第二十四話 古の巨人の復活
「諸君。ついに我ら王国の悲願が達成される時が来た」
僕達は王城の前で整列して王様の声を聞いている。
こっからじゃ声以外聞こえない。
遠すぎて顔も見えないな……。
ここに集まっているのは王国の秘密を知る者たち。
研究所の皆や、各場所へと散らばっている貴族。
こんなに居たんだな。
「我らが神の願い、この世界の復活である。この度ついにその方法を見つけることに成功したのだ。我ら先代らの努力と今、ここに居る我らの努力がついに実った。……これより復活の義を執り行う事を宣言する」
まあ、儀式という儀式があるわけじゃない。
僕達がいつもやっているように、患者の意識を取り戻すための処置を行うだけだ。
ただしその規模は大きい。
僕とエリーは専門外ってことで最後の仕上げであるその現場には行かない。
研究所の一団として世界の終わりの場所へとゲートを設置しに行くのだ。
流石に王都からだとかなり遠い場所となってしまうし。
今回設置するのは僕達の村があった場所の反対側。
人がほとんど住んでいない山の向こう側の土地だ。
巨大な古なる者が復活した時に、何も知らされていない国民達がパニックになることをなるべく抑えるための処置となる。
当然誰も言ったことがないからゲートもなにもないわけで……。
まあ、頑張るしか無いだろう。
で、なんで僕がそれに同行しているのかっていえば、荷物持ちだ。
エリーも僕も他の人からすれば相当な容量を持つストレージが使えるようになっている。
そのため巨大なゲートであっても収納することができたからというちょっと悲しい事情がある。
もちろんヒーラーとしても戦力としても立ち回れるって事で、移動のために人数を抑えたい任務にはぴったりというわけだ。
一緒に行くのはかつてのメンバー。
アクラ、マーレ、ライラ、エド、シリル、モモ、そして僕とエリーだ。
一人に数えて良いのか知らないけどアルファも僕が持っていくから全部で9人か。
馬車を使わなくて済む分速く目的地へと着くことが出来るだろう。
王様の宣言のあと、大臣とか色んな人の言葉が続き、音楽隊の音楽やらなんやらかんやらが続いた後で僕達は出発する。
なんかもうすでに疲れたんだけど。
□□□□□□
王都を出発して4日目。
見事に道がない場所を馬に乗って進んでいる僕達。
古なる者の復活は難航しているらしくてなかなか進まないようだ。
まあ今復活されてもちょっと困るわけだけども。
ただこっちは魔物も少なめで進むのは楽といえば楽だな、この道の険しさを除けばだけどな!
でかいから多分一歩で僕達の何十倍という距離を移動できるわけだし。
魔力とは違った別な何か力を持っているというから飛んだりもできるかもしれない。
世界が生み出されていく光景を目の当たりにするにはこうしてゲートを設置してそこに飛ぶしか無い。
道なき道とはいえある程度開けているところを通ってきたこともあって無事に壁が見えてきた。
その奥には光り輝く世界の果ての壁も。
今日はその世界の果てで休んで、明日の朝ゲートを設置して待つ。
特にすることもなく朝を迎えて……設置を完了した。
「そういえばこの辺は何も出ないんだなぁ」
「ああ、出てきたとしても壁に触れれば即死、壁を戻ることができるのは飛べるものか壁を登れるものだけだ」
「そっか、こっちに出てきたところで死ぬしか無いわけね」
「そういうことだ」
ゲートの起動は王都が起動しないと意味がないので待っている間は暇だ。
ふと周りに動物も魔物もいないってことに気づいて聞いてみたけど、よく考えてみれば当然だった。
この壁自体人が作ったものではないわけで。
とても高くて頑丈なこれを壊すことは出来ない。
壁を登るか、扉を開くか、飛び越えるか。
聞くところによるとこれは地中深くどこまでも続いているということだから、それくらいしか反対側に抜ける手立てはない。
扉は人じゃないと開けないようになっているから実質2択だ。
飛んでいくのが最も簡単だけど……前に見た鳥のように、あの壁を超えた瞬間に光の粒子となって消えていく。
結果としてこっちに超えてきても戻れなければ餓死するし、そうでなければ光の壁に接触して死ぬ。
生物が見当たらないのも当然か。
と。
ぞくりとする何かを感じた。
とても強くて、突風を受けたかのように体の中を突き抜ける。
だけど衝撃自体があったわけじゃなくて……あくまでも感覚だ。
「……今の……」
「魔力波よぉ。とても、強力な。プレイグでもこんなのは感じたことがないわぁ」
「復活、したな」
復活。古なる者の復活。神の復活……。
それを考えれば確かにこの強力な力の波の意味が理解できる。
絶対に自分たちが敵わないとわかる力を持った巨人。
その力の余波だけでここまでそれが届くというのは……恐ろしい。
復活させるのは世界を滅ぼした巨人とは別な個体ではあるとはいえ、今でも僕達の味方なんだろうか。
と、ゲートが起動した。
青い光が溢れて光の膜を構成していく。
そこから現れたのは国王の護衛などを務める近衛兵達。
そして国の重鎮と国王達が現れる。
僕達は跪き、頭を垂れて彼らを迎えた。
「面をあげよ」
「はっ」
アクラが代表して受け答える。
初めてみた国王の顔は……豊かな髭を湛えた温和そうな人だった。
「そなたらが古なる者達を癒やした功労者であると聞いている。我らが悲願を達成できたのはそなたらのおかげと言えよう」
「では、やはり先程の魔力波は……」
「うむ。間違いなく古なる者は復活した。我らが神であり、友である存在はこの世に戻ってきたのだ」
少し興奮したように王は話す。
どうやら会話できたらしく、約束を果たすためにこの世界の復活を約束してくれたそうだ。
そして感謝も。
体の調子は十全というわけではないけど、不快感などは特に無いらしい。
かなり喜んでくれているそうで嬉しい限りだ。
王様とアクラが話をしているのを聞いていると、突然目の前が歪んだ。
平衡感覚を失いかけるもののなんとか踏みとどまる。
「ちょっとユウ大丈夫?」
「ああうん……大丈夫だよエリー。立ちくらみかな?」
「ここに来るまで大変だったからね。でも、今国王陛下が話をしてるのよ、もうちょっと頑張って」
「そうだね、ごめん」
ここに来るまでに道なき道を歩いてきたのだ。
確かに楽ではなかった。
とは言え今までと比べてそこまできつかったとは思わないんだけども……。
どうやら今、古なる者はこちらに歩いてきているらしい。
もう少ししたら到着できるだろうときいて、どれだけ早いんだと思う。
一歩一歩が僕たちの何倍もある巨人だしそんなもんだろうけど……。
今度は視界にノイズが走る。
段々吐き気もしてきた。
セルフチェックをしてみると心拍数と血圧が高い。
更に……状態には覚醒中との表記。
どういう意味だ?覚醒とか……ずっと起きてるのに?
やがて地面が揺れ始める。
最初はかすかに。気のせいかとも思ったレベルだ。
だけど段々に強くなってくる。
それに伴って目の前のノイズがひどくなっていく。
必死で気持ち悪さを我慢しているけど、かなりきつい。
そしてついに、巨人が……古なる者がその姿を現した。
大きい。
あの高い塀を一跨ぎどころか、股がかなり上にある。
ちょっとした障害物を超えたくらいにしか感じていないだろう。
僕達を認識した彼は、ゆっくりと慎重に腰を下ろしていき……顔を近づけてきた。
「おお!古なる者よ!」
『そなた等か、私を復活させたのは』
「彼らの調査と研究の賜物でございます!古なる者よ!」
『そなた等は契約を守り、我を癒やした……。今度は我の番だ』
「では、この世界を……!」
『然り。幸い渡り人がここに居る、協力してもらうぞ』
「……はい?」
そういって僕を指差す巨人。
渡り人……?
巨人の指が近づいてくる。
それと同時に更にノイズがひどくなり、まともに立っていられなくなっていく。
「う……あぁっ……」
「ちょっ、ユウ!大丈夫!?」
「ごめ……大丈夫、じゃ、ない……助け……」
「ユウ!!……ちょっと!ねえ!?」
薄れゆく意識の中で、エリーが僕の名前を必死に呼ぶのを聞く。
『壊れた世界は戻らぬ。唯一の方法は融合だ』
けど、そんな言葉だけはとてもはっきりと耳に残った。
□□□□□□
「うぅ……」
目が覚めるとまたあの白い部屋だ。
また夢の世界…………あれ?
夢?いや、現実だろう。
訳がわからない。
頭の中が混乱する……。
外を見ればやはり見えるのは巨大なビルだ。
ビル……ああ、なんでこの名前が出てこなかったんだろう。
徐々に意識が覚醒していき、周りがはっきりと認識できるようになってきた。
胸の辺りが痒くて手を伸ばすと、変な機械が張り付いている。
手のひらよりも小さい何か……なんだコレ。
と、尿意を感じてトイレを探すも見つからない。
しかもドアも開かない。
困って周りを見渡して……コール用のボタンが有るのに気がついた。
ボタンを押し込むピーという音がなり、スピーカーから声が聞こえる。
『はいナースセンターです、どうされましたか?』
「あの、トイレに行きたいんですが」
『いま職員が向かいますので少々お待ち下さい』
ぞろぞろと白衣にマスクを付けた人たちが入ってきて、僕を案内してくれる。
スッキリしたところで、またすぐに部屋に連れ戻された。
いくつかの質問に次々と答えさせられ、身体を調べられる。
セルフチェックが出来ればすぐに分かるんだけどな……と思ったところで、突然目の前にウインドウが開いた。
僕の状態が詳細に示されている。
あの世界では見れてなかった情報も詳しく。
僕の身体は全て交換されていた。元々あったものはたった1つ、脳みそとそれに繋がる神経だけだ。
父さんから少し聞いたことに確かにそういう事があったような気がする。
肺の病で僕の身体はめちゃくちゃになっていた。
というか肺の病と言っていたけど、実際のところは特殊なウイルスによって身体を溶かされていた。
血液を全て交換してウイルスを取り除いても、体中に広がったそれはもう止められなくて……。
全てに広がる前に、僕は身体から切り離されて脳と神経の一部だけで生かされていたみたいだ。
それは生きていると言っていいのかわからないけれど。
これがあるっていうことは……やっぱりあの世界も現実……?
エリーは……皆は生きている?
「なにか質問はあるかな?」
「あ、えっと……いえ、無いです」
「ではまたしばらくこの部屋で休んでいてください」
「え、出られないんですか?」
「そのうち外に出られるようになりますよ、でも今はまだ我慢していてください」
そう言ってみんなぞろぞろと出ていった。
……武器、持ってたよなあの人達。
白衣を着ていたけど、足元はブーツだ。目つきも僕が何かをしたら即座に動けるように監視していたし、体の重心も常に動きやすいようにしていた。
あっちでの経験が生きているようだ。
医者の人だけが何も持っていなかったけど……後は全員護衛だった。
さて、ちょっとだけ確認したい。
さっき質問しようとしたけど止めたことがある。
この目の前に浮かぶ情報……つまりセルフチェックのスクリーンに関してだ。
僕はもしかしたら科学力で脳へのインプラントかなにかで出来るようにしたのかとも思ったんだけど……やっていなかったらまた警戒されそうな気がしたからだ。
そこで自分に診断をかける。
頭から順番に足の爪先まで全てをスキャンして、なにか無いかを探る。
胸に取り付けられたものは、ただ肌に張り付いているだけのようだ。
特に体内に何かが埋まっていたりすることはない。
インプラント系統は無くなった。
続いて僕の中にあるウイルス……も、特に問題なさそう。
菌も致命的な兆候なんかは無い。
分かる。今でもしっかりと学んだことは覚えている。
筋力は落ちている……というかほとんど運動してこなかった状態のようだな。
歩いたりする分には良いけど、走るとすぐに息切れしてしまうだろう。
戦うにしてもこれじゃ全然役に立たないかな?
まあ、剣とか何も無いんだけど……いや、まてよ。1番わかりやすい方法があったじゃないか。
ストレージ。
僕の物が入ったスペースだ。
意識すると入っているものが感覚的に分かる。
使える!そしてこの世界にはありえないものが入っている!
エリーからもらった剣も、作ってもらった魔法剣も!
鎧はエリーから貰った全身鎧と革鎧だけだ。あの時着ていたものは入っていないか……。
魔道具のライトもある。
ライトを取り出して付けてみる。
……使える……。
やっぱり、エリー達の世界も現実だ。夢や妄想なんかじゃない。
エリーは居る。
村の皆も、研究所の皆も。
「……お前も居たのか」
そういや使う機会も特に無かったから仕舞っていたっけな。
アルファ。
魔力で動く強力なオートマタ。
こいつがいれば……そして僕の魔法があれば、ここを出ることも出来るか。
まあ、まだ様子見でいいだろう。
一応彼らは敵じゃないんだ、僕が敵だと思われているだけで。
結局何も出来ることがなくて、僕はいつしかそのまま眠ってしまった。
□□□□□□
「起きたか?ユウ」
「……父さん?」
「そう、そうだ。そうだよユウ!父さんがわかるか?」
……分かる。
父さんだ……ずっと会っていなかったような気がする。
僕の記憶の中で、病気で意識を失う時の父さんからだいぶ年を取っているように見える。
だるい身体を起こしてベッドに腰掛けるように座ると、隣に父さんも座った。
「もう、身体はなんともないか?」
「うん。大丈夫。ちょっとだるいけど……。僕の病気は治ったの?」
「治った、完全に治ったんだ。何処からもウイルスは検出されなかったからね、もう安心だ」
「ここから出たいんだけど……」
そういうと父さんはとても困った顔をする。
少し考えて、声のトーンを落として話し始めた。
「それは無理だ」
「なんで?」
「ユウの後にも同じ様な症状が出たり、他にも硬化病と名付けられた新しい病が世界中あちこちで頻発しているんだ……。対処法は今の所ユウにやった手術しか無い」
要するに、僕にやったような大手術しか方法が確立されていない、そんな病気が外の世界ではやっている。
しかもこれは感染性らしくてどんどん拡大している。
他の国では暴動が起きたりして大混乱に陥っているとか……。そんな状態のところに僕を出すわけには行かない、そういうことだった。
「父さんもこの研究所から出られないんだ。それだけ外は危険なんだ」
「……流石に嘘でしょ?」
「いや……今丁度ニュースやってるかもな、それを見れば分かると思う」
そう言って取り出したのは携帯端末だ。
テレビのアプリを立ち上げていくつかチャンネルを切り替えていく。
ニュースをやっているところがあって、それは僕もよく知っている番組だった。
……キャスターが変わってたけど。
丁度天気予報が終わって、国内の事故や事件の一覧が出される。
そして世界のニュースへと切り替わった時、「硬化病、未だ勢い止まらず」の文字が踊る。
すでに検疫だけでは食い止めることは出来ないとして、危険地域とみなされた国への渡航、そして出航が禁じられた。
当然この国への移動も無理だ。
一応、まだパンデミックというほどの広がりは見せていないものの、ウイルス性であることと未知の毒性の物であるということ以外にまともに分かっていない状態で、有効なワクチンは今の所作れていない。
症状を緩和する薬は出たものの一時しのぎでしか無くて、ウイルスのほうがそれに即座に対応してしまい下手に対抗策を講じれなくなったようだ。
……まるで出来の悪いゾンビ映画だ……。
ネットが有るから各国の状況は見られる。
一通り僕はそんな情報に目を通して、父さんに端末を返す。
「嘘でしょ……」
「本当なんだ。お前はたまたまうまくいったから良かったけど、他の人達は移植時の合併症や接続ミスなんかでほとんどの人が死んでいる。奇跡だよ」
これを聞いて正直こっちに戻ってこなければよかったのに、と思った。
あの地獄の苦しみをまた味わうかもしれないんだ……。
もう二度と経験したくもないのに。
だけど……今の僕はあの時の僕とは違う。
……魔法。治癒術士として培ってきた技がある。
それを使えればもしかしたら。
父さんが手を握ってくる。大丈夫だから、と僕を安心させようとしている。
そんな父さんに、僕は診断をかけた。
古なる者に比べたら楽勝だ、あっという間に全身のマッピングが完了する。
危険なウイルスや菌は無い。……だけど……腫瘍が有る。
「父さん、もしかして病気じゃない?」
「どうしてそう思うんだ?」
「癌、でしょ。膵臓からの転移……もう、長くない」
「……な……なんでそこまで……」
「見えるんだよ」
僕には見えているんだ。何処に何が有るのか、どういう病気を抱えているのか。
糖尿病も患っている。
いろいろな薬は出来ているけど、根治までは難しいんだそうだ。
去年見つかった時にはすでに全身に転移していたため、どうしようもないんだという。
「ごめんな、ユウ。お前が起きることが出来たのに……先に居なくなってしまう」
「そうでもないと思うよ。……ちょっと、ベッドに横になってみて」
「何をする気なんだ?」
「治す」
「治すって……ユウ、お前は何を言っているんだ?」
良いから、と無理やりベッドに寝かせて手を当てる。
この病気は知っている。
自分の細胞が変異して、自分の正常な細胞を攻撃していく……。そして免疫は自分の体を傷つけることが出来ない上に、その変異した細胞はどんどん増殖していくのだ。
そして最後には死に至る。
だけど。この病気は治癒術士からすれば簡単な方だ。
変異したものを正常に直してやればいい。
全ての変異をなかったことにしてしまえばいいだけだ。
頭の先から足の先まで、すべての場所にある変異を消して正常化していく。
もとの細胞に戻してやる。
腫瘍は体内で切り離して消失させた。
血やリンパも綺麗にしてやれば……元通りだ。
糖尿の方もすぐに正常になるだろう。
「はいおわり。後で検査してもらってきなよ。あと、この力は今はまだ父さんと僕の秘密だよ、いい?」
「ああ……。よくわからないが……そういうことにしておくよ」
まあ、分からないだろうな。
検査してもらって初めてどうなっているか気づくことだろう。
ちょっとしたおまじないを受けたって感じで、簡単に感謝して父さんは帰っていった。
さて……これからどうすればいいんだろう。
帰る手段はないし、父さんは僕も大事だ。
こんな病気だらけの世界に放っておく訳にも行かないじゃないか。
あの世界に連れていけたら良いのに……でも、僕もどうすれば良いのか全くわからない。
今までは寝て起きたら戻っていたのに、今日は戻っていない。
戻れない……。
エリー達にはもう会えないんだろうか。
会いたいな。
食事もエリーが作ってくれたような物じゃなくて、とっても味気ない病院食。
あー……肉が食いたい……。
やることもないしつまらない。
テレビを持ってきてもらえたから暇つぶしは出来るけど、名前も知らない芸人とか見てもなんか面白くないし、ニュースを見れば気が滅入る。
……多分、僕の治癒術なら治せると思うんだよな、あれ。
体のことをよく知ることは必須なんだけども、最終的に魔法というものは即効性が高い上にかなり確実なのだ。
薬みたいに時間がかかることは少なくて、数回程度ですべてを終わらせることが可能だ。
僕の場合は魔力量が多いから、父さんの治療は一回で終わらせたけど……普通なら多分4回か5回位に分けると思う。
なにせあの巨人の体を診察して、ずっと治療し続けてきたんだ。
それに関しては誰にも負けない。
でも今の所ここから出ることはちょっと危険だな。
多分ここの護衛達を相手にするってことは……銃器を相手にすることになると思う。
攻撃されたことはないとは言え、明確に敵になった場合は容赦なく撃ってくるんじゃなかろうか。
僕がこっちにいる間、向こうではどうなっているんだろう。
僕は消えているのか?
でもうなされていたってエリーは言っていたし居ることは居るのかもしれない。
心配だ。
折角古なる者が復活して、世界が元通りになるはずだったときにその場にいれないなんて……。
あれ?
そう言えば彼はなんて言ってたっけ……?
意識が消える前か直後になんかとてもはっきりとその声を聞いたと思うんだけど……。




