第二十話 幸せと悪夢と
遅くなりました。
何回も書き直してたら結構時間立ってました申し訳ない。
幸せな感触を愉しみながら、いつの間にか眠っていたらしい。
大きな仕事を終わらせることが出来た事、僕達の未来が楽しいことになりそうな期待。
そんなとても幸せな気分で眠りに落ちた。
なのに……なんでこんな時に。
また僕はベッドに縛り付けられている。
白い部屋ではあるけど、最初の部屋ではないようだ。
意識がはっきりしていくにつれて周りの空気感や音もはっきりと認識できるようになっていった。
「……どこ、だ……ここ……」
絞り出すように声を出す。声が出た?今まではずっと一方的に見せられている感じだったのに。
でも声すらもまともに出せないほどに弱ってる感じがある。
「……気がついたのか?ユウ!私の声が聞こえるか?」
「だ、れ?」
「私だ、お父さんだよ!ああユウ……良かった……本当に良かった……」
は?
お父さん?
ぼんやりした目を凝らしてよく見てみると、黒髪を綺麗に短くまとめ、ヒゲを刈り揃えた中年の男性がいた。
……いや見覚えがない……けど、僕の名前を言っている。
夢だと認識しているのにとても現実のようで怖い。
「……こえ……」
聞いたことがある声。
「爆発事故があったというから心配していたんだ……。よく、生きていてくれた……よく戻ってきてくれた……!」
「爆……はつ?」
「まだ混乱しているんだね?大丈夫、時間が経てばきちんと夢と現実の区別がつくようになるから。もう、終わったんだよ、もう、大丈夫」
「夢……?」
何言ってるんだ?夢を見ているのに夢だと言われて混乱してしまう。なんなんだ?
そもそも大丈夫じゃない、僕はなんでこんなに拘束されているんだ。
手首と足首、そして腰にベルトを巻かれて身動きがとれないようになっている状態の何処が大丈夫なんだ?
「いけない、興奮しちゃ駄目だ、また気を失ってしまうから……ほら、安心して……」
「僕は……ここはどこ?」
声が出せるようになってきた。
セルフチェックをしてみると薬の影響による麻酔状態が続いている。
体の怠さはそのせいだ。
「ここは病院だよ。ユウは一年も眠っていたんだよ」
一年眠っていた……とはどういうことなんだろう。病気か何かだったんだろうか。
というよりも妙にリアルだ。いつものようにすぐに夢が覚める気配がない。
でも……この夢を見る理由がわかるかもしれない……と、父親だというその人が経緯を話しだした。
僕は病気だった。
原因不明の肺の病。
毒素が身体に充満していってそのせいで僕は苦しんでいた。
治し方が分からず、なんとか命を永らえるための治療を続けて……ついに僕は倒れた。
その後の僕は凄かったらしい。体中から血を吹き出して、内臓がやられていった。
だから……完全に治すために僕は深い眠りにつかされたのだという。
「父さんはユウが退屈しないようにゲームを作ったんだ。それを、脳に接続した。だからきっとその内容が現実とごっちゃになっているんだよ」
「ゲーム……?」
「そう。ユウが好きだった剣と魔法のファンタジー。社内で開発していた物を流用してね、大きな混乱もなく非常に安定していたんだ。けど……途中でユウからの反応が消えた。ゲームのデータにもアクセスできなくなってもうだめかと思ったんだ……だけど戻ってきてくれた。よく戻ってきてくれた……」
剣と、魔法……ファンタジー……幻想……。ゲーム。脳に、接続した?意味がわからない。
現実は確かに剣もあれば魔法もある世界だ。
やっぱりこの夢は……変だ。
何を言っているのか理解できない。ゲームってなんだ?僕が知ってるゲームはボードゲームやカードゲームだ。脳に接続って何言っているんだ?恐ろしい……。
「はあ……」
もういいや、頭がおかしくなりそうだ。もう起きたい。
「起きる?もう目が覚めてるじゃないか、ほら……」
「なんだか良くわからないけど、僕はあなたを知らないし、まだまだやることがあるんだ。こんな夢で疲れたくないよ。もう消えてくれないかな」
「何を……ユウ、お前何も覚えていないのか?」
何をだよ。
とりあえずドアの外にでも出たら終わるだろうか。いや、窓の外かな。
なんとなく眠い気もするけど。
ああ、身体がとても重い。
夢の中だからか魔法を使おうにもとても大変だ。
こういう自分がはっきりと自覚できている夢を明晰夢っていうんだっけか。
初めて見たけど面白いかもしれない。
とりあえず、僕を拘束しているこれを……。
「よっ……ここまで現実的な明晰夢ってどうなんだろうね?こんなもんなのかな……抜け方はわからないんだけど……」
「ユウ!……なっ……どう、やったんだ?」
ベッドにつないでいた僕の枷は破壊した。
革鎧なんかよりもずっともろくて強化もされていないやつなんて、ちょっと風魔法で切ってやればすぐに切れてしまう。
体についていた管は外す。
尿道に挿入されていたものを引き抜いたときには頭がおかしくなるかと思ったけど、すぐに治してやった。
無駄に痛みも感じるとか勘弁して欲しい。
これでよし。
ドアは……開かない。妙に頑丈な金属のドアだ。面倒くさいな。
なら、窓は……。
そして窓に近づき、その景色に圧倒される。
緑なんて1つもない。
石でできた巨大な建物が木のように生えている。
「……何、これ……」
「何も覚えていないのか?本当に……。まあいい、ゆっくり思い出そう。ほら、ユウ、病気のない新しい体になったんだからむちゃしないでくれ。まだ体に慣れていないんだから」
「は?どういう、意味?」
新しい身体?
なれていない?
「そうだよ。ユウの身体をもう一度作り直したんだ、病気のもとになるものを全て取り払って。そこに脳を移植したから完全に健康体になれた」
「脳、を、移植……?」
移植って……取り出して……他のものに入れ替える?
そんなの不可能だ。
セシリアさんでもそれは出来ないと思う。
なんてことをしているんだ?
だけど色々と考える前に、息が苦しくなってきた。
ああ、やっと、帰れる。
□□□□□□
「ん…………うぉ!?」
「うー……何よ耳元で……」
目を開けたら目の前にエリーの顔があった。
う、重い……くそ、悪夢の原因はこれか。
ただまあ、明晰夢っていうのが見れたのは面白かったかもしれない。無駄に疲れるけど。
っていうかなんでこんな状態に?
ああそうか、昨日はあの肉のせいで……朝鳥の鳴き声がしてくるまでやってたのは覚えてる。
けど途中で眠ったのか……。
「んー?あ、ごめんなさい。重かったでしょ?今どくか、らぁっ……」
「あっ、ちょっ待って動かないで!?」
「……繋がったままとか、なんか凄く素敵ね?」
「そ、そうだね……ちょっと恥ずかしいけど」
素っ裸でシーツもかけずにベッドに寝ているとか。
セシリアさんが見てないことを祈ろう。
着替えて外に出てみればもう昼を過ぎていた。
……寝すぎたなこれ。
ああでも、とっても充実した時間を過ごした気がする。
夢は最悪だったけど、最高の気分だ。
魔物も今はおとなしいし、村の皆も居ない。
治療院は休業になっていた。
まあ入院していた人達も居なかったしね。
静かだ……。
「ユウ、この音って……」
「ああ早速やってるみたいだね。見学しに行こうか?暇だし」
ハンマーを叩く音。
まあデニスとオーウェンだろうな、昨日素材渡したから嬉々として作業しているに違いない。
よく考えてみたら僕も作っているところをきちんと見たことは無いし……この機会に見ておきたい所だ。
エリーも気になってたみたいだ。
エリーも例の鱗をもらってるから、あの後オーウェン達に渡してるし。
オーウェンの馬車……ってあれ?
馬車がない。
というか見覚えのない建物が出来てるんだけど?
音はそっから聞こえてきている。
行ってみるとオーウェン達が居た。
「よう!すげぇなこれ!」
「ああユウさん、エリーさんこんにちは!いやぁ……難しいですよドラゴンの鱗。全然加工できないです」
「……いや、その前にこの建物何?僕達居なくなるときはなかったと思うけど……」
「ああそうか、二人とも知らねぇもんなぁ。オーウェンと俺が兵士たちの武器のメンテナンスを受け持ってたんだがな、向こうから連れてきた奴らも使うからってことで簡単なもん作ってくれたんだよ」
魔法で作った工房らしい。確かにかなり広くて道具とかも結構な人数分ある。
それを二人だけで使ってるんだから結構贅沢だな。
帰る時にこの建物とか要らないのはそのままにしていってくれたらしくて、それをそのまま二人が使ってる状態のようだ。
で、進捗としては……小さな欠片を作ってそれを使って色々と試しているところみたいだ。
ただ困ったことに形を加工することは出来なくもないけど、それまでらしい。
そこから武器として仕上げようとしても、魔力を受け付けてくれず、身を護るかのように固くなってしまって削ることすらも出来なくなる。
熱に強いのは言わずもがな、なんなら酸でも溶けず、ハンマーで叩いてもびくともしない。
「ユウ……よくこれを貫通できたわよね」
「今ちょっと目の前で見せられてようやくあれがどれだけおかしいことかが分かったよ」
「あ、そうだ。ドラゴンって高濃度のマナで動けるでしょ?マナを魔力として使ってるのが悪いんじゃないの?」
「ふむ……オーウェン、お前のとこのマナジェネレータ持ってきてくれや」
「ああなるほどね、確かににあれなら純粋なマナを使える。待ってて」
マナジェネレータは名前の通りマナを回収してそれを魔道具の動力源とするものだ。
魔力として変化しておらず純粋なマナを使う事ができる。
それを分解して直接素材に流し込むように設置してやると……ある程度自分たちの思ったように加工ができるようになった。
「うん、これなら問題ない!いやぁ助かったよユウ」
「骨の方も同じだろうな、ユウもエリーも楽しみにしとけ!誰も持ってねぇ逸品に仕立て上げてやるよ」
「ありがと。ただ、私達近い内に王都に行くから帰ってきたらまた進捗教えてもらえるかしら?」
「え?お二人とも行っちゃうんですか?」
ああそうか、オーウェンは僕に付いてきたんだったな。
王都に行くとなると……どうするんだろう。
「今回の任務で、王都の研究所の方に呼ばれているんだよ。その仕事をすることになっていくと思う。だけどほら、あのゲートがあるだろ?僕達は自由に行き来出来るみたいだし……」
「ああそれなら……欲しいものを買ってきてもらうってことも出来るかな?正直オイラここが気に入ってるし、あまり都会は好きじゃないからね、これからもオイラたちを贔屓にしてくれると嬉しいな」
「それは当然だよ。オーゼルにも世話になってるしさ」
その日は2人でずっとこの作業を眺めていた。
途中ちょっと手伝ったりとかしながら。
あまり馴染みのない作業を見ているのは結構楽しい。
当然学ぶこともある。
どれだけ僕が壊したあの魔剣に手間がかかっていたのかとか。
作る人がどう試行錯誤していたのか。
どんな道具を使うのか、どんな魔法を使うのか。
自分でできるわけじゃないんだけど、そういったものを見ていると何かしら思いついたりすることもあるだろう。
そんな感じでゆったりとした時が流れ……。
皆が村に戻ってきた。
僕達が全員無事であったことや、村が無傷であったことにとても驚き、喜んでくれる。
予想以上に早く終息宣言が出た事もあって、ブレナークの方でもお祭り騒ぎだったらしい。
「そうだ、これを……エリーちゃんとユウくんに。ブレナークの領主様からの書簡だよ」
「えっ。なんだろ?」
預かってきたというそれは厳重に封がされていた。
魔法による封印か。
「……エリーこれどうやって開けるんだ?」
「封印の蝋があるでしょ?そこにこうして……血を少しつければいいわ」
「なるほど」
指の腹をちょっとだけ傷つけて、血を付ける。
すると少し光って封印が解けた。
えーっと……。
「……エリー……」
「ええ、ちょっとびっくりしてるわ。まさか一気に飛ぶなんて思ってなかったし……」
そこにあったのは『上級治癒術士』の試験概要だった。僕もエリーも。
なんでも僕達と一緒に行動していたヒーラー達や、研究所の人達の働きかけがあったらしい。
あれはどう考えても上級以上の実力を持っていると。
なので実力はともかく、知識をきちんと判定して合格できたらそのまま上級として認定してくれるという。
ってことは……毒、か。
上級は毒物に関しての知識を問われる。これは……セシリアさんの出番だな。
一応既に大体は勉強して覚えているんだけど、どういうのが出てくるかわからないし。
ただあの人は絶対普通は必要のないものまで覚えてる。
若干の不安はあるけど……まあ……仕方ないよな。
適任すぎるってのはあのときの戦闘で嫌というほどわかったし。
「試験日は……かなり早いわね。すぐに覚えてブレナークに向かわなきゃ無理よ」
「しかもこれ、時期ずれてるから受けるの僕達だけだよね?ものすごく緊張するんだけど」
「分かるわ……」
しかも合否判定はその日の内に出る。
めちゃくちゃ怖い。
その日からセシリアさんに頼んで寝る暇惜しんで勉強が始まった。
今までの復習から始まって、少し突っ込んだ内容になり、上級の内容へと変わっていく。
一応そこまでは既に習っているけど、ちょっと突っかかったりする所もある。
そして毒に関してに入ると……セシリアさんのスイッチが入った。
多分一生分の毒の知識とかが頭に詰め込まれたと思う。
体に対してどのような影響を及ぼすのか、どういうところに作用するのかという基本的なことから、実際にそうなった場合の対処法などなど。
くらったらおしまいっていうやつも無いこともない。
まあ、あのドラゴンに吸わせたのがその類のものだ。
ほぼ即死するようなやつでは、僕達の出番は無い。
毒とは違うけど、感染性の病気も恐ろしい。
空気で感染するタイプは昔はその一帯が全滅するということすらもあった。
今はそこまで酷くはないけど、知らない人たちが知らずに感染するということはままある。
試験開始の数日前まで、僕達はそんな感じでセシリアさんの講義を受けた。
無駄な知識も大分入った気がするけどまあ良いだろう。
そして……ブレナークで迎えた当日。
10人ほどの人に囲まれて、色々な質問を受け、筆記試験を行い、実際の手際を見られた。
恐ろしく緊張して手が震えたりもしたけど、そこは僕だってヒーラーだから、震えを取るための魔法を自分にかけながら必死で対応した。
見習い試験しかやってない僕としては、このきちんとした試験は初めての経験と言っていい。
全く、レベルが違う。
突っ込まれ方とかもものすごく細かくて、それこそ揚げ足取られないようにしなければならないくらいだ。
何よりもキツかったのはその試験時間。
なんと半日。
途中休憩があったものの、その間もしっかりと監視されていて全然休まらない。
夕方になってようやく解放されて……僕達は完全に疲労困憊だった。
会場となった治療院でしばらく待って……結果が告げられる。
「ダラム村のユウ、並びにエリー。上級治癒術士の資格を有するものとする。合格だ、おめでとう」
もう、その言葉を聞いたときには2人で抱き合って喜んだ。
元々物凄く難しい試験。だけどもこの特別試験は更に難しい。
それも当然だろう、本来ならば順を追って行かなければならないものを一気に飛ばして行こうって言うわけだから……上級治癒術士としての実力を示すだけでなく、それに見合うだけの知識をかなり見せる必要があるわけだ。
それに合格した。
僕達ははれて上級治癒術士として認められたんだ。
「また、2人は治癒術士としてだけでなく、戦闘においてもウィザードを凌ぐ活躍を見せたと報告されている。王国主導の作戦に参加し、結果を上げたことを考えても将来的に認定を受けるにふさわしい人材であると言える。邁進すると良い」
「ありがとうございます」
「認定証は明日、治癒術士協会から発行されるだろう。昼過ぎ辺りに受け取りに行くように」
会場を後にする。
外は既に日が落ちて、明かりがつき始めていた。
「はー……良かったぁぁぁ」
「もう、二度とゴメンだわ、あんな緊張を強いられるなんて……。何なのよあの質問はネチネチネチネチと……!」
「ああ、もう……ね。あれはキツイ。ちょっとしたことで突っ込まれてね……」
「施術中にも関係のない質問してみたりとか」
「まあ……これを逃したら順当にやらなきゃならなかったし、二度とこういうチャンスは巡ってこなかっただろうから幸運ではあるよね。ちゃんとこうして合格できたし」
「そうね。内容はともかく、今は気分がいいわ!ねえ、今日はお祝いに飲みましょ!」
「ああいいねぇ」
お金も入るし、少し高いところに入ってお祝いをする。
お酒も色々とあるけど、あまり詳しくないから甘いやつを選んでもらった。
めちゃくちゃ美味しくてたくさん食べて飲んだお陰で、結構金額が膨らんでしまったけどまあ……良いだろう。
こういうときくらいは羽目を外したい。
もちろん浴場でたっぷりとマッサージを受けて宿に戻った。
□□□□□□
『容態は安定しています。が、……脳波が例の反応を示しています』
『どうなっているんだ!既に切り離しているのになぜダイブしている?』
『わかりません。システムも既に停止していますし、完全にオフラインですが……』
『それにあの力はなんだ?両手両足を拘束していたはずのバンドが切られた。ナイフでもそう簡単に切れるものではないんだぞ』
『わかりません。とても鋭利なもので切り裂いたとしか……』
『身体に異常は全く見られない……。血液検査も問題はない。薬物検査にも何も出なかった。それがおかしい……。鎮静剤を始めとして幾つかの薬が入っているはずなのに、それが全て消えていた』
『……あの事故の時も、彼が暴れた時に突然、彼を中心として爆風が起きたという報告があります。その場に居た者達は全員内臓破裂を起こして重体、看護師1名が死亡ですが……彼だけは無傷でした。中心に居たのならば死んでいてもおかしくないはずです……あれではまるで……』
『馬鹿な。超能力など未だに解明すらされていないんだ、あるわけがない』
『……』
『……ユウ、一体何が起きているんだ?』
□□□□□□
……。
このよくわからない夢はいつ終わるんだろうか。
明らかに続いてる感じではあるんだけど……。
ああ……頭が痛い。
チェックしなくても分かる、これは二日酔いだ。
解毒してやると一気に楽になり、冷たい水がとても旨く感じられる。
服を着たままだったみたいだけど物凄く臭い。
まだ寝てるエリーも含めて臭いを分解して散らした。
……ん、これなら良いだろ……。
まさかこんな所でセシリアさんの教えが効いてくるとは……。
昼近くになってようやく起きてきたエリーと軽くご飯を食べて、認定証を受け取り、馬車で4日ほど揺られて村に帰ると……セシリアさんが出迎えてくれた。
合格の報告をするとギュッと抱きしめられる。
「おめでとう!流石私の子達ね!」
子、達?
「ユウくんは家に来た時から家族みたいなもんだったじゃない。なんだかずっとこんな関係だったって感じがしてたわ。……それに、エリーと結婚するならどっちみち私の家族よ」
「家族……」
「ええ。もう、記憶が無いことなんて気にしなくていいじゃない。ユウはもう、立派なヒーラーになったのよ?自分の人生を生きなさい。自分の思うがままに、過去は気にせず未来だけを見て……エリーと一緒にね」
「……はい」
家族か。僕には居なかった家族。
心の何処かで1人だって思ってたけど……セシリアさんはそう思ってなかったのか。
「でも、そっかー。もう上級治癒術士なのねぇ……予想以上に優秀で本当に嬉しいわ」
「運が良かっただけだと思いますけどね」
「実力がなければそもそもああやって推薦してもらえないのよ。認定も夢じゃないはずだからがばんりなさいね。……さて。めでたいついでに……結婚式もあげちゃいましょう!」
「えっ?」
「ええっ?」
待って。
なんでそうなるの?
「だって結婚するんでしょ?もうしちゃいなさいよ、……そろそろビイには現実見てもらわなきゃ困るし……」
「あー……まだ言ってるの?」
「あの人も懲りないね……」
ビイ。エリーが好きでずっとアタックしまくっているものの、ずっと振られ続けている男だ。
僕が来てからは一方的に敵視して嫌がらせしようとするけど、大体周りの人に止められている。
はっきりと断っても駄目だし、何度も何度もセシリアさんのところに行っては娘さんをくださいとか言い続けていたらしい。
そっちは初耳だ。
ずっと治療院に来てはエリーを指名するのも本当に迷惑だったんだけど。
ここで彼にとどめを刺す意味でも知らしめたほうが良いという。
「ほら、ユウは色々と出来るし上級ヒーラーとなったから、この村では村長さんの次に偉いくらいになってるのよ」
「えっヒーラーってそんな力あるの?」
「小さい村とかならね。見習いとかでもそれなりに発言力はあったりするわ」
なにせ様々な知識があって、病気から何から治してくれる存在であるということで、色々と意見を求められたりすることもある。
そういう事もあって立場は結構上になっていると。
前はまだ見習いだったからまだ色々と文句も言えたけど、今はもう難しいだろうということ。
それでもまだあーだこーだ言ってくるなら、他の人達が現実を見ろと恐らく目を光らせてくれるだろうと言うことだった。
「結婚してしまえば普通はもう諦めるしか無いの。当たり前だけど結婚している人に対してアプローチを掛けるのは分かってやってるなら犯罪になりかねないことなのよ。それにあなた達はここじゃなくて王都で暮らすでしょ?今この村で王都に行き来できるのは私とあなた達二人だけだし、村から出ようとしているなら全力で止めれるから大丈夫よ」
……なんか、色々とご迷惑をおかけします……。
とまあ、そんな感じで僕達は……唐突に結婚することになりました。
「いざとなったら一生眠らせておくから」というセシリアさんの呟きは聞かなかったことにする。




