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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第四話 ヒーラー

 僕がこの村に来て既に二月が経った。

 初めてのお給料をもらって、半分を僕の治療代として、もう半分を貯金しながら未だにエリーの家にお世話になっている。


 ここでの暮らしには大分慣れてきた。

 皆優しいし、知らないことは聞けば教えてくれる。

 仕事の方は洗濯に関しては僕が改良した洗濯機と脱水機で、戻ってきた掃除洗濯のおばちゃんが喜んでいた。

 そう、あれ作れちゃったんだ、本当に。

 動きもしっかりとしていてまだ壊れる様子はない。


 僕も治療院の中の方で働き始めたわけだけど、たまにジェロイさんのところに行って手伝ってもいる。

 そっちからも少しだけどお金もらったりしているから少しずつ返していけると思う。


 それで、体力の方だけど……今じゃ毎日村を何週かした後に、湖に行って真ん中にぽつんとある岩まで泳いで戻ってくるなんてことをエリーと二人でやっている。

 ……エリーめっちゃ早いんだよな……。

 でもあれだ、色んな意味で凄く約得だよなこれ。


 その後の打ち合いでしこたま痛めつけられては、エリーの治癒術の練習台になってるからそれくらいは良い……よね?


 困ったのはトイレだ。

 大きい方をしたときには布で拭いてそれを洗う事になるのが凄くやりにくいというか。

 こんなんだったっけ?って思ったけどだいたい皆似たようなもので、王都の一部の方では水洗になっているっていうくらいだそうだ。

 それを言ったら、実は王都から逃げてきた貴族の子だったんじゃないのかとかで家族会議が始まってしまった。

 それ以来あまり変なことは言わないようにしている。


 剣術の方はあまり上達していないけど、前よりは大分良くなってきたとエリーが言ってくれてるから……まあ、良くなったんじゃないかな?

 未だに素振りとステップの練習をして打ち込みやると足も腕も上がらなくなるけど。


 季節は春が終わりに近づき、どんどん暖かくなってきて……雨の頻度も高くなってきた感じだ。

 服も一枚脱いで薄手のものに切り替えている。


「ユウ!こっちに来て止血を!」

「はい!」

「強く押さえてて!エリー傷口の消毒は終わったんだな?」

「ええ、問題ないわ」

「よし、まずはこの重症部分を閉じる。……ヒール!」


 首の根元辺りを大きくえぐられた人の傷が、僕の手の下で徐々にふさがっていく。

 中の方で手伝いをするようになって驚いたのは働いている人の数。

 治癒術士……ヒーラーと言われる人たちは3人。一人はこの治癒院長であるセシリアさん。

 そして今僕達と治療にあたっているベテランの男性、キールさん。最後に向こうでてんてこ舞いになっている見習い卒業したばかりの新人……とは言え僕よりもだいぶ前にここに入った青年コリン。

 ちなみにエリーはヒーラー見習いだ。簡単なヒールは出来るけど、まだ打撲とか少し深めの切り傷までが精一杯ってところで、治せる回数も少ない。


 まあだからこそ経験を積むって名目で僕の怪我を直しているんだけど。


 そして助手としてヒーラーを補助するために働いている人たちがヒーラー一人に付き3人。

 交代制でやってるから……全員で18人か。

 更に今僕たちがやっているような雑務をする人たちも20人位。

 隣村とかここより大きな町から働きに来ている人も居る。

 そういう人たちは宿に部屋を借りて長期で宿泊して、休みになるとそれぞれの家に帰ってまたこっちに戻るという出稼ぎみたいなことをしているらしい。


「はぁ……助かった、よね?」

「ああ、もう大丈夫だ。……うん、体内に傷はないようだし毒も無い。骨はさっき繋がった所以外は折れてないし後は安静にして血が戻ればまた働けるだろう」


 体中を触るか触らないかの距離で手のひらを滑らせて診断していく。

 ヒーラーはこうして内臓や筋肉の状態、そして魔力の巡り具合、血の濃さ、病気や毒などの症状……そういった物を知ることが出来るらしい。

 僕は全然わからない。


 さっきまで苦しそうにしていた患者さんも、今は穏やかに眠っている。

 この眠らせるっていうのもヒーラーの必須技能だ。


「手をかざすだけで分かるんですね……」

「経験を積んでいくしか無いが、これが出来なければ一人前のヒーラーと認められないぞ?相手の波長に合わせて体内を探っていく。そのためにはそこに何があるかを知る必要があるから……」

「……はい、骨と筋肉と内臓の名前ですよね……頑張ります」

「ははは!それが最初の関門だ。正確に覚えるんだ、そうすれば力を使わなくとも何処が悪いか分かるようにもなってくるだろう」


 そして僕もエリーと同じように見習いの道に入ろうとしている。

 見習いとして認めてもらうためにも、しっかりと骨や筋肉、内臓の位置などを知らなければならない。

 当然名前も。病気の名前や怪我の状態を表す名前など色々と他にも覚えることはあるけど……そこはエリーの復習も兼ねてひたすら覚えさせられてる。


「ユウもまだまだね!」

「エリー、お前も人のことは言えんだろう。頑張ってユウで練習しながら身体を見通せるようにするんだ」

「はーい……」


 胸を張って僕を見下していたエリーだったけど、あっさり返り討ちにされていた。

 一応エリーも身体の中を見通すことは出来るんだけど、細かいところはまだ苦手だし、大まかに病気や毒が分かる程度ということだった。

 それでも僕からしたら凄いことなんだけどな。


 その勉強と並行して、僕はマナを体内に通して魔力として魔法を使うという訓練もしている。

 なんせこれが出来ないとそもそもヒールを使えないし……色々不便だからだ。

 火をつけるには着火用の道具はあるけど、皆簡単な火の魔法を使ってやるから僕だけやたら遅いんだよな……。


「キールさーん!こっち手伝ってくださいよー!」

「ちょっと待ってろコリン。じゃあ後は任せたぞ二人共、俺はキールを手伝ってくる。」

「わかりました」

「任せて。さぁユウ、重症の人はもういないし、後はあの二人が終わらせちゃうから大丈夫。処置した人たちの様子を見に行って、問題なさそうなら帰ってもらいましょ」


 処置済みの人たちを順番に見ていって、具合が悪くないかとかを聞き出す。

 エリーが簡単な診断をして、問題なさそうだとなればそのままお金を払って帰ってもらうことになる。

 大体終わったときに、セシリアさんが奥の部屋から出てきた。


 セシリアさんが担当するのは、本当に死ぬ危険がある人……もしくは軽いけがや病気の人達を一室に集めてまとめて治療する時などで、今回は後者。

 口々にお礼を言われて、その一人ひとりに笑顔で答えていくセシリアさんが輝いて見える。


「あら、二人共もう終わったの?」

「はい、さっき帰った人で処置済みの人は今はいません。重症の人たちが今4人位眠ってるので……その人達が起きたら終わりですね」

「分かったわ。じゃあエリーとユウはもうあがっていいわよ。後は私達がやっておくから心配しなくていいわ」

「分かったわお母さん。じゃあ先に帰るわね」

「ええ、気をつけてね。ユウも勉強と訓練頑張ってね!」

「はい、頑張ります!」


 ほんとセシリアさんいい人だ。

 最近はこうやって少し早めに帰してもらっているから結構時間はある。


 帰ったら早速魔法の練習だ。

 覚えるのが遅すぎるのでエリーに強制的に魔力を通してもらって感覚を覚えさせられている。

 首筋からちりちりとしたものが体を巡っている感覚が最近やっとでわかるようになってきたところだ。


「これは?」

「首から胸を通って左腕」

「正解。とりあえずこの練習はもうそろそろ大丈夫そうね。身体を巡る感覚っていうのはそんな感じだと覚えればいいわ。そしたら次は……取り込む練習よ。この村は東の方に魔龍脈があるのは教えたわよね、そっちから流れてくるマナ、そして大地から、空気中から身体へ入ってくるマナを捉えていくの」

「それがよくわからないんだよなぁ。毎回教えて貰うけど」

「んー……私の場合はなんというか……雷がなり始めるときにちりちりっとした感じで体中の毛が逆立つ感覚あるでしょ?そんな感じでそよ風とかみたいに感じるの。人によっては色として見えてる人もいるみたいだし、音として捉えてる人もいるから……その人次第ね」


 余計にわからん。

 魔龍脈の方を向いて、反対側を向いて、を繰り返すと何となく分かるようになるはずってことだったからやってみるけど……いやわからないって。


「集中してやってみて。なんなら上脱いでやってみたら?」

「ん……なるほど」


 シャツを脱いで上半身裸で立つ。

 エリーの声に合わせて深呼吸して、目隠しをされる。

 視覚を遮断することでさらに感覚が研ぎ澄まされるはず……ということだけど。


 適当にぐるぐると回されて何処を向いてるかわからない状態にされて……もう一度深呼吸。


「……ユウ、私の声と自分の感覚に集中して。返事は要らないわ、言われたとおりにしっかりとするだけでいいの。……まずはその場でゆっくりと一回転してみて。元の向きになったら声をかけるわ」


 言われた通りにゆっくりと少しずつ方向を変えていく。

 ふわりと肌を撫でる風、方向を変えていくとわずかに変わる温度、どれが本当の感覚なのかは分からないけど……確かに何かしらを感じる。


「はい、止まって。ちょうど一周したわ。多分今だけでもある程度感じるものがいくつかあったと思うけど、今度は違和感とか何かを感じたところで止まってみて。きっと何かを感じているはずよ」


 うーん……どれだ?

 ここは?


「正面から何かを感じるの?残念ながらそれはただの風ね。もっと別なものよ」


 ここはどうだ?


「当たりよ」

「えっ、ホントに?」

「本当よ?ちゃんと魔龍脈に向いているわ。どういう感覚だったの?」

「んー……なんとも言えないんだけど……音、とも違うか。なにか物音が聞こえた時、顔を向けると方向がわかるっていうのと似てるんだけど、音じゃないんだよなぁ……圧力というかなんというか?」

「なるほどね。ユウは圧力として感じてるってことかぁ。じゃあその圧力が自分の中に染み込んでいく感じを想像してみて。そうすると体中で魔力が巡り始めていくのが分かるはずよ。ユウの中にはほとんど魔力が無いからどんどん吸収していけるはず」


 吸い込む……染み込む……あ、なんか顔がピリピリしてきた。

 手を広げて体中で受け止めるイメージでやってみる。

 全面でこのピリピリを感じるように……じわじわと体の奥へ、奥へ、染み込んできたら今度は腕や足、そして指へ……。


 するとピリピリとした感覚がなくなって、体を巡っている感覚も薄くなっていく。

 だけどなくなったわけじゃなくて自分の感覚で「ある」事がわかるようになった。


「えっ?もう魔力の量まで分かるようになったの?」

「あ、これが量をしるってこと?この感覚ちょっと慣れないな。ただ、全然足りない!って感じなのは分かるよ」

「十分よ。後は体感でどれくらいのものをどれだけ使えるか、っていうのが分かってくるから」


 一旦こうやってマナを取り込めるようになると、後は息をするように勝手に取り込めるようになるらしいから、後は特に意識しなくて良いそうだ。

 この体内へのたまり具合とかからそこにどれだけマナが巡っているかがわかる。

 じわじわとゆっくりしかたまらないなら少なくて、どんどん溜まっていくなら多い。単純だ。


 大体ゆっくり眠ればそれなりに溜まるらしいけど、強制的に取り込むときにはさっきのように集中すると少し早くなるらしい。


「……やっぱりユウ、多分だけど元々出来ていたことをすべて忘れているって感じね。やり方とかコツを掴んだら、身体が勝手に動いてくれるんだと思うわ。今の今まで全然マナを捉えることすら出来なかったのに、出来たら出来たでもう使える前段階まで来ちゃったんだから」

「これで魔法使えるようになったのか!」

「あくまでも前段階よ。ある程度魔力が溜まったら今度は放出の練習よ。……すぐできそうだけど」

「出来るかどうかはともかく、頑張って付いてくよ」


 僕に教えてくれるのがエリーだから、エリーが僕のお師匠ってことか。

 剣術や魔法の師匠が同い年ってのも面白いけど。

 でもまぁ……これだけ差が付いてるんだから仕方ないさ。


 その後はひたすら暗記しまくるお勉強タイムが始まった。

 辛い……!


 そうしているとセシリアさんが帰ってきて、夕飯の時間となり……。

 いつものように夜を迎えて眠った。


 □□□□□□


『久しぶりだねユウ。なかなか身体が出来てきたじゃないか』

『大変?そう、知識をつけるのは大変なんだ、何度も何度も繰り返し頭に叩き込む。こればかりは自力で頑張るしか無い』

『魔法か。よく体得してくれた。本来なら……ああいや。そうだ、少し色々と自分のことをわかりやすく認識できるようにしていこうか。これは君にしか見えないものだし、だれも知らないものだ。絶対に人に話してはならないよ』


 ……眩しい。

 もう朝か。

 あの変な夢、ものすごく久しぶりに見たな。

 特になにか教えてくれたわけじゃないけど、あ、最後にひとつだけあった。


「……セルフチェック。うぉっ!?」


 呟くと突然目の前に半透明の板が浮かんだ。

 手で触ろうとしてもさわれない。何処にも存在しない……のに、見えている。

 文字が書かれているな。


「えっと……状態:良好。バイタル:117/78/79 36.2℃:平熱 SpO2:99%……なんだこれ。え、僕の?魔力20%?あ、21%に増えた」


 意味は分かる。習ってないはずなんだけど分かる。

 状態はまあそのままだ。バイタルは血圧と脈拍、そして体温。SpO2は血中酸素濃度。最後のやつは血液中に含まれる酸素がどれだけあるかを示すもの……。

 96%以上なら問題なし。それ以下だと何かしら問題があると。当然下がると苦しくなる。


 なんで知ってるんだ?

 後魔力全然溜まってないじゃないか……20%って。


 この見えているものが本当なら、感覚に頼るよりもとてもわかり易くて良いんだけど。

 問題はなんでこれが見えているのか、そして今まで知らなかった聞いたことがなかったものがなんで理解できるのか。


「これは君にしか見えない、か。確かにこんなの見えるとか言っても信じて貰えそうにないしなぁ。この力?も元々持っていたものなんだろうか。でも魔法のことを話すときに本来なら、って言って止めてたのも気になるし……」


 ……わからない。過去のことが思い出せないのが本当にもやもやする。

 あ、魔法使えるようになったりとか……してないかな?


 裁縫道具入れを出して針をちょっとだけ人差し指にさす。

 ぷっくりと血が出てきたのを見て、もう一度あの情報を見る。


「流石にこの程度じゃ何も変わらないのか。じゃあ、えーっと……傷が治るイメージ……ヒール」


 手をかざして唱えてみても何も起きない。

 ま、そりゃぁそうだよな。そう簡単に出来たら世話ないよ。

 とりあえず服を着てエリーに起こされる前に下に降りる。


「あ、早かったわね。もうご飯できるから座って」

「ああ、おはようエリー。ねえ、エリーは僕の魔力の量とか見ること出来る?」

「え?もちろん診断するときと同じようにすれば大体分かるけど。どうして?」

「いや……なんか魔力全然溜まってない感じでさ」


 未だに21%から増えてないからなぁ。

 エリーが見れるならこれで信憑性が増すってわけだ。


 椅子に座ると僕の身体を撫でるようにして診断していく。


「……ほんとね、ほとんど溜まってないみたい。っていうか、普通の人だったらとっくに完全に回復しているくらいなのにまだ足りないって感じじゃないの?え、こんなの初めてみた。お母さん!ちょっと来て!」

「どうしたの?まだ料理が……」

「ちょっとユウの事、詳しく診断してみてくれる?特に魔力」

「良いけど……ごめんね、診断させてもらうわ」


 ……なんか変なんじゃないよな?おかしいんじゃないよな?

 セシリアさんも手を当てながらも、エリーが言ったことに対して変な顔をしていたんだけど……どんどん真剣になっていく。


「な、なんか不味いんですか?死ぬんですか!?」

「え?ああ、違うわよ。不味いことじゃないしむしろ凄いこと、かな?ユウ、あなたウィザードの素質があるわ!凄いじゃない!」

「……え?」

「簡単に言えば普通の人よりも保有魔力量が高いの。私でもそこまで無いのよ?羨ましいわ……それくらいあったらどれだけの人を治せるかしら」

「ね、凄いでしょ?昨日始めて魔力を吸収できるようになってこれよ?成長したら何処まで伸びるか……」


 成長したら?保有量って増えるの?

 っていうかウィザード!素質あるのか……おお……ついに適正が見つかった感じかな!

 なんか魔法使えるようになるってのを通り越してウィザードになれるかも?ってそれめちゃくちゃ凄くないか。


「正直とても凄いと思うわ。お母さんでも結構凄いのよ?使い慣れていくとどんどん効率も良くなって保有量も増えていくんだけど……今の時点でもうお母さん超えてるのよユウは」

「そうね。……これは強制とかじゃないんだけど、私はちゃんとした魔法の師匠を見つけて修行したほうが良いと思うの。ただその場合はこの村じゃなくて街、……いえ、ユウの場合は王都にいったほうが活躍できるかもしれないわね」

「えっ」


 魔法使えるようになるのは嬉しいけど、僕はここに居たい。

 独り立ちしてもこの村で暮らしていこうって思ってたのに。

 そんな知らないところに行っても……つまらないじゃないか。

 ここにはセシリアさんとエリーが居るから良いのに。皆が居るから頑張れるのに。


「……僕は……ここを離れたくないです」

「でも、王都に行けばきっと……」

「僕はセシリアさんにまだお金返せてないです。それに今までお世話になった恩も返せてないです。それを放り出して行きたくないんです。それに……僕の師匠はエリーだから」

「ちょっ……師匠って……」

「師匠だよ。剣も、魔法も、全部エリーが教えてくれてるじゃないか」

「そう、だけど……師匠は……うーん……」


 なんと言われようと僕の師匠はエリーなんだ。

 そして僕はヒーラーになろうとして頑張ってる。


「……本当に良いの?それで」

「僕はヒーラーとして人を救える人になりたいんですよ。セシリアさん達が僕を助けてくれたように。魔法という意味ではヒーラーだって同じでしょ?それにヒーラーになったら他の魔法使えないってこともないんじゃないですか?」

「確かに、色々と使える人はいるけど。どっちかというとヒーラーの方が専門性が高いから難しいくらいだし……」

「だったらこっちでいいじゃないですか。お願いします。僕がヒーラーになれるように、教えてください!」


 治癒魔法の方が難しいんじゃないか。それだったら後からでも他のは学べるはず。

 ヒーラーとして一人前になれたら……その時にはきっと恩返しができていると思う。

 まあ、育ててもらった恩が残るけど。

 それは独り立ちしたらゆっくりと返していこう。


 それに正直エリーが好きなんだよね。

 ずっと同じ家で、同じ生活をして。家族のようにして暮らしているんだけど……どんどん好きになっていく自分がいる。

 自信家だけど無鉄砲じゃなくて、頭もいいし人に教えるのだって上手い。

 とっても可愛いし。

 だから離れたくないっていうのはある。


「……分かりました。ユウの決意は固いみたいね、あー、良かったぁ……内心出ていくって言われちゃうんじゃないかってハラハラしてたの。残ってくれるって言ってくれて嬉しい!」

「え?」


 真剣な表情から一転して破顔するセシリアさん。

 いつもの優しい笑顔に戻ったのはいいけど……。え、じゃあ僕ここに残っていいのか?


「良いに決まってるじゃない、さっき自分でも言ってたけどヒーラーは特殊技能だし、キールくらいになると国から認定してもらえる、認定ヒーラーとなれば引く手あまたってやつよ?あなたの位の力があるなら順調に行けば私以上の人材になれるはずね」

「え、じゃあなんであんなことを?」

「ウィザードたがってるっていうのはエリーから聞いてるし……男の子って大体、剣とか魔法の道に進みたがるものだから聞いてみたの。他の人にはないほどの魔力の才能を持っているんだから、そういうところではすぐに鍛えてもらって即戦力にもなれるはず。だけどヒーラーは地道に努力してひたすら数をこなして判断力を養っていくことと、常に勉強して新しい知識を入れるっていう苦労があるの」


 どちらも職としてはある程度安定しているけど、最終的に高給取りになるのはヒーラーだ。

 それは当然専門知識による正確な判断によって、病気や毒などの症状を治す事ができるため。

 もちろん全てが治せるわけじゃないし、時間が経つことで手遅れになってしまうものもある。

 それでも、そのままだと死んでしまう人を助けることが出来るわけで……需要は多いもののこの知識をつけたり正確な診断を下すことが出来ずにヒーラーになれる人はとても少ないのだ。

 当然、お金を出してでも雇いたい!という人は多い。


 領主に雇われるとか、王城で雇われるとかになってくるとその給料も破格のものとなる。

 ある意味セシリアさん達のように遠く離れたところで治療院を経営しているのは珍しいのだ。


「でもヒーラーになることを選んでくれたなら嬉しいわー。私も頑張っちゃうわよ?ここから腕のいいヒーラーが出たとなったらとても嬉しいもの」

「わ、私だって負けないからね!?まだまだ知識も全然なんだから調子に乗らないでよ!」

「乗らないよ。教えてもらうことはたくさんあるし、僕の先を常にエリーが行っているんだから。一緒にセシリアさんみたいなヒーラーになろう」

「当然ね!さっさとヒーラーになってユウの事こき使ってあげるから覚悟しなさい!」

「お手柔らかに」


 僕の道は決まった。

 惰性でやっていたところはあるけど、僕はこの村で……いやこのセシリアさんの治療院で勉強して一人前になる。

 そしてヒーラーとなって認定されるように頑張ろう。

 エリーと一緒に。


「あ、じゃあ剣の方はどうする?」

「そっちも継続するよ。自分の身を守るためには必要だし。痛いし疲れるけどあれはあれで楽しいんだ」

「そ、なら良かった。私もユウのことボコボコにするの楽しいし」

「ひでぇ……」


 訓練とは言え結構痛いんだぞ本当に!防具も付けてないし!

 軽く打ち合いしたときに指の骨折ったりもしてるんだぞ?

 治してくれるからすぐ大丈夫になるとは言え、怪我したときにはめちゃくちゃ痛いんだからな……。


 □□□□□□


 こうして僕は正式にヒーラーの駆け出しとして勉強と訓練をしていくことになった。

 並行して剣の訓練と体力づくりの走り込みも。


 朝は日課の走り込み、夕方になったら湖での水浴びついでに泳ぐ体力づくり。

 そのあと治療院で少し働いてから、忙しくなければ午後から魔法と剣の練習。

 夜までみっちりと勉強して……一日が終わる。


 なかなか大変だけど、段々に筋肉がついていくのが分かるし、今じゃ前に持ち上げるのが大変だったものもラクラク運べるようになった。

 どんどん暑くなっていくのを実感しながら頑張っていたら……結構日焼けするようになったり。

 もうこの頃には運動するときには下着一枚だけでやってるのが普通になってた。

 別に恥ずかしくないんだよね、結構皆やってるし。


 勉強の方はコツを覚えればどんどん覚えていけた。

 っていうか剣の練習のときにその場所を叩かれながら、一緒に名前も言わされてると嫌でも覚える。

「はい、今斬られた感じだと何処がやられた?」「外腹斜筋を貫通して小腸と大腸、角度的に左腎臓もやられてる」……という具合に。

 間違えるとちゃんと当たるまでいろんな箇所を叩かれるから本当にきつい。

 危険なところだと寸止してくれるけど、目を突かれるぎりぎりとかめちゃくちゃ怖いんだよな……。


 でもこの訓練意外と実践的でもあって、魔物に襲われたり賊に出会ってやられた人とかの治療を見ていると似たようなところをやられている時が結構ある。

 要するにそこを覚えておけば、傷を見た瞬間に大体何処がやられているかの見当がつくわけだ。

 逆に何処にどう刃を滑り込ませれば致命傷となり、何処ならば行動不能に出来るのかも分かってしまう。


 ……戦えるヒーラーを敵に回すのは絶対にやめよう。なぶり殺されそうだ。


 そうしてずっと訓練と勉強を繰り返しながら仕事をしていた、陽炎立ち上る暑い日の夜。

 セシリアさんが僕とエリーを呼んでこう言った。


「今から3ヶ月後、暑さが落ち着いてきた当たりにブレナークでヒーラーの試験があるの。試験代は私がもつから、エリーは初級治癒術士試験、そしてユウは治癒術士適性試験と、それをクリアしたら見習い試験も同時に受けてきなさい」


 ついにこの日が近づいてきたのだ。

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