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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第五話 僕の道 

 そういえば試験があるって聞いてはいたけど、具体的にどういったものか全然聞いてない。

 僕が受ける適性試験というのはそのままの意味だった。ヒーラーとしての適正があるか……ここである程度の知識と、性格に問題がないか、魔力保有量に問題はないかをチェックされるそうだ。

 診断が下るのはその日のうちで、翌日に見習い試験と初級・中級・上級治癒術士試験、認定治癒術士試験が行われるという。


 見習いは知識だけ。初級は知識と実技、中級・上級に関しては更に難しいものになっていくし、毒や薬に関しての知識も必要になるのだ。認定されるには上級治癒術士を取って更に実績を積まなければならない。


 自分で治療院をひらけるのは上級をクリアした人で、そうでない場合には治療院でそういう人たちの下で働くか、そうでなければハンターたちに雇われて討伐任務についていって危険な場所で治療を行ったり戦いをサポートする為に働くか……知識を生かして薬の処方を行ったりもする。


 話を聞くまで知らなかったけど、実は薬師というのもヒーラーからの派生だった。

 前提としてヒーラーとしての知識、特に薬学に関する知識を身に着けた中級以上の人が出来る職で、治療院からの依頼で調合したり、自分の店で調合済みのものを売ったりする。


 つまり初級以上だとハンター達と働くメディックとして。

 中級以上だと薬師として。

 上級以上だと治療院の院長としての道が用意されているのだ。


 エリーは初級に挑戦する。

 これに合格すると、治療院でヒーラーとして正式に働ける事になる。

 既に知識はあるから後は実力だけだったんだけど、僕を治しまくっているうちにどんどん上達していったのだ。

 魔力保有量も結構増えたと言っていたし。


 僕は適性試験の後に見習い試験となる。

 見習いはエリーがしていたものだ。

 少々早いけどエリーの激しい教育と、治療院での手伝いなどでの知識や動き方を見てセシリアさんが問題ないだろうと判断したそうだ。

 普通ならもっと時間をかけて勉強しないと駄目なんだけど、実際に現場で働きながらひたすら覚えていく事と超効率的な勉強の賜物と言っていい。

 まあ見習いはそこまで難しくないっていうのもあるんだけど。


「やっと初級受けれるのね!絶対合格してやるわ!そしたらユウを助手につけるんだから!」

「はいはい。合格したらそれでもいいわよ?ユウはどうかしら?」

「あ、それに関しては別に問題ないですけど」

「やっぱりね!じゃあ二人共頑張って合格しなさい。お給料も上がるし二人で競争しながらお互いを高めていけば……すぐに二人共上級になれるわよ」


 上級になって治療院を開くとなると、国から建てるときの金額を補助してもらえる。

 しかも何処に建てても国からの給料が出るから食いっぱぐれる事はない、らしい。

 そして見習いや初級、中級のヒーラーを抱えているところは教育費としても一人あたりいくらと言う形で出る。


 人が来ないところに建てたら働かなくていいじゃんって思ったら、流石にそれは許されないってことで定期的に使者が来て視察されるらしい。

 そこで実態が伴っていないとなれば全額返納しなきゃならないから、一気に借金生活になってしまうだろう。

 そもそも最初から人が来ないところになどは建てられないけどね、審査があるから。


 とにかく、ここをクリアしなければヒーラーにはなれない。

 残り時間もあまりないし頑張ろう。


 □□□□□□


「ユウってさ、結構覚えるの早いわよね」

「そうかな。エリーの教え方が良いんだと思うけど」

「……バカにしてる?」

「なわけないだろ?実際もう基礎は完璧なんだから」


 早いかどうかは分からないけど、もう何処に何があるか、そういうのは楽勝だ。

 今はその他の病気とかの判断基準、簡単な中毒症状の見分け方とかそういった物を覚えたところ。

 これで試験に必要な勉強はもう終わったと言っていい。

 あとは復習だけど、僕はどんどん先のことを覚えたいと言ってエリーに頼んでいたところだ。


 エリーはエリーで僕に教えることが復習となり、その他にも色々と薬に関する知識なんかを詰め込んでるからある意味似たようなものだと思うけど。

 そもそも初級の試験を受けられなかったのは実技で受からないのが分かっていたからだったし、知識だけなら既に中級レベル。

 その枷となっていた魔力量による持続性は既に解決してしまっているから問題ないというわけ。


 そんな優秀な人から教えてもらってるわけで、普通に覚えていくのは当たり前かなぁと思うんだけど。

 もちろんエリーはセシリアさんやキールさんなどから仕事中に色々と教えてもらってるし。

 未だに何を言っているのか分からない時もままある会話を、難なくこなしているってだけで凄いと思う。


「どうしたの?なんか顔赤いけど……熱でも出た?」

「ばっ……!違うわよ!全くもう……よくそんなセリフ吐けるわね……」

「え、どういうこと?」

「忘れなさい。それより、ユウはこのまま試験に合格していって、上級になったらどうするの?」

「上級になれたら……まあ、認定ヒーラーを目指したいかな?ただその傍らでやっぱり魔法も習いたい。せっかく魔力があるって言われてるんだったら色々と試してみたいなって」


 目標はセシリアさんだからやっぱり認定取りたいよな。

 でも上級になって必ず治療院を開くかと言えばそうでもないわけで。

 それくらいの実力になると貴族お抱えの専属ヒーラーとして働けるし、上級メディックとして長期間の遠征に付いていくってことも出来る。


 この世界は必ずしも何処も安全というわけじゃないし、メディックとして行かないとしてもある程度戦えるってことは重要だ。

 そのうち正式に剣も魔法も習得しておきたいな、と思ってるんだよね。


「なら、早ければ3年でここを出ていくことになるわね。年に一度の試験だから実力があればストレートで行くことも不可能じゃないわ」

「結構難しいの?」

「もちろん。知識だけじゃなくて経験に裏打ちされるような診断もできなきゃならないんだから。当然、なぜそのような判断を下したのかを細かく突っ込まれるから当てずっぽうは無理。それに中級からは薬学があるのは分かってるでしょ?常に新しいものが出たり、今まで使っていたものが廃止されたり。そういうのも把握していないと駄目。……頭痛くなりそう」

「なるほど……調合も実技に入ってるんだもんなぁ……。確かに難しいね」


 ちなみに、セシリアさんですら一度上級は落ちているという。

 ……流石に3年は無理じゃないかな……。


 ただまあ、剣術や魔法の実技も兼ねてメディックとして登録したいとは思っている。

 実戦を経験しないと戦い方はわからない。

 そういう危険なところで、如何に上手く立ち回り、怪我を治していけるか……そういうのを勉強するにはもってこいだと思うんだ。

 危険ではあるけど。


 そしてこれを受けることで魔物などの知識も自然と身についていく。

 給料は安定しなくなるけど……まあ、勉強だと思えばいいだろう。


「……危ないわよ?」

「それは分かってるけど。やりたいことを色々とこなす近道かなって思うんだよ」

「たしかにそうだろうけど。治療院が休みのとき限定でやるんだよね?」

「うん。そのつもり。街に出たり戻ってきたりしなきゃならないけど、それでなんとかなるような物を選ぶつもりでいるよ。最初から無理はしたくないし」

「そう……。ならメディックは従者を付けれるのは知ってる?」


 知ってる。

 これはヒーラーの見習いとかでも良い。自分の仕事をするのは当たり前なんだけど、そのときに助手として誰かいないと出来ないこともあるのだ。

 重症の人とかだとまず圧迫して血を止めておかなきゃならなかったり、暴れる患者を押さえつけなきゃ無かったり。


 そうか、その人も見つけなきゃならないのか……失念していた。


「ユウがメディックとして行くなら、私はユウの従者としてついていくわ」

「は?いや、エリーの方が上なのにおかしいだろ?っていうか危ないじゃないか」

「危ないのはお互い様でしょ。それに私のほうがどう考えても強いし、お母さんと薬草を取りに行ったりして魔物を相手にしたことくらいはあるわ。無経験のユウよりずっとマシのはずよ?」

「……確かに……」


 強いのは確かだ。僕はまだ一度もエリーに攻撃を当てれたことがない。

 それでもまともに打ち合いが出来る程度には成長できたし……。

 ただやっぱり経験があると無いじゃ大違いだ。


「本当に良いの?」

「ええ。別に休みの日だけで終わらせられるなら問題ないわ。お小遣い稼ぎにもなるし、誰も怪我しなきゃ楽なもんよ」

「そりゃまあそうだけどさ。でも……エリーと行けるなら僕も嬉しいよ。一緒にやろう」

「任せて。ユウは私が守ってあげるわ。何なら治療も一緒にやれば早いでしょ?」


 にやっと笑ってこっちを見る。

 ……何を選んでも付いてくるつもりだったなこれ。

 といっても確かにエリーが付いてくるっていうのは安心感もあるし心強い。

 エリーの実力はセシリアさんも認めるところで、そこはお父さんの仕込みが強いようだ。

 っていうかエリーのお父さんはエリーをどうしたかったんだ?

 わからない。


 ただ……明日セシリアさんに僕達の考えを話しておかなきゃなぁ……。

 僕だけならともかくエリーもとなると……。


 □□□□□□


 ……何も聞こえない。何も見えない。真っ白な空間。

 ここは……なんだろう?


 なにかが聞こえた。


『………………………………』


 そして僕の意識は暗転する。


 □□□□□□


「……セルフチェック。……特に問題ないか。なんだ今日の夢……」


 身体が怠い。

 起き上がるのにやたらときついのに、セルフチェックの表示は正常を示している。

 走ってるときとかは確実に血圧と心拍が増えてたりしたし、自分で調べてみてもあっていたから間違いはないんだろうけど。


 ノロノロと起き上がって鎧戸を開けると、心地よい風と共に朝なのに昼間のようなギラついた光が目に入る。

 と、ふとなんとも言えない違和感が……なんだ?なにかが変だ。


 部屋を見回す。

 ……置いてるものの位置とかは変わってない。

 でもなにか違う。


「ユウ、起きてる?」

「あ、うん起きてるよ。今行く」

「分かった」

「エリー。……変なこと聞くけどさ、家の中とか外とか、なんか変な感じしない?」

「え?……別に変じゃないと思うけど……?何時も通りよ?」

「そっか……気のせいかな。ごめん、変なこと聞いて。忘れて」


 いつも見慣れた景色なのに、何処か何かが違って感じられる。

 気持ち悪いけど……エリーが気づいてないってことは、僕がちょっと神経質になってるのかもしれないな。

 変な夢を見たからかもしれないし。


 はあ……しっかりしろよ僕。


 外に出てエリーと一緒に村を巡る。

 走りながら夏のジリジリとした肌への刺激と、青々と茂った草原の草が風に揺れる様を見ながら心地よい疲れを感じる。

 でも、やっぱり……何かがちょっと違う。

 まるで自分だけが別な世界に飛ばされたかのような、そんな感じがする。


 あれ?


「エリー、あの岩分かるよね。大きなヒビが入ってるやつ」

「ええ、昔にハンターの人が剣を叩きつけて入ったっていうやつよ」

「え、なにそれ初耳。ってかあの岩にヒビを入れるって……。まあそれは良いんだけど、ヒビの形が変わってるんだ」

「え?うそ……気をつけてなかったから分からなかったわ……」


 あの岩結構目立つからヒビの形にちなんでY岩と勝手に名付けていた。

 綺麗にばっくりと3つに分かれていたんだけど……今見るとYの上の方にある部分の面積が小さくなっている。

 毎日見ていたやつだから絶対間違いない。

 あとここにきのこなんて生えてたか?


 でもきのこは一晩で顔をだすときもあるからわからないか……。

 よくよく探せばもっと違っているところもあるかもしれない。

 ただ、この小さな変化がとても怖く感じられた。


「見間違いじゃないのよね?」

「違う。毎日見ているし、何なら角度を調べたこともあるんだ。ほぼほぼ同じ値だったからびっくりした記憶があるよ。でも今は明らかに上が狭くて他の下2つが広くなってるんだ。形も歪になって……なんというか自然になりすぎている?って感じ」

「何なのかしらね……私は変化がわからなかったけど、もしそういうのがあるならちょっと怖いわ。今日の朝に言っていたのはそういうことなの?」

「うん、頭おかしいんじゃないかって思われそうだったから気の所為ってことにしたんだけど……やっぱり、僕たちの周りの環境が少し変わっていると思う」


 遠くに見える山々、そういえばなんだか今日はとてもはっきり見える。

 いや、山だけじゃない。草原の草の一本一本、空気感というのか……昨日までとは全く異なる。

 今いる場所は森のすぐ近く。

 ここから見る森の木々も、ずっとはっきり見えている。


 違和感の正体はこれだ。


「……分かった。何もかもがはっきり見えすぎているんだ。昨日までは遠くのものの詳細が分かりにくい程度だった気がする。だけど今日はやたらとくっきりと細かいところまで見えてるんだ」

「なるほど……ちょっといい?」


 エリーが僕の顔に手をかざす。

 診断は自分よりも他人にしてもらったほうが正確になる。セルフチェックをしても、細かいところまではわからないから結局自分で手をかざすけど、魔力が混乱するのかあまり上手く読み取れないのだ。


「んー……特におかしいところはないけど……強いて言えば魔力量がまた上がってるわ。もしかしたらだけど、魔力量が上がると身体に変化が出るっていうのがあるからそれかも。僅かな変化ではあるけど目が良くなったっていう人は過去にも結構な人数いるのよ」

「そっか。それならこの見えすぎてるっていうのはそういうことなのかな……。でも岩のヒビだけは分からないか」

「そっちはなんとも。岩に擬態する魔物とかもいるから……えいっ!」


 突然エリーがその辺にある石をぶん投げて岩に当てる。

 が、何も起きなかった。ただの岩だな、これ。


「普通の岩ね。前のが魔物だった可能性は否めないけど、でもそういう変化を見れるっていうのは良いことよ。いつもの自分の部屋じゃなくて、宿泊先で出たときと戻ったときの違いに気づくかどうかで危険を回避できたりもするから」


 例えば。

 気に入らないやつの寝床に禁制品を潜り込ませておいて通報。

 踏み込まれて検められた時に出てきて連行される……など。

 自分が持ってきたわけじゃない証明は難しい。


 逆に先に自分が気づいて通報した場合には怪しまれる可能性は大分減るということだった。

 そうでなければ秘密裏に処理する、など。


 こういうのは気をつけるに越したことはない。


「なんかもやもやするけど、まぁ……特に問題なさそうならいいか……。逆に前のが魔物で同じものに擬態していたとなるとゾッとするよ。よく今まで何もなかったな」

「そうね。高度な擬態をする魔物なんかはかなり頭もいいわ。被害がないように見えて、実はあったりということもあり得るし……とりあえず今は安全よ」


 普段の生活ですら油断できないな。

 でも違和感の正体に理由付けが出来たことで大分気が楽になった。

 ま、悪くなるよりは良くなる方が良いに決まってる。

 ってことは魔力量が多くなると、体力とかも増えるのかな?

 魔法もどんどん覚えていきたいし、魔力が増えるに越したことはないか。


 その魔法の方だけども、初歩的なものはもう覚えた。

 初めて使えたときには本当に感激したね。

 放出の方法がわかるまで苦労したけど、それが終わってしまえば後は簡単なものだった。


「じゃあユウ、走りながらアイスボルト!はい!」


 合図とともにそのへんに落ちている石を投げるエリー。

 そして僕はその石に向かってアイスボルト……つまり氷の小さな矢を放つ。

 命中率は……6割かな……。


「もっとよく狙いなさい!」

「走りながらだぞ!?うわアイスボルト!」

「ハズレ!私なら全部当てれるわよ!」

「ひいい……」


 いつもどおりめちゃくちゃ訓練が半端ない。

 全力で走りながら、本気で投げられる小さな石に向かって、小さな矢をぶつけるって普通に難しいからな!

 でもエリーが言ってることは本当なんだこれが。

 試しにやってもらったら全部撃ち落とされたもんな。


 そりゃ打ち合いで負けるわ。

 動体視力と正確さが違いすぎる。


「ちょっ……ホントに早っ……」

「ふっ、まだまだね!」

「エリーが凄すぎるんだけど?なんかコツとかあるの?」

「あるわよ?魔法使うとき、どうするって私言ったか覚えてる?」


 放出と循環があって、放出で自分の外側に現象を起こす。

 今やったアイスボルトもそれだ。

 もう一つは循環、自分の身体の内側で現象を起こす。

 わかりやすいのは強化だ。


 なるほど。……何を強化すりゃいいんだよ……。

 目を強化したときは目が良くなって、暗いところでも見通せるようになったけどそれくらいだ。

 身体の強化は筋力を上げることが出来るから、瞬発力や単純な力が上がる……だからといってあの石に付いていけるかといえばついて行けない。


「そこまで分かってるのになんで気づかないかなぁ……」

「そう言われても……。目が良くなったところで速さについて行けないし……」

「当たり前でしょ?前にも言ったけど目を良くしたところで体がついていけなきゃ意味がないの。そのための方法を考えなさいってば」

「目を良くして……身体を強化して速さを……は、今までと同じ。うーん……すごい速度で飛んでくるものを見るためには動体視力……やっぱり目だよなぁ」

「ああぁぁぁぁ掠ってるのに!!掠ってるのに!!気づきなさいよ!!」


 掠ってる?近いってことか……。

 動いてるのを確実に見て、的に当てるために素早く体を動かして……。あ。


「あそっか。感覚の方か」

「そうよ。一瞬で過ぎていく石を追って、瞬時に対応するために自分の感覚を鋭敏にするの。少しだけ時の流れが遅く感じられるから、筋力も強化して……と2つのことを同時に行う感じね。もちろん狙いが適当だと当たるわけないから、きちんと狙って狙ったところに確実に誘導できるだけの能力も無ければ無理だけど」

「まさか打ち合いのときもそれで……!」

「当たり前でしょ……」


 なるほどそういうからくりか!


 どおりで見てから反応されてるわけだよ。

 それにあの怪力っぷりも納得だ。

 よしそれなら……!


「もう一回石を投げてみてよ、それなら今度は必ず……」


 出来ませんでした。

 同時に違うことを何個もやろうとすると頭がこんがらかる。

 これは……練習あるのみか。


「ま、どうせこれもすぐに慣れちゃうんだろうけど。少し練習すれば出来るようになるわよ」

「いや結構難しいけどなこれ。でもやっとで理屈はわかったぞ、次は成功させてやる」

「その調子よ。私としてはまだまだボコボコにされて怪我しまくってほしいんだけど」

「勘弁してよ本当に……」


 痛いんだよ……!


 しかも最近は骨が折れた時に、ああ折れたなって冷静に考えちゃってるのが悲しい。

 痛みに対しての耐性が付いてきてる気がしてならない。

 ……マゾじゃないぞ。断じて。


 その後は特に何もなくそのまま家まで戻って来た。

 さて。ご飯を食べる前にまずは……報告かな。


 □□□□□□


 走り込みから戻ってきて、セシリアさんに昨日僕がエリーに言った事を……僕の今後の考えを打ち明けた。


「あら。そうなのね、ユウはそれで良いのかしら?」

「ここに来てから色々と考えてました。試験のこととか、上級治癒術士の話とか色々聞いて自分なりに考えたんです」

「ずいぶんと欲張りな事を言っているけど、ユウはそれでやっていける?」

「難しいと思います。だけど時間は限られていますから。覚えたいことが多いなら今のうちじゃないかって」

「なるほどね。……若い頃の私みたいねぇ」

「え?」


 セシリアさん、僕よりもやっぱりすごかった。

 結婚するまではずっと修行とでも言えるくらいにひたすら仕事していたようだ。

 治療院で働き、その合間に勉強して、更に時間が開けばメディックとして精力的に活動して……最終的に認定を取った後、大規模な遠征に同行。

 そこでエリーのお父さんと出会い結婚して……落ち着くためにこの治療院を開いた。


「認定を取るのはとても大変なんだけど、そんな風に上級になる前から色々と精力的に活動して、国の役に立ったりしているとそれも勘案されるのよ。当然成功し続ける事が条件なんだけど、それさえできればユウもきっと認定が取れるでしょうね。応援しているわよ!」

「それで、あの……僕だけじゃなくてエリー……」

「エリーなら好きにしなさいな。ユウとならきっとどこまでもついて行こうとするだろうし、迷惑じゃなければ連れて行ってあげてくれる?最初のうちは私があなた達の能力に合わせた依頼を見繕ってあげるわ。何なら今回の試験に合格してからすぐにでもね」


 ……ん?

 エリーのこと心配してないのか?

 っていうか僕とならどこまでも付いていく?


「エリーならお父さんから色々教えてもらってるから、そのへんのハンターよりは役に立つわよ?それにあなたのことを助けた時からずっとあなたのこと好きで好きでたまらないって感じだったし?ユウとなら私も安心してエリーを任せられるわ」

「……そうなの?エリー」

「………………ここでそれバラす?普通…………ええ、そうよ好き。大好きなの!悪い!?」

「いや悪くないし……僕もエリーのこと好きだし」

「えっ。……ホントに?」

「うん」

「あらぁ……じゃあ私は先に行ってるわね。あなた達はちょっと遅れるって言っておくから」


 ……そそくさと出ていくセシリアさんに取り残された僕とエリー。

 エリー、顔真っ赤だ。

 いつもと違って勝ち誇ったような顔じゃなくて、純粋にびっくりしているようだけど。

 僕も顔が熱い。

 多分……エリーと同じような色してるだろうな。


「あー……なんか流れでこんな事を言うのもなんなんだけど……。エリーと一緒に暮らしてて凄くいいなって……いつか本当の家族になれたら良いなって思ってました」

「ふ、ふふっ。そうよね!私みたいな美人と一緒に暮らしているんだもの当然そう思っちゃうわよね!安心なさい!私もあなたを選んであげる!」

「エリーはなんで僕なんかを?」

「そ、それは……えーっと……」


 セシリアさんとエリーが僕を見つけた時、馬車が到着するまでセシリアさんとエリーが必死で僕の命を繋ぎ止めていたそうだ。

 その時僕はうわ言のように「死にたくない」と呟いていたとか。

 自分とそんなに変わらない子の生死の境を目にして、エリーはとても怖かったらしい。

 それでも死にたくないという僕を見て、なんとしてでも助けなきゃと思ったそうだ。


 冷たくなりゆく僕の身体から抜けていく血を必死で止め、身体が弱りすぎて効き目が悪くなっているヒールで必死に傷を応急的に塞ぎながら、僕に向かって

「生きなさい!死ぬなんて許さない!生きて私のこと口説けるくらい元気になりなさい!そしたら受けてあげるわ!何なら裸でもなんでも見せてやるわよ!だから元気になって戻ってきなさい!」

 と言ったそうだ。


「……で、僕はそのとおり元気になったと」

「一度は本気で駄目かと思ったわ。馬車が来る直前、息が止まる前に私の言葉を聞いたユウが凄く安らかな顔で笑ったの。その顔が今でも忘れられないわ。弱々しいながらも息を吹き返した後、私がずっとつきっきりで看病して……早く目を覚まさないかな、早く話をしてみたいなって思って……そこで私がユウの事好きになってるって、自覚したわ」

「そんな事が。僕は意識も何もなくて、あの時目覚めるまで何も分からないけど」

「だから、さっきのあなたの告白は約束通り受けるわ。あなたの命が寿命以外で失われるのは許さない。私が必死で助けたその命尽きるまで、私を愛せることを光栄に思いなさい」

「僕だって君からもらった命を投げ出すつもりはないよ。そして最期までエリーを愛し続けると誓う」


 僕達はこうして、正式に皆が認める男女の関係となった。

 ああそうだよ、その日のうちに村中全ての人に伝わってたよ。

 ……絶対セシリアさんだな。


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