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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第二十五話 治癒術士として 

「どうだ?」

「駄目、身体には異常はないのに起きてくれない……どういうことなの?」


 何度診断しても身体には何の異常はない。

 呼吸も正常だし……でも気絶から復帰させようとしても意味がない。

 わけがわからないままただいたずらに時間が過ぎていく……。


『心配するな。彼は今旅をしている』

「……旅?」


 古なる者が答えをくれた。

 けど、旅?

 彼?……が言うことには今ユウはここではない別な場所へと旅立っている。

 魂が消えたわけではなく、ただこの体を離れて旅をしているのだと。

 必ずここに戻って来る、そしてその時世界の復活は成されるのだという。


「古なる者よ……、世界は元に戻るのだな?」

『王よ、ゼーベに連なるものよ。残念だが元には戻らぬ』

「しかし……!世界は復活すると……!」

『この結界の外……その失われた世界はもう二度と戻ることはない。だがもう一つの世界から持ってくることは出来る、いや、この世界をもう一つの世界へ融合させると言ったほうがよいか』

「もう一つの、世界?」


 渡り人。

 それは私達のこの世界とは別な世界線にあるところから流れてきた人の事。

 それがユウだった。

 あくまでも彼の話を信じるのならばだけど。


 でも、今思えば色々と思い当たる節はある。

 家族が居ないこと、記憶が無いこと、魔法を知らなかったこと……この世界では当たり前な事を、ユウは知らなかった。

 かと思えば私の知らないことを知っていたり。

 その知識を利用していくつかの発明をしたのを私は間近で見ている。


「ユウは……その渡り人として、その世界に行っているんですか?」

『その通りだ。そして、彼を通じて道を作る。……それまで待つのだ』


 待つ、って……どれくらい?

 彼の時間はあまりにも長い。私達の寿命が尽きたはるか先までまたなければならないなんてことがあるのかもしれない。

 そう思うと、自然と涙が出てきた。


 もう、ユウに会えないの?

 あんなに愛し合って居たのに……こんなところで引き裂かれてしまうの?


「エリー。ユウは戻ってくる。必ず戻ってくる」

「団長……。でも……」

「ユウはこの身体に戻ってくるのだろう?そして古なる者も我らの寿命くらいは分かっている。大丈夫だすぐに戻ってくる」


 そうかも知れないけど。

 でも、すごく不安。

 道を作ったらユウはどうなるの?

 無事に帰ってこれるの?

 新しい世界の礎となって居なくなったりすることはない?

 不安しか無い。


 でも、私達には何も出来ることはなくて……そのまま夜を迎えた。

 王様達もこのままここで泊まり込むつもりらしい。

 ゲートは開いているのだから戻っても良いようなものだけど、古なる者と共に歴史をこの目で見たいという。


「……エリーと言ったか?」

「え?へ、陛下?!」

「よい。ここには小うるさい者たちも誰もおらぬよ、アクラ達団員と、我が護衛だけだ」

「しかし……」

「よいのだエリーよ。我々はずっと何代も前からこの時を夢見てきた。今、それが実現するのだよ、だが……少々私は浮かれすぎていたようだ。この眠っている彼は……ユウは、君の夫だと言うではないか」

「はい」

「不安であろう。自分の夫が、世界を作り変えるために別なところへ居るというのだから……」


 不安で不安でたまらない。

 向こうの世界では何をしているのか。

 元々居た世界に戻れて私達を忘れては居ないか。

 覚えていてくれるのであれば、きちんと無事に戻ってきてくれるのか。


 戻ってきて欲しい。

 無事に戻ってきて欲しい。


「先程、彼から聞いたのだがな、心配しなくても良いそうだ」

「え?本当ですか!?」

「ああ。早ければ明日、遅くとも数日で繋がるという。後は向こうにいるユウが道を繋げるための道標を作れるかにかかっているというが……彼ならば問題なかろう。なにせあのドラゴンを倒した男だからな」

「そう……だと良いのですけど……」


 大丈夫だとして、この世界はどうなってしまうのだろう。

 この壁の外側に大地が出来るのならばそれで良い。

 だけど、彼は融合と言っていた。

 であれば……。


「融合は言葉の通りのようだ。この狭い世界は、大きな世界の一部となり……2つの世界は完全に融合する。私も想像がつかないのだが、恐らくユウが今いる世界と、この世界が交わるのだと思う」

「そんな事が……」

「古なる者の力は強大だ、それこそ私達では敵わぬほどにな。それを考えると、彼らと渡り合った我らの祖先とはどんな者達であろうな。もしかしたら今のユウよりも強いものばかりだったのかもしれぬ……今となっては分からんが」


 力はともかく、今の私達の世界とユウの故郷の世界が交わる。

 大きすぎて全然理解が出来ないなぁ……。

 でもそうなると余計にユウの事が気になる。

 果たして次に私の前に現れるのは、向こう側のユウなのか……それとも、私とずっと一緒に居たユウなのか。


「……ユウ、早く戻ってきなさいよ、バカ」


 □□□□□□


「二日目……あれ三日目だっけ?」


 ああ駄目だ、なんか時間の感覚がおかしい。

 でもそんな時にはセルフチェックだ。時間も見れるわけで、日付も分かる。

 ……なんて便利なんだ。

 ゲームとかならこれにチャット機能とかありそうなもんだけど、そんな便利なものはないし……そもそもエリーには見えてなかったもんな。

 僕だけが見えてるのはもったいない。


 とりあえず、僕がこっちに来て三日目だ。

 向こうではどれだけの時間経っているのか分からないけど……。早く帰りたい。 

 エリーに会いたいなぁ。


 そしてやってくるまずい飯。

 いや本当に美味しくないんだよなこれ、味気なくて……。

 ああ……家に帰りたい。

 箱庭の世界の家に帰りたい。

 美味しいご飯をたっぷり食べてエリーといちゃいちゃしたい。


 最近忙しくていちゃつけなかったから余計に寂しい……。


 テレビを見ながら暇つぶしをして、ポータブルトイレに用を足すだけの一日。

 苦痛にも程がある。


 しばらくしてまた護衛付きの人が来て、検査をするという。

 僕は彼らに連れられて色々な機械に突っ込まれたりしながら検査を受けていく。

 血をとったりとかもしたけど、まあ……何も出ないだろうな。


「あの、先生、僕はなんで検査を受けてるんですか?」

「脳移植手術をしたんだ、経過を見るのは当然だよ。今の所感染症などの症状も出ていないし、あのウイルスも検出されていないから安心していいよ」

「家に帰ったりは出来ないんですか?」

「まだ無理だよ。それに……外は危険だからね」

「あの病気ですか……」

「そう。今の君は免疫システムがまだ不完全なんだ、出来上がったばかりの身体だからね。赤ちゃんの頃からずっと成長を続けながら様々な免疫を獲得してきた元の身体とは違う。生まれたてと言って良いんだ。だからこうして……少しずつ免疫力をあげていくってわけだ」


 そういって腕に針をさす。

 なんかもうこの程度じゃ全然痛みを感じないな……。

 あれに比べたら魔物の攻撃食らったほうがよっぽど痛い。


 それにしてもどうやったら帰れるんだよ、本当に。

 免疫だって恐らく魔力を使えばうまくいくし、外に出ても問題ないんだろうけど。

 結局また元の部屋に戻される。

 暇すぎるでしょ……。


 やることもないので寝ようとしたら、父さんが入ってきた。


「ユウ!」

「え、な、何?」

「父さんに何をしたんだ?病気が全部消えていたぞ!」

「治したって言ったじゃない……」

「お前はただ手をかざしていただけだ、あれだけで……?あの時といいユウ、お前に何が起きているんだ……」


 あの時?と思ったけど、多分攻撃したときだろうな。

 聞いても案の定しまったって顔してはぐらかされた。

 絶対に人には言わないという約束で、僕はある程度父さんに話をする。


 魔法のこと、僕がこっちで意識がない間何をしていたのか。

 そして何を学んできたのか。


「……だからあんなに詳しく父さんの症状を……?」

「そう。魔法って言ったら普通なら鼻で笑うでしょ?でも、実際に僕は出来るんだ。なんでこっちでも出来るのかわからないんだけど……」

「それじゃ、あのときのは」

「皆隠そうとしているけど、あの時僕は向こうの世界に帰ろうと必死だったんだ。こっちの方の記憶がなかったから……誰も死んでないよね……?」

「あ、ああ、それは大丈夫だ。重傷者もいない」


 大分信用してもらえたようだ。

 父さんは実際に僕が魔法を使う所を目撃している。

 それに病気が跡形もなくなっているわけだから信じるしか無いだろう。


 色々と話をしていて思いついたことがある。

 僕が例の奇病の感染者の治療をしてみるというものだ。

 幸い父さんはここの研究者であり、立場もある。

 ……出来るかもしれない。

 そしてもし出来たとしたら……僕は外に出ても平気だ。

 とにかくこのつまらないところから早く出たくてたまらなかったんだ。


「……それは無理だ。危険すぎる……」

「そうだろうけど……。でもやってみる価値はあるんじゃない?」

「ああ、だが……ユウにそんな危険なことをさせたくないんだ。分かってくれ。それに患者を好き勝手に移動することは出来ない」


 そりゃそうか……。

 危険なウイルスが撒き散らされるかもしれないわけだもんな。

 バイオハザードだよ。


 あ、でも……研究のために色々と保存してるはずだよな……。


「でもウイルスのサンプルとかはあるでしょ?」

「そりゃ当然あるが」

「少しだけでいいんだ、それを使ってそいつらだけ無力化出来るかやってみたいんだよ。別にガラス瓶の外からなら大丈夫だからさ」

「……」


 しばらく目を閉じて考えていた父さんだったけど。

 最終的に了承してくれた。

 培養しているそれを少しだけ取ってきて実験に使う。


 ……ちょっとだけ、楽しみができた。


 そしてまた暇な数日が過ぎ……。


 夢を見た。

 どんどん落ちていく夢。

 底なしの穴へと落ちていく。

 このまま向こう側に行ければいいのに、と思ったんだけどそれは出来なかった。


 巨大な手にそれを阻まれてしまう。

 その手は僕の背よりもずっと大きくて……見覚えのあるものだった。


「これは……古なる者!?」

『見つけたぞ』

「見つけたって、探していたってこと?」

『その通り。お前と繋がることが出来るその瞬間を待ちわびていたぞ。お蔭でまた大地を取り戻すことが出来るのだ』


 そういえばその為に僕たちはあそこまで行ったんだ。


「僕はどうなっているんですか?」

『気絶している状態だ。何も問題はない……番が悲しんでおるぞ』

「僕は……帰れるんですか?」

『無論だ。道が繋がればすぐに世界は融合を始める。そうすればすぐにでも』


 融合。

 向こうの世界とこの世界をくっつける。

 それが彼の出した世界の復活のための策だった。

 てっきり僕は元の通りになるものだとずっと思っていたけど……この世界とあの世界が融合したらどうなるんだろう。

 魔法は使えるのか?

 病気が蔓延するこの状態で融合させて大丈夫なのか?


 流石にこれは予想外だったらしくて古なる者も困惑していた。

 だけど僕が治せるかもしれないというと、その結果待ちとなった。


『もしも治せるというのであれば、融合した後に我にその方法を伝えるが良い。お前たちにもらった新しい力で一気に根絶する故』

「そんな事が出来るんですか?」

『我一人では難しかろう。だがまだ眠る同胞たちも居るのだ、彼らを目覚めさせれば問題なかろう』


 あーなるほど……。

 というか、スケールが大きいな……。

 僕達の仕事無くさないでほしいけど。


 だけどこれはある意味で僕たちのためでもあるようだ。

 理由を聞いて思わず苦笑いしたけどな!


 世界を融合した時、あの箱庭の世界は今僕がいるこの世界に張り付く形で融合する。

 新しい大陸が1つ出来上がる形になるという。

 そしてこちらの世界は科学が発達しているわけで……そんなのが突然出てきたら大騒ぎになるのは目に見えている。

 その辺はすでに話をしてあるから彼も理解しているけど、その解決方法として僕たちは救世主となろうということだった。


「ええと、こっちの世界で治せない物を根絶することで敵ではないことを知らしめて……受け入れてもらおうってこと?」

『そうなる。もっと原始的な世界であればここまでする必要は無いのだが……文明が進んでいるところならばやむを得まい』


 まあそうだけども。

 巨人が突然現れたらまず間違いなく軍が出てくるに決まっているしなぁ。

 ……もしかして先祖たちとの交流もそうやってきたんじゃなかろうか。

 なんかこう、神様っていう感じのを想像していただけに人間臭くて笑えてくる。

 面白いけど。


 それで連絡を取る方法として……アルファが選ばれた。

 持っててよかったオートマタ。

 まさかそういう使われ方をするとは思っていなかったけども。


 すでに僕の魔力を見つけて簡単な道を作ってあるそうで、それを使ってアルファを通じて連絡をする。

 こっちからはアルファを出して魔力を通じながら話しかければ良いようだ。

 ……ついでにエリーとも話したいけど……無理っぽい。

 そのかわり僕はこっちで元気だから心配しないでと伝えてもらうことにした。


 □□□□□□


「……マジか」


 夢から覚めたけど、あれは夢じゃないってことは分かってる。

 彼からのメッセージだ。

 でも……。


「エリーに会える。そして父さんとも居られる」


 魔力は一時的に薄まるだろうとは言われたけど、古なる者が居るだけでマナはじわじわと新しい世界へと浸透していくだろうという。

 つまり僕は治癒術士として生きていける。

 魔物の心配はあるものの……僕たちのことを脅威とみなす目からそらしてくれるだろう。

 見た目からして凶悪で、性格も獰猛な魔物達がでたら……僕達を何とかする前に、得体の知れない怪物を何とかしたいと思うのは当然のはずだ。


 方や殺戮のモンスター。

 方や病気を癒やして周り、モンスターを狩る事が出来る者たち。

 どう考えても砲口を向けられる謂れはないだろう。


 僕のやるべきことは、病気になった人を癒せるか試すことだ。

 ウイルス単体で効果が出るかを試した後、変質してしまった身体を治せるかを試す。

 前者はまあ、父さんがサンプルを持ってくれば出来るけど……後者はここから出られたら、もしくは出られないのであれば強行突破するしか無いと思う。

 僕はあくまでも患者であり、更に数少ない成功例と来たら……他の病人との接触は絶対に避けたいだろうから多分会わせてはもらえないだろう。


 それならば無理矢理にでもこの施設から抜け出すしか無い。


 試しにこの建物自体に探査をかけてみる。

 何度も何度も古なる者の探査と診断をやってたもんだからか、この建物程度ならば簡単だった。

 内部構造も単純だし。

 超強化鉄筋コンクリート造の30階建て、1~5階までは医療施設の部屋などが多くある。

 6~10階は研究施設だ。……父さんの部屋もあるな。

 そこから上は全部客室と言うか……病室?っぽい。

 後は職員の部屋とかもあるのかな多分。


 にしても古なる者の大きさ半端ないな。

 大きい大きいとは思っていたけど、このタワーよりデカイじゃないか。

 なんであれが動けるんだろ……本当に謎だ。

 いやまあ確かに構造調べてるとすっごく独特な骨とか筋肉の構成をしていたし、皮膚自体もものすごく頑丈なんだけど。

 だからか皮膚は樹皮のようにゴツゴツしているし、叩いても硬そうな音しかしない。

 内側から調べた限りではそんな感じだった。

 まあ、実際に見てみて間違いはないと思うけど。


 あの夢の中で降り立った手のひらは僕の素足に硬い質感を返していたし。


 ……攻撃されてもそもそも平気じゃないのかな。


 このタワーに更に10階くらい足したら丁度くらいかな?

 流石に都市部を歩かせたらまずそうだけども大丈夫なんだろうか。


 まあそれは良い。

 さらに地下の方にも様々な施設があり、これは地下10階まであった。

 下の方は完全に隔離されてるようだけど。

 多分こっちが危険なものを扱うところだろう。


 で、エレベーターシャフトが通っているけど、これも途中で乗り換えないとこっちに来れないようになっていたりとセキュリティの面で対策してあった。

 監視カメラらしきものがあちこちにあるし、普通に脱走は無理そう?


 いや、外に通じる扉は各階にある。

 ぶち破るならあそこだろうな、非常階段だし特に問題はないと思う。

 そしてここは28階。

 ……まあ、なんとかなるかなぁ?


 身体を強化してやれば行けるでしょ。

 鍵は破壊するにしてもドア自体は壊したくないところだ。

 別に僕は破壊者になりたいわけじゃない。


 今日のニュースもずっと病気の話が流れている。

 専門家も全く何も分からない状態で、何で感染するのかすらも分かっていない。

 空気感染というわけでもなく、接触感染というわけでもない。

 何かがトリガーとなって感染しているらしいとしか分からず、体力のない幼児や老人であっても平気な人は平気なまま。


 全世界でこのパニックは続いているけど、開き直っている人と怖がって逃げ回る人に分かれているようだ。


 皆突然治ったらどうなるんだろうな。

 それはそれで楽しみだ。


 □□□□□□


 またしばらくして父さんが来た。

 どうやら持ってきてくれたらしい。

 小さな瓶の中には致死性の危険なやつが入っているってわけだ。

 それが5本ほど。

 それぞれ別な株となっているようだけど……。


「ちなみにこれどうやって持ってきたの?」

「こっそり培養したんだ。繁殖力が強いからわずかでも一気に増えるんだよ。この3本はユウが掛かったもの、そしてこっちの2本は硬化病の方だ。絶対に開けないと約束できるね?」

「ああそれは大丈夫だよ。心配なら見てていいし」


 さて……本番だ。


 一本目に手を伸ばし、目の前に持ってきて手をかざす。

 診断。

 確かに中には大量のウイルスが居る。


 目には見えないけど僕には見えているぞ……でも生物である以上、魔法からは逃れることは出来ないはずだ。

 今この瓶の中にはたった一種類のやつしかいない。

 だからこそとても楽にターゲットを選択できるっていうのは良いな。

 その中のいくつかの集団に絞って選択し、即死させる。

 活動を止めてどんどん中身が溢れていくのを確認できた。


 それらを全て極小の結界で隔離して消去する。


 後は同じことをこの瓶の中に対して行えばいい。

 人の体の中にいる時にはその人の身体全体でこれを行うだけだ。

 消した後に毒素の類も確認できないし問題ないだろう。


「はい、この瓶の中身は問題ないよ。完全に無菌になってるから確認しておいて」

「分かった。……ということはユウはこの病気を治療できるんだね?」

「今わかったのはウイルスを消すことが出来るってこと。そのウイルスを集めて殺して焼却したってイメージね」

「凄いな……」

「病気を完全に治せるかってことに関して言えば、その人がいないと試せないから今は無理だよ。……はいこの2つも終わり。こいつらを殺すだけなら簡単だよ」


 5本全て終わらせた。


 個体の特徴は把握できたし、次に出会った場合にはこれの変異種であっても問題ない。

 治癒術でのやり方だと薬を使うこと無く消滅させることが出来るため、早くて安全な上に抗体を持ったやつが出てくることもない。

 正直即死をレジストされたら怖いぞ……。


 ちなみにこの即死に関しては、身体の組成を破壊するものだ。

 力の差があれば使えるけど……これを人に使うことは禁じられているのは当然のことだな。

 その死に方は身体が崩壊してしまうという、この上なくグロくて悲惨な物だ。

 使えば誰がやったかすぐにバレるしやる意味もないけど。

 だけどこれは逆に菌とかに使えばピンポイントでそれだけを殺してしまうことが出来る便利なものでもある。

 毒が少量であれば薬にもなるように、魔法にもそういうものがあるってことだ。


 まあこれで病気の原因自体は殺せる。

 だけどこれで全てじゃない。毒素は良いとしてもすでに変異した身体をどうやって戻すか……それが1番難しい。

 僕がやるとすれば多分、何度かに分けて徐々に回復させていく方法となると思う。

 なにせ人の体はそれぞれ違うし、構造自体も複雑で繊細だ。

 間違えばそのまま死ぬことだってある。


 やっぱり本当の患者でやってみなきゃわからないよなぁ……。


「父さん、僕はずっとここにいなきゃならないの?正直ほとんど意味はないと思うけど……見ての通り僕はもう病気に関しては対処法がある。……かと言ってここの人たちにそれをばらしてしまえば……僕は実験動物だろうね。……この建物じゃなきゃ良いんだ、監視されてると言うならそれが少し緩ければ僕は抜けられる」


 気配を消すくらいなら出来るし、最悪監視してる人を眠らせればいい。

 何にせよ一度でいいからその患者を完治させて、その方法を確立させてしまえばいい。

 そうすれば僕は道を開いて世界を融合させてしまえる。

 その後のことはエリーの元へと帰れればそれでいいんだ。


「……まだ、検査は残っている。だが身体にはもう問題ないことが証明されているから……いやだがまだ免疫が整っていない……」

「それに関してはそうだけど……基本的なやつならばなんとかなるよ。魔法で代用できるから後はゆっくり自分の力で対応できるようにしてやればいいから」

「本当に大丈夫なんだな?」

「うん、大丈夫」

「信じるぞユウ、そしてお前を被験者にはさせない。時間が掛かるがここから出られるように手配するよ。まずはこのウイルスがどうなっているかからだな」


 よし。これでなんとかなるか……。

 ああ早くエリーに会いたいなぁ。



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