第二十六話 確約された予言
「……跡形もないとは……」
ユウに頼まれてウイルスを入れた物を渡したのだが……全てが完全に無害化されていた。
というよりも何もいない。
死骸くらいはあるかと思っていたのだが……。
これを殺すだけなら簡単だ。
ユウはそう言った。
そしてウイルスを集めて殺して焼却したとも。
イメージとしてはそんな感じだと言うが……その効果は凄まじいものだ。
耐性を付ける暇もなく消されてしまうのだから対抗しようがない。
魔法か……何を馬鹿なと言いたかった。
だが私の病を一発で当てて、それを消してみせたことも確かだ。
無かったことになった。
それを見た技師と医者もかなり驚いていたが、一番驚いたのは私自身だろう。
まさか体中に広がったあれが綺麗に残らず消えていたというのは……流石に信じがたい。
血液検査の方も全てが正常だ。
まさに魔法。
そういう他なんと表現すればいい?
ユウが抵抗したときに手枷を切り刻んだことも、爆風で人を吹き飛ばしたことも。
それであれば説明がつく。
むしろそれ以外での説明がつかない。
本物の魔法使いとは、まさかこの科学の時代に……だがだからこそ、隠し通さねばならないだろう。
幸いこのタワーの近くに私の部屋を買ってある。
そこならば何かあればすぐにここへと運び込むことも出来る。
バイタルなどをチェックしなければならないというのならば、装置を付けさせることくらいなら出来る。
この街はまだ汚染されているところは少ないが、少し場所を移動すればそういう人たちが居るところもある。
正直不安しか無いが……だがユウはやれると言った。
あの子の力を信じたい。
もし成功したならどうしようか。
うまくその仕組が理解できるようであれば再現したい。
その辺をどう思っているのだろうか。
次に会ったときに聞いてみたいと思う。
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「やあアルファ。ちょっと向こうに繋がせてもらうよ」
アルファを取り出して魔力を込めながら古なる者へと呼びかける。
数回で反応があり、僕はウイルスに対しての効果を報告した。
『まだかかるか』
「そうだね……父さんが頑張ってくれるって言うけど、僕のことをまだ外に出したくはなさそうだったし……しばらくは色々とあるんじゃないかな。あまり迷惑もかけたくないからゆっくりやらせて欲しい」
『構わぬ、まだ大して時間は経っておらぬからな』
「そういえばそっちはどれくらい時間が経ったの?こっちはもう半月は過ぎてるけど」
『まだお前が眠りについてから数時間と言うところだ』
「それだけ!?」
かなり時間がたったと思ったのに……あっちはそんな時間が経ってないみたいだ。
一月居ても一日にも満たない。
……よし、それならばちょっと時間がかかってもなんとかなる。
「そしたらまた確実に治療できるようになったら連絡するよ」
『頼んだぞ』
彼と連絡をとった後、僕は父さんの言っていたことが実行できるように大人しくしていた。
あれから免疫を高めるための注射とか薬とか……まあ色々とやられたよ。
こっちに来てからすでに一月が経とうとしているけど、短時間に僕がどんどん免疫を獲得していくのは驚異的だったようだ。
うまい具合にクローン体での特異な現象として見てもらえているようだから黙っておくけども。
まあ、お蔭で僕は父さんの個人的な部屋へと移り住むことは認められることになった。
やっと念願の一人暮らしだ!
この無機質な病室とはおさらばってことだな!
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「……父さん、なんでこんな部屋持ってるの?」
「父さんだってずっと研究所の部屋にいるよりはゆっくりとしたい時もあったのさ。母さんが死んでからあの家はもう売ってしまったし」
「いや、うん。それは知ってるけど……何もここじゃなくても……」
僕が知ってるのは売ったあの家だからなぁ。
その後僕は倒れてずっと入院してたし分からなかったけど、こんな部屋を持っていたとは。
僕が呆れるのも無理はないと思う。
タワーマンションの最上階に近いところにある大きな部屋だったんだから。
給料、良いんだろうな。全然知らなかった。
まあでもこれが僕の部屋になるって言うなら全然いい。
父さんは研究所の部屋がグレードアップしたってことでずっとそっちにいるようだ。
もしも僕が元気になったら……と思ってここを取っておいたらしい。
「お前が元気になったらここに住んで欲しいと思ってたけど、夢がかなってよかったよ」
「嬉しいけど、もう少し安いところで良かったのに……。でも助かるよ、ありがとう」
「それで、ユウ。何があったのか詳しいことを教えてくれないか?」
「いいよ。そしてこれから何が起きるかも」
僕のいた世界は父さんが僕のために繋げてくれた世界ではなかった。
巨人なんて出ないし、箱庭の世界でもない。
VRMMORPGといった形の物だったようだけど……僕は最初からそのゲームは体験できなかったようだ。
そしてあの世界へと飛ばされる。
箱庭の世界へ。
その世界で僕は結婚したんだって言ったら父さんはとてもびっくりしていた。
とても可愛いくて強い子だと教えると会ってみたいという。
「会えるよ」
「ははは、流石にそれは無理だろう?」
「いや冗談じゃなくて本当に。全ては僕に掛かっているけど……まあ笑わないで聞いてくれる?そして信じて欲しい」
流石にすぐに信じてもらえるとは思えないけど。
だから僕はストレージに入っているものを見せてやった。
インパクトがある上に優秀な護衛でもあるアルファや、僕の魔法剣と鎧。
魔法薬や薬草。
どれもがこの世界には無いものばかりだ。
「ど、どこからこんな……」
「魔法的な空間。僕にもよくわからないけどめちゃくちゃ便利だよ。そしてこいつはアルファ、何かあったら守ってくれるからここのセキュリティーの心配はしなくていいよ」
「これは……人形なのか?……動いた!?」
面白いくらいに驚いてくれて嬉しいよ父さん。
とりあえず色々説明していく。
薬草は少し分けてあげて、気が済むまで研究してもらうことにした。
魔法薬もね。
で、魔法剣を発動させてみたりとか色々と目の前で見せたお蔭で、僕が魔法を使えるということや僕が居た別な世界が本当にあるということは完全に信じてくれた。
っていうかこれで信じてもらえなかったらどうしようって頭抱えるよ……。
「まあ、こんな感じで僕はこの世界にはない力を持ってる。それで僕の結婚相手……エリーなんだけど……彼女と会えるよっていうのは、これからの世界のあり方について色々と変わるからなんだよ」
僕たちが居た箱庭の世界。
それが一つの大陸となってこの世界へと融合する。
もともとそこにあったかのように。
海に出るということは言っていたけど、巻き込まれる小さな島とかはあるかもしれない。
そして僕がこの世界に今蔓延している病の治療法を確立した後、僕が道を作りさえすればすぐにでもそれが起きる。
巨人が現れ、病を治し、この世界にもマナが広がっていき……魔法を使えるようになるかもしれないということも。
それによって世界のあり方がまた変わる。
同時に魔物も出ちゃうかもしれないけど、まあその辺は僕たちも協力するってことで。
「ユウ、ちょっと父さん頭がこんがらかってきたんだが」
「僕が居た世界とこの世界が融合して、大きな大陸が1つ出来る。巨人が病気を根絶してくれる。魔法の世界になるの3つだけ分かればいいよ。……その時は僕は僕の居た世界の方に行くと思うけど、当然この星の一部になるわけだからいつでも来れるよ」
「あ、ああ……そうなのか?にわかには信じられん……」
僕も正直半信半疑ってところだけどさ。
それに大陸が1つ出来て国が一個増える。
色々揉めそうだなぁとは思うけど……その辺は王様とかに頑張ってもらうしか無いでしょ。
戦争にはならないと思う。
ならないだろうけど……どっちかというと企業の方がめんどくさそうだなぁ……。
利益優先の人たちほど怖いものはない。
後あまり変な人達に来てほしくはないかな。
エルフ狩りだァァ!とか、無いよね?
多分返り討ちにあって終わりだと思うけど。
飛び道具にめっぽう強いからなエルフ。
弓矢はもちろん、恐らく銃器の類でも弾道逸らすくらいはやると思う。
まあともかく、僕は僕の居る世界を取り戻す。
エリーを呼び寄せる。
頑張ろう!
「もし本当にそんな事になったら、大混乱だ……」
「だろうね。でもまあ良いんじゃない?面白いと思うよ」
「まあ、ユウの思うようにすればいい。私は流石にそれを止めようとかは思えないんだ、本当にあの病を根絶してくれるのならば……」
「それはきっと大丈夫。ただ、僕たちを攻撃したり敵対しなければだけどね」
「それは父さん約束できないなぁ……」
「決めるの父さんじゃないもんね。実現したら来てよ、もしよかったらそのまま住んじゃえばいい」
どうせ土地はいっぱいあるし。
そのかわり魔物も出るけど、それ以外はとっても平和だ。
色々と混乱した状態だけども、父さんは帰っていく。
二週間に一回研究所の方に顔を出して検査を受けることはしなきゃならないけど、それ以外は基本的に自由となった。
あ、お金は父さんからもらった。
部屋のお金は父さんが払ってるし、まあ食事とかさえ気をつけてれば大丈夫でしょ。
っていうか家族用のカード貰ったからそれ使えばいい。
無くさないようにしなきゃな。
ともかく、僕が自由に動ける様になった。
アルファを通じて古なる者へと報告をして休むか……。
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外の世界に出てきて僕がびっくりしたのは……案外普通に街が機能しているってことだ。
店もやってるし、人も出歩いている。
まあ……流行ってるからと言ってどうしようもないっていうのが分かってるからだと思うけど。
感染予防として色々なものが売り出されているみたいだけど、今のところ確実なものはない。
基本的な手洗い、うがい、マスク、紫外線といろいろと頑張っているみたいだな。
久しぶりのスーパーへと入ると品数に圧倒される。
……やっぱり物を買うならこっちのほうがいいな!
品目数も何もかもが違いすぎる……。
カップラーメンとか弁当とか!
ああこれだ……恋しかったよ!
帰りにハンバーガーも買っていこう。
色々食材を買い込んで帰ったけど……まずはハンバーガーだ!
「……うめぇ……」
このジャンクな味最高……!
フライドポテトも懐かしい。
病院食とかくそくらえだな、もう本当に現代最高。
とりあえずは食料も買ってきたし、しばらくは問題ないだろう。
冷蔵庫があるっていいね!
「さてと……とりあえずこのマンションは……特に監視とか無いね、よしよし。完全に自由だ……」
心置きなく魔法を使えるじゃないか。
とりあえずアルファは出しっぱなしにしておく。
色々と手にとってみては頭を捻ってるようだったので、一通り使い方とかを教えてやった。
そしたら率先して掃除とかしてくれるようになったから余計に助かる。
そうだよな、言わなきゃわからないよな掃除機とか……。
料理は無理っぽいけど、まあそこは僕が出来るから問題ない。
パソコンもあればネットにも繋がっている。
早速この付近で患者が居ないか調べてみることにした。
キーワードを打ち込んで見ればすぐに大量の情報が画面に映し出される。
箱庭の世界に居たときになにかが足りないと思っていたんだけど、こういった科学のものが足りなかったんだなぁとようやく気づいた。
2つの世界が融合した後の新しい世界……楽しみだ。
僕にとって嬉しいことしか無い。
衛星ネットワークもあるからパソコンが有ればネットに繋げられるわけだし。
それでまあ……伝聞的なものが多い中、きちんとしたニュースとかを色々と見ていくと、ここからそこまで遠くない場所にそういう人たちが集められてるところができてるらしい。
要するにみんな迫害されたりして追い出された感じだ。
……ここだな。
病院に行っているわけでもなく、そこでボランティアの医師たちの治療を受けている人たち。
そこなら僕が行っても大丈夫だろう。
そしてここからの距離を見てちょっと考えた。
いや、遠いわこれ。なんかもう当たり前のように日をまたいだ移動とかしてたからなぁ……。
でもこっちだったら普通に一時間位で着くし別にいいか。
高速鉄道バンザイ!
ともかくやることは決まった。
色々用意して行くとしよう。
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流石にすぐに動くのは良くないと判断して数日置いた。
といってもその間その辺の水とか土とかを採取してウイルスを確かめたりはしていたわけだけど……居なかった。
生体の中にしか居ないのかなぁ……。
ただ一応気持ち悪いことは気持ち悪いので、僕の魔力が届く範囲で探査をして浄化だけはやっておいた。
完全に相手を認識しての攻撃ではないけど、相手を指定しているため外すことはない。
疫病などで村の浄化をするときに使う手だ。
これが使えないと認定を取れないからね。
ただあまり調子に乗っているとあっという間に魔力が付きてしまうから気をつけなければならない。
なにせマナが無いに等しいくらいに薄い。
食事からは以外にも結構取れるのでなんとかなるかもしれないけど。
万が一の時を考えて残しておかなきゃ駄目だからね。
そして今日、ついに行動に移すことにした。
誰にも監視されていないっていうのは楽でいい。
目的地は駅が閉鎖されていたため、その2つほど前の駅で降りてそっからはタクシーなど別な方法で行くしか無かった。
更に進むともう徒歩のみが唯一の侵入方法となる。
ここまで来ると荒れ果てた道が現れ始めて、テレビで見ていたあの光景を彷彿させた。
略奪や破壊行為だ。
燃やされたあとのある車とか、窓ガラスがことごとく割られたお店。
……これひどいな……。
周りからは気配はしても人の姿は見えない。
かなり弱っている人達が多い感じだな……。
さて、行こう。
近くのビルへと入っていく。
入り口には大きくマークが書かれていて、恐らく感染者の居る場所ということで警告となっているのだと思う。
数人の人の気配があるものの、元気なのは2人だけ。
他の4人位は動くことすら出来ないほどに衰弱しているのが分かる。
荒れたこのビルにはライフラインは繋がっているけど、この人達以外に人が見当たらない。
部屋の前に来てノックをすると、女性の声が返ってきて少しだけドアを開けた。
「……どちら様ですか?」
「治療に来ました」
「ふざけているんですか?こちらに居る方たちはみんな苦しんでるんです!宗教なんて意味がないんですから帰ってください!」
「あ、いや宗教とかじゃなくてですね……」
めっちゃ怪しまれた。
それも当然のことだけども。
今僕が着ているのは向こうで着ていた服だ。
つまり箱庭の世界で普通に着ている服で、冒険者たちがよく着ているようなもの。
使い込まれた革鎧の下には魔物の素材でできた丈夫な服。
更にマントを付けての軽装備だ。
頭は顔を隠すために下半分を布で隠した怪しい姿……まあ怪しむよな。
でもこの格好をしているのには訳があった。
バン!と音を立てて思いっきり扉を閉められた後、ガチャっと音が聞こえて鍵がかけられる。
だけど……即座に解錠して扉を開けた。
「えっ……!?」
「世話をしているのは2人でいいですか?動けない方は4人」
「鍵……どうやって入って……!出ていって!」
「まあまあ、とりあえず落ち着いてください。僕は治癒術士をやってる者ですよ、今流行っている病を治せると思うのですが……」
静止してくる女性に鎮静の魔法をかけて無力化し、奥へと入っていく。
2人目の人は鉄パイプで襲ってきたけど、剣での実戦すら経験した僕には簡単に見切れる。
エリーの方がよっぽど早いからな。
同じく沈静化させて、とりあえず言うことを聞いてもらう。
何とかしなきゃとは思いながらも、なぜか話を聞かなければならないという気にもなっていて混乱しているようだ。
寝かされている患者たちは……全員硬化病だ。
まだ一部の人もいれば、すでにほぼ全身が硬化しかけている人もいる。
まずは足が硬化している人の元へと行って診断してみる。
「何をしてるんですか!」
「ちょっと2人は黙っててくれるかな。ちょっと集中するから。さて、今からあなたの足を見るよ」
診断してみると……驚いた。
この硬質化した皮膚の下は内部まで硬質化していたのだ。
その中に大量のウイルスが居る。
まだ硬質化していないところは少ないけど……徐々に増えていくのは確かだな。
そして一番びっくりしたのはマナの存在を完治したことだった。
このウイルスは魔法生物と言える。
僕たちの世界でもよくいるタイプで、この手のやつは普通の薬草なんかじゃ効き目がない。
魔法薬が必要なのだ。
もしくは僕達のような高位の治癒術氏の力が。
単体だけを見たら分からなかったけど……ある程度の数が集まってようやく分かるんだろうか。
それとも体内で出す毒素とかなんかが?
いや違う。これは石化だ。
筋肉の硬直によって全身がガチガチになるタイプと、こういう風に本当に石のように固くなっていく2つの種類があるけどこれは後者。
こいつら……魔法を使っているんだ。
そしてその人の身体を硬質化させてそこで自分たちの住みやすい環境を作り出しているのか。
ただその大きさのせいで進行はゆっくりだ。
だけど……増えていくとどんどんその進行は早くなっていく。
僕たちの魔法で一気に石化するよりもずっと残酷だ。
一気に石化させられた場合、苦しむ時間はとても短いけど……この人達の場合はじわじわと自分の体が別なものへと変化していくのを見せられ、最後は何も出来ずに死ぬ。
この硬質化の厄介なところは石のようになっている事で身体が崩れることだ。
ぶつけたりして腕がもげるなんてことは普通にある。
実際ここにいる人の1人が左腕の肘から下を失っていた。
ただ、幸いなことに石化であればなんとかなる。
魔法の効果をキャンセルして元に戻った組織を活性化させればいい。
「良かったですね、これは治せますよ!世話をしていた2人もここに来てください。あなた方もすでに感染しています、それと……この方の腕は何処かにありますか?」
半信半疑って感じだったけども、腕を持ってきてくれた。
よし、これならばまた腕をくっつけることが出来るぞ。
あまり魔力を無駄にしたくないから、ここの部屋のベッド4つ分の範囲で一気に治す。
エリアヒールにこのウイルスを殺すための魔法と石化の解除を混ぜ込み発動する。
突然辺りに光が満ちていく光景に、みんなが目を奪われる。
ウイルスは全身に回っている人はかなりの量だったけど全て消せた。
不味いのはコンクリートだな……この部屋の周りにあるコンクリートの中にかなりの数のウイルスが潜んでいた。
あままり距離離れることは出来ないようだけど……木材の中に巣食うシロアリのように、無数のウイルスたちがそこに住んでいた。
それらも纏めて消していく。
色んな事を一度に行わなければならないから凄く集中しなきゃならないけど、その効果あって全員の身体が元に戻る。
後は……腕が折れてしまった人の腕をくっつけて治して……。
終わりだ。
「よし、これでもう大丈夫」
しばらく何が起きたか分かっていないようだったけど、自分の手足の感覚が戻っていることに気づいたみんながゆっくりとその手足を動かし始める。
まだ筋肉量とかがきちんと戻っていないから、すぐに歩いたりするのは難しいだろうけど……それでも今みんなの身体は活性化させてあるから、しっかりと食事を取ればあっという間に動けるようになるだろう。
「治ってる……私の身体が……」
「うそ……動ける!動けるよ!」
「皆……治ったの?奇跡よ!」
事態を飲み込んだ皆が大騒ぎするのはすぐだった。
あれだけ怪しんでいた2人も僕に思いっきり抱きついてきて感謝する。
ベッドに寝ていた人たちはまだ動けないけど、それでも治った手で握手を求めてきた。
この瞬間がとても嬉しい。
そして僕の事を完全に信用してくれた。
まあそうだろう、現代医療で無理だったものを完全に治したんだから。
そこにつけこむ形で申し訳ないけど、僕は布教することにした。
そう、これこそが僕が考えた物だ。
「今、皆さんを治したのは魔法です。このウイルスは医学だけでは難しいですが、魔法ならば簡単に治すことが出来ます」
まさに魔法よ!とか言っていたけど……うん、本物の魔法だからね?まさにっていうか……。
さっき見せたエリアヒールの効果や、自分の体が段々に戻っていくのを目の当たりにした皆は信じざるを得ないだろう。
「そしてこの病は近い内に根絶されるでしょう。この世界の変化の時です。今はまだ信じられないと思いますが、近い内に1つの大陸が出来てそこに巨人が出現します。そして僕と同じ様な感じの人達も。彼らは皆魔法を使うことが出来て、そこには治癒術士と言われるこの世界の医者の様な人たちも居ます。彼らは医学の知識に加えて魔法知識にも長けています」
こうやって話をすることで、皆が来た時に敵ではなくて味方であることを知っている人たちを増やしていくつもりだ。
だからまだすぐには道を繋げられない。
病気を治すことが出来ることがわかったらすぐに道を繋げられるけど、その前に僕はこの世界にある程度僕たちを知る人を増やしておきたいんだ。
「やがて巨人たちが目覚め、病を根絶するために世界をめぐります。彼らは味方です」
古なる者達が攻撃されないように。
宗教じゃないけど、こうやって事実を伝えていく。
流石に世界中には無理だけど……優先的にまずはこの国の浄化から始めてもらおうと思う。
情報インフラが整っているこの国で起きた出来事は、すぐに世界中に広がっていく。
まずはここの人たちを片っ端から治していこう。




