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第二話 新しい生活

第一話がまだの人はそちらからどうぞ。

 あれから10日くらい経った。

 ようやくまともに動けるようになり、筋肉をつけていく事になったのが3日後くらい。

 それから普通に歩いたり走ったりが出来るくらいにまではなった。

 ただまだ激しい運動は駄目ってことで、なにかするにもエリーと一緒。

 僕としては可愛い女の子と一緒に暮らしてるだけでも凄く嬉しいわけだけど……そう言えば彼女とか居たんだろか。


 あ、ちなみに近くの湖で水浴びしたときに初めて自分の顔を見た。

 いや初めてってのはおかしいんだろうけど、気がついてからは自分の顔も思い出せなかったし、初めて見たも同然だ。

 とりあえず……黒髪で黒目、ちょっとボサボサだけどまあまあ整った顔をしている、と思う。

 ただエリーに可愛い可愛いと言われてるだけあって結構童顔だった。

 年は多分……14か15だと思うんだけど……。

 それすらも覚えてないからなぁ。


 今14のエリーがそう言ってたから多分そうなんだと思う……しかない。


 とりあえず僕はここで暮らしていくことにしたんだ。

 ここで働いて、少しずつでもお金を返して……いつか独り立ちしたい。

 それに治療院で働くってことは、病気や怪我なんかの知識も付くに違いない。色んな意味できっとこれからも役に立っていくはずだし頑張ろう。


 で、ご飯も普通のものが食べれるようになったので、僕も少しずつ二人の手伝いをする事になった。


「それで……僕は何すればいいの?」

「力仕事はまだやらせるわけにはいかないから、洗い物をしてもらおうかな?布とか血で汚れちゃうからきれいに洗わないとならないのよ。川にいくからこれ持って頂戴」


 そういって渡されたのは山盛りの洗濯物だった。

 いやこれ重っ!?

 エリーを見るともうちょい重そうなやつを平気な顔して持ってた。

 ……なるほど。これはあれだな、僕の筋力が無さすぎるんだな。うわ情けねぇ……そりゃ力仕事任せられないって言い切られるよ。


 治療院の裏てに流れている川に降りていく。

 ちゃんと道があるから全然平気だけど、荷物が重いわ臭いわで結構きつい。

 っていうか本気で臭いな!


「当たり前でしょ。患者さんの膿とか血とかゲロとか排泄物とか付いてるんだから」

「うええ……」

「汚いったってユウの出したのだってこうして私が洗ってたんだからね?」

「頑張るよ」

「よし、じゃあ手順を説明するわね」


 一応、汚れの種類とかに分けられていて、汚物……つまりゲロやら糞尿やらの付いたもの、血や膿などが付いたもの、その他の汚れ……例えば土汚れとかそういったものと大きく分けて3つ。

 汚物が付いたものはまず布についたものを落とすことから始めるわけだけど……。

 小さめの穴がたくさん空いた、大きな樽を水車みたいに4分の1くらいを水につけたものに、ハンドルが付いたものがあった。


「まずこれの中に入れて、そこにある石を一緒に入れるの」

「この丸っこい石?どれくらい入れればいいの?」

「そうね、この量だと……こんくらい。入れすぎてもあまり意味ないから適当に調節してね。そしてこの扉をしっかり閉めて、このハンドルを回してみて」


 ジャラっと石が中で転がる音と共にゆっくりと回りだす。

 歯車で結構早く回るみたいで楽しい。

 しかもジャラジャラジャブジャブ音を立てながら回してると、あっという間に茶色い水が川にとけて流れていく。

 汚物にはあまり触らずに洗濯できるみたいだ。


 同じような樽が上流に2つ。

 多分それぞれ入れる所が決まってるんだろう。

 その中にエリーがそれぞれに洗濯物を突っ込んでこっちに戻ってきた。


「あっちはやらなくていいの?」

「少しの間水にさらしておくの。特に血の汚れは乾くとなかなか落ちないのよ。普通の汚れもそう。だからいつもこの汚物のをある程度綺麗にしてから取り掛かってるわ」

「へえ、なるほどね」


 しばらく回してると、色が出てこなくなった。

 一旦開けて中身を一枚出して確かめてみると、ほとんど汚れは残ってない。

 念の為もう一度しばらく回してから、水にさらしておいた。


 他のも基本的には同じだ。

 下流にあるものに直接洗った後の水が流れていかないように工夫もされていた。

 最終的には一番上流側にある樽の中に全部入れ直して、そこで灰と石を一緒に混ぜて洗っていく。


 で。

 最後に臭い消しと消毒とか虫よけを兼ねてのオイルを混ぜたぬるま湯ですすいでおしまいだ。

 後は乾かすだけ。


「うわ凄い。あれだけあった洗濯物がこんなに早く……結構綺麗になるもんだね」

「この道具作ってもらうまで手で頑張って洗ってたんだけどね?洗い物が凄く楽になったのは確かよ」


 まあでも、これなら僕でも出来る。

 ここまで洗濯物運んでくるのが結構大変だけど……。


 荷車的なやつ欲しいな。


「これいつも一人でやってたの?」

「そういうわけじゃないんだけど、お母さん言ってるように今は人の手が足りないのよ。いつもは専門の人が来てやってくれてたんだけど……」


 腰やらかしていまは患者の立場らしい。

 どうしようもねぇ……。

 完全に治るまではお仕事禁止になっちゃうから、仕方なくおとなしくしているそうだけど。

 他の人を雇おうにも、もう村には手が空いている人がいないし、隣村などでもそれは同じ状況らしい。

 どこもいっぱいいっぱいなんだそうだ。


 この後は使った器具の洗浄。

 手荒に扱うと割れちゃうものとかもあるから気をつけながら洗っていく。


「全部洗い終わったらこの液体につけるの。清浄水っていうやつで凄く高いからまかさないでね?なるべく汚くならないようにしなきゃならないから、しっかりと洗ってからここに入れること」

「分かった」


 ちょっとだけとろみのある水色の液体。触っても飲んでも問題ないってことだけど、この液体に浸したものにはカビとか汚れがつきにくくなるという。

 病気の原因になるものなどは全部寄せ付けなくなるとか。


 特定のスライムだけが分泌する粘液を加工したものだそうだ。


「スライムかぁ。そもそも魔物ってどんなのが居るの?魔法ってのもわからないし」

「ほんとに全部忘れちゃってるのね。スライムはこう……水がプルプルになって固まった感じの魔物よ。色とか形とかは色々だけど、大抵は水場に潜んでたり物陰に隠れてたりして近くを通った獲物を包み込んで窒息させるの。その後はゆっくりと溶かされていって……あれはもう見たくないわ」

「ごめん」

「いえいいの。とりあえずこの村の近くだとブルースライムとグリーンスライム、ニードルラット、アローヘッド、シールドボア、えーっとブレナークウッドウルフ辺りかな?あとゴブリンは森の中ならだいたい何処にも居るわね」


 スライムは色ごとに大体種類がわかるらしい。ブルーは名前の通り青く澄んだ色をしているもので、さっきの清浄水を作り出すスライムだ。傷薬の原料なんかにも出来るらしい。

 グリーンは少し濁った緑色でこっちは毒。

 そいつが居る池はまるごと汚染される程度には危険なやつらしいから、見かけたら絶対に近づくなってことだった。スライム系は基本的に動きが遅いから待ち伏せているけど、射程に入ったときには恐ろしい速さで飛びかかってくるから対処しにくいんだとか。


 ニードルラットは毛が名前の通り針のようになっているネズミの類。

 普通のネズミと違うのは結構獰猛な肉食系ということだった。集団で襲われるととても危険だから窖とかには近づかないようにと言われた。


 アローヘッドはその頭が鏃のようになっていることから名前がついた毒蛇。コイツラの名前の由来はもう一つあって……まるで弓から放たれた矢のように、遠くから突然飛んできて噛み付いてくるらしい。こえぇ。


 シールドボアは頭が巨大な盾のようになった猪。

 普通の猪と比べても4倍近い大きさがあって、突進も早いから避けられない。

 目が悪いから動かずに刺激しないようにしていれば安全らしいけど……臆病だからちょっと変だと思ったらとりあえず突っ込んでくるらしい。


 ブレナークウッドウルフ。これはここの村が所属している領地の名前がブレナーク辺境伯領といい、その森に住む独特の狼の魔物だそうだ。

 狼と言っても魔物だし、見た目はそれっぽいけど凶暴さとかは上。

 同じように群れで狩をする上に、苔むした緑と茶色と黒の体毛がまだらに生えているため周りの景色に溶け込みやすく、いつの間にか囲まれてることもあるとか。


「……なんかこっから出て行きたくなくなったんだけど」

「まあ、あれだけボロボロにされればねぇ。記憶を失ってもおかしくないと思うわよ。村からあまり離れなければ大丈夫だけど、武器とか扱える?」

「わかんない」

「じゃあ後で少し教えてあげる。お父さんの使ってたやつ使っていいけど手入れの方法とか教えてからにしてね。手入れしないとすぐに錆びちゃうから」


 本当に何も知らないなぁ。

 ただスライムとかゴブリンとかを聞いたときに、あ、居るんだなぁっていう感覚がなぜかあった。

 後魔法というものにも凄く心惹かれる感じがする。

 ……多分、記憶を失う前には知ってたんだろうな。


「魔法は……多かれ少なかれみんなが持っている力の事ね。世界中にあるマナの流れ……それの影響を受けて何かしらの現象を道具などを使わずに起こすことが出来るって言ったらわかるかな?」

「マナ……ってのがもうわからないんだけど。それに現象って例えば?」

「マナは魔法の元って思えばいいわ。目に見えない空気と同じなんだけど、マナの流れ、これは空気中だったり地面の下だったりを流れる大きなマナの川みたいなものと思って。そのうねるように流れる姿が海竜のようだってことで魔龍脈なんて呼ばれてるけど」


 そのマナの豊富な所=魔龍脈の近くでは起こせる現象の範囲や威力などが変わる。

 例えば火種を起こす程度の力で、木を焼くとか、そういう感じらしい。

 例えがわかりにくい気がするけど、魔龍脈の近くで魔法を使うときにはちょっと気をつけなければならないってことだった。

 で、現象というのがさっきの火を出したり、水を出したりっていうものから、雷を出したり風を吹かせたり……武器のようにそれらを扱ったり。

 セシリアさんのように怪我や病気を直す治癒というのもある。

 ただ完全に死んだり致命傷だったりだと助けられないっぽい。


「僕も魔法使えるかな?」

「よく分かってなかったからもしかしてとは思ったけど……やり方も忘れたのね。大体成長していくと歩くのと同じようにやり方が分かってくるんだけど……お母さんに頼んで教えてもらったら?」

「そうだね、そうするよ」


 ちょっと楽しみだな。


 営業時間を終えて、初めてのお仕事が終わった。

 やってることはそんなに難しくないから明日からでも一人で出来ると思う。


 セシリアさんに頼んで魔法の練習とかもさせてもらえることになったし、部屋にあった大工道具とかをつかって色々と作ってみても良いという許可ももらった。

 木は小屋の中にたくさんあるし、釘も道具箱に結構はいってた。

 あの洗濯道具を作ったのもお父さんなんだそうだ。結構手先器用だったんだな。


 治療院が開いている時間はそこまで長くないし、意外と時間はある。

 とはいえ……夜は暗くなるしランプの油もただじゃないからあまり夜更かしは出来ない。

 ……んー……なんかずっと前はもっと明るいところで夜更かしとかも出来てた気がするんだけどなぁ……なんで思い出せないんだろ。


 考えていても仕方ない。

 まずは早くここでの生活に慣れないと。

 知らないことが多すぎるからなぁ。


 なんて色んな事を考えながらベッドで横になっていると、あっという間に眠ってしまった。



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