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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第六話 ブレナーク

評価ありがとうございます!

じわじわポイント増えてきて嬉しい……。

「よう二人共!結婚はいつなんだ?」

「けっこ……!まだだよ!」


 何だこの罰ゲームは。

 エリーと恋人になったら村を上げて冷やかしまくってくる。


「いい加減慣れなさいよ。小さな村だからそれくらいしか無いのよ」

「それはそれで問題しか無いと思うけどな」

「それより……準備整えないと駄目よ?ブレナークまで馬車で3日から4日かかるわ。その間の食事とかその他諸々は全て自分で用意しなきゃならないの。他の人に分けてくださいっていうのは最悪の行為よ」


 そりゃぁ……そうだよな。皆自分たちの分しか持ってきてないのに、そんな余裕あるわけないし。

 緊急時ならなおさらだ。


「分かってるよ。とりあえず行きの分だけで良いよな?」

「それでいいけど6日分くらいの余裕を持って持っていったほうが良いわ。何があるかわからないから」

「ん、じゃあそうしよう」


 僕達は試験のためにブレナークまで移動する。

 試験まではあと10日位あるんだけど、道中トラブルがない方が少ないから余裕を持って出るのだ。

 向こうについたら宿を借りてしばらくブレナークでの生活となる。


 あの村から出たこと無いから、今回が初めて村から出て他の場所に行く事になる。

 当然ものすごく楽しみだ。

 どんなところなのか、大きいのか、人はどれくらいいるんだろうか。

 行くのが本当に待ち遠しい。


「あ。身分証持ってよ?それ無いと本当に面倒くさいんだから」

「大丈夫、ずっと持ってるって。でもこれ仮なんだろ?」

「そ、ブレナークでちゃんと領主様に正式に認められたっていう証明書を貰えるわ。こんなやつ」

「綺麗だよね。銅……でもないのかな?独特の色合いだ」

「これは普通の金属じゃないわ。魔法金属でプロセルコスってやつ。魔力の通りが良くて、一度魔力を固定化させると絶対に変化しない特性を持ってるわ。だから身分証として使われてるの」


 微弱な魔力であっても反応し、登録者の魔力を記憶する。

 その記憶をとある方法で固定することで個人の魔力の情報を記録することが出来るというわけだ。

 まあ、絶対に変化しないとは言っているけど、廃棄される時には鋳潰して別なものに変わるらしいのでなにか方法はあるらしいけど……それは完全に秘匿されていて普通は分からないみたい。

 手のひらに収まる程度の小さなプレートには何処の出身の誰であるかが刻まれていて、その出身地の領主の紋章がその上から焼印でも押したかのように描かれている。


 小さいから大抵は穴に紐を通して首にかけるか、大切に服に縫い付けておくとか、色々な方法で常に持ち歩いている。


 僕のはまだ仮だから、改変禁止の魔法のかかった紙切れだ。

 これはこれで結構高いものらしい。

 ただ僕は両親がいないため、セシリアさんと村長さんの連名で僕の素性を保証している形となっている。


 これをまずブレナークに付いたら正式なものと交換してもらわなきゃならないのだ。

 無ければ身分を証明できないわけで、街に入る時にものすごい金額を担保に取られる。

 普通の人には絶対出せない金額だった。

 その他にも何かがあれば真っ先に疑われたり、なんなら物を売ってもらえなかったり……不便なことこの上ないという。


 絶対なくさないようにしなきゃな。

 この紙切れも今は僕の生命線だ。


 一通り村で食料などを買い込んで、家に帰って荷物にまとめていく。

 勉強道具とか服とか色々と詰め込んでいったら物凄い量になった。


「ユウ、ちょっとこっちにいらっしゃい」

「なんですか?セシリアさん」

「初めて旅立つあなたにこれを渡します。きっと役に立つはずよ」


 ずっしりと重たい包を渡された。

 開いてみるとそこには一振りのナイフと、手入れ用の小さな砥石。


「あっ、それお父さんの」

「ええっ!?そんな、受け取れないですよ!」

「いえ、私達の家族となる人なんですから、受け取る資格はあるわ。ね、エリー?」

「う、うん。そうね。もう木剣だけじゃなくてきちんとした刃物も扱えるようにならなきゃね。木工で鍛えてるからどうせ手入れは楽勝でしょ?」

「……確かにいつの間にかこの家も、ユウの作ってくれたものが沢山増えたわねぇ。」


 セシリアさんがしみじみという。

 確かに、僕は洗濯機を改良した後も、家の家具が壊れたと言われて修理して、修理できなければ新しく作り直したり……これがあればいいのにと言われれば作ったりを繰り返した結果、僕の作ったものが大半になってきたのだ。

 よく作ったなこれだけ。


「それに初めての旅立ちの前にナイフを贈るのはこの国の風習よ。家から出ればもうそこは安全な場所ではない、自分の道は自分で切り拓かなければならない。道中の幸運を願うお守りとして、そしていざとなれば自分の身を守るための道具として、親しい人に贈るのよ」

「なんか、本当に……ありがとう。見ず知らずの僕を引き取った上にここまでしてくれるなんて」

「いいのよ。あなたが来てから本当に楽しいんだから。だから受け取っていいのよユウ。そして無事合格して戻ってらっしゃい」

「分かりました。大切にします」


 兵士が使うにしては少しデザインが凝っている、大きめのナイフ。

 お守りとしては大きすぎる気がしないでもないけど、その重さがとても心強い。

 むき身じゃ危ないからさくっと鞘を作って腰に下げた。

 ……うん、いいな。


 □□□□□□


「馬車が到着したわよ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

「任せて。前と同じように一発で合格してくるから!」


 荷物と一緒に幌馬車に詰め込まれて、僕らは村を出発する。

 客は僕達以外は居なかったからのびのびと出来る。……まあ、その分大量の荷物に圧迫されてるから快適とは行かないんだけども。


 荷馬車は二台。

 片方は荷物満載、片方は半分ほどで、その空きスペースに僕達を乗せてもらっている。

 その他に別な馬車が一台。

 あっちには馬の世話をする従者と餌が積まれているそうだ。

 3頭の馬の分となるとかなり大量に持っていかなきゃならないとは……考えてなかった。

 さらに護衛が二人。

 ちょっとした襲撃には耐えられるだろう。


 ガタゴトとちょっとした段差で大きく揺れる馬車に尻を叩かれ、なれていない僕はあっという間に知りが痛くなってしまった。

 エリーはどうしているのかと思ったら、服とかを下に敷いてクッションにしている。

 ……その手があったか……。


「教えてくれてもいいじゃないか……」

「聞かれなかったし。それにただの時間の問題よこんなの……休憩のときにはもう私も痛いから」

「そっか……。あ、もう村が見えなくなった」

「まあ一応御者の他に護衛付いてるから安全だと思うし、休憩まで寝ましょう」

「そうするか。天気はいいし暖かいし……この揺れさえ無ければ熟睡できそ」


 そうは言いつつも、しばらく目を閉じていたらいつの間にか眠っていたようだ。

 ゴトゴトと道を外れたような揺れがあり、馬車が止まる。

 なにかと思ったら休憩のために止まったようだ。


 まだ結構明るいけど……。


「馬を休ませるのに必要なのよ。餌の節約にもなるし、何よりも水を補給しなきゃ。ほら、ここには流れが緩やかな川があるの」

「おお……。あっ、僕の水筒にも補給しておこう」

「それがいいわ」


 このまま今日は野営して翌朝早くから出発する。

 もちろん途中で水場を経由しながらだ。


 そしてまだ大分暗くなるには早いのに休む理由は……馬の世話だった。

 餌と水の他にも蹄のケアとかブラシを掛けてやったりと色々とやっていたけど、これがかなり時間かかる。

 馬車本体の方もしっかりと確認しておかないと、突然車輪が外れたりなんかという事故が起きる。


 そして火を熾して、魔物よけの香を投げ入れて各々のやるべきことを淡々とこなしていった。


 僕達は二人で荷台にそのまま寝ることにして、野営用の小さな調理器具でちょっとしたご飯を作る。

 時間がなければそのまま食べられる保存食をかじるけど、こうやって時間があるときにはちょっとした料理をしたほうが絶対にいい。

 塩は多めに持ってきてるから濃い目の味付けでしっかりと塩分を取る。


 じゃないと汗をかいて倒れてしまう。


 セルフチェックでも脱水症状までは行かなくても、少し水分の補給が間に合ってない感じだったから気をつけないと。

 寝てる間に脱水で起きれなくなったら洒落にならないな。


 グツグツと煮えてきたスープに固いパンを浸して食べる。

 塩味が効いていて美味い。


 やることがないからエリーと二人で川原の石を使って魔法の練習をした。

 感覚と目と筋力を強化。

 眼の前に迫る石を撃ち落とし……その後ろに隠れていた石が目の前いっぱいになったのを知覚。

 盛大に眉間にぶち当てられた。


「いってぇぇぇ!?それは卑怯だろ!?」

「甘いわね。実戦ならやる人もいるわ」

「練習だぞ今は!」

「はいはい。次行くわよ!」

「うおおおおっ!?」


 3個連続とかふざけんな!


 それでもしばらくやってるうちにコツを掴めてきた。

 撃墜率は8割りになったところで暗くなってきたのでやめることにする。

 ああ疲れた。

 エリーに癒やしてもらっていると、護衛の一人が近づいてくる。

 むっさいひげのおっさんだ。


「村人かと思ってたがヒーラーとウィザードか?いつもあんな訓練してるのか?」

「見習いヒーラーとその駆け出しよ。いつもはもう少し楽な感じだけど暇だから遊んでみただけよ、何か用かしら?」

「遊びでやるレベルじゃねぇと思うがな。にしても二人共ヒーラーか……ってことはブレナークへは試験だな?」

「そうよ」

「なるほどな、こりゃしっかりとブレナークに無事届けないとならねぇな」


 頑張れよ。と言い残して戻っていった。

 これから夜になるから周囲の警戒に戻ったのだ。

 見かけによらずいい人だったな。


 僕達ヒーラーは優遇されてる?


「当然よ。彼らが怪我した時誰が治療すると思ってるの?自分の怪我を治すというのは、簡単なものならば私達じゃなくても出来るけど、ある程度大きい怪我なんかになると自力じゃ無理よ。私達のように専門の知識を持つヒーラーじゃなければ対処できないことなんてしょっちゅう。だからハンターの人たちとかはヒーラーを大事にするの。……粗末に扱った場合、何かあった時に助けてもらえなくなるのは自分ってわけ」


 なるほどね。

 ある意味死活問題でもあるわけだ。

 ただでさえ数が少ないヒーラーに見放されたら死ぬしか無い。

 狭い業界だからそういう事をする人は情報共有されてしまうらしいし、何かあった時に何処にも受け入れてもらえず死んだ人もやっぱりいるようだ。


 暗くなり、僕達は眠りにつく。

 その日は特に何もなく朝を迎えた。


 問題が起きたのは二日目の昼のことだった。

 木々が生い茂っているものの、馬車がすれ違うことが出来る程度に広い道を通っていたときだ。

 先頭を行く馬車が停止し、従者の人たちが走って先頭に向かっていった。

 僕たちも降りてみると、大きな木が横倒しになっていて道を塞いでいる。


 と、唱えても居ないのにセルフチェックの表示が目の前に現れた。

 いつもは薄青色の板の表示が今は赤い。

 今までにない事に少々驚いていると、新しい表示が現れていた。


「……接敵中……?まさか、敵襲?!」

「え?なんで分か……」

「敵襲だ!馬車の中へ!!」


 エリーが僕に聞き返そうとした途中で、護衛の一人が叫ぶ。

 慌てて馬車の中に入るとタン!タン!と嫌な音がした。


「ユウ!荷物の間に隠れて!矢よ!」

「うっそだろ!?」


 眼の前をかすめる幌を突き破った矢が、床に突き刺さる。

 荷物の間に入れば矢は貫通してこない。

 護衛の人たちが何やら叫びながら相手をしているようだけど、こっからじゃ全く見えないな。


 危ないけど、幌の穴から外を見てみると……案の定押されている。


「ユウ、危ないわよ!?」

「分かってるけど……!なあエリー、今こっから敵が見えてる。3人だ……狙えるんじゃないか?」

「ちょっとまって。……敵は……多分近くにいるのは5人。2人は護衛と戦ってるみたいだけど、他の3人は離れたところで動いてないわ。うん、これならいけるわね」

「なんで分かったのか知らないけど、矢はあいつらが放ってる。潰さないと護衛がやられちゃう」

「固まってる3人は私達が戦えることを知らないわ。このまま影から目標を見ながら確実に当てて。今回は力を絞る必要はないわ、正確さと威力を考えて。私が左側の2人を、ユウは右の1人を、慈悲はいらないから確実に殺りなさい」


 ……深呼吸をする。

 僕が放つのに合わせてエリーも2人同時に倒す。

 人を殺す……そもそもまだ動物すらも殺したことがないのに、よりにも寄って最初が人とか。


 1人が弓を引き絞り、護衛のうめき声が聞こえる。

 不味い。


「行くよ。アイスボルト!」

「ファイアボルト!」


 僕の放ったアイスボルトは凄まじい速度で賊の頭を貫く。

 同時に横でエリーが放ったファイアボルトは1人目を貫通して奥のやつまで胸を撃ち抜いていた。

 すげぇ……。


「次は護衛の援護よ!」

「分かった」


 と、思ったら後ろで突然味方がやられたのに気を取られて1人が護衛に倒されたようだ。

 こうなるともう残った1人は為す術なく首をはねられ絶命した。


「お前達か……助かったぞ。すまんがあいつの傷を治してやってくれるか」

「ええ、良いわよ」


 僕がまごついてる間に矢でやられた人だ。

 髭の人と違ってこっちは獣人だ。とは言え腕の毛深さと頭に立つ耳くらいしか違いがわからない。

 猫、かな?


「大丈夫ですか?」

「ああ、急所じゃないが……弱い毒が塗られてるようだ、目がかすむ」

「ユウ、麻酔を。今から診断します。吐き気はありますか?」


 毒の可能性があるということでエリーが色々と聞きながら手早く身体に手をかざして診断していく。

 僕は痛みを軽減するために幹部周りの感覚を消す麻酔を掛ける。

 痛覚の働きを止めることで患者は切ろうが何しようが、何かをされているという感覚があるだけで痛みは感じないのだ。


 麻酔魔法がかかったのを確認して脇腹に刺さった矢を引き抜き、水で傷口の周りを綺麗に洗う。

 傷口周りと血に混じった分を少し出して一時的な止血をした。


「エリーこっちは終わった」

「分かったわ。毒は動きを鈍らせるだけのためのものね、運が良かった……私の解毒でも対処可能よ」

「……ん……ああ、目がはっきりしてきた。息も楽だ……。助かったよ、ありがとう。ダラム村のエリーとユウ、で良いのかな?この事はしっかり報告させてもらうよ」

「大したことはしてないわ。よし、傷口も完全に塞いだからもう動いて大丈夫よ」


 内臓は傷ついておらず、特に問題なく解毒も完了したためこれでもうおしまいだ。

 初めての治療にしては上手く動けたかな?

 まあ治療院でもっと酷いの何度も見てるし手伝ってるからなぁ。


 獣人の彼も完全に回復して既に護衛の仕事に戻っていった。


「エリー、報告ってどういうことなんだ?」

「あ、あれね?お母さんが前に認定を受けるためには試験以外でも勘案される物があるってことを言ってたでしょ?助けてくれた人の情報を依頼所とかに報告しておくのよ。そうすることで助けてくれた人に後に組織の方から報奨が出たりするわ。そういうのはヒーラーだと協会の方で管理して評価に使ってるってわけ」

「へぇ……そんな仕組みだったんだ」


 こうすることで手持ちがなくても治療を受けて、その料金分を渡すことが出来たりするんで、結構便利なんだそうな。

 ただ決められた住所に居ないと届かないから、移動する時間が多い人なんかは専用の受け取り所を契約しているらしい。


 僕達が治療をしている間に、髭のおっちゃんのほうは息のあった最後の1人に色々と聞いている。

 ……ちょっと、色々とあれなくらい痛めつけられてるけど……まあ殺しにかかったんだから仕方ないだろう。


「よーし、皆集まってくれ!」


 情報を聞き出したらしい髭のおっちゃんが皆を集めながら剣を突き立てた。


「ダズ、なんか聞き出せたか?」

「少しな。リック……お前もう大丈夫なのか?」

「あの2人のおかげだ、くっそ油断したぜ……。で?」


 髭の人はダズっていうのか。んでさっき治療したのがリック。覚えとこ。


「あーさっき襲撃してきた賊だが、ハグレだ。本隊が別にいる。遅れてそのまま置いていかれちまって食うに困って襲ったようだ」

「規模は?」

「19人。まあ5人減って14人か。幸い俺たちが向かうブレナーク方面ではなく、ここから西に向かった方にある街の方に向かったようだ。倒木を撤去した後予定していた場所で野営しても問題ないと思うがどうだ?」

「奴らを探しに戻ってくるってことないか?」

「リーダーは実力主義のようだからな、恐らく一々着いてこれなかったやつなど気に留めんだろう。だが少人数を送ってくる可能性も無いわけじゃない、警戒は怠らないようにしなきゃならんな」


 僕はこういうのには疎いから全部彼らに任せる。

 ルートは特に変わらない……というか変えられないからこのまま注意しながら進んでいくことになる。

 馬のためにも休憩は必須だから予定していたところまでは行くけど、襲われる可能性があるため護衛の彼らだけでなく全員で警戒しながらということで話がまとまった。


 少し手間取ったものの、倒木も撤去して僕達はまた進む。


 荷台で揺られているとエリーが話しかけてきた。


「ねえ、ユウってさっき敵襲を誰よりも早く気づいたよね。なんでわかったの?」

「あー……なんか、変な感じがしたんだよ。違和感というかなんというか……」

「そう言えば前にも言ってたわね。もしかしたらユウってスカウトの才能もありそうね」

「なにそれ」


 スカウト、斥候や偵察をする人のことらしい。

 残された痕跡から相手の人数とか装備を割り出したりなどの才能を持つ人が多くて、特に人や魔物の気配などを察知する能力に長ける。

 当然気配の消し方も知っているため隠密行動を得意とするのも特徴だ……そうだ。


「気配かぁ……どうなんだろうね」

「違和感を確実に読み取れるようになればそっちの方でも相当使える才能よ?敵の待ち伏せとか、魔物の擬態を見破ることが出来るんだから」

「なるほど、それは便利だね。とりあえず周囲に気を配ってみるよ」


 僕の場合は気配というよりも、勝手に警告を発した物があったからわかったわけだけど。

 セルフチェックだ。

 この能力……やっぱり皆が持っているわけじゃない。何なんだろう。

 自分のバイタルチェックのためのものかと思ってたけど。


 小声でつぶやき、表示を出す。

 魔力は全くと言っていいほどに減ってない。

 はじめての戦闘でやっぱり緊張していたんだろう、心拍はかなり高くなっていた。

 状態は弱疲労となっている。

 ……まあ、確かに疲れたよ。

 っていうかこれ本当になんなんだ?勝手に出てきたりして。


 ありがたいから良いけどさ。


 □□□□□□


 3日目の昼過ぎ、ブレナークに到着した。

 流石に領主である辺境伯のいる街なだけあって、石造りの頑丈そうな塀に囲まれている。

 簡単な柵しかないウチの村とは大違いだ。


 そしてこれまた頑丈そうな門が大きな口を開けていた。


 順番を待って中に入ると馬車から降ろされて所持品を簡単に検査され、ここに来た目的などを聞かれた。

 まあ、別にやましいことはないから普通に答えてたらあっという間に終わったわけだけど。


「お二人さん、昨日は助かったよ。大事な荷物も守ることが出来た。我々はこのまま納品に向かう。ここまででいいか?」

「ええ、十分よ、ありがとう」

「じゃあな、試験頑張りなよ!」


 御者の人が降りてきてわざわざお礼まで言ってくれた。

 帰りにみんな僕達の方に手を降ってくれたりしてなんだかちょっと照れくさい。


「さて……まずは宿を探すわよ。空いてると良いんだけど……」

「すごい人だもんね」

「そりゃね。それに私達と同じように試験のために事前に来る人達も多いわ。いつも人な少ないうちから入るようにしてるけど、見つからないときはなかなか見つからないから早く動くに越したことはないの。後回しにしてると困るのは自分よ。あ、だからといって安宿に泊まるのはあまりおすすめしないわ」


 個室の鍵がどうこう以前に雑魚寝の場合があるから、荷物を置きっぱなしに出来ないことが多いという。

 あと、衛生面での問題だ。

 大体安いところはあまり清潔でな無いことが多く、感染症や虫の問題があるのだ。

 ああまあ……確かに治せると言ってもたちの悪いやつにやられると痒みとか腫れとかなぁ……。

 荷物は置いていくのが前提だから、雑魚寝なんてもっての外だ。

 何よりも持ってきている本はとても高価なわけで。

 筆記用具とかも実際結構高い。


 ただ。

 人が多く来るところには宿も多いけど、その宿の部屋自体はさほど多いわけじゃない。

 値段と中身がちょうど良さそうなところからどんどん埋まっていくようだ。


「ユウ!ここ取れたわよ!!」


 エリーが見つけた宿は見た感じなかなか良さげなところだった。

 食事は簡単なものしかないようだけど、近くにいくらでも店はあるし。

 部屋に案内してもらうと……。


「エリー」

「なに?」

「部屋一個だけ?」

「そうよ?」

「僕とエリーがここで一緒にってこと?」

「そうよ?」


 いや、それはどうなんだろう?

 ちょっと早いんじゃないかなぁ……。


「今更お互いの裸なんて見慣れてるでしょうが……それにお金も節約できるし、一緒に勉強するってことなら同じ部屋のほうが色々楽よ」

「そうだけども……まあ、いいかエリーが良いならそれで」


 皆が同じような格好しているところでというのとはまたちょっと違ってるっていうか、こう……気恥ずかしさがあるんだけどなぁ……。



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