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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第二十三話 アルファ

だんだん終りが見えてきました。

もう少しお付き合いください。

 連日忙しくて夜の事もできずに居たわけだけど、休暇を言い渡されて帰ったときにも当然疲れていたから家に帰って軽い食事を取った後に僕達2人は深い眠りについていた。

 それを邪魔されたのは深夜のことだった。


 ズン!と家自体……いや大地が揺れた感覚があり、その大きな音は眠っていた僕達が飛び起きるのには十分だった。


「な、なに今の!?」

「びっくりした……もしかしてさっきのが、例の音……って事か?」

「あ、ああ……そう言えばそう言われていたわね……。すっかり忘れてたわ」


 屋敷の明かりを全てつけて見回りをする。

 気配を見たりもしているけど特にこれと言って反応はない。

 ……でも明らかにさっきの音は聞き間違いじゃない。僕だけじゃなくてエリーも全く同じ音、そして振動を確かに感じていたのだ。


「ユウ、こっちには誰も居ないわ」

「こっちも。っていうか屋敷の中にも外にも僕達以外は誰もいないね。……一体どこから……」

「……そうね……ユウ、あなたの観察眼はほんの些細な違和感を見つけられるわ。改めてこの家を全て見てくれない?特に、地下室や隠し部屋があるという前提で」

「なるほど。全部見てはいるけど誰にも気づかれてない部屋があったりしたら、僕達には通知されないわけだもんね……。よし」


 まず庭からだ。

 風景を見ても特に何も感じるところはない。

 歩き回ってみたけど違和感は特になかった。

 家の外周を回っても特になにもない。

 外じゃないな。


 次は玄関。

 大きなホールを隅々まで見渡すけど特に気にならない。次だ。

 他にも色々と回ってみたけど……なにもないようだ。

 そしてキッチン周りに行った時、パントリーの前でチリっとした何かを感じる。


「最初見たときには気にしなかったけど……ここの中、おかしいな」

「でも特になにもないように見えるけど?」

「食料も何も殆どないから最初の時に入った時以来だもんなぁ。だけど今見ると中がとても狭く感じるんだよ。……ほら、ここの壁、特に収納がないのに無駄に厚くない?」

「……言われてみればそうね」


 部屋の中をよく見ると、壁がかなり手前にあることが分かるのだ。

 大体厚さは……大人が1人入ってもまだ余裕があるほどだろう。

 壁に手をかざして魔力を巡らせる。

 診断と同じだけどセシリアさんがやっていたように、この家の構造を診るのだ。


 結果はと言えば出来た。

 ぶっつけ本番だし、教えてもらったわけでもないから出来るか不安だったけど……。

 今までやってみたらだいたい出来た訳だし。

 で、そこには地下へと向かう階段があり、その先には部屋があるのを確認できた。


 となれば……ちょっともったいないけどこの壁を壊す他ないだろう。


「この壁、壊してみていいかな?」

「別に構わないわよ。どうして隠したかわからないけど、そこにもう一つ部屋があるのなら私も見てみたいもの」

「アクラの話だとなんか研究とか出来る部屋があるとか言ってたし……」


 そこだよな。それが失われずにあるって言うならとっても気になる。

 魔道具技師、それもかなりの立場にいる人だってことだったからなにか面白いのが残っててそれが音を立ててるのかもしれないし。

 うん、多分そうだろう。であれば気配も何も感じないのも当然のことだ。

 ああちょっとワクワクしてきたな。


「よし、それじゃあ……壊そうか。ついでにドア付けれるように綺麗にしておこう」


 石の壁は厚みが拳ほどある。

 普通であればハンマーとかで壊すだろうけど、僕は魔法を使える。

 土魔法での簡単な建設ならやれないことはなかったから、この壁を切り取るくらいなら特に問題ない。


 数分もあればこの場所にあった壁は綺麗に消え去り、代わりに幾つかのブロックに再構成して外に放り投げておいた。

 後はまあ……また改装してもらうことにしよう。


 さて、現れたのは階段だ。

 結構長い階段だけど狭いってこともない。

 マギライトを使って下へ通りていくと……不自然にひん曲がったやたら頑丈そうな扉があった。


「……なんか凄く嫌な感じだなこれ」

「内側からなにかとても強い力が加わった感じ……ね。あの音と揺れはこのドアに何かがぶつかったからってことかしら。……特に中で動いてる様子もないし……大丈夫だと思うけど」

「ちょっと扉は置いといて、こっちから中を覗こう。穴を開けるよ」


 部屋の壁のところに穴を開け、そこから光を照らしてみると……。

 中には確かに色々な魔道具らしきものが散らかっており、机の上にも道具などが散らばっている。

 でもその割にはやたらと綺麗なのが気になる。

 普通は薄っすらとでもホコリが積もるのに。

 そして……ゆっくりとドアの方へと光を移していって……心臓が止まるかと思った。


 びっくりした。

 僕よりも大きい人の形をした何かが、あの扉を殴る格好で止まっていたのだ。

 動き出す気配はまったくない。

 ただ、あの音の原因はこいつだってことははっきりしたな。


「とりあえず……扉は開けてもいいと思う。けど、びっくりしないでね?」

「え、何よ。何があったの?」


 見れば分かるよ、とだけ言って扉を壊した。

 こちらに殴りかかるような格好で大男が居るようなものだ。

 流石のエリーも見た瞬間に悲鳴を上げていたけど、すぐに興味へと変わっていったのは流石だな。

 ……まあ、思いっきり腹に拳を食らったけど。ちょっとイタズラが過ぎたか。


「凄いわねこれ。人の形をしてるけど……動く、のよね?多分」

「今は動いてないけどあの扉を見る限りじゃぁね。頑丈な扉とその枠だったけどこれがあったからなのかもしれない。魔法金属製のあの扉があそこまで変形するんだからかなりの力があるんじゃないかな?」


 今の所危険はないようだから一応観察してみると……。

 まず、人の形をしているけれど、生物などではない事は見ても明らかだ。

 体の形を模したフレームに様々な仕掛けが施されてできているように見える。

 魔道具技師ということもあってとても精密な魔道具が詰まっているようだけど……正直さっぱりわからない。

 一つ言えることは、この人形は人を参考にして作られた機械仕掛けのものであることだ。

 恐ろしく頑丈であり、恐らく今まで誰も開発したことがないであろう発明品……それを完成させる前に亡くなったというのだろうか。


 胸のところにあるのは……物凄く小型だけど多分マギジェネレータ……だよな?多分。

 人の胸に収まる程度ってことでかなり小さくなっている分、出力も少ないと思うけど……だからといってその程度でこの力は出ないだろう。

 謎だ。


 オーゼルとオーウェンに見せたら喜びそうだな。

 動き出しても困るから魔力を抜いて運び出す。


「見れば見るほど精巧よね……これ、ちゃんと完成したら凄いんじゃないの?」

「だね。とりあえずきちんと分かる人に見てもらおう。オーウェンとオーゼルに連絡取って2人に見てもらったほうが良いと思うんだ。一応、アクラにも話をしておくけど……魔導技師で信用しているのはあの2人だしね」

「それが良いわ。何回か研究所の魔導技師にも会ったけど、ちょっと自分の技術を鼻にかけてて好きじゃないし……自分の手柄にするのは目に見えてるもの。全員じゃないのはわかってるけど」


 そうなのだ。

 何よりも研究所の技術者ってなんかこう、上の立場の人ほど話していてイライラするのだ。

 確かに開発しているものは素晴らしいし、とても技術力も高いのは認める。

 だけど人の話を聞かずに自分の考えを押し付ける感じがあるんだよな。

 アクラに聞いたら、あれは公爵の4男で元からあんな感じだということを言われて納得したけど。

 トップがそんな感じだから似たような感じの奴らが集まってくる。

 そして取り入るために何をしてもほいほいと持ち上げていくもんだから駄目なんだろう。


 本人には大した技術力も知識もないってことだから、下が単純に優秀だからなんとかなっているだけのようだ。

 かなりの苦情とかが入ってるみたいだし、なにか問題を起こせばすぐに引きずり落とされるだけだからほっとけ、というのがアクラ達の判断だった。


 ……研究部門がそんな人にまとめられて無くて本当に良かったよ。


 まあ、この人型の何かは2人に預けた後の事後報告として、しばらくはアクラにも口止めしておこう。

 絶対いちゃもんつけられるに決まっている。


 地下にもどって色々な資料とかも全て回収してきたけど、書いていることが高度すぎて分からん。

 これも全部2人に任せよう。

 めんどうだ……。


 ともあれ。

 こうして僕達の新居の幽霊騒ぎは無くなった。

 異音騒ぎに関しての情報は全て、あの人型が突然動き出して暴れているということで説明がつくものばかりだし。

 マギジェネレータがマナを吸って、起動するのにギリギリな魔力が溜まった時に動き出して即座に沈黙、っていうのを繰り返していたに過ぎない。


 それを考えると格安でこの素晴らしい家がまるごと手に入ったわけで……めっちゃくちゃお得な物件だったわけだ。

 秘密の研究室も手に入ったしね。

 中に使われている魔道具はとても独創的なものが多い。

 なんでこれが世に出ていないのかと思ってしまうものばかりだ。


 おそらく独創的すぎて当時としては受け入れられなかったんだと思う……早すぎた天才ってやつなんだろうな……。


「……なんか、安心したら眠くなってきたな」

「そうね。ちょっと最近すごく忙しかったし……解決したならもう寝ましょ。明日にでも村に戻ってオーウェンに渡したら……そのまま村でゆっくりと楽しんでも良いかも」

「あー久しぶりに湖に行こうか」


 薬草とかも幾つか時期のものがあるし、それも取ってこよう。

 あそこは薬になるものがたくさんあるから持ってきて精製しておけばいつでも薬に変えられる。


 まあ良いや……寝よ。


 □□□□□□


「……なんだい、これ?」


 オーウェンに例の人型の何かを渡したときの最初の一言がこれだ。

 うん、まあ気持ちは分かる。

 何もなければデカイ人型の置物かなんかに見えるもんな。

 ただその中身と外側の金属が頭おかしいレベルの何かだってこと以外は。


「分からない?オーウェン」

「いや、人型の魔道具……っていうのは分かるんだけどね。これ多分師匠も見たことないと思うなあ。なんのためにこんな……ううーん……。それにしても凄いな。極限と言っていいほどにシンプルでありながら複雑に絡み合った魔導回路に、全てが今使われているものよりも小型の各種パーツ。金属加工もこの合金を作るのは骨が折れそうだよ。素晴らしい、是非とも動いているところを見たいよ!」

「あー。めちゃくちゃ力はあるから、そのへんで動かさないでね。鋼鉄と魔法金属の合金の分厚い扉がひん曲がるくらいには殴る力が強いから」

「ええ……ドワーフより力が強いじゃないか。暴れたらオイラじゃ抑えられないなぁ。分かったよ、しっかりと準備した上でやってみることにする。色々分かったらすぐに連絡するから。ちゃんと秘密も守るよ」

「そうして欲しいな。なんでもそれを作ったのは物凄く変人の魔導技師だったっていうからね。無駄に強い力とか、下手したらそいつを使って誰かを殺そうとしていたかもしれないし……物騒過ぎるのは悪用されるとまずい」

「もちろんさ。任せてよ、師匠と一緒に解明してみせるからさ!」


 うん、頼もしい。

 さて……危険物は手放したし……ゆっくりしよう。


 村で僕とエリーはまずセシリアさんの治療院へと向かう。

 挨拶を済ませて少し話をしたけど、僕たちが抜けてから新しい人を雇ったそうだ。

 というのも、あの後セシリアさんが授爵したってこともあって結構な人数の働き手が来たという。

 もちろん元々有名だった治療院も、今回のことで更に名が売れたってこともあって来る人がどんどん増えているってことで拡張されたみたいだった。


「久しぶりねぇ」

「お久しぶりですセシリアさん。ちょっと見ない内に凄いことになってましたね……」

「ええ。おかげで手が回ってないわよ?ちょっと困っちゃうわよねぇ」

「治療院が大きくなってたこともだけど、なんか村も大きくなってない?建物かなり増えてるみたいだけど」


 エリーが言うように村も大きくなっていた。

 あの時に作られた堅牢な壁の外側に、一回り大きくまた壁が出来上がってその内側にも畑や家ができていたりできかけていたり……。

 びっくりするほどこのダラム村は変わっていた。

 中心部はあまり変わってないんだけどな。


「そこはほら、私が授爵したでしょ?それでブレナークの領主様から領地としてこの村の周辺一帯を貰ったの。村長さんからの強い薦めもあって断るに断れなくなっちゃって……。今拡充を進めているところなのよ」

「お母さんいつの間に領主になってるのよ……」

「あなた達と別れてからすぐよ?おかげでこの治療院で私が直接働けなくなってきちゃったから、後任となる人を育てていかなくちゃならないのよね。そっちはどうだったの?」

「こっちは順調よ。古なる者の解析は進んでいるわ。やっぱり組織を沢山手に入れられるのは大きいわね」


 しばらく色々と話をした後、ゆっくりと公衆浴場に行って楽しんだ。

 いつの間にかあそこにもマッサージ師が常駐するようになったらしくて、部屋が増設されていたのには笑ってしまった。

 発展が早すぎるんじゃなかろうか。


 流石に実家であるエリーの家はそのままだったけど、ここも近い内に解体して新しい屋敷へと移るそうだ。

 村長さんだったモリックさんは、常々セシリアさんのような人が長としてこの村を引っ張っていってくれればと思っていたらしくて、この機会に後退したことで責任から開放されたみたいだった。

 まあ、セシリアさんのサポートとして色々働くことになっているようだから……あまり変わらなそうだな。

 やることは増えていくから色々と大変だろう。


 その点では僕達はそういう雑事は関係ないから楽なものだ。

 名前だけの貴族って感じだな。


 久しぶりの家族団らんはとても楽しいものだった。

 いつの間にか僕の居場所もこことなっていたんだな。


 □□□□□□


 休みの期間を全てこの村……今は違うか。ここで暮らした後変える前にオーウェンに会いに行った。

 しばらく眠ることもなくあの人形の解析に没頭していたみたいだったけど。


「ああ……ユウ、エリー、こんばんは」

「いや今朝だよオーウェン」

「あれぇ?明るい……」


 大丈夫か?どんだけ寝てないんだよ……。


「ししょー、朝です。ユウさん達が来てますよ」

「んが?お?おおお!ユウ!久しぶりだな!」

「久しぶ……くっさっ!?どんだけお酒飲んでたんだ?」


 オーゼルが奥から眠そうに出てきたと思ったら、僕達を見て満面の笑みで近づいてくる。

 と、同時にものすごいアルコールの臭いが鼻をつく。

 ……奥の方に樽が見えてるんだけど……空のやつが。あれ飲んだのか?全部?


「あー、すまねぇ。だが、お前たちの持ってきたあれを見るのに酒無しでやってられるか。設計したやつは天才と狂気の間にいるやつだぜ」

「え、ってことは大体分かったの?」

「おう」


 流石はオーゼル達だ。

 まだ完全ではないと言っていたけど、動作原理とか駆動系の解析は出来たらしい。

 思想がぶっ飛んでいるけど作ったやつは天才だ、と言う通り今でもまだ使っていない機構が幾つも見つかったそうだ。

 ただ技術が追いついていないところも多々あり、それらは今の技術である程度まかなえるだろうとも。


「試しに暴れないように四肢を外してマナを流してやったんだが、しきりに周りを見渡していたようだった。こっちを見て何かを言おうとしてるような素振りもあったんだが……人形なんだよな?本当に」

「からくり人形の類だとは思うけど?にしても暴れなかったのか。単純にあそこから出たかっただけなのかな?」

「知らん。で、今日は片腕だけをつけて、可動範囲を制限した状態で立ち上げるつもりだったんだが……見ていくか?」

「もちろん!」


 そんな面白そうなの見ないで帰れるか。


 中に入ると外からは見えないように厳重に鍵がかけられた部屋に入っていく。

 そこに持ってきた人形が胸から上だけの状態で鎮座している。

 なんか猟奇的な感じがするなぁ……そこらに腕やら足やらが散乱しているっていうのは。

 ああ、あの時を思い出す……。

 ゴブリンの巣穴でのあの現場。


 手早く右腕をつけてマナジェネレータにつないでいく2人。

 そして頸の後ろあたりで何やらやると……。

 カクン、と頭が動き出す。


 頭は僕達を順番に見回していく。

 そして全体を見回して、自分の身体を見ている。


「……本当になんか生きている人みたいね」

「うん。自分の置かれている状況を確認してるような感じだ」

「だろ?なんだか気味悪いぜ」


 しばらくそうしていた人形は、不自由な右腕を動かして……地面に何やら描き始めた。


「嘘だろう?」

「……文字?」

「『私は負けたのか?』って?どういう事?」

「負けたも何も無いけどなぁ。ずっとあの地下に閉じ込められていたのを回収しただけだし」


 そんな事を言っている僕達を見て、また何かを描き始める。

 ……聞こえてるのか!


『マスターはどうなった?』

「マスター?あの家の持ち主だった魔道具技師かな?彼は亡くなったよ、すでに数十年経っているけど」


 何度かそういう事を繰り返して分かった。

 こいつは命令を実行するためにあそこを出ようとしていたんだ。

 その命令はマスターである魔道具技師からで、ターゲットを殺すこと。

 そのターゲットであった自分のことを認めなかったらしいとある貴族とやらもすでに死んでいる。


 つまりこいつは何も成し遂げること無く、今ここにいるというわけだ。

 っていうか、マスターとやらもずいぶんとアレだな。短絡的と言うか、無駄に手の混んだ遠回りな手段を使うやつだな……。


『では、あなたが次のマスターか』

「は?」


 急に思っても見なかったことを書かれてちょっと理解がついていけなかった。

 と、その隙にエリーが刷り込みを初めてしまった。


「そうよ。あなたのマスターはこの方、ユウよ。私は彼の妻のエリー。よろしくね。こっちの2人はオーゼルとオーウェン、あなたのことを直せるわ。直してもいいけど条件があるの、以前の命令はすでに無効よ。これからはユウや私達の命令に従って頂戴」

『承知した』

「……よくあんなことすぐに出てきたねエリー」

「これはチャンスよ。ここに居る私達以外の命令を聞かないようにしておかないと危険なことには変わりないし。魔力の問題がクリアできれば優秀な執事にもなりそうじゃない?」


 まあそうだけど。

 こういうときのエリーの頭の回転の速さには驚かされるよ。


 そんなこんなでとっても頼りになる執事が出来た。

 オーゼル達に頼んで色々とメンテナンスとか、新しい動力に交換してもらったりしたら僕の家に来ることになる。

 一応、アクラには言っといたほうが良いだろうな。


 □□□□□□


 例の人形はアルファと名乗った。言葉は話せないけど仕草でなんとなく言いたいことが分かるし、こっちの言うことは素直に聞いてくれるからとても楽だ。


 新しい動力は周りのマナを強制的に取り込む仕組みが進化している上に、マナを貯め込む仕組みがあるため普通にずっと動いていられる。

 他のところは殆どあの2人はいじっていない。幾つか置き換えられそうなところを今の技術のものに変えただけだ。

 アルファもその改造には満足しているらしく、以前と違って動きやすいと言っている。


 何よりもアルファの凄いところは……その頑丈さと力だ。

 アクラに紹介したときには驚かれたけど、正式に僕の所有物として認めてもらえた上に調査に同行させることまで提案してもらったわけだけど……古なる者の体内では高濃度のマナによってやたらと強化されて動きが早くなった。

 更に免疫と呼ばれる化け物たちを見つけ次第撲殺して回ってくれたので、僕達の安全はほぼ完全なものになったのだ。

 なんせ鎧を貫くあの攻撃をものともしないのだから。


 掴んで殴る。それだけで大体のことは終わってしまう。

 研究の方に集中できるからとてもありがたい。

 そんな感じだから研究所に馴染むのも早かったのは嬉しいところだ。

 まあ、こっちに寄越せとか言ってきた人達も居たんだけど、そういう人達の命令は尽く無視されて諦めたようだ。

 ……こいつ、僕が命令してないのにそういう事するんだよなぁ。考えて行動している気がするんだけど。


 後、アルファは物としての扱いとなるため、空間魔法のストレージに収納できる。

 これはかなり大きい。

 どこにでも連れていける頼もしい護衛となるわけだ。

 しかも疲れを知らず、護衛だけじゃなくて何なら料理も作れる。

 うん、めちゃくちゃ便利。


 そうやって半年も過ぎた頃、古なる者の全体像と詳細な体内機能の地図が出来上がった。

 人の体とは大きく異なるその中身。

 筋肉の付き方も大分違っていた。

 当然血管と呼べるものもかなり独特な付き方をしているため、なかなか研究が進まなかったのも当然だ。

 これからは診断するときにも、これを使ってやれば力の流し方がよく分かる。


 そして何よりも。

 原因がこの免疫と呼んでいた化け物だったことが判明する。

 自分たちの住みやすい環境を作り出すために毒素を放ち、それを充満させていく。

 その毒素というのが……マナだった。


 僕達にとってはとてもありがたい存在だけど、古なる者にとっては毒。

 それを防ぐための本来の免疫は、化け物達が自分たちを作るようにと作り変えてしまっていたのだ。

 古なる者達はこいつらに寄生され、その体内を作り変えられていった。

 結果として動くことができなくなるが、古なる者達の生命力によってその生命は失われること無くずっと今まで生き続けている。


 だがこの途方もない時間も無駄ではなかった。

 化け物……いやもう寄生体と呼ぶか。寄生体が作り変えてくれたおかげで、マナへの耐性ができあがっていたのだ。

 長期間その状態が続いたことと、自分たちの都合がいい様に寄生体が色々と体内の機能を改造していった事、古なる者達の身体が時間をかけて自力で対処していたことによって、マナは毒素ではなく普遍的に存在するものへと変化したのだ。


 僕たちが空気を必要とするように、それが必要な身体へと変わっていた。

 永い眠りは無駄ではなかったのだ。


 すでに現在はこの寄生体と古なる者は共存状態にあるといえる。

 免疫と呼ばれていたように、外敵から身体を守るための存在となった寄生体。

 マナを自分のものとした古なる者。

 僕達がやらなくてもいずれは自分で復活したかもしれないな。


 さしあたっての問題はプレイグを引き起こすあのマナ瘤と、古なる者達を起こすための手段だ。

 あの外部の力を受け付けない外殻は、なぜか内側からだと破れるということは一応分かったわけだけど、人が集まってどうこうできるレベルの強度じゃないっていうのも同時に分かっている。

 つまりどのみち研究者達が閉じ込められたら救う手立てはなかったわけだな。


 マナ瘤に関しては過剰に生産されたマナが身体の一部に蓄積された結果と思われるため、過剰に生産された分が発散されていれば問題ないだろうと見ている。

 まあ、その発散方法をどうするかって話なんだけど……とってもアレなんだけどもやたらとマナを使う装置のための……いわゆるジェネレータとして使おうっていう案が1番良さそうだった。

 すでに今実績があるゲートのことだ。


 ゲートの個数が増えればその分マナ消費量は増える。

 大体生産されるマナとゲートの消費量が釣り合うか少し足りないくらいであればちょうどいい感じになるってわけだ。

 ゲートは大きくなればその分消費が増えるから、いろんな物を運ぶための手段として大きなゲートを設置しまくればいいという話。

 とくに神である彼らが復活した暁にはこの大地がとてつもない広大なものへと変わるのだ。

 多分いくらあっても足りない。


 問題はそれを彼らが許してくれるかってことだけど。


 そしてもう一つ、起こすための手段。

 恐らく外殻を破壊するだけでは意味がない。

 死んでいるレベルまで落ちている意識を引き上げてやらなければならないのだ。

 これに関しては多分、今までも意識が戻らない人達にやってきた方法が使えるだろう。

 体内を通り直接頭部まで行けば脳にアクセスできる。

 そこで問題解決の報告と復活のときであることを伝えられれば……自らの意志で時を動かすことだろう、と予想しているけどそれが外れた場合はどうするかね?


 何にせよ彼らの復活のときは近い。

 そして……何よりも世界の復活もまた近いのだ。

 僕達はその奇跡を目のあたりにするのだろう。



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