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箱庭の治癒術士は幸せな夢を見る  作者: 御堂廉


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第十八話 最強

「……っ!?」

「どうしたの?うなされていたわよ?」

「エリー!……、ここは……」


 激しい戦闘の音が聞こえる。

 明らかに強力な魔物の気配。

 ああ、そうだ。僕は今戦場にいるんだ。


「あ、いや。ごめん。はあ……変な夢を見ていたんだ。疲れてるのかな……」

「そりゃあれだけ昨日は無理したんだもの。疲れてても不思議じゃないわ。今日は大丈夫なの?」

「んー……うん。体調は問題ないよ。セシリアさんとエリーはどうなの?」

「私達も問題ないわ。昨日ユウに魔力を抜いてもらったおかげかしらね、調子はとてもいいの。……他のヒーラーの顔を見ればなんとなく分かるでしょ?」


 近くにいるヒーラーの仲間たち。

 昨日僕と一緒に診断を行っていた人達はどことなく疲れが取れていないような顔をしている。

 明らかにふらついている人も。

 やっぱりかなり消耗するんだな。

 エリー達が平気なのは早めに暴走している魔力を抜いてやったからだろうか。


 朝飯を食べて一息ついた後に、僕が居なくなった後にも続けていた人達から情報を受け取る。

 正直殆ど進んでないと言っていい。

 指揮をとっていたのはライラさんだったようだ。


「アクラから話は聞いているわぁ。昨日は活躍していたんでしょう?あなたの魔力も出会った頃に比べて更に大きく……今後の成長が愉しみねぇ」

「あ、ありがとうございます」

「ヒーラーのリーダーから聞いたと思うけど、あまり進んでいるとは言えないわねぇ。でも今までの調査のペースからすればとても早いのよ、この調子で頑張ってちょうだいねぇ?ふぁ……あふぁ…………流石に眠いわぁ……じゃ、頑張って」


 目の下にクマを作っていたくらいだから結構疲れてるんだろう。

 僕達と話をした後にフラフラと拠点へ吸い込まれていく。


 昨日と同じ様に僕達は全力で診断を行っていく。

 じわじわと今まで皆で頑張ってきた結果にまた新たな情報が書き加えられていく。

 この情報をさらに絵にしてくれるのが専門の絵師の人だ。

 自分も診断に加わるものの、ひたすら診ることに徹してその情報を確実に頭に入れていくのだ。


 人で言う肺の部分の入り口辺りに差し掛かる。

 だけど構造が複雑でどれがどういうつながりなのか分かりにくい事この上ない。

 きちんと全体を把握しないとなんとも言えないな……。


 まずこの巨人は食べ物を必要としていないらしいっていうこと。

 食道のようなものが無いんだよなぁ。

 声は出せるようだけど、本当に話ができるのか正直疑問だ。


 っていうかなんでこんな枝分かれしてるんだよ。

 人だったら2つに別れて終わりの気管が……って、何だこれ?


 初めて見る構造に混乱しながらも診断を進めていく。

 と、割れ目から何かが飛び出してきた。

 それにいち早く反応したのは護衛としてきていた兵士だ。

 素早く僕達の近くからそいつを吹き飛ばして、離れた所で仕留めていく。


 なんで体内から……。


「『免疫』が機能し始めた!全員気をつけろ!」


 あれが免疫?

 どうみてもあれは……魔物だ。

 しかもとても肉肉しい気持ち悪い何か。

 また一匹出てきたのを観察する。


 球体のような肉の塊から触手が生えていた。目玉らしきものが中央に1つ。ぎょろりと僕らを見回している。

 すぐに兵士に引き離されるけど、その兵士が反撃を食らってしまった。

 触手が……とても硬い針のようになって貫いたのだ。

 幸い僕のすぐ近くに飛ばされてきたので、ついでにヒールをかけてやる。

 出血と傷口はあっという間にふさがっていくけど、きちんとした診断をしていないから一時しのぎではある。


 彼を即座に別な人と交代させて下がっていったから、後できちんとした治療を受けると思うけど……心配だ。

 あれは多分肝臓をやられている。

 元に戻るまできちんとヒールをかけ続けてやらないとまともに動けないだろう。


 免疫と呼ばれる何かが出てくる頻度が上がり、兵士の一部が内部に入って戦い出す。

 結界を張りつつではあるけど、耐久力がない代わりに一発の攻撃力はかなりあるらしくて怪我人がどんどん増えていった。


 まだか。

 まだ終わらないのか……。


 エリー達が戻って、新しいメンバーが来て、またそのメンバーも戻って……前回の反省を生かして僕もそこで一度休憩を取る。

 もどかしい。

 じりじりとしか進まない診断にイライラしてくる。


 洞窟の外へと出るとオーガの群れと交戦していた。


「ユウさん、早くこちらへ!」

「分かりました!」


 短距離転移を持つ人が後方で僕を見つけて声をかけてくれた。

 でも……。

 ああちくしょう。もっと早く。もっと早くやらないと消耗が激しくなっていくじゃないか。

 オーガ……トロールよりも小さいけどその知能と力は比にならない。

 前衛が吹き飛ばされて居る。

 ……あれじゃぁ……死人が出てしまう。


「くそぉ……!」


 僕達を守るために戦っている。

 自分の身を危険にさらして戦っている。

 そんな人達を今、見て見ぬふりは出来なくて。


 溜まった魔力を開放することにした。

 無駄に有り余る魔力を集めて、まとめて断ち切るイメージ。

 剣を抜いた僕に慌てたように止めようとする人を振り払い、剣を開放する。

 赤熱を超えて白熱。


「喰らええぇぇぇ!!」


 凄まじい熱量を放つそれを腰だめに構えて……超高熱の刃を群れの上半身辺りに向けて放った。

 真っ白な斬撃が飛んでいく。

 思ったよりも広範囲に伸びていくそれは、狙い通りに多くのオーガをまとめて通り抜けていき……奥に居たやつまで一瞬で到達した。

 が……何も起きない……?


 突然の攻撃に少しびっくりしたオーガ達が、特になにもないことに気づいて動き始める。

 失敗……?


 だけど。

 大きく腕を振り上げたオーガの腕が……二の腕あたりからぼろりと落ちた。

 叩きつけようと振り下ろした腕が消え、やや遅れて宙に放り出された腕が力なく落ちていく。

 やや遅れて痛みが出たのか凄まじい咆哮を上げて暴れまわるオーガ。

 暴れると別な場所がまた落ちた。


 奥の方ではやはり動き出そうとして色々な所がボロボロと落ちていくのを見て、オーガ達の一部がパニックに陥っている。

 その隙を見逃すわけもなく……。

 一撃必殺の大技が確実に叩き込まれて行くのだった。


 みるみるうちに数を減らし、立っているオーガが僅かとなった所で……。

 音が遠くなっていくのを感じた。

 あれ?と思ったときにはもう遅く……ゆっくりと暗くなっていく景色と、誰かに支えられる感触を最後に僕は気を失うのだった。


 □□□□□□□


 息が苦しい。

 寒い。

 体が重い。


 不快な臭いと音に目が覚めた。

 まただ。あの白い部屋。

 でもそこは今粉塵が舞い上がり、明かりが明滅している。


 今度はなんなんだ……。

 ベッドから降りる。股間に違和感があり見てみれば……ああ、とても覚えのあるようなものがぶら下がっている。

 引っ張るけど痛くて抜けない。

 というか……なんだこれ、なんでこんなものがこんなとこに刺さってるんだ。


 途中で外せそうなところがあったから外して立ち上がると、激痛。

 全裸に薄い布の服を着ている状態で、石のような床に足をおろしているだけなのに……とても痛い。


 セルフチェック……今度は出た。

 血中酸素濃度が低く、血圧も低い。けど……大丈夫だ。

 吹き飛んだドアへ向かって歩いていき……今度は黒い服に身を固めた人達と出会い、衝撃とともにまた気を失った。


 □□□□□□


「うぅ……」

「ユウ!良かった、大丈夫?」

「……ん……エリー、か?ここは?」

「拠点よ。すごい魔法を放った後に意識を失ったって聞いてるわ。診断してみたけど、特に身体に問題はないようだから大丈夫だと思うけど……魔力が異常に減ってるの。何をしたのよ……」

「オーガが、オーガの群れが居たんだ。僕達が洞窟の中にいる間に近づいてきてたみたいで……皆が吹き飛ばされてるのを見て……」

「……ああ、そういうこと……。見てられなくて思いっきり魔法を撃ち込んだのね。ユウを連れてきた人が興奮しすぎてて意味がわからなかったけど、大体わかったわ」


 オーガ……あー、なんか思いっきりすごいやつを放った気がする。

 セルフチェックで見てみると魔力が殆ど空だ。

 そりゃあれだけあったやつが一気に無くなったら倒れてしまうか。

 失敗したと思ったら成功していたっていうのは覚えてるけど、詳細は頭に血が上ってたのかちょっと朧気だ。


「エリー、変なこと聞くようだけど……僕、倒れてからずっとここにいた?」

「本当に変なこと聞くわね。もちろんよ。私がずっと横に居たんだから確実にね、どうかしたの?」

「……こっちに来てから変な夢を見るんだ。寄ってたかって僕のことを押さえつけて、変な管を体中に刺されて……。とても恐ろしい夢」

「それでうなされてたのね……。無理もないと思うわ。初めての事ばかりだし、外じゃずっと戦闘の音が聞こえてるし……」


 今でも聞こえている。

 でも彼らを癒やすのは僕達の仕事じゃないんだ。

 それがとても心苦しい。

 僕は皆を助けるためにヒーラーになったのに、それが出来ないもどかしさ。

 もちろん、今やってることを頑張れば結果的に皆を助けることと同じなんだけども、目の前で怪我をしたり死にかけたりしている人達を見て見ぬふりは出来ない。


「気持ちは分かるわ。だけど、そこは切り離して考えなきゃ駄目。ユウは確かにそれを成し遂げられるだけの力はあるけど、ユウ1人で全てを行えるわけじゃないの。全てを同時に出来るわけじゃないでしょ?」

「そうだけど……」

「まあ分かっていてもそう思うのは無理は無いと思うわ。とりあえず、あの場に居た軍の隊長さんからの伝言を預かっているから読んでおきなさい」


 そう言ってエリーは一枚の紙を手渡してきた。

 ……あの時、協力に感謝するということが書かれていた。

 ただ、あの程度ならばなんとかなるから、気にせずに自分のすべきことに集中して欲しいということも。もっと、自分たちを信用してくれても良いぞと。


「まあ、意外と平気だったってことよ。実際彼らが飛ばされたって言っていたけど皆軽傷だったわよ?あの場にいる人達はそれのための訓練を積んだ兵士たちよ、生半可な攻撃じゃ装備品はともかく、自分たちの強化された肉体は傷つかない!と笑っていたわ」

「……そっか。やっぱり強いんだね。良かった……」

「まあそういうことだから、しっかりやることに意識を向けましょ」

「そうだね」


 心配するまでもなかったってことか。

 あれだけ派手に吹き飛ばされてたから心配したんだけど、あんな物はまだまだってことらしい。

 僕のあの力はもっとやばいやつが来た時に使ってくれ、と最後に書かれていた。

 頼れる。

 予想以上に彼らは強い。


 治療するためのヒーラー達もきちんと控えているんだ、エリーの言うとおりに僕は僕がすべきことをしよう。


 そして、僕はと言えばまた洞窟に戻ってきた。

 やたらと体の調子が良いってことと、魔力が尽きているからむしろここで回復しつつ診断していきたいっていうのが大きい。


 あれだけの魔法を使った後だからなのかわからないけど、また少し魔力が増えてる気がする。

 でもそれは悪いことじゃない。

 診断に使える魔力がまた増えたってことだから。


 診断速度が上がっていくことは良いことだ。

 ここに居る皆も少しずつ魔力が増えているのか、安定して進めていけるようになっている。

 エリー達もそうだったらしい。


 そして3日目の昼過ぎ。

 ついにこの時が来た。


「……ここだ!」


 僕の声とともにその場に居たヒーラー達の歓声が上がる。

 部位を特定したのだ。

 僕達で言う肺の中に大きな腫瘍のようなものがあった。

 肺、と言ってしまっても良いのかわからないけど……なんというか巨大な袋が5個あるんだよな。

 その中の中央に位置するものの下側、下葉と呼ばれる辺りにそれはあった。

 そこから肺を満たすようにしながらマナが充満していき、色々なところを破りながら気管を破壊し……ついには皮膚を突き破ったというわけだ。

 なんでそんな事になったのか分からないけど。


 位置が特定できたら後はその部分を重点的に見ていき、突入する人達のためのルートを確定する。


 その間にもかなりの数の免疫と呼ばれる魔物達は溢れ、そのたびに駆逐されていく。

 ……あの中に入っていく人達は大丈夫なんだろうか。

 そのためにも最短距離で進める道を探さなければならない。


 絵師の人が書いてくれた図を元に、ヒーラーや兵士達全員が集まってどう進んでいけばいいかを確定していく。


 僕達の出番はここまでだ。

 後は彼らの仕事。


 だったら……今度は僕達が守る側になろう。

 多くのヒーラーは基本的には後方に下がっている。

 最前線で皆をサポートしながら戦いたい。


 そう、エリーとセシリアさんに言うと許可してくれた。

 だったら、と自分たちも同じくそこに行くとも。

 多分二人なら大丈夫だ。

 前線と言っても壁の内側にいる分には安全だし。


「は?ユウ1人で行かせるわけ無いでしょ。腕がなるわ」

「いや、だって危険……」

「私も昔は色々やったわねぇ。任せなさい、私があなた達をサポートしてあげるから」

「ええ……」

「さ、ほら。明日は早いだろうからさっさと寝るわよ!」

「お、おう」


 ……なんだこの2人。めちゃくちゃやる気だよ。


 □□□□□□


 ……。

 また夢を見た。

 手枷と足枷で動けなくされていた。

 管は付いてなかったけど、色々と薬品による影響が出ていたことはセルフチェックで知った。


 そのせいで視界がとても気持ち悪くて、ぼんやりとした印象しかない。

 眠くて眠くて……結局、また何かを打たれたらしくてそのまま眠ってしまった。


 とてもリアルで生々しい。

 臭いも感じるし衝撃も感じる。

 だけど夢だ。

 誰かの記憶なんだろうか……。

 誰一人としてまともに顔を出していないから全然わからないし、自分の姿も見れていない。

 はっきりしているのは1つの続きを見ていると思うってことと……徐々に見る時間が伸びている気がすること。


 いつかあの夢が現実に取って代わるってことは……無いよな?


 ボーッとした頭で考えてると、すっかり鎧を着込んで準備ができている二人が来た。

 ……待って、その鎧どっから出てきたの?持ってなかったと思うんだけど。


「これ?私用に作ってたやつよ。お母さんのは昔使ってたやつだって。ユウのはこれ。お父さん使ってた私物だけど調節してあるから使えるわよ」

「え、良いの?なんか凄く高そうなんだけど……」

「そうねぇ。あの人の年収が吹き飛ぶくらいはするわね。でもそれに見合うだけの良いものだからぜひ使って欲しいな?」


 セシリアさん、そんな高価なやつ僕なんかが着て良いの?

 とはいえ2人でさっさと着付けられていく。

 僕には拒否権はないらしい。


 で、実際に全て着用すると……。

 凄かった。


 何が凄いかってそれ自体が魔道具としての意味合いを持っているのだ。

 全てを揃えることで発動し始めて、着ている人の魔力を使って防御力を高めていく。

 更に付けてる時は重かったのに、今ではとても軽い。

 動きやすくてどんな動きをしても邪魔にならないし、それどころか鎧によって動きをサポートしてもらっている感じすらある。


「……凄い、としか言いようがないんだけど」

「でしょ?っていうか……かっこいいわよ、ユウ」

「若い頃のあの人みたいねぇ。似合っているわ」

「あ、ありがとう」


 ってことは2人のやつも……。


「そうよ。私のはユウとかお母さんの程じゃないけどね。さ、準備ができたら行きましょ!エドにはもう話ししてあるから。ほらほらボーッとしてないで早く早く!」


 急かされるようにして僕は戦場へと向かう。

 今までとは違って戦闘がメインの場所へ。


 短距離転移から出ると、途端に激しい爆風にさらされる。

 慌てて顔を背けたけどその必要すらないことに気づく。

 要所要所をきっちり金属で補強している以外は、魔物の革の素材を使っているというこの鎧は……飛んでくる物を跳ね除ける。

 礫が来てもありえない方へと突然軌道を変えていくのだ。


 これは……本当に凄い。


 ここは既に壁の外。

 前線で戦う人達はこの先にいる。

 今は様々な魔物が群れを成して暴れていた。


「お待たせしました、メディックとして参加します。認定治癒術士のセシリア、初級治癒術士エリー、見習いのユウ。……実力はご存知ですね?」

「ああ、あの……!話は聞いている、現在は特に怪我人は居ないが、疲れが出てきている。なんとかならないか?」

「おまかせください」


 セシリアさんに付いていく。

 前線で戦う人たちが見えた。

 凄まじい咆哮と地響き、そして血の匂い。


 それらを一望できる場所……つまり指揮官がいる場所へと僕達は行った。


「あ、モモさん……」

「……あなた達は……。なぜここに来たのですか?」

「自分たちの仕事が終わったから、こっちの手伝いだよ」

「あなたがここの指揮官ということで良いのかしら?私はセシリア。メディックとしてこちらのお手伝いに来ました。疲労が溜まっているということでしたので……まずはそれを解消させていただきますね」

「……しかしこのような場では……」

「問題ありませんわ、エリー、ユウ。始めるわよ」


 普通は近くに行ってある程度時間をかけなければ出来ないことだけど……。

 まあ考えてることは分かる。

 僕を魔力タンクとして使って、その魔力を利用しながらセシリアさんとエリーでコントロールするつもりだろう。

 僕があの場所で診断したのと似たようなものだ。

 主導権がないだけで。


 やることは分かってるから良いけどね。


「ユウ、私に合わせてあそこにいる人達全員が入る程度に掛けるわよ」

「分かった。リフレッシュでいいんだよね?」

「そう。私とユウでベースを作って、お母さんが増幅するわ。……面白いわよ?」


 まあそういう事だ。

 一番魔法の扱いに長けているのは当然セシリアさんだから、こうなるのは当然のこと。

 言われた魔力多めで発動すれば……。

 その力を吸い取られてセシリアさんが上書きしていくのが分かる。

 そういう事もできるのか。


 疲れが溜まった彼らに対して付与したものは、疲れをとってたっぷりと休んだ後のようにするものだ。実際に疲れを癒やしていると言うよりも、短時間で疲れている時間を終わらせるといった具合かな。

 当然筋肉をつけるときにはものすごく便利だけど……負担もそれなりに大きい。

 何度も使うものではないな。


 後退した人たちが突然楽になったことでびっくりしたようだ。

 けど、僕達が来ていることが伝えられて歓声が上がる。


 ああ、なんかいいなこういうの。

 とても嬉しい。


 その後も回復をかけたり、力の増強や魔力強化をかけ続け……。

 ヤバイのが来た。


 今までの比ではない咆哮。

 その一吠えで空気は震え、魔物たちが混乱し始める。

 身体が強張り、思わず身をすくめてしまうその声。


「ルクスアーシス」


 セシリアさんの声だ。

 僕達が継続していた魔力に乗せてその効果が波及していく。

 柔らかい光が差し、混乱していた場がおさまっていく。兵士たちが明らかに落ち着きを取り戻している。


 安静を取り戻す為の魔法。

 パニックになっている人を落ち着かせるためのものだ。

 こういう使い方があるのか……勉強になるな。


「このマナの塊……。『警戒せよ、防御を固め攻撃に備えよ』皆さん、恐らく……ドラゴンが出現しました。結界を張り直し、迎撃準備をしてください」


 ドラゴン。

 これが……。


 今だに気配しか感じていないのに、このプレッシャー。

 たった一体で鍛え上げられた兵士たちが混乱に陥る咆哮。

 凄まじい。

 あんなやつ相手に僕達は戦えるのか?


「……ユウ?なに不安になってるのよ。今回はあなたが居るのよ?覚えてるでしょ?ユウはドラゴンみたいだって」

「いや、だからってあんなめちゃくちゃな存在、どうやって……」

「ユウの魔力を全部のせて、あいつに叩き込みなさい。そして逆にあいつから奪い取ればいいわ。私達にやったみたいに、あいつから魔力を奪い、それを攻撃に回すの。……ちょっと思いついたんだけど……やれるでしょ?っていうか、やりなさい。死ぬわよ」

「メチャクチャな……!」


 とはいえ、言ってることは分かる。

 問題はそれが簡単にできりゃ苦労はしないってことだと思うけど。


 そして、空にやつが現れた。

 ゆうゆうと空を飛ぶ魔物。

 今までプレイグによって出てきた魔物の中でも最強の存在。

 未だに討伐されたことがないその姿は……。

 恐ろしく巨大で、美しかった。


 自然と足が震えてくるけど、見とれてしまった。

 綺麗なんだ、とても。


 白く輝く鱗がキラキラと光を反射している。

 すらりとした体躯に身体よりも大きな翼と尻尾。

 僕達を認識したそれは……まっすぐ突っ込んできて、凄まじい炎を吐き出した。



段々終りが見えてきました。

頑張ります。

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