうち何か対策されるんじゃないかしら」


 それは怖いな。

 でも単純に面白そうだ。ぜひとも入ってみたい。


 しばらく歩いていくと宿屋街からお店が立ち並ぶ活気のある通りに出てきた。

 ここは門に通じる大通りのとこだったな。

 ……めっちゃいい匂いが漂ってきて腹が減ってしまうなこれ。

 焼き立てのパンの香りとかしばらく保存食しか食ってないと物凄いごちそうの匂いに感じる。


 これが都会ってやつか……。


 その奥に大きな建物があり、そこが役所のようだ。

 エリーに続いて入っていくと、何かしらの手続きのために人がたくさんいる。

 僕と同じ目的の人も多い。

 なんかオレが先だ!とか小競り合いが始まって、当人たちがあっという間に警備兵に連れて行かれる。


「暴れりゃああなるに決まってるのに。ユウも気をつけてね」

「いや流石に暴れるとかしないから」


 無事に手続きが終わって、僕のプレートが発行される。

 色々と説明は聞いたけど大体エリーが言っていたとおりだった。

 便利だけどなくすとヤバイから、横で売ってたケースに入れて首にかける。


 時間がかかったから流石にご飯を食べて、一旦また宿に戻って荷物を整理してから今度は浴場へと向かった。


 □□□□□□


「……脱衣室が分かれてる意味があったのか?」

「服を盗られたりしないようにじゃないの?ちゃんとお金とかは持ってきたわよね?」

「もちろん。それにしても……めちゃくちゃ広いなぁ。しかもものすごく暖かい」


 浴場に入ったら普通にエリーも出てきた。

 よくみれば普通に男女混ざって湯気の出ている巨大な浴槽に入ってる。

 まるで四角い池って感じだけど。


 聞いていたとおりに浴槽の脇はとても広いスペースになっていて、そこらで色々なサービスを行っていた。

 ……多分あの奥にあるカーテンで仕切られたところは……アレだよな。


 エリーに促されて浴槽に入っていく。

 最初は少し熱いと思ったけど……すぐに体が慣れて凄く暖かくて気持ちよく感じるようになる。

 エリーも気持ちよさそうにしているな。


「暖かいお湯がこんなに気持ちいいなんて……」

「ここでもなきゃこんなに大量のお湯を沸かすとか難しいでしょうね。川から引いた水を加熱用の魔道具を通して温めてるそうよ」

「あー……これ毎日入りたい……村でも作れないかな」

「やれないことはないけど、魔道具はとても高価なものよ。薪は冬に備えて沢山ためておいたほうが良いしこんなので消費したら怒られちゃうわよ」

「だよなぁ」


 エリーと一緒に垢すりってのをやってみた。

 粗目の布でめっちゃこすられて痛かったんだけど、ぼろぼろと垢が落ちて行くのはすごかった。

 まあ肌が真っ赤になったんだけど。

 その場で料金を払ってサービスを受けるってシステムで、お金を持ってこないとだめな理由の1つだ。

 まあ一番の理由は盗難防止。

 持って歩くのが一番安全ってわけだ。


 そしてマッサージとやらを受けてみたわけだけど……。

 気持ちいいけど脇腹とか太ももとかがめちゃくちゃくすぐったい!

 だけどオイルのいい匂いと、段々にもみほぐされていってじんわりと暖かくなるにつれて眠くなっていった。


 部屋全体が暖かいからずっと裸でも全然気にならない。

 むしろなんというかものすごく開放的でリラックスできる。

 眠れそう……って思った時にちょうど終わってしまったのが残念でならない。

 エリーも終わって僕の方に来たけど、いつもと違って艶のある肌が妙に艶めかしい。

 いつも見ている感じとは違ってこう……ピンク色にほてった肌にオイルで少し艶の出た肌が……。


「ユウも終わったのね、……ずいぶん気持ちよかったのね?」

「ちょっとくすぐったかったけど、ちょっとこれはまたやりたいね」

「そうじゃなくて、それ」

「え?うわぁ!?」


 それ、と指さされた股間を見下ろすと……ちょっと硬くなったものが。

 ちがう!そういうんじゃなくてむしろこれは……ああもう!


「ち、違うんだ、これは違う」

「分かってるわよ、生理現象だもの。男の子は不便よねぇ、見た目で分かっちゃうんだから」

「うぐっ……」

「まあ……こんな感じのところよ。凄く良いでしょ?」

「それは本当にね」


 皆が毎日来るってのもわかる気がする。

 暇な人は一日中営業が終わるまで居座ってるらしいけど。

 でもこれが推奨されてるってことは衛生にはとてもいいことだと思う。

 肌についた菌によって病気になる事があるわけだから、その危険性を下げることが出来るだろう。


「体を温めることで色々と効果もあるみたいだけどね?それにこっちに来るまでの疲れも大分取れた感じしない?」

「……確かに。マッサージしてもらった後だからかな?とっても身体が軽い気がするよ」

「今回は色々あったし、特にユウは初めてだったでしょ?大丈夫?」


 ああ、そう言えばそうだった。

 言われてみればって感じだけど、僕は……でも意外とあまり気になっていないかな。

 そういうのは普通だって分かってるし、そもそも殺らなきゃ殺られるって状況だったんだ。


 っていうかまあ死体とかひどい怪我とかを見慣れてるせいかな、あまり衝撃はなかった気がする。


「そ、なら良いけど。しばらくその時の状況を思い出したりして苦しむ人もいるって話だから。ユウが平気なら問題ないわね」

「正直腹の中身がぶちまけられて生きてる人の方が衝撃だったよ。色んな意味で」


 魔物との戦いとかでは一瞬の気の迷い、一瞬の油断が命取りになってしまう。

 一匹を倒して安心したところをもう一匹やつに掻っ捌かれた。

 あれは僕が手伝った中ではかなりの重症で、死ぬかどうかの瀬戸際だったのは間違いない。

 ただその患者が意識があって自分がどんな状況なのかが分かっていたのがとても怖かった。

 溢れる、溢れると泣き叫んで居たのを思い出す。


「……まあ、確かにウチの治療院のほうがアレなのを見る分耐性あるわよね」

「ただちょっと怖くもあるね。確実に治療できないやり方ってのを知ってるわけだし」

「そうね、だからこそ暗殺とかを主に仕事にしている人たちは治癒術にも通じてる場合があるそうよ。ま、今はとりあえず試験のこと考えましょ。疲れも取れたし宿に戻る?もう少し見ていく?」

「んー……まだ僕は6日残ってるんだっけか。ゆっくりでいいから今日はもう帰ろう」


 この公衆浴場はもう最高だった。

 結局帰るその日まで僕は通い続けたのも無理はない話だと思う。


 □□□□□□


「おお……凄い。トイレに水が流れてる」

「全部つながってるから他の人の出したやつがたまに流れてくるんだけどね……。でもこのおかげで溜まらないから匂いがほとんど無いのは助かるわよね」

「ほんとにね。これ考えた人凄いな」

「街を作る段階から相当に考え抜いて作ったものらしいから……。だからこの街で勝手に穴をほったりするのは禁止されてるの。水路をぶち抜いたら洒落にならないもの」

「そりゃそうだね」


 便が落ちる部分を覗くと、下の方で結構な勢いで水が流れている。

 便器自体にも常に少量の水が流れていて、汚物はそのまま下に落ちて流されていく仕組みのようだ。

 これも川の水を利用しているようだけど……立地の条件が良くてもこれをきちんと作り込むのは難しかっただろう。

 まして今ボクたちがいるのは2階だ。

 一々水を上に持ち上げる必要がある。


 ただ衛生という点では確かにとても考えられていると思う。

 悪臭も気にならないし汚いものを触ってしまうこともない。


 部屋をよく見ても、きちんと清掃が行き届いているようだし……あの浴場があるためか湯おけを頼むと大分高めになっていた。

 まあ使わないけど。


 部屋は簡素と言えば簡素。ベッドが2つ並んでて小さな机があるだけだ。


「ん?ランプがない?」

「夜光石よ。外が暗くなると勝手に明るくなるから大丈夫。そこまで明るくないけど便利なものよね。消したくても消せないからそこに黒い布があるでしょ?」

「ああこれそのためにあるのか……。便利っちゃ便利だなぁ。油要らないんだから」

「油は要らないけど毎日魔力の補給とかの手入れは必要ね」


 実際日が暮れてくるとほんのりと明るくなって、完全に夜になると部屋全体がきちんと見渡せる程度には明るくなった。

 外の暗さによってあかるくなるとか面白いなこれ。


 ともかく、夕飯をしっかり食べてその日は休み、次の日から僕の試験の日までは宿と浴場を行ったり来たりして過ごした。

 公衆浴場最高。


 □□□□□□


「ユウ、適性試験合格おめでと!」

「ありがとう。っていうか……あれで落ちる人いるのかな?」

「いるわよ?今回は47人受けて34人合格。ね、落ちてるでしょ」

「ホントだ」


 結構常識的なこととかしか聞かれなかったんだけどな。

 落ちた人の大半は知識不足か魔力不足が大きな原因らしい。

 後は性格に難ありとか、落ち着きがないなどで不安がある場合も落とされる。


 ……確かにずっとキョロキョロしたり立ったり座ったりと挙動不審なのが居たなぁ。


 午前中に適性試験を受けて、午後にはもう結果発表があったわけで……僕は無事見習い試験へのスタートラインに立てたってわけだ。


 そして翌日……。

 僕は見習い、エリーは初級試験へと望む。


 内容自体はほとんど今まで手伝ったり、エリーに教え込まれた内容以下の問題だ。

 はっきり言って楽勝。

 さっさと終わらせ、提出して……これで終わりかと思ったら、面接と魔力測定があった。

 油断してた……これは聞いてない。

 ヒーラーとなってどうしたいのかとか、そういう考え方から、少し突っ込んだ実技に近い質問だったり色々と聞かれて疲れた。

 その後の魔力測定ではむしろ驚かれる程度にはいい成績が出たからこっちは問題ないと思う。


「……疲れた……」


 半ば放心気味に思わず口をついて出てくる。

 体力じゃない、精神的に疲れた。

 初級のエリーはもっと大変だろう。科目が多いから僕よりも少し時間がかかる。


 さて……時間までちょっと見てないところを見てくるか。


 □□□□□□


「オーゼル魔道具店……。めっちゃ気になるな!」


 高価なものってのは聞いているけど、こうして間近で見れるとなればみたいに決まってる。

 どっしりとした重厚感漂う入口をくぐって、中にはいると……昼間にもかかわらず煌々と明かりが灯されていてとても明るい店内となっていた。

 これも魔道具なのかな。


「いらっしゃい!何か入り用かい?」

「あ、えっと……魔道具に興味があって……見てもいいですか?」

「おん?職人目指してるのか?」

「いえ、僕は治癒術士を目指してまして。今日見習いの試験を受けてきたところです」

「ほう!ヒーラーか!ならもしかしたら未来のお客さんかもしれねぇな!見ていくが良い、わからないことがあったら教えてやるよ」


 出てきたのは僕よりも背の低い、でもものすごく筋肉質な人。

 ドワーフだ。

 整えられた髭に真っ赤なバンダナをして、丈夫そうな革のエプロンを付けている。

 結構迫力ある顔しているけど、基本的にいい人が多いんだよな。

 ただ酒が入ると面倒くさい。

 そして怒らせると死ぬほど怖い。


 暇だったようで色々と解説してくれながら商品を見せてくれた。

 思ったとおりと言うか、結構高い。


「やっぱり結構高いんですね」

「そりゃぁな。だが治療代だって安くはないだろ?技術を持っているものしか作れん上に、その技術も高度でなければまともに動かん。原料も高いからどうしたって高くなる。……もっと安くできりゃぁ皆に広がるんだろうがな」

「ですねぇ」

「ああ、だがこれはそんなに高くないぞ。魔力充填式のマギライトだ」


 燃料の代わりに魔石を使って、魔力を補充することで発光する。

 だけど大きさがとても小さくて僕の手の大きさとほぼ同じくらいの筒状だ。

 先端の方にとても小さな魔石の欠片が埋め込まれていて、磨き込まれて鏡のようになった曲面が着いている。


「使い方は単純だ。魔力を通してみろ」

「こう……うわ明るい!」

「だろう?魔力を通じる強さで明るさが変わる。だが魔力を充填するための魔石を省いているから常に魔力を通じなければならないが……なかなか便利だぞ。クズ石で作れるし、材料も少なくて済む上に、見ての通りグリップは木製だ。かなり安くすることが出来る」


 なんでも店主が暗いところを探す時に、一々ランプ持ってきてってのが面倒だから、ポケットに入る程度でその時だけ点灯してすぐに消せるものを適当に作ったら意外と使い勝手が良かったそうだ。

 ただクズ石なのであまり魔力を流し込むと破裂して壊れてしまう。

 そうなる前に警告のために色が変わる仕組みが付いているそうだから安心だ。


「これだと1つ1万マグル。どうだい?」

「んーーーーーーー……買います!これ便利ですよほんと。明るさ変えれるのも良いです」

「明るさが変わるのはまあ、手抜きの結果ではあるんだが……。短時間使うような使い方ならランプ持って来るより遥かに楽だからな。ついでだ、これ付けてやるよ」

「これは?ああ、専用のケースですか?」

「俺が使ってたんで金はとらん。くれてやる。ベルトで腕とかにも括り付けることが出来るぞ。使ってみて良かったら宣伝してくれよ」

「分かりました。オーゼルさん、でいいのかな?」

「ああ。俺がオーゼルだ。頼んだぜ兄ちゃん、ヒーラーになったら色々買ってくれよ。なんならオーダーしてもらっても構わんぜ。高いがな」


 オーダーしたら物凄い額取られそう。

 まあ上級にでもなれば100万マグルでも購入できるし……頑張ろう。


 それにしても良いものを購入できた。

 ちゃんと動作するのは確認済みだし、オーゼルがくれたこのホルダーは腕に付けたり、肩のところにつければ前を照らし続けることも出来てしまう。

 いやこれ本当に便利だぞ!


 セルフチェックで確かめてみるけど、そんなに魔力も消費しない。

 これはいい買い物をした。

 光量もあるから手伝いの時に傷口照らすのに良いかもしれないな。


 他にも色々と見せてもらえたけど、桁がもう2つ違うのが当たり前って感じだった。

 うん、それは無理。


 ただとても興味深い魔道具はたくさんあった。

 個人的に一番欲しい!と思ったのは魔力湯沸かし器、マナボイラーだった。

 小さいものでもめちゃくちゃ高い……。


「仕方ねぇさ、魔力の生成用の部品を作るのがとてもコストが掛かるんだ。だが個人でその分をなんとかしようとしてもあっという間に魔力切れになっちまう。魔道具が高価な理由は全部それだな」

「なるほど……」


 マナを集めて貯蔵用の魔石に溜めていく仕組み。これがものすごく高価らしい。

 逆言えばこれが安く、性能が良くなれば。もっと安く、もっと小さく出来るということだった。

 はやく安くなってくれ……。


 魔道具店を後にしてもまだ少し時間がある。

 さてあまりお金は使いたくないけどどこ行ってみようかな。

 あ、新しいペンが欲しいな。

 折角ブレナークに来たんだからちょっと良いのを買ってってみたい。


 良さげな店を見つけて入ると、色々なものが沢山置いてあって目移りしてしまう。

 簡素なやつから少し凝ったデザインのもの、金属製のもの。

 頑丈!ってやつもあった。なんに使うんだ。


 長く使いたいってこともあって、ペン先と一緒に二本ほど選んで購入した。

 普段遣い用と、自分の部屋で大切に使うものって感じだ。

 個人用のは少し凝ったやつにしてみたけど、なかなか僕の好きなデザインがあったんだよね。

 暗い木目の落ち着いたデザイン、金の金具が付いたとてもいい感じのものが案外安かったのだ。

 かっこいい。


 そろそろ時間か。会場に戻ろう。


 □□□□□□


「エリー!」

「ユウ、ずっとそこで待ってたの?」

「いや、ちょっと買い物して戻ってきたんだ」

「そうなの。私も買い物してこようかな?」

「あ、じゃあ付き合うよ」

「いいの?ちょっと服を買いに行きたいのよね」

「……服か……考えてなかったな」


 そういえばこの服も大分くたびれて来たな……。

 新しいのを買っても良いかもしれない。


「そういえば試験どうだった?」

「……疲れたわ。魔力も6割方使っちゃったし。何よりも面接とか前回辺りから取り入れられたみたいで追加されてて……」

「あ、エリーも知らなかったんだ」

「知ってたら少し対策してたわよ。ま、特に難しいことはなかったと思うわよ?ユウは楽勝だったでしょ」

「まあ、楽勝かは分からないけどいい感じだったと思うよ。多分合格できてると思うけど」


 流石エリー。自信満々だ。

 それにしても魔力6割も使うって、どんな内容だったんだろうか。

 面接に関してはもうどうしようもないよなぁ。

 最近組み込まれたなんて知らなかったみたいだし……村にいると情報遅れるのはどうしようもない。


「あ、ここね。行きましょ」


 そうこうしていると服屋に到着したようだ。

 服飾店キアーズ……ちょっとした防具とかも売ってるみたいだな。

 あ、この革の服いいな……かっこいい。


「へえ、ユウってこういうの好き?」

「まあそうだねぇ……いつもは動きやすい布の服だけど、こういうのもかっこいいと思わない?」

「んー……うん、似合うんじゃないかしら?」


 要所要所補強が入って、それでいて動きやすいように布と革をうまく使い分けた感じだ。

 ベストもちょっと好みなんだよね。

 こうやって街に来るときとかに使いたい。


 ……買おうかな……うう……高いなやっぱり……。


「いいわ、それ買ってあげる。中で寸法計ってもらって。どうせ合格してるでしょうから合格祝いってことで」

「え、まだ発表もまだなのに……」

「ふっふーん、私の弟子がそう簡単に不合格になるもんですか。絶対合格よ!あ、すみません採寸お願いします」


 有無を言わせず採寸へ連れて行かれる。

 エリーも採寸してもらって自分の服を選び始めた。

 基本的にはこういう物があるよって感じで店先とか店内に服を並べておいて、採寸してからオーダーって感じになる。

 だから結構デザインはこっちの自由になるみたいだ。


 ……楽しみだな。

 出来上がったら村に直接送ってくれるそうだからしばらくかかる。


「エリーはどういうのを?」

「そうね、動きやすさ重視のもだけど……そろそろお出かけ用のも欲しいのよね……あ、これなんかどうかしら?」

「なんか今までと全然違ってて想像つかないけど、なんかとっても良い服だね。エリー可愛いし凄く似合いそう」

「……ユウ、なんでそういうセリフさらっと吐けちゃうかしらね……」

「?」


 ちょっと赤くなったエリーだったけど、嬉しかったのかその服を選んでお金を支払っていた。

 濃いめの青のベストに白いスカート。

 ベストと同色のオーバースカート?だったっけ?なんかそんな感じのやつが、遠目からだとコートを着ているようでかっこいい。

 だけど、エリーが着ると多分……そのかっこよさにエリーの顔の可愛らしさが入ってとてもいい感じになりそうなんだ。


 出来上がりが楽しみだな。


 店を出た後、一緒に食事をとって夜の浴場へと向かい……ちょっとだけお酒を買って宿でゆっくり2人で飲んだ。


 試験、本当に疲れた……。

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