第二十八話 最終回 変わりゆく世界
短いです。
僕たちが各国の人たちと会う前に、古なる者達が目覚め、それぞれがそれぞれの大陸へと移動していった。
この箱庭……つまり僕たちの王国であるホープ王国だからホープ大陸になるのかな?を監視していた衛星やヘリ、船からの映像はまたたく間に広まっていく。
この大陸が出現してからというもの、連日のように僕の動画を見ないときはない。
この予言は本当だったのだと。
世界が変わるときが来たのだと。
そして驚くことにごく弱いもの……というかほとんどマジック程度ではあるものの、魔法を扱える人が出てきたらしい。
確実に世界は変わっていく。
それに伴って僕たちのことを神聖視する人たちは爆発的に増えていった。
もともと入っていた宗教から鞍替えして行く人も出るくらいに。
宣伝しまくった僕は預言者としてその対象となり……教祖として祭り上げられてしまった。
僕の困惑をよそに、僕が世界を救うために来た現人神であるとかなんとかいう風潮は広がっていく。
勝手に名前もつけられて色々迷惑だ……。
世界中の聖人の再来みたいな感じになってて色々困る。
さらにそれこそ天を衝くほどの巨人である古なる者たちが世界中に出現すると、その熱もまたどんどん上がっていく。
ただ見た目の恐ろしさからやっぱり攻撃されたやつも居るようだ。
けど、全くもって効果をなさないというのは笑えて来た。
これなら安心だな。
他宗教を絶対許さない武力派の奴らもただ逃げ惑うだけ。
ミサイルを打ち込まれたところで、ちょっと何かが当たった程度にしか思ってないだろうな多分。
そして大陸のほぼ中央まで到達すると、彼らは手を広げて広範囲にマナをばらまきながら治癒術を発現していった。
最初は何をしているのか分からなかった世界の人達も、その日の内に奇跡を目撃する。
もう助からないと言われていた例の病の人たちが、次々と回復していったのだ。
病院での治療中の人なども、医者の目の前で次々と元の体を取り戻していく。
強力な彼らの力は凄まじく、僕の力では完全回復させられなかったあの人食いウイルスの損傷部位も全て治していったらしい。
全てが終わった後、彼らは箱庭に戻ってきて王国の縁に立ち、動きを止めた。
何をしているのかと思ったら結界を張り、この国を守る存在へとなるという。
動くだけでかなりのエネルギーを消費するらしく、今回強大な力を奮った彼らは一度眠りにつく。
彼らにとっての眠りはほんの昼寝のようなものだ。
また、語りかければ答えは返してくれるらしい。
この世界にマナが浸透し、その総量が増えてくればまた彼らは動き出す。
それまでは動かずに意識だけを働かせると言った感じのようだ。
やがてこの王国を彼らの体から出た光の膜が覆い尽くす。
無駄に攻撃をされないように、もしもされたとしてもそれを通さぬように。
全員で6体。
世界は彼らをタイタンと呼び、畏れ敬う。
さて、この世界の人達が僕たちと接触してきたのはその出来事からしばらくしてのことだった。
遠巻きにしていただけの彼らは、恐らく病原菌やら放射線やらの測定をして安全を確認していたのだろう。
問題ないと判断して船で崖下まで近づいてきた。
どうやら武器は持ってないらしい。
あれば結界に阻まれるからすぐに分かる。
だけど……困ったことに言葉が通じない。
当然だ、彼らは僕の国の人間じゃないからね。ってことでまずは発祥の地である僕の国の人を介して聞くことにした。
一緒に来た中に1人だけいたから彼女を中心にして翻訳をしてもらう。
ちょっと遠回りだけど仕方ない。
王都へとゲートを通じて転移すると彼らはとても驚いていた。
まあ初めて体験した人は皆びっくりするからね。
王城へと案内され、荘厳な雰囲気ただよう応接室へと通される。
獣人の兵士などを見てかなり動揺していたけど、何人かはむしろ興奮している。
まあ、映画とかでありそうなやつだからね。
それが本物となったらそりゃぁ嬉しい。
しかもエルフやドワーフなんかも居るんだから完全にファンタジー世界だ。
様々な装飾なんかにも一々驚く彼らと、国王との間に入って話をするのは本当に、本当に疲れた。
もう二度とやりたくない……。
ただ向こう側の人間たちにも患者は結構いたようだ。
僕らが来た経緯を話したりもしたけど、それをして支配するつもりなんじゃないのかとか、病気自体僕たちが撒き散らした後に来たんじゃないかとか、あの巨人は兵器なんじゃないのかとか色々と言われたものの……実際に治してもらった人たちの信仰は強かった。
僕たちの方にある程度都合のいいようにいろいろと話しが進んでいったのはありがたい。
とはいえ非公式なものだからあまり意味はないけど。
まあ、無断でこの国に侵入することは許可しないとか、病気の根絶をした見返りとしてこの国を認めてもらうとか。
そのへんを色々と持ち帰ってもらうことになる。
ただ、恐らくいくつかの国では受け入れられることはないんじゃないかな?
自分たちの神様以外は認めない!っていうところはかなり反発してきた。
それと自分たちの下につけたいと思うところともかなり怪しい気がする。
ただまあ、この付近には国の出現とともに魔物が現れるため下手に侵入しようとしないほうがいい旨と、攻撃の意思があるものや武器の持ち込みは弾かれるだろうってことは伝えてある。
帰り際についでってことで、僕の国の人を捕まえて頼み事をする。
あの動画を作ったのは僕であることを明かした上で、国へと連れて行ってもらいたいってことを話す。
すぐには答えを出せないってことなのは分かっているからおとなしく待つことにする。
まあ自分たちの国が優遇されているって思う分には気分は良いだろう。
実際最初に奇跡が起きたのは僕の居た国なわけだし。
もちろん目的はあの部屋にゲートを設置するためだ。
しばらくの後、ヘリが来て僕たちはは護衛艦へと案内されて故郷へと行くことになった。
同行するのは調査団のいつもの人たちにセシリアさんを加えたメンバーに、国王陛下達一行。
話し合いというかちょっとした会談が終わった後、僕は少しだけ個人行動を取る。
もちろんエリーとセシリアさんを連れて。
目的地は……僕の部屋だ。
初めて見るものばかりなエリーは部屋の中を見てとても興味深そうにしていた。
セシリアさんも色々と見て回っている。
そこに僕の父さんが来た。
はじめての親を交えての顔合わせ。
とても緊張した上に、色々と突っ込んだことなんかを自分が翻訳して伝えていくとか何の地獄かと。
でも、お互いを知れたことで僕たちの関係は更に強固なものへと変わった。
そして父さんは僕たちの国への移住を希望していた。
今の仕事を終えた後、そうするつもりだという。
そのときには僕の部屋に設置するゲートを通じてきてもらうことになるだろう。
それから僕達はとても忙しい日々が続く。
僕の予言の通りのことが起きたことで、ホープ王国の支持者は増えていき……近海に来てまで入国を求めてきてみたりとちょっとしたトラブルなんかも増えてきた。
でもまだ僕たちの国はきちんと認められたわけじゃない。
宇宙飛行士並みに検査とかを受けなきゃならないってことで、そう簡単に会うことはできないのだ。
前に父さんとあったときだって実際に国内に入れたのは4日か5日経ってるのだ。
検査とか色々なことをやられたわけだけど、獣人のライラさんとかは特に体毛も調べられたりと面倒だったらしい。
魔獣使いのマーレも連れている魔獣は入国できず、泣く泣く国に置いてくることになったし。
僕らも剣などの武器は仕舞っておくなどの色々なルールを教えられたりだ。
そんな事もあって勝手に接触することは今のところできなかったりする。
古なる者達が出現したり、移動ルートだったりしたところなんかもしばらくはかなり厳重な警備と放射線その他の有害物質や、新しい菌やウイルスなどの影響がないかを調べたり色々あったようだ。
まるで俺たちが汚物みたいじゃないか!と憤っていた人もいるけど、一応僕が詳しいことを説明して落ち着いてもらった。
なにせこっちにとっても当てはまることなのだ。
未知の病原菌などによって死んでしまったりなんてしたくないだろう……。
まあ僕が確認している限りは多分大丈夫だけど。
致命的なのは僕たちの病気が、彼らの方に感染った場合だからだ。
魔法でしか治すことができないものなんかは対処できないわけだし。
そういう事もあって時間がかかるのは無理もない。
それらの対処なんかにも色々と人員を割いたり、無断で上陸しようとした人が魔獣に襲われてるのを助けては、その国の機関に引き渡したり。
ただ、僕達治癒術士が望んでいたことが実現したのは数ヶ月もたった後だった。
それは難病への対処だ。
この世界では治療が困難、もしくは治療不可能な物を僕たちが治療する。
それによって僕らは対価を得る事ができるようになる。
さらに予言どおりに世界中で見たことのない魔物なんかが発生し始め、それらの対処にホープ王国の戦士たちが当たることになった。
最初は自分たちの武器でなんとかなるだろうと高をくくっていた彼らは、あっという間に戦車を破壊されるわ砲弾は弾かれるわ、突然炎に包まれてみたり雷撃を食らったり……散々な結果となり、僕たちへ相談に来ることになる。
この頃になると国交らしきものも少しずつ増えていき、待ち望んでいた食料の供給なんかも増えてきたのだった。
それからも僕らは新しい世界へと対応するために動き続ける。
一部からは獣人がものすごく嫌われたりとかもあったけど、概ね受け入れられてきていると思う。
だけどまだまだこれからだ。
王国の方も少しずつ変わってきている。
新しい知識や技術を取り入れて、今まで無かったものが作られてきたり……逆に魔道具が外の世界へといくつか出ていったり。
王国の中で僕たちはその調整とか色々なものに携わることになっているのだ。
大変だけど、僕達の手でどんどん変わっていくのが面白い。
ここから僕達の新しい物語は始まる。
そして……。
「どう?」
「よく寝てるわ。……部屋出ましょうか」
僕たちの間に子供が生まれたのだ。
この子のためにももっと頑張らなきゃな!
それと、アルファはついに声を手に入れた。
スピーカーを付けてやったんだ。魔力と電力という違いはあるものの、似たような感じで流用できるようで……魔力で起こした振動を音として出力している。
これにはアルファも満足しているようだ。
「……ねえ、この子1人じゃ寂しいかしらね?」
「え?んー……そうだね。もう1人欲しい?」
「うん。だからー……」
最近事あるごとに誘われるけど、僕としても大歓迎だ。
しばらく離れ離れになってた反動だと思うけど、ちょっと暇があれば一緒にいちゃついてる。
お互いの身体のぬくもりを確かめ合うように。
この先どんなに世界が変わったとしても、この時間だけは変わらずに居て欲しい。
もしこの人生が夢だったとしたら……ずっと醒めずに居て欲しい。
この幸せな夢が。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
これで「箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る」最終回となります。
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